最終話:「 」
ああ あなたには言ったんだっけ ──ルシフエル・ウィンザード
強いって案外つまんねーな ──【青の断罪】
ねー ──カイゼル・グランローグ
私の冒険はまだ続くみたい
私が目を覚ましたとき、強引に脇に抱えられた状態であることに先ず悪態をついた。
「む、スマンな」
彼は口では一応謝罪はしたが抱え方を変えることはしなかった。
「どうして、連れてきた訳?」
私──、ルシフエル・ウィンザードは彼をいぶかしんだ。
「あのまま放置すれば貴様の傷が治癒することはなかっただろう そうすれば貴様の目的が叶えられることもまた、無いだろう」
『Fourth』エメトは無表情で言う。私は彼と初めて出会ったときのことを思い出した。
「ああ…… そういえばあなたにだけは言ってたんだっけ」
エメトは頷く。かつての彼の言葉を私はなんとなく思い出した。
“わからぬな 貴様は人間から悪魔になった、限りある命から永遠に近い生を得た それがなぜ──”
「人間に戻りたい、と、かつて我はたしかに聴いた」
彼は悪魔らしかぬ穏やかな表情を作って言った。
◇
「……俺様の服を用意しろ」
彼は自身の屋敷に突然現れた。彼は現れるなり不遜に言い放つ。いつものように彼の帰還を、その部屋で待ち望んでいた従者は飛び上がった。
従者は毎日清掃を忘れなかった彼の部屋を訪れると忘れずに着てもいないのに洗濯し続けた彼の衣服を届けた。
彼はそれを身に纏うと従者にキスをした。
そして次に旗を掲げた。
レヴィアタンの帰還は瞬く間に魔界中に知れ渡る。あるものは歓喜し、あるものは絶望を募らせた。
そしてまたあるものは──、
「お帰りなさいませ 『4番様』」
──彼を殺そうとした。
レヴィアタンの眉がピクリと動く。
「あなたを追われた『1番様』は?」
「死んだよ」
レヴィは軽く言う。彼の眼前に立つ男はニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「それは大変よいことだ 序列が1つ上がった
更に、もう1つ上もいまの弱ったあなたを消せば手に入る!」
じゃらじゃらと音を立てて男の手から数え切れない量のナイフが現れた。その一本一本が魔力によって統制されてレヴィを襲った。
レヴィはそれに片腕を突き出した。短く宣言する。
「拒絶する」
見えない壁にぶちあたって全てのナイフが停止した。
「それがあなたの“拒絶”か 一度この目で見ておきたかった」
「72柱同士の争いはご法度のはずだがな “殺人”のグラシャラボラス」
「なんと我輩の名までご存知とは 光、栄 です」
次のナイフ──、レヴィが単調だ。と感じたのは間違いだった。宙に浮いたナイフは左右に大きく展開する。そして、
最初に放ったナイフが突然上に向いてレヴィに襲い掛かった。
「!!!」
レヴィは斜め前方へと跳んだ。もし刹那でも判断が遅ければ、また後方や真上に跳べばナイフはたちまち彼を貫いただろう。逃げ場はそこしかなかった。後方や宙空に刃が踊る。
だがグラシャラボラスはレヴィが必ず斜め前方を選ぶことを知っていた。
「12の紋章これ我発つ上の力なり」
句読点や些細な解釈を放棄した簡潔な呪文でグラシャラボラスはそれを引き出した。
『王 の 剣』
地面から突きだした家ほどもあろうかと言う12本の大剣がレヴィを貫こうと、あるいは斬り刻もうと殺到する。
「ちぃっ……!」
彼は“拒絶する”と呟いたがそれで足りないことは知っていた。がりぃぃっ と思い切り石を噛んだような歪な音がして拒絶の力は砕けた。
しかしその一瞬でよかった。
彼の“腕”は一瞬蛇のような形に化けるとそれらの剣を絡めとり一挙に捩じ伏せた。
「久々の“真の姿”にも慣れとくか」
彼は少し嘲るように笑った。その笑みが、凍り付く。
「……は喉を貫かれた
キュリアスは幻想に心を奪われた
ブルータスは高潔を貫いた」
「オォッ!」
蛇のように伸びた全身で刹那にしてグラシャラボラスを包み込む。レヴィはそれだけ俊敏にグラシャラボラスを殺害する必要があった。
「ジュリアス・シーザーの最も気高き剣!」
結論から言うとレヴィはグラシャラボラスの殺害に失敗した。グラシャラボラスは刀を振り抜いた。万力を持って締め上げようとした長い胴体が一閃の元に断ち切られる。
勝った。とグラシャラボラスは思う。それは油断だ。だからたったいま切断した巨大な尾が、“それのたった一部分”であることに気づかなかった。
「……アホめ」
ドゴォォンっ!!
刀を振り抜いたばかりで身動きが取れないグラシャラボラスに、レヴィはただ“のし掛かった”
「……お 生きてやがる タフだねぇ」
人型の形質を取りつつレヴィは地面にめり込んだグラシャラボラスを見下ろした。
「次は俺様のことをもう少し勉強してから出直すんだな 坊や」
レヴィアタンとは本来海に棲む怪物だ。その身体はどこまでも巨大になれる。そしてその質量をレヴィは自在操作出来る。その極大の質量を一点、もしくは一面に向けて発揮するのが彼の“拒絶”だ。それは細く集約すればあらゆる物質の結合を切断する刃となりまた空間の結合すら歪める絶対に揺るがない盾になる。
自身の持つ能力を攻防に対して最強の物だと確信する。
しかし一方で彼は思う。レグナの中に居たとき脆弱な肉体で立ち向かう悪魔との戦いは実にスリルに満ちていた。
序列は下とはいえ同じ『ソロモンの72柱』クラスの悪魔でさえ一捻りに出来てしまうレヴィには、おそらくあんな戦いはもう出来ないだろう。
「……強いって、案外つまんねーな」
ふと、レヴィは虚しさを感じて呟いた。
◇
それは、あるいはナタク・エルステインが非常に美人だったのが災いしたのかも知れない。
ナタクはある書状を受け取った。それは北の国『アイスログ』からの宣戦布告だった。大震のトップも騎士団長も近衛兵長も留守にしているこの機会に、ナタクかこれを受けとるのは致命的に運命的だったと私は思う。
あるいはそれを届けに来た使者が若い男でしどろもどろでろくに説明せずに帰ったのもいけなかった。
ナタクはそれを軟派かなにかだと思ったらしかった。ナタクは北の紋章を知らないし北の文字も読めない。だからそれをゴミ箱に丸めて捨てた。
だから3日後に「あの妙に部厚い書状はなんのゴミだ?」と私がそれをゴミ箱から拾い上げたとき。そうしなければ我が国は何の準備もなく北と戦争しなければならなかったのかもしれなかったのだと思うと、正直ゾッとした。
「ベル よく報せてくれた……」
と、先日その椅子に座ったばかりのかつての反逆者は苦い顔で額を押さえた。
◇
「ほれ きびきび歩けー」 先導する君が首だけで振り返ってえらっそうに、それからめんどくさそうに言う。ムッ ときた私は小さな炎を投げて君の後ろ髪を焦がした。
「おわっちぃいっ!?」
君は大慌てでそれを消した。私はそれを大笑いする。
「わたしにめーれーしなーい」
剣呑に、安穏に言うと君は振り返って私を睨み付けてそれから呆れ顔になって肩を落とした。その様子に隣の彼も微笑む。
「ったく みんな揃って緊張感ないサー……」
私はシーク・ツェイベルとカイゼル・グランローグの2人と、ある場所へ向かっていた。
あれから2年の月日が流れた。私が少し前に『境界線』の完全封鎖に成功した。悪魔が境界を越えてやってくることはなくなる。普通の獣や魔物の残党では並の戦人でも容易に退けられるので旅をすることはいままでより遥かに容易になった。
とはいえこの面子なら悪魔が襲って来ても全く問題ないんだけどねぇ。
近衛兵長のシークに、第一騎士団長のカイゼル。それに大震のトップの私だから。
「レグナさんの足治すためにワイバーンに頼ろう つったのはお前サ んであの森までの道案内を俺っちに頼んだのもお前! なんでそのお前がカイゼルととろとろとろとろ歩いてるサ!?」
焼けた赤髪を手入れしながら君は涙目で少し怒る。
そう──、破壊と豊穣の力を持つワイバーンの元に。君と出会った森に私達は向かっていた。
「いいじゃん ゆっくり行けば ねー?」
隣のカイゼルに同意を求める。
「ねー」
と、カイゼルは微笑んで頷く。
君は更に険しい顔になって長い髪の焦げた部分をバッサリと切り落とした。
「……見えてきたサ 気ぃ引き締め……」
君は続きを引っ込めた。
「わかってる」
私もカイゼルも、完全な戦闘モードだったからだ。君は少し呆気に取られたけど直ぐに余裕のある笑みを見せた。
「森ん中、入って橋の近くで貢ぎ物と儀式を……「んなまどろっこしいことやってられないっしょ!」
私は震力を高めた。巻き添えを恐れた君とカイゼルが横に飛び退く。
私は炎を空に向かって放った。
それはどこまでも、どこまでも天を衝く。
「……これで向こうも気づくでしょ」
「この……アホっ……」
君の呟きと同時に、森から一陣の風が建った。
「「!!」」
土煙を帯びた旋風を君が風の魔術で弾き飛ばす。
「……来ちゃったサ 俺っちまだ心の準備出来てないサ」
君が呟いた。翼竜がその巨大な姿を見せていた。
「手間が省けていいじゃん?」
「僕も同意」
「っ…… まあいいサ」
全員が武器を構えた。
「《機械仕掛けの神》、ON!」
君の声を皮切りに戦いが始まった。
悪魔が消えても他にやることはたくさん、たくさんある。結局レグナはもう剣を握れなかったけど、その意思を受け継いだ私の冒険はまだまだ終わらないらしい。
BLADE END
という訳で完結です。最終話に主人公のことほとんど書かないとかありなのか と思いましたがあんまり長く放置し続けるのもあれかとおもい妥協いたしました (蹴
あと1つ、別バージョンのBLADEの第一話だけを載せておきますがこちらはBLADE本編とは一切関係ありません
ってか続きは書くかもしれないし書かないかも知れません
まあ次にバトル物を書くとすれば『BLACK ART』ってタイトルは決めてあるんですが……




