第34話:“支配者”
たった6年程度でもう忘れたのォ えらく薄情じゃないィ? ねぇ“ゼオン” ──???
レグナ…… 刃神はあと何発行ける……? ──【銃の王】シャルツ・ディバイト・アークエッジ
やけに手に馴染む…… ──BLADE
「アハハハハッ! 遂に手に入れたわァ この力にこの身体ァ、もうさいっこうたまんない!!!」
白色の閃光が全てを包み込む中でただ“彼女”の高い笑い声が響く。
その場に立っていた者は焼き尽くされた。
ただし、
グラナに突き飛ばされて、転げたレグナとそれに手を伸ばして疲労感から足を縺れさせたシャルツ。
その場に“立っていた”のは、グラナ1人だけだった。
「どういう……ことだ……」
虚ろな表情でレグナが呟く。あまりの高温に焼かれてプラズマ化する周囲の物体、レグナとシャルツの辺りだけが不自然に焼け残っている。
「なんでなんだよ……?」
レグナには、目の前の光景がどうしても信じられなかった。
「リースっ!!!」
恍惚に似た表情でレグナ達を見下ろすリースの姿を──。
「あらァ 生きてたのォ? あぁ、引きこもりちゃんの“闇”かしらァ? ほんっとにめんどくさい力ねェ」
「お前……、?!」
レグナはハッ、とした。
それは、聴いた覚えのある口調だった。
いつ──?、6年前に。
どこで──?、王都で。だ。
「たった6年程度でもう忘れたのォ えらく薄情じゃないィ? ねぇ“ゼオン”」
その瞬間、半信半疑だったレグナの思考の全てが繋がった。
レグナのフルネームはレグナ・ゼオングスだ。かつて、彼のことを一度もレグナと呼ばなかった女がいた。
彼女は、はじめて顔を合わせ名乗ったレグナにこう言った。
“あんたはレグナじゃないわァ”
いまになってレグナは思う、恐らく彼女は知っていたのだ。
人間の味方であった『青の断罪』を殺し半神とテスタメントに作り代えた人間の罪を。
その女は自らを“支配者”と称した。
その名はある大悪魔の死と共に意を歪められ、呼び名をそのままにこう表された。
Magic master──『本の王』 と、
「マス……、ター……? どうして……死んだんじゃ……?」
「そうねェ 死んだわァ、だけどォ、このあたしがあんたらみたいなクソと一緒に仲良く勇者ごっこした意味をよく考えなさいよォ?」
リースの顔で、リースの身体で、リースの表情で、『本の王』は嘲る。
「肉体の死を……超えたのか? どうやって……」
「さァて、どうやったのかしらァ? ルシフ・エル・ウィンザードは、ねェ」
レグナの思考にルシフの言葉が過った。
“まだ人間のつもりなら──”
「っ…、悪魔化……?!」
「正解よォ あたしはあのときぶっころしたベリアルの魂を使って自身の魂を悪魔化したのォ
でェ、この“死なない魂”でシファ・バルバローネの天使化した肉体を乗っ取ったのよォ こいつとおんなじようにねェ!」
──人間、シファ・バルバローネを殺したという罪悪感。
3発の《垣間見る地獄の業火》やその他の多数の術式の行使による力の消耗。
何より《レメゲトン》を反射した極大の反射術式。
消耗した魂への侵入は彼女に取って容易だった。
「にしてもベリアルもアホねェ 【青の断罪】の仇を取りに来たのに、そいつに斬られるし自分の魂は利用されるしィ、間抜けとしか言い様がないわァ」
「……っ」
「なにその顔ォ? まさか知らなかったのォ? 魔界は広大、こんなチンケな世界なんか“72柱”クラスの悪魔が盗りに来る意味なんてないよォ その証拠にそれまで出てきてた悪魔共はベリアルを恐れて逃げて来るような雑魚ばっかだったわァ」
「なんで……リースなんだ?」
「あらァ 知らなかったのォ?」
マスターは両腕を真横に突き出した。
「誰が神のようになれようか──、」
呟いた瞬間に、マスターの背から12枚の翼が爆発的に伸びた。
“光”が彼女を包み込む。
「──神に似た者よ こいつ」
「《神に似た者》の聖痕……?!」
「そっ 最強の震術師クグルル・セント・エクセリオンと同じ力の持ち主ねェ」
さァてェ…… 余裕の表情で首を気だるそうに回す。
「そろそろいいでしょォ 死ぬゥ?」
《万色を排除する閃光》
「神は、我が力なり──ガブリエル」
「ああ、そういえばあんた“神の人”だったっけェ 炎と雷、生と死の支配者──解放すれば《万色を排除する閃光》も防げる訳ねェ」
白い炎が翼と雷撃の盾に阻まれる。
「自分の身を盾にすれば、ねェ」
シャルツはがっくりと膝を折った。
「レグナ…… 刃神はあと何発行ける……?」
「とっくに打ち止めだ……」
どうする……?
考えろ、考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ──
『神に似た者』──最強の聖痕
同じ天使の力でも僕の『神の人』じゃあ歯が立たない。
レグナはもう戦えない。こんな場所じゃあ増援もあり得ない。
僕の力だけでなんとかしないと……
「まっ もう一発撃ったら死ぬでしょォ?」
《万色を排除する閃光》
「死の……、」
シャルツの隣を誰かが駆けた。
「《偉大なる剣》!!」
翡翠の刃に白い炎がねじ伏せられる。
「へへっ…… ざまァ……見るサ」
ザクッ
地面に剣を突き刺してシークが荒い息を吐く。
「寄越せ……」
「……?」
「《機械仕掛けの神》って言ったか? そいつを寄越せ 俺が使う」
「だけど「グダグダ言うな 生き残るぞ……!」
「……わかったサ」
機械剣がレグナの手に渡る。
「使い方は──「いい “知ってる”みたいだ」
トランス──エクセリオン
《機械仕掛けの神》が20m超の大剣に可変した。
「な……」
「オォォッ!!!」
レグナはそれを横薙ぎに振るう。
「因果律を制御──透過せよ」
リースの身体を刃が“透過”する。
「トランス──ヴァジュラ」
エクセリオンが分解され無数のチャクラムに可変し、飛来する。
同時にレグナは間合いを詰めるべく跳んだ。
《六柱障壁》
ガガガガガッ!!!!!
チャクラムが壁に突き刺さる。
硬い障壁にヒビが入る。
「トランス──」
上段に高く“残り”を振り上げる。
「エクスカリバー!」
ヴァジュラが消滅しエクセリオンに比べれば圧倒的に小さい1mほどの剣が現れる。それを障壁に向けて一閃した。
サクッ と軽い音がして障壁は容易に裂けた。
「ちっ なんて武器っ……」
マスターがバックステップでレグナと距離を取る。
《魔弾の射手》
それと呼応して翼から無数の光弾が分離する。
「飛べっ!」
360度を完全に包囲した光弾がレグナに向かって飛ぶ。
「トランス──イージス」
それら全てが、速度を失い、腐って、落ちた。
「無力化の盾……神器クラスのアイテムをポンポンと…… いーかげんに、消えろォッ!!」
三つ首の赤い鱗を持つ竜の首だけが召喚される。
(“赤き竜”──帝国の神話に登場する古の神獣王……!)
超高圧のブレスが口内で圧縮され──、
「僕もこれで打ち止めだ……あとは任せるよ」
《神の投げた槍》
──シャルツが発生させた雷に撃たれて軌道を逸らされた。
「何をやってる 軌道修正、さっさとあのアホを」
「トランス アスカロン!」
巨大な剣がその首を引き裂いた。
「ッ……、魔竜殺しの剣っ……」
(この感覚──、やけに手に馴染む……まるで何年も昔から使ってたような……『青の断罪』はこれを知ってるのか──? いや、この感覚は……)
──よっ やっと会えたな?
「?!」




