第33話:死闘、そして
あれに刃神ぶちこむヴィジョンが見えないが…… ──BLADE
因果律を制御──“波長”をコントロール 出来るだけ間隔を長くして威力を極小化…… “屈折率” 領域は三角錐をイメージ、威力を円形に逃がすように…… “乱反射”、“透過” ──半熟震術師? リース
打つ手が……ない……っ ──【銃の王】シャルツ・ディバイト・アークエッジ
「First……!」
レグナはウルスラグナを抜き払う。
シャルツが少しだけ表情の落ち着いたシークの側から立ち上がり、落ちたカイン&アベルの片方を拾い、構える。
「《反魔法》が……消えてる……?」
グラナが薄く纏っていた黒いオーラが、ない。
代わりに、ゴポゴポと沸騰するに似た音を立てて膨張と減退を繰り返す闇の塊が宙に浮かんでいた。
「よォ 【青の断罪】」
「【刃の王】だ」
「ツレねぇな 自分の正体ぐらいはいい加減わかってんだろ?」
「……」
「どういうこと?」
呟くようなシャルツの問い。
「なんだ、テメェ…… 仲間にも話してなかったのか?」
グラナの表情が愉悦で僅かに歪む。
「そいつは人間の味方として召喚された魔王『青の断罪』を殺して、その筋組織と脳基の一部を移植された魔力を持たないプロトタイプの【半神】だ だいたいおかしいと思わなかったのか? そいつのあまりにも人間離れした身体能力
何のサポートもなく身体能力特化型のドレイクと互角に斬り結ぶ人間なんざ居るわけがねぇだろ?」
「そう……なの? レグナ……?」
「……ああ、そうらしい」
シャルツは戸惑うように視線をさまよわせた、が一度目を閉じて開いた時には迷いはもうなかった。
「あとにしよう 全部あいつを倒してからだ」
「スマン」
「つまらねぇ」
グラナが鎌を動かした。
──ガキンッ と高い金属音を立ててウルスラグナがその切れ味を防いだ。
(“距離の無視”を見切られた──?)
「──シャルツ サポート頼む」
「OK」
レグナが加速する。
10と少しあった距離が一瞬で詰まる。初太刀は右の袈裟斬り。
グラナはそれを大鎌の柄で受け止める。鎌の刃で左の剣を牽制出来る絶妙の位置。
(無視──!)
レグナは左の剣を引き、突き出す。
グラナの姿が真横にブレた。──合わせて突き出されたウルスラグナが真横に動いた。
(捉えた……!)
ぐるんっ
(なっ……?!)
鎌が回転した。右の剣を絡め取られてレグナの体勢が大きく崩れる。左の剣に回転した柄が命中し斬撃が真下に逸れる。
首筋に鎌の刃が滑る。
ぶぉんっ!
「!!」
──それは空を切った。剣を弾かれた勢いを利用してレグナは身体を沈めたのだ。
「ちぃっ!」
舌打ちと同時にグラナは低い姿勢のレグナに蹴りを放つ。刹那、
ドォンっ!!
「ガッ?!」
45mmの圧縮震力弾が肩口に直撃してグラナは仰け反った。なまじ蹴りだそうとした分、片足が半端に上がり踏み留まることも許されない。
一ノ太刀──
その隙をレグナは逃さない。
「──呑み込め」
「っ!」
咄嗟に斬撃を止め真横へと跳んだ。
『有罪の漆黒』
漂っていた闇が急激に膨張し、先程までレグナ達が居た空間を“呑み込む”。
破壊ではない無音の消滅。
(闇属性……!)
全属性の中で最大の威力を持つ、消滅の術。
闇が収束しグラナの姿が視界の端に映る。
(ッ……不味い…… この位置は)
跳びながらレグナはウルスラグナを掲げた。
縦薙ぎの『距離を無視』した一撃によりその上から負荷がかかり真下の地面に叩きつけられる。
「ッぁ……」
短い悲鳴、追撃を振るおうとしたグラナを3発、立て続けのカイン&アベルの銃声が阻む。
「千年はえぇ」
グラナは鎌を片手持ちに変えてそれに向かって空いた片腕を突き出す。
──闇が膨張する。
『悪魔の降誕祭』
グラナを中心に十字の闇がシャルツとレグナを貫いた。
『鎧神』
『慟哭する者』
各々の防御術で闇の侵食を防ぐ。
「くっ……」
──レグナとシャルツは『王』と呼ばれる最強クラスの破壊者だ。
並の悪魔ならば単体で凌駕するし、魔王クラスでも一対一で互角に近い戦闘を行うことができる。
それが二人がかりで、未だにたった一撃を加えただけ。それも大したダメージではない。
レグナ達はグラナの攻撃を防ぎ切ってはいるが、常に全力の回避や防御を行っていて『傷がない』というだけで体力の消耗は凄まじい。
(今日だけで鎧神三発に刃神一発…… 相当キてるな)
レグナは瓦礫の影に身を寄せて荒い息を整える。
「強すぎ……間違いなくベリアル級だ、二人でこれはかなりベビーだね……」
「接近戦、しかねーな…… あれに刃神ぶちこむヴィジョンが見えないが」
「大丈夫 隙は作って見せる」
雷撃の術式が一瞬で幾つも編み上がる。
《破滅の引き金 重装機兵団》
無数の魔方陣を銃口として雷の弾丸が発射された。
「呑み込め」
《有罪の漆黒》
「ッ──、」
絶え間ない連射に押されて闇が、貫かれる。
「ちぃっ……!」
グラナは鎌を動かし突破してきた弾丸を弾く。
闇によって威力を削がれた弾丸は容易に捻れ曲がる。
キィィ──
(何の音だ……?)
弾丸の嵐に僅かに雑音が混じった。刹那、弾丸が急に止み、
「刃神ィ!!!」
磁力術式により加速したレグナがグラナに向かって突撃した。
轟雷一閃、超速と刃神が合わさった比類無き一撃。
──グラナはそれを正面から受け止めた。
『魂を刈る者』
“距離の無視”の能力を持つカラミティの『至近距離用』の絶技。
バチィッッ!!
交差、脅力の差からレグナは弾き飛ばされた。
(不味い……っ……!)
疾走する。だが2発の刃神と3発の鎧神を放った疲労により一瞬反応が遅れる。
「避けろ! シャルツッッ!!」
「え?」
距離を無視した一撃がシャルツに牙を剥く。
「なんだかよくわからないけどそれを撃てばいいのよね?」
《垣間見る地獄の業火》
「……仕留めてない」
リースは『障壁』を発動する。シャルツとグラナの間には相当な距離があったにも関わらずレグナは避けろと叫んだ。
なんらかの中〜遠距離攻撃の手段が存在するのだと推測。
ガリィッ!!
カラミティの斬撃を障壁が阻む。
爆炎が“闇”に呑まれて晴れて行く。
「なんだテメェは?」
「リースよ 初めまして」
《火炎の弾丸》
《火炎の弾丸》
《火炎の弾丸》
《火炎の弾丸》
《火炎の弾丸》
火炎系最初歩の術式がグラナを包囲するように浮かぶ。
(遠隔起動……?! かなりのレベルの震術師だな)
「いけっ!」
リースの命令で一斉に弾丸が飛ぶ。
「くだらねぇ」
闇が幕のように広がり火炎を阻んだ。刹那…──
《地に堕ちた焔》
「んだとっ?!」
垂直に火柱が墜ちた。
グラナは闇を伸ばすが膨張の速度より炎が速い。
ドゴォォン!!
「炎の王は高らかに謳う その躰を、その魂を、その骸でさえも滅ぼすために」
《垣間見る地獄の業火》
更に、追撃。いや こちらが本命──
《完全なる……》
闇属性の上位魔術、《完全なる破壊》を起動しようとしてグラナは手を止めた。
(闇が……動かねぇっ!!?)
グラナの使う“闇”は常時発動型の術に新たな術式を付加させて形や威力を変化させる。5発の《火炎の弾丸》、《地に堕ちた焔》にはそれぞれ内部に光の屈折術式が組み込まれており闇を真下に向かって屈折させ続けて居るのだ。
「ッ……!!」
何かで防ごうとしたがグラナの視界には炎しかなかった。
「なんだ、魔王なんて言っても案外…──」
恐怖に身がすくんだ。
生身1つで《垣間見る地獄の業火》を切り抜けて来たグラナの鎌が一瞬で首を刈れる位置にあったのだ。
横合いから4連射されたカイン&アベルの弾丸を弾き、かわし、鎌を振り上げる。
「はァッ!」
レグナが跳躍と共に背後からの一撃で鎌を止めた。──衝撃を受けた鎌がグルリと一回転した。
(しまっ……)
グラナが鎌を止めたとき、その刃は真後ろのレグナに向いていた。
グラナが振り返ることもせずにに刃が迫る。ウルスラグナを身体との間に挟むがレグナは最低でも片腕が削がれることを覚悟した。
リースの投げた短剣がグラナの手の甲に突き刺さった。
「迫雷」
短剣目掛けて短い雷撃が放たれた。雷を受けて鎌の動きが鈍る。
「!!」
レグナはウルスラグナを加速させた。
ガキィッ
鎌を打ち払うことに成功する。着地、レグナがリースの首根っこを引っ掴むのとグラナが体勢を立て直しレグナ達を捕捉し一閃するのがほぼ同時。
『許されざる者』
──咄嗟にグラナが後ろに跳び、閃光がグラナとレグナ達を阻んだ。
レグナがリースを抱えてシャルツの方へ跳ぶ。
「あ、ありがと……」
「一人で無理すんな」
リースはコクリと頷いた。
(3対1……、エメトやシークは一人も殺せずか)
おそらくは『王』と同レベルの震術師の加入、それだけで攻撃のバリエーションは膨れ上がる。
《反魔法》のないいま長期戦は不利──、グラナの出した答えは単純かつ明確だった。
「──ゴエティア テウギア・ゴエティカ パウロの術 アマルデル 七十二の柱に縛られし大いなる闇よ その力を我が前に示せ」
全部纏めて消し飛ばす。
「ソロモンの術式?!」
「っ……シャルツ、間に合うか?!」
「わからない でもやってみるよ」
シャルツの左腕が光を帯びる。
『レ メ ゲ ト ン』
極大の闇が駆け抜ける。
「神は我が力なり──来い、ガブリエルっ!」
──シャルツの背から生えた片翼だけの不完全な翼が3人を闇から守った。
だが翼はボロボロに食い荒らされ、純白の翼は闇色に染まっている。
「……初めて自分が聖痕持ちであることに感謝したよ」
散在していた瓦礫の山が闇に呑まれてレグナ達3人の周り以外は、ほとんど平地と化しといた。
あの魔術をまともに受けたら跡形も残らなかっただろう。
「な…なにいまの……?」
シャルツとグラナを交互に見て困惑するリース。
「全部あとだ いまは…──
「待って」
レグナの言葉をシャルツが遮った。
「──ティア テウギア・ゴエティカ」
「まさか……2撃目?!」
「どうする? もう一発防げって言われたら流石に自信ないよ……」
「……あたしが、やる」
「策はあるのか?」
「うん…… 出来るかわからないけど」
リースは目を閉じて思い描く。
(思い出せ……あたしに出来ること全て)
術式は光、彩るは絶対の防御術式。
「因果律を制御──“波長”をコントロール 出来るだけ間隔を長くして威力を極小化…… “屈折率” 領域は三角錐をイメージ、威力を円形に逃がすように…… “乱反射”、“透過”……」
光属性の本質は防御だ。威力を殺し、逃がし、壊し、反射する。
リースは頭の中でそれら全てを組み合わせる。
「っ、ダメ……時間が足りない」
「ねぇ」
「ちょっと黙ってて、いま
「全反射しよう」
「えっ……そんなの破られるに決まって……」
「サポートする、僕は術式の組む速さならスティアにも負けない 君は形だけ作ってくれれば細部は全部僕が作る、君はそれに思いっきり力を注ぎ込んでくれればいい」
「鎧神で衝撃を受け止める おそらく一瞬なら止めれるはずだ 先端部のベクトルが0になった瞬間になら、どうだ?」
「不可能、じゃないはず…… だけどタイミングがシビア過ぎるよ」
「腹くくって決めて見せろ」
「……、わかった」
「来るぞ……!」
《レ メ ゲ ト ン》
「オォォッ!!!」
『二ノ太刀 鎧神』
その真後ろでシャルツが作り出す複雑な術式が子供の落書きのように幾重にも重なり、巨匠の絵画のように立体を象る。
「いまだ!」
「命ずる、反、射、せよっ!!」
闇が停止する。反射の術式と拮抗する。
「ダメだ…… パワーが足りない、向こうの威力が高すぎるんだ……」
どうする? 『許されざる者』じゃあ反射術式まで壊してしまう。『慟哭する者』じゃあ凌ぎきれない。ガブリエルの雷撃でカバーを…… いや、いまから撃てる瞬撃系の術式じゃあ全然威力が足りない。羽根で、一撃目を凌げたのが既に奇蹟。反射術式にガブリエルを、他人の震力なんて混ぜたら余計に威力が落ちる。
(打つ手が……ない……っ)
「誰が神のようになれようか? 来たれ、光の長」
「「?!」」
「土塊は土塊に、有は有に、無は無に、歪められたあらゆる物をあるべき場所に戻せ」
拮抗していた闇と光の中心で急激に光が増大した。
「て……メェ?!」
膨大な量の闇が、その流れを反転する。
「ちィッ!」
グラナは新たな闇を作り出し自身の放った闇を受け止める。膨大な負荷がかかる。
「ッ……」
空間か捻れる。闇同士の衝突により構成する物質が消滅しつつある。
──闇が弾けた。
「がぁぁっ!!!」
膨大な量の衝撃波の渦がグラナを呑み込む。だがグラナはそれに耐えきった。
「クソがァッ! そういうことかよっ 俺達はそいつの」
グラナはそこで言葉を切った。
「オォォッ!」
反射を追うように駆け出していたレグナ・ゼオングスが目前に迫っていたから、
「っ、ノ」
「終ノ太刀──八百万ノ神」
ツイノタチ ヤオヨロズノカミ
レグナの剣が青い光を帯びる。
グラナが漆黒を得た鎌を振り上げる。
「上等だ、テメェも銃の王もそいつも、纏めて消し飛べっ!!!」
『魂を刈る者』
拒絶のテスタメント、ウルスラグナの青。
復讐のテスタメント、カラミティの黒。
衝突。
2人と2つの武器以外の全てがその場から弾け飛ぶ。
2つの威力は完全な互角だった。双方とも刹那でも力を緩めれば、死ぬ。
──だから、
「許されざる者」
それは、ウルスラグナに重なるように撃ち込まれた。本来そんなことをすれば『魂を刈る者』と『許されざる者』に挟まれたウルスラグナは砕け散るだろう。
『八百万ノ神』
前方に対しては“刃神”を、後方に対しては“鎧神”を。表裏の能力の双解放によって刃神と許されざる者の2つの威力は重なった。
そして、
ビキビキ……びしぃ
「?!」
青い閃光の一閃を受けて、カラミティは砕ける。
ズバァン!!!
レグナ・ゼオングスは地面を踏み締めた。崩れそうになる身体をその両足でしっかりと支える。
「勝…った……」
それは油断、だとグラナは思う。半身を裂かれた程度で最強クラスの魔王であるグラナは死にはしない。まだ僅かな余力がある。
グラナは一瞬のうちに地を蹴った。レグナが反転する。シャルツが身構える。どれも、余りにも遅い。
だから、グラナは片腕を突き出す。
《完全なる破壊》
「退けっ」
それはシャルツを目掛けて放たれたモノではなく、
「──万色を排除する閃光」
刹那遅れて、白い炎がその場に立つ者を焼いた。
更新遅くなるって言った途端にPVがっくり落ちた
これが本来の数字なんだろうなぁ




