第29話:ありとあらゆる者
“王国最強”と“半神”を相手に、貴様に何が出来る? ──王国最強の震術師 スティア・クロイツ・マグナビュート
『BH計画』なんて物を、『人工半神(俺達)』を産み出したあんたを俺は認めはしないっ! ──半神 レイ・バークラント
認めるよ、『BH計画』は俺様の唯一の失敗だった ──王 ザックフォード・WS・エクセリオン
「俺様と戦うか?」
ザックフォードは問い掛ける。戦いの意味を問う。
「勿論」
だが復讐を掲げるレイはそんなことで止まりはしない。
「そうか じゃあ仕方ないな……」
「“王国最強”と“半神”を相手に、貴様に何が出来る?」
ザックフォードは呆けたような表情になり心底呆れ果てた声を出した。
「まさかお前ら、俺様が“何なのか”も知らずに挑んで来たのか」
ザックフォードの姿がブレた。
「種族名は『サタンウォーグ』 許されし力は“ありとあらゆる者”」
「ッ……?!」
ザックフォードの姿がスティアの外見と全く同じモノになった。
「俺様はDNAレベルで細胞を変成させて他の個体と同一の存在と化すことが出来る 当然、」
《激怒する雷神》
「その力までも、完全に な」
「!!」
スティアは光の術式を展開し雷撃を屈折させる。元は自身の震術、弱所は理解している。
「例えばこんなのはどうだ?」
ザックフォードの姿が翼を持った女のモノに変わる。
「行き渡る者だと……?!」
ブォッ!!
スティアとレイは突風に吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
「くっ……」
「こんなのはどうだ?」
長い髪の幼女──、大戦時の【銃の王】の姿。
それが光を帯びて超高速で術式が組み上がる。
(不味いっ……!)
術式組成の速度だけなら【銃の王】はスティアを遥かに上回る。
『瞬撃震』と呼ばれる詠唱はおろか“タメ”すらない震術──、シャルツ・ディバイト・アークエッジはその達人。
《破滅の引き金》
(間に合うか……!)
光を放つ。だが《破滅の引き金》は不完全な屈折の術式を容易に突き破った。
『電速の魔剣』が跳び出した。
「レイ……?!」
《破滅の引き金》がレイの方へと逸れる。
『電速の魔剣』の纏う強い磁性で電流を自分の方へねじ曲げたのだ。
バチバチバチィッ!!!
「レイっ!!」
「──こんなのはどうだ?」
柔和な笑みを浮かべる女性の姿。
「アルム……?!」
「お願い、争わないで スティア」
「ふ……ざけるなァッ!!!」
「激昂、所詮はお前もただの人間だな」
ザックフォードが次に取ったのは、金の髪を持つ碧眼の男の姿。
「クグルル・セント・エクセリオン……?!」
「“ありとあらゆる者”である俺様を殺せるのは地上最強の攻撃、『ドラゴンブレス』だけ──
人間(お前ら)には無理だよ」
一は十に、十は百に、百は千に、億まで重ねて全ては零へと還る
《万色を排除する閃光》
「──…立てよ、生きてるだろ? 加減はしたからな」
「貴…様……?!」
スティアはズタボロの身を起こす。レイは既に立てないようだった。
「貴様、なんだ? これだけの力を持ちながらなぜ悪魔と戦わない?、か? 思い上がるなよ人間 俺様はクグルルとの“契約”を遂行してやってるだけで別に人間に従ってんじゃねーんだ」
「っ……」
「……ついでだ、1つ昔話をしてやろう そのままで聴いとけ
遥か昔、とある世界に1つの国があった」
「……?」
「王の名はゼウス 歴史に記されるなかで最初の5人の聖痕持ちの震術師を抱えたおそらく史上最強の国の王だ
そこでは聖痕を持つものを『天使』と呼んだんだがな
ある日、天使の1人が言った
『私は無限の時が欲しい』
そいつは研究に没頭して遂にその方法を……、不老不死の術を編み出した
──悪魔化だ」
「?!」
「しかしそれを試みた震術師をゼウスは追放した
不服とした震術師は異議を申し立てたが、ゼウスはこれを一方的に退け反逆者としてその震術師を処断しようとした
そうして、戦争が起こった
たった一夜にしてその国は滅びたよ
そいつらの力は強大過ぎた」
「だから、なんだと言うのだ」
「クグルルはそれを恐れていた 震術なんて得体の知れない代物は人の手に余る、だから俺様を王としてこの国に残した
同じ惨劇を繰り返さないように、とな」
「……近い話は私も知っているが、聖痕など所詮伝説に過ぎんだろう」
「なんだ、知らなかったのか? ゼクゥ・フィアレスは『神の炎』の聖痕を持ってたゼ?」
「なんだと……?」
「シャルツ・ディバイト・アークエッジは『神の人』、クグルル・セント・エクセリオンは『神に似た者』、いまの『神の薬』の所有者を俺は知らねーが
『サタンウォーグ(俺様)』という抑止力が無ければ同じようなことは充分あり得るのさ」
「バカな……そんなことが……」
「無い、とはいい切れないだろう? 実際にこの国で最強の震術師であるお前が、反乱に加わってるんだ 例えばゼクゥ・フィアレスが生きていてこの街の中でお前と全力で勝負すればどうだ」
「──、」
「殺らねば殺られる、そんな状態でお前は誰かを巻き込まないように手加減出来るか?」
スティアに強く奥歯を噛んだ。返す言葉がなかった。
「《万色を排除する閃光》、見ただろ? かつてそうしてあのレベルの震術大戦が実際に起こったんだよ…… お前達には抑止力としての俺の存在を黙認する義務がある」
「関係……ないっ」
レイ・バークラントは剣を握り締め、よろける身体を支えて立ち上がった。
「『BH計画』なんて物を、『人工半神(俺達)』を産み出したあんたを俺は認めはしないっ!」
「だから踏みにじるのか?」
横目にレイを睨んだザックフォードの視線は鋭い。
「認めるよ、『BH計画』は俺様の唯一の失敗だった あのとき王国の戦力で劣勢だった戦況を引っくり返すには“人工半神”の他ないと思ってた
俺様の計画では『四人の王』はお前らベリアルホープ四名のはずだった
レグナ・ゼオングス、シャルツ・ディバイト・アークエッジ、クリーヴァ・ライオネル、そしてマスター
こいつらの出現は完全に俺の想定外
だからお前や他の半神が俺様に復讐するなら俺様は受けて立とう
だがこの有り様はなんだ?
騎士の拠点を震術師が強襲、震術師の研究所を騎士が強襲
近衛兵団を動かし情報を錯交させ都市機能を麻痺
それに巻き込まれどれだけの負傷者が出たか
罪無き王都の民を動乱に巻き込んでおきながら、お前は自分の復讐を謳えるのか?」
「っ……」
「俺様はお前らを殺すよ、レイ・バークラント それにスティア・クロイツ」
足元の武器を、レイムの使っていた剣を拾い上げる。
「スティアの存在は今回のクーデターの表舞台に居ない
よって、首謀者レイがレイムを殺したのちスティアと相討ちになった
こんなシナリオでどうだ? お二人さん」
震術師と半神は、己の前に立つ生き物が人間よりも遥かに賢明で、狡猾で、残忍なことを悟った。
「死ねッ……」




