第28話:つまらない復讐
御託はいいだろ かかって来いよクソが、それが悪魔だろうが? ──Fifth エヴァンス
退屈なお喋り、ありがとよ ──First グラナ
地下神殿──、最奥の儀式場にFirst グラナとFifth エヴァンスは居た。
「ラーシャルはどうした?」
「僕がここに現れたことで、答えになりませんか?」
「……死んだか」
「はい、殺しました」
「どうして俺を狙う?」
「つまらない復讐ですよ 魔界にいたころにあなたに家族を殺されました
多分あなたは覚えてすらいないでしょうけど」
「どうして「御託はいいだろ かかって来いよクソが、それが悪魔だろうが?」
「──よく吼えた」
グラナがエヴァンスに向かって加速した。
「?!」
違和感をグラナの全身が包む。
思い通りに身体が動いていない。思い描く自身の速度よりも遥かに、“遅い”
チャキっ
エヴァンスは右手に握った刀を振るった。それはけして手慣れた動作ではなくむしろ素人丸出しの一撃、
「くっ……!」
だが『遅延』に動きを制限されたグラナはそれを全速でかわさざるを得なかった。
それでもかわし切れずに首筋に薄い線が走る。
エヴァンスが左の拳を固める。それを認識出来ているのに、
ドガッ!!
グラナの顔面に拳が激突した。
吹き飛ぶ速度すら、遅い。
エヴァンスは拳を叩きつけた勢いのまま身体を捻りグラナの頭を真下に蹴り落とした。
ゴォォォンッ!
轟音。速度という要素だけを取り除かれ、エネルギーをそのままにしたグラナの頭は床にぶち当った。
「あなたは魔術を使えない」
刀を喉元に突きつけてエヴァンスは死刑宣告を読み上げる。
「魔界にいた頃からずっとあなたのことを調べて来ました
貴方が魔術を使ったという記録は一度もなかった、おそらく《反魔法》のせいなんでしょうね」
「……」
「僕の“遅延”は肉弾戦に置いては無敵の能力──、魔術を使えない貴方を殺すことは容易です だけど貴方のまわりにはルシフが居た
僕は彼女には勝てない」
だがルシフは死んだ。エヴァンスがBLADEをここに連れてきたことによって──、
全てはエヴァンスの計画の内。
「死ね」
エヴァンスは刀を振り下ろした。
ガキィッ
「何……?!」
その一撃は鎌の柄に阻まれた。
刀に重力の助けを借りた全体重を込めているのに、グラナの鎌はビクともしない。
「退屈なお喋り、ありがとよ」
それどころか、押し返される。
「ッ……!」
遂には弾かれて、エヴァンスの体勢が大きく崩れる。
(なんて力だ、だけど“遅延”が働いている限り僕には……、?!)
ばしゅっ
間一髪でエヴァンスは鎌の一撃をかわした。
「速い……?!」
《反魔法》……?! いや、違う。『能力』は魔法ではない。反魔法で打ち消すことは出来ないはずだ。
ならば──、
「大したことはねぇ 割合なんざ知らねぇがお前の《遅延》は速度を実際の何分の一かにするもんだろ? だったら数倍の速さで動けばいい」
「ッ──、」
圧倒的な実力の差。
あくまでエヴァンスはFifthでしかない。
単純な地力ではルシフやラーシャルに劣る。
ましてやそれを超えるグラナになど地力で勝るはずがない。
「はぁ…… そんなのありですか」
諦めたようにエヴァンスは嘆息する。
「ザコはザコなんだよ どれだけ足掻こうがな」
「そうですね…… それじゃあ」
エヴァンスは右腕を伸ばし刀を真っ直ぐに突き出した。
「足掻かせて貰います──」
直後に、
「《時間旅行》 刀を突き刺している2秒後の僕を実現」
刺突がグラナを貫いた。
「ん……だとっ?!」
グラナが鎌を動かす。
「《時間旅行》 遠く離れる3秒後の僕を実現」
エヴァンスの姿が消え、数m後方に現れる。
「なんだよ…… その力はっ」
「これが僕の本来の能力です 《遅延》はオートで活用出来る範囲の微弱な《時間旅行》の一端なんですよ」
エヴァンスは軽く刀の血を拭う。
「あなたのテスタメントの力は知ってます “復讐”の『カラミティ』でしたっけ?
所有者が復讐の対象と定めた存在が視認出来る範囲にいるとき、その対象を“距離を無視”して攻撃出来る
あなたの定めた“復讐”の対象は人間、悪魔である僕はその対象外」
グラナは盾とするように鎌を構える。
そこにあるのは明確な恐怖。だがグラナはその感情を認めない。
全速力を持って逃亡すれば逃げ出すことぐらいは可能だろう。だがグラナは逃げない。
「あなたに僕を殺す術は、ありません」
エヴァンスは圧倒的な実力差を持つグラナに向かい宣言する。
「《時間旅行》 あなたの心臓に刃を突き立てる3秒後の僕を実現」
グラナは重心を僅かにずらした。
(気付かれた……!)
グラナの元いた場所に現れたエヴァンスの刀が空を切る。
鎌の柄が飛ぶ。エヴァンスは鞘で防御する。
「《時間旅行》 遠ざかる7秒後の「遅ェッ!!!」
蹴撃。エヴァンスが腕を盾にする。
ベキィッ
骨が折れる鈍い音。グラナの追撃が走る。
「──を実現!」
刹那の差でエヴァンスが消失し遥か後方に現れた。
「ハッ、自信満々に言って誤魔化そうとしたらしいが、お前の《時間旅行》とやらは欠陥品なんだろ? 宣言した時の座標を直後に修正出来ないし、瞬間移動の座標にも若干の誤差がある
そうじゃなければ初太刀で俺様を殺せたはずだ」
「正解、流石ですね……」
「加えてあらゆる制限を無視した空間転移能力 使用する魔力は莫大、もうあと数回も使えねぇ 違うか? 【Fifth】」
「それも正解 やむを得ませんね……、《時間旅行》だけで仕留められたら一番よかったんですが 奥の手を使わせて貰いますよ」
「ハッタリか?」
「不正解です」
エヴァンスはいつも通りの、愉悦と狂気の入り交じった笑みを見せる。
「《時間旅行》 いまから2万年前、海底にあったこの場所を実現」




