第26話:裏切りと代価
騎士団長、なんていうから……ただの剣士かと思ってましたよ ──クーデターの首謀者 レイ・バークラント
動きが正直過ぎるのだよ、貴様は ──王国騎士団長 レイム・リーガル・アーカナイト
……、226人 ──スティア・クロイツ・マグナビュート
滅びはもう見たくないだろう? なぁ、ザックフォード ──“神に似た者”の聖痕を持つ者 クグルル・セント・エクセリオン
「どうした? 息が荒いぞ、レイ・バークラント」
レイム・リーガル・アーカナイトは、圧倒していた。
「はぁ……、はぁ……」
近衛兵長、レイ・バークラントは【電速の魔剣】の力を継ぐ“ベリアルホープ”だ。
普通の震術師は体外の電流を操るが、【電速の魔剣】は体内の電流を操り通常人間が6割りも使えていない筋力のリミッターを解除することが出来る。
その速度は、人間を、悪魔をすら、
軽々と凌駕する。
──にも関わらずレイムはそれを捕捉する。
「クソッ……!」
超高速の刺突。
回避。
派生する横薙ぎの一閃。
回避。レイムは無造作に、ゆっくりと剣をレイに突きつけるように動かした。
レイは人外の速度を持って、後方に跳びこれをかわす。
レイムはそれを突いた。
──ドゴォン!!!
大剣の軌道上の空気が裂けて、衝撃波を受けたレイが吹き飛んだ。
「騎士団長、なんていうから……ただの剣士かと思ってましたよ レイム・リーガル・アーカナイトっ……!」
明らかに震術を交えた攻撃──、先程の衝撃波は火炎系か何かで巻き起こした気流を超速の突きで叩きつけたモノだ。
「たしかに、それもあるだろうがな 貴様の動きが稚拙過ぎるのだよ」
レイが構えを直す。
それを一瞥してレイムは失笑する。
7年、ベリアルホープが生まれてから現在に至るまでの年数だ。
そう、たかだか7年。
(動きが正直過ぎるのだよ、貴様は)
いかに速くとも、
いかに鋭くとも、
20年以上の鍛練を重ねたレイムには彼の動きが手に取るようにわかる。
(……とはいえあの速度で飛び回られては致命傷を与えるのは難しいな)
少しずつ、僅かな隙を突いて確実に削り取って行く。
──均衡を破るように外から足音が響いた。
両者の視線が一瞬そちらへと向かう。
「スティア・クロイツ・マグナビュート 丁度いい、手伝え こいつがクーデターの首謀者だ」
そうしてレイムは、唐突に雷撃に撃たれた。
「っ……、貴…様……?!」
半ば無意識に、レイム・リーガル・アーカナイトは信じてしまったことに気付く。
スティア・クロイツ・マグナビュートが味方であると。
「早すぎるぞ レイ、おかげで機を逃した」
「これ以上待てなかったんですよ 貴方も知ってるでしょ?
彼の勘の良さは尋常じゃないですから」
ザックフォードは嘆息する。
「はぁ…… お前もか、いや お前が立案でレイが仕切ったってとこか 理由はなんだ?」
「……、226人」
「あ?」
「クーデターに参加した騎士団と大震の下部組織、それから民間人の合計人数だ
レイムや貴様に勘づかれん程度に情報を流した程度でこれだ」
「……」
「わかるか? 人間ではない貴様に王となって貰いたいとは民は思わんのだよ」
ザックフォードは自嘲に近い笑みを浮かべて、それから目を閉じた。
思い出す。いや 忘れもしない。
クグルル・セント・エクセリオン
かつて『神獣 セラフィム』を破った世界最強の震術師。ザックフォードはその息子とされている。
だが、実際はクグルルの子供は女が1人いただけだった。
「俺ぁ多分もうすぐ死ぬよ そうなったら人間の抑止力は消える
いずれ暴走して、王国は滅びるだろう 結局マナや震術なんて得体の知れない代物は人間の手に余るのさぁ
お前、千年生きてんだろ? “王”をやってみないか?」
クグルルはかつて彼にそう言った。
「王だぁ? なんで俺様が、んな面倒なことを」
「“契約”だよ お前、俺に負けたろ?」
「あんなの負けに入るか
“破棄”だ クソヤロウ」
「いいや お前はやるね、何故ならお前は優しいからだ」
滅びはもう見たくないだろう? なぁ、ザックフォード




