第23話:機械仕掛けの大天使
オォォッ!!! ──BLADE
あなただけは別よ 『青の断罪』 ──【機神】ルシフ
「……」
レグナは城の前に居た。
結果だけを言うとラーシャルからは逃げたのだ。
「はじめまして あなたが『BLADE』……、であってるわよね?」
声のした方を見る。城の上、太陽を背にして六枚羽の機械翼を持つ女が居た。
女は軽く跳躍し、レグナの前に降り立つ。
女の髪は白い、瞳は白い、装飾が、肌までも、何もかもが白い。
(こいつ……悪魔、か?)
純白の悪魔はニコリと笑う。
「【Second】ルシフよ」
「ヴァルクリフの結界を破ったやつか……」
レグナがウルスラグナを抜く。
「ヘェ……それが“拒絶”のテスタメント?」
「だったらなんだ?」
「ふーん……基本状態の能力は“物質間結合の拒絶”──つまり『絶対切断』ね 私の手元にあるいままでの戦闘のデータを総合すると、対象を制定しての拒絶が『刃神』、空間結合を拒絶して刃の軌跡上のあらゆる衝撃を止めるのが『鎧神』ってとこかしら?」
「……、よくわかるな?」
「これでも力のことには詳しいの 大抵のことはわかるわよ 次は『慟哭』の原理でも訊きたい?」
「必要な物を守れるならなんでもいい」
「そう……じゃあ『あなたの身体に起こっている異変』のことはどうかしら?」
「?!」
「──…鈍いわね、口車に乗せられて会話に興じるなんて“魔術師”を相手には絶対やっちゃいけないことよ?」
周囲の空間が強い魔力によって歪んだ。
「ちぃっ……!」
炎、雷、風、水
口上の合間に配置された4属性の震術、魔術が複数──同時にレグナに襲いかかる。
──…が、
神速の速度で抜き払われ、また納められ今度は別の魔封剣が抜かれる。
一瞬で4つの魔法が裂かれた。
「速いわね……なら、これでどォ!!」
更に無数の魔弾が精製されレグナに襲いかかる。──それでもレグナのほうが速い。
4つの魔封剣を納刀と抜刀を繰り返し、魔弾の嵐を切り抜ける。
大量の魔弾が尽きたその一瞬に、レグナは一気に距離を詰めた。
「一之「──…ハイ、射程距離」
《機械仕掛けの大天使》が大きく羽根を広げ…──
(砲門……?!)
──…六枚の翼に設置されたそれぞれ六基の砲門がレグナを向いた。
(まずっ…… 鎧──、 いやっ……)
思考を爆音が遮った。
ダダダダダダダダ!!!
36基の砲門が同時に牙を剥く。
「圧勝……、だからこれあんまり使いたく──」
ルシフは言葉を停めた。
不自然な影が地面に刻まれているのを見つけて──、
「上……?!」
「オォォッ!!!」
咄嗟に跳躍して弾丸を逃れたレグナが落下の勢いに任せて一閃する。
ズダァンッ!
「っ!!」
ルシフはそれをかわした。
直前で風の魔術を《機械仕掛けの大天使》を通して圧縮しロケット噴射のように撃ちだし後方に加速したのだ。
「ちぃっ!」
レグナは舌打ちし、ルシフを追う。が、機械翼による加速を得たルシフと生身のレグナでは速度が違い過ぎる。
(《機械仕掛けの大天使》の装弾数は300もない…… ただ撃ち続けて消耗を待つのは不可能ね)
ルシフは距離を取って停止した。
300発と言えば相当な数に聴こえるが一度に36発の銃弾を打ち出す《機械仕掛けの大天使》ならばそれは各砲門につき10発にも満たない数しか撃てないことになる。
おそらく正面からまともに放っては、レグナは凌ぎ切るだろう。
「いいわ…… 決着をつけましょう」
六枚の翼が大きく展開する。
同時に、ルシフが『風の噴射』で爆発的に加速した。
(正面──!)
交差時に叩き斬ろうとしたレグナを嘲笑うように、直前で一斉に翼の角度が変わりルシフが揚力を得て急上昇した。
剣も、術も、届かない遥か上空。
ばさぁっ!
羽ばたきによって空気が裂かれ、空中で静止したそれの36基の砲門が、真下に向かって吼えた。
「っ……!!!」
ダダダダダダダダダ!!!
狙いなど大雑把にしか定められていない数任せの射撃が周囲一帯を薙ぎ払う。
(クソっ……完全な頭上からの射撃、防御し辛れぇっ)
レグナはかつて『吼える失墜の翼王』という魔術を目にしたが、あれは位置的に斜めからの射撃だった。が、これは違う。
例えば、狩人の矢をかわした獣は雨粒を避けることが出来るだろうか。
140kmで迫る死球を避けることの出来た野球の打者は、工事現場で頭上から落下する鉄骨を回避することが出来るだろうか。
不可能──
それが頭によぎっても、レグナは足掻く。
超人的な剣速を持って垂直に降る銃弾の雨を弾き続ける。
だが、
グキィッ!
「がっ……?!」
被弾する。死角からの攻撃など凌ぎ切れるはずがない。
そして一瞬でも動きが止まればレグナはただの的と化す。
無慈悲な弾丸が降り注ぐ。
「ッ……!」
『ニ之太刀──鎧神』
「………、?」
妙だ。とルシフは思った。
《機械仕掛けの大天使》は莫大な魔力を持って起動するとはいえ、基本はあくまで兵器だ。魔術と違い『対象を葬った感触』などを察知することは出来ない。
彼女は天空に居るとはいえ、『下手な鉄砲を数を撃って当てる兵器』を使っているため外れた弾の威力で膨大な量の土煙が上がりレグナの姿を視認することは不可能だった。
だが『土煙の薄い場所』程度は彼女の位置からなら容易に認識出来る。
(土煙が、晴れて行く……?)
レグナが居たであろう場所からは既に周辺から流れたであろう薄い幕しか存在しない。
ルシフは射撃を続けているにも関わらず影のようにレグナが黒く、透けて見える。
(どういうこと……っ!!?)
不意に影から何かが飛び出した。
「!!」
咄嗟に36基の砲門をそれに集中して放つ。
飛び出したそれは、身体を回転させ双剣を振るい36の内、前後左右からの28発の弾丸を『剣に触れていない物』まで弾き飛ばす。残り8発の内、4発を回転と同時に捻った身体を隙間に入れるようにかわし残り4発をあちこちに存在する鞘などの金属の部品に被弾させる。
「ぐっ」
4発の被弾で小さくうめいたがレグナは墜ちなかった。
(凌いだ!? だけどここまでは届かないはず…──)
そう、ルシフが居るのは悪魔の跳躍力を持ってしても届かない場所だ。
──にも関わらずレグナは『剣に触れていない物』を弾き飛ばした“拒絶”の力を足場にし、跳んだ。
「っ……このォ!!!」
ルシフは対象の位置を再設定し、36基の砲門をレグナに向ける。
《機械仕掛けの大天使》には推進機は備わっていない。
あくまで揚力を使って浮上するそれは、『風の噴射』でなければ高速移動を行うことは出来ないのだ。
術名を発声せずとも舌の動きだけで魔術を発動出来るルシフですらいまから魔術を起動する心理的な余裕はなかった。それよりもおそらくレグナが斬り込むほうが速い。
それよりも36基の砲門でレグナを撃墜したほうが確実──
ルシフはそう判断したのだ。
だが、
『一之太刀──
ルシフの計算には、
──刃神!!!』
36の弾丸と《機械仕掛けの大天使》ごとルシフを両断出来る攻撃は、存在しなかった。
「やっべ…… 着地考えてなかった……っ!!」
「……バカね」
《機械仕掛けの大天使》を破壊されレグナと同時に落下しつつあるルシフは手を伸ばす。
「掴まりなさい」
「?!」
「躊躇うのはわかるけど、このままだと真っ赤なトマトよ?」
どのみちレグナに選択の余地はない。
ルシフの手を取った。
彼女が口の中で何かを呟く。
地面を直前にして突風が2人の身体を僅かに押し上げ、緩やかに着地した。
「……なんで助けた?」
「人が人を助けるのに理由なんて要らない よく言うじゃない?」
「は……?」
「冗談、ってわけでもないかしらね まだ“人間のつもり”なら」
「何が、言いたい……?」
「私の望みはもう叶わないから、あなたに協力してあげる 消滅まであと5分もないでしょうけどね」
「……Firstを倒す方法は」
「ないわ」
「っ……」
「人間には、ね あなただけは別よ 『青の断罪』」
「その『青の断罪』ってのはなんなんだ……?」
「薄々は気づいてるんでしょう?」
「……」
「いまから約25年前──、人間の味方として召喚された魔王の異名よ」
3時まで寝てた……




