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第2話:究極の相性


……ねぇ 襲わないの? あーあ、つまんない男 ──半熟震術師 リース


『屍喰らい』の類い ……にしても綺麗すぎるな

血痕や骨の1つもない だいたいやつらはこんな無意味に住居を破壊したりはしない ──BLADE


グォオオっ!!! ──地上最強の生物 ドラゴン


まるで人間みたいでしょう? ──【第5魔王】 エヴァンス





 レグナは無言で、リースのほうは上機嫌に鼻唄を歌いながら歩いていた。


「リース その歌は……?」


 どこかで聴いたことのある歌だ。とレグナは思ったがどこで聴いたのか思い出せなかった。


「あ、ごめん うるさかった?」


「……いや」


 よく考えればリースは記憶喪失なのだ。もし記憶を失う前から知っている歌だとしても、それをどこで知ったかまでは覚えているはずがない。


 2人はだだっ広い荒野を西のほうへ歩いていく。

 リースの村に居た若者が西のほうに集落があることを知っていたのだ。


「あ ねぇねぇ、レグナ」


 半歩前を歩くレグナを呼び止める。レグナが振り返る。ボサボサだった長い髪はリースがバッサリ切り落として以前のようになびいたりはしない。


「なんだ?」


「魔封剣ってたしか普通に切れるはずよね? 背中の4本はわかるんだけど、腰の2本はなんで持ってるの」


「あー……」


 レグナは少し考えるような素振りを見せたが結局こう言う。


「そのうち見せてやるよ」


「んーじゃあ次の質問」


「どーぞ」


「他の『4人の王』はいまどうしてるの?」


 『4人の王』──6年前の魔王ベリアルを撃ち倒した4人の【破壊者】のことをそう呼ぶ。


「……『本の(マスター)』は死んだらしい それ以外は知らん」


 ぶっきらぼうに答えるとレグナは少し歩調を速めた。

 あまり触れられたくない話題だったのかもしれない。と、リースはこの話はしないで置こうと思った。


 「……」

 「……」


 レグナが以降無言だったので、リースも特に話し掛けない。


 それからは何時間も止まらずに歩いた。時々襲って来る魔物をレグナは見事に撃退する。1匹を1回以上斬ることはほとんどなく、それどころか1振りで数匹を切り裂くこともあった。

 たまにリースが震術でサポートすると数の勘定間違えて全滅させてからも周囲を警戒していて、リースが自分の仕止めた焦げた魔物を指差すと曖昧に微笑んで礼を言った。

 戦闘に関しては本当に必要そうなとき以外に手を出すべきではないのかもしれない。


 夜はテントを張り『簡易結界(キャンセラー)』というのを作って寝た。震術で起動し展開する輪のような物で弱い魔物を寄せ付けないそうだ。

 それと火をつけたままにするのは逆効果だと教わった。

 ある程度知性のある魔物、特に簡易結界を突破出来る程度の力を持つ魔物は明かりを好む傾向があるらしい。


「……ねぇ 襲わないの? あーあ、つまんない男」


 と、からかってみたりもしたが大した反応が得られなくて本当につまらなかった。……期待していたわけじゃないんだけど。とリースは誰かに言い訳する。


 強くなりたいな とリースは思った。せめてレグナに必要とされるぐらいに……




 そうして3日ほど経って、レグナとリースは廃墟を見つけた……





「……滅びてる」


 まだ真新しい、一目で魔物の物だとわかる巨大な爪痕がかつて住居だった場所に無数に点在していた。だけど何処か違和感のある光景だとリースは感じた。何か引っ掛かるのだ。


「いや…… よく見ろ」


 レグナが腰の剣を一本抜いた。警戒心をフルに発動させているのがわかる。


「あ……」


 リースは違和感の正体に気付いた。リースの村にあって、ここにないもの。


 ──死体が、ない。


 これだけ派手に壊されているのに。


「『屍喰らい』の類い ……にしても綺麗すぎるな

血痕や骨の1つもない だいたいやつらはこんな無意味に住居を破壊したりはしない」


「何があったんだろ……?」


「おそらく、逃げたんだろう 魔物の襲来を予測してそれより早く街を捨てた


この惨状はその腹いせに魔物が荒らしたってところか

まだこの近くにその人達が潜んでいる可能性は高いな」


「じゃあ……なんでレグナは警戒解かないの?」


「それはな」


 ──…建物の影が、揺れた。


「!」


 碧の鱗に覆われた人の数倍はある巨体──

 怒りをたたえた深紅色の瞳──

 巨大な爪、牙、尾──

 二本の足で直立する魔獣──


 図鑑で見たことのある地上最強の生物、


 ──ドラゴン


「魔物もまだこのへんに潜んでる可能性も高いってことだ!」


「グォオオっ!!!」


 雄叫び。ビリビリと空気が震える。威嚇行動だ。

 誇り高い彼等は不意討ちを嫌う。とたしか本にあった。


「小さいな…… まだガキか」


「ウソっ これが!?」


 普通に3〜4mあるんですけど!?


 臨戦体勢に入ったそれとレグナは正面から向き合う。


 と、ドラゴンが予備動作なく突然に火を吹いた。


「離れてろ!」


 リースを突き飛ばしレグナは逆側に跳んで炎を避けた。


 リースのほうには見向きもせずにドラゴンはレグナに爪を振るう。


「あっ……」


 思い出した。ドラゴンの鱗は鉄よりも硬いのだ。

 例えレグナが『ブレイド』でも『斬れない魔物』は倒しようがない。


 逃げよう! 喉元までそう出かかったとき、


 キンっ と澄んだ音が響いた。


 どぉぉんっ!


 続いて大きなドラゴンの腕が本体を離れ落下し土煙を盛大に巻き上げる。


「嘘っ……」


 リースは息を飲んだ。鉄よりも硬いはずの鱗を、レグナは一刀の元に断ち切ったのだ。


「ぎぃあぁぁぁっ!?」


 鋼鉄の皮膚に守られた魔物の王者たるドラゴンは、その頑強さゆえにこれまで感じたことのない激痛に大きく怯んだ。


 明確な隙──レグナがそれを見逃すはずがない。


 跳躍と同時の一閃。蹴足の速度のままに放たれた斬撃は寸分の狂いもなくドラゴンの首に食い込み、斬り落とした。


「すごっ……」


「……これがこの剣を俺が持ち歩いてる理由だよ」


 単純にして明快な圧倒的威力…… 鋼鉄さえ両断する切れ味。


「『ウルスラグナ』 世界最強の剣だ」







「そう──それを捜してたんですよね 僕達」


「「!?」」


 廃墟の家屋の、おそらくは屋根の上から聴こえた声。

 同時に僅かに漏れたのは──魔力。


(悪魔…… 気配がまったくしなかった)


 レグナは反射的に納めたばかりの『ウルスラグナ』に手をかけた。高さ的に互いに斬り込める距離ではないが、警戒するに越したことはない。


「こんにちは 僕は【第5魔王(Fifth)】エヴァンスと申します

バオウを倒された方ですよね」


 悪魔はにっこりと微笑む。邪気なく感じられる柔和な笑みだった。悪魔で無ければリースは警戒を解いていたかもしれない。


「フィフスだと……?」


「はい 『First(ファースト)Seventh(セブンス)』まで存在する魔王の強さの序列です


僕は『5番目』の強さということになります

あなたの倒したバオウは最も弱い『7番目』 とはいえ彼も魔王にはかわりはないですから、大したモノですよ あなたは」


 楽しげに、饒舌に語るエヴァンスの姿はレグナからすれば妙だった。振る舞いが明らかに悪魔らしくない。レグナがこれまで見てきた悪魔はもっと短絡的に破壊衝動に身を任せていた。


 だが、エヴァンスの姿は人間のそれがダブるほどだ……


 だからといって警戒を緩めたわけではない。リースも呪文を唱えれば直ぐに震術を放てるように集中している。


「……『ウルスラグナ』を捜してた ってのはどういうことだ?」


 レグナはとりあえず会話を引き延ばすことにした。饒舌なエヴァンスから情報を引き出すことは必要だった。

 しかし所詮は悪魔の言うことだ。ただの虚言の可能性も視野に入れねばならないのは勿論わかっているのだが。


「やだなぁ そんなこと、あなたがわからないはずがないでしょう? 『ブレイド』」


 笑みの端に走らせたのは、愉悦ではなく僅かな狂気──レグナは剣を抜いていた。


「『“暴君(タイラント)”ベリアル』 魔界指折りの実力者である彼を殺害した唯一無二の武器──ぶっちゃけ恐れてるんですね 『ブレイド(あなた)』と『ウルスラグナ(それ)』を」


 ダンッ!!


 レグナは別の家屋の壁を使って三角跳びの要領で跳躍し、エヴァンスに斬りかかった。


 エヴァンスの言葉が真実だとすれば自分とウルスラグナの所在があきらかになってしまったことは明らかに不味い。


(こいつはいまここで──消すっ!)


 だがレグナが屋根に着地した時には既にエヴァンスの姿は別の屋根にあった。



(速い……)


「まぁまぁ、そう慌てないでください 順を追って話しましょう

どーせこの距離だと僕にはあなたの剣は届きませんよ」


「……そうだな」


 レグナは構えていた剣を下ろした。







 『火炎の弾丸!!!』



「!?」


 エヴァンスが予期していなかった方角からの強襲。エヴァンスはリースの存在を認識はしていたがただそれだけだった。それだけ震術師は希少な存在なのだ。


 大した威力はなくともエヴァンスは意表を突かれ防御のために一瞬だけ身体を強張らせた。

 ──レグナにはその一瞬で充分だった。



 踏み込んだ。確実な間合いの内に入り込む。


 閃光のような速度の斬撃が繰り出される。



 ……エヴァンスはそれをただ後ろに避けた。


「!?」


 横薙ぎ、逆袈裟と連続して斬撃を繰り出す。どれもエヴァンスに取って致命のタイミング、致命の間合いのはずだった。


 しかし、当たらない。易々と回避が繰り返される。間合いに入ってからのエヴァンスの動きはけして速くはないのに。


 なら、なぜ──?



「……っ…………」


「ま、長く使うと気付いちゃいますよね 僕としてもこんな早くに見せるつもりはなかったんですけど……」


 エヴァンスは後ろに飛び別の屋根に飛び移る。チラリと一瞬リースを見た。あくまで笑みは崩さないのが逆に不気味だった。


「僕の能力は『遅延(スロウ)』 ありとあらゆる物体の『速度を殺す』力です 僕に近づけば近づくほど“速さ”は劣化します」


「っ……」


「わかりますよね? あなたのような“ただの剣士”とこの能力は究極の相性です 速度の無いに等しいあなたの剣が僕に当たることはありません」


 レグナは死刑宣告を読み上げられた気分だった。こんなタイプの術を使うやつは初めてだ……

 レグナの背には四本の魔封剣があるが、エヴァンスの術はおそらく4属性のどれにも該当していないだろう。


 自分の剣が役に立たないとなると、この場に戦えるのはリースしかいない。


(リースが勝てるはずがない……)


 希少な『光属性』ではあるが、見たところリースは自分の意思でそれを引き出すことはまだ出来ていない。


 制御不能のジョーカー。都合よく発動したとしてもそれがエヴァンスに効くかどうかは怪しいモノだ。


 別の可能性──例えば逃げ切ることが出来ても自分の情報は確実に他の魔王に伝わる。いまの状態で2人以上の魔王に来られたら確実にレグナは死ぬ。

 いや、そもそも自分一人ならともかくリースを連れて逃げるのは不可能だ……


「……」


「そう緊張しないでください 話し辛いじゃないですか」


 足掻けるだけ、足掻いてやる。剣を握る手に力を込める。


「あ そっか、『First』や『Second』に情報が伝わることを恐れてるんですね?」


 『一之太「ご安心ください あらゆる意味で僕はあなたに何もしませんから」


「……は?」


 思わず力が抜けた。


「悪魔らしくないんですよね 僕


安全圏から他の魔王が倒されていくのを傍観するのも楽しいかなぁ って


まるで人間みたいでしょう?」


 エヴァンスは声に出して低く笑った。


「僕が姿を見せた理由はかの『暴君』を倒したというあなたの力量を間近で見たかったんです やっぱりスゴいですね

ほぼ人間の限界値と言えるステータスです 感激しました」


 それでも、まあ……


「っ!?」


「僕のほうが強いんですけどね」


 レグナは後ろから肩を叩かれた。


 反応さえ出来なかった……


 振り返ろうとするが、ほぼゼロ距離のため『遅延』がもろに働きそれは異常に緩慢な動作となっていた。


「あ、そうそう この場所に住んでた住民は南に2キロほど行った場所に隠れてます


それじゃ期待してますよ 頑張って魔王を倒してくださいね 『ブレイド』」



 レグナが振り返ったときには既にエヴァンスは居なかった。



「……消えた?」


「なんだったの……? あいつ」


「わかんねぇ…… あんな悪魔には初めて会った」


 ただ一つだけたしかなことがあるとすれば、もしエヴァンスが本気ならレグナの首は簡単に落とせた ということだけだった……






 ボツになった敵方の異名集


 :以下はボツにした理由



 闇の支配者(ダークロード):闇なんか形ないもん支配してもなぁ……


 電速の魔剣(グロリアス):どうやって倒すんだよ


 完全破壊(メルトダウン):どうやって倒(


 絶対零度(セルシウス):どうや(


 偉大なる(グランドセイバー):なんか安直




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