第18話:出撃
はたしてどちらが貴様の言う《許されざる者》なんだろうな ──王国最強の震術師 スティア・クロイツ・マグナビュート
もう少しだけ……さよなら 『リトル』 ──【銃の王】シャルツ・ディバイト・アークエッジ
イカれてたのよ……『BH計画』なんて…… ──とある酒場の店主 アグリア・オックス
……なにごと? ──【裁断者】ナタク・エルステイン
シャルツ・ディバイト・アークエッジは帝国の貴族の生まれだ。王国にはほとんど浸透していない『銃』の技術を持っていることにもそういう理由がある。
(カイン&アベルは僕以外の誰にも扱えない……)
それにシャルツは本来『大震』クラスの雷撃系震術師だ。詠唱を放棄して魔王クラスの魔力を突き破ることの出来る威力の雷撃を使えるのは、“王国最強”であるスティアとシャルツぐらいだろう。
「……」
「やはりまだ迷っているのか、シャルツ・ディバイト・アークエッジ」
「【星の隷属者】……」
「《カイン&アベル》 聖書に登場する“最初の人”であり、カインは弟であるアベルを些細な嫉妬から殺した
アベルは地獄で未来永劫その恨みを叫び続けている……
殺人という罪を犯したカインと、その恨みを引きずり続けるアベル
はたしてどちらが貴様の言う《許されざる者》なんだろうな」
「……」
「貴様はどうだ? 殺すことを罪と知りつつも戦うか?、それとも地獄で恨みを叫ぶか?」
「僕は……」
決まってる。
再びカイン&アベルを手にとった時から選択肢はそれしかなかったのだ。
「もう少しだけ……さよなら 『リトル』」
戦うのは嫌いだ。服が汚れるし痛いし汗をかくし血はべとべとするし…──、誰かが死ぬ。
だけど、
これ以上、誰も死なないために。
これで、最後の死にするために。
【銃の王】は再び武器を手にする。
◇
(シャルツはこれで大丈夫か)
否、彼女はきっと自分の知る誰かが死ぬような事態になれば打算もメリットも何もなくとも動き出すだろう。
シャルツ・ディバイト・アークエッジは、そういう女だと、王国最強の震術師は記憶している。
「さて、残るは……」
シャルツと別れたスティアは一人である酒場を尋ねた。ガラガラの店内に酔い潰れた女が1人、カウンターに突っ伏している。……どこかで見た覚えがある気がしたが寝ているようなのでとりあえずは放置する。
スティアは自嘲に似た表情を浮かべた。それが自分に最も相応しい物だと、彼は思う。
「久しぶりだな……共犯者」
「あらあら 今日は懐かしい顔がたくさん見れる日ね」
しゃがみこんでいたアグリア・オックスはカウンターの下から顔を上げた。
──同時に手首だけで何かを放り投げた。
(何かの術具──、いや……)
直後にアグリアの手からスティアに向けて炎属性の震術が放たれる。
が、炎が『折れ』た。スティアの“屈折”だ。
炎は壁に命中し黒い炭化の跡を残す。
びちゃっ
「?!」
1テンポ遅れて投げられた何かの中身から琥珀色の液体がスティアに頭から振りかけかった。
(この匂い、酒か……!)
一瞬の隙をついてアグリアは静かにライターを突き付ける。
「失せて 私はもう軍で仕事をする気はないわ」
「……」
「アルコール度数、相当高いわよ そのお酒」
「……、阿呆め」
スティアが囁くように唇を動かした瞬間、アグリアはライターを放った。
どすんっ
「なっ……」
アグリア・オックスは、突然その場に潰れた。真上から超重量がのし掛かるような感覚がある。同様の威力を受けたらしく放ったライターもカウンターに叩きつけられる。
「っ……何かの『王の証』ねっ……」
「勘違いするな 別にいまさら貴様を働かせようというわけではない
ただ私の質問に答えろ」
スティアは横で酔い潰れている女を一瞥した。
(聴こえていたとしても魔術語を織り混ぜれば一般人にはわからんか……)
スティアはアグリアに向き直る。
「貴様は25年前のテスタメント──、いや レガリアの制作に関与していたな?」
「……知らないわ」
「惚けるな 『BH計画』のリーダーだったお前が、何も知らんはずがあるまい?」
アグリアは唇を噛む。
「貴方が殺して私が解体、イカれてたのよ……『BH計画』なんて……」
「……答えろ、元大震、『“灰神”のアグリア・オックス』 貴様らは25年前にあれをどこから調達した?」
◇
「スティア様っ! ナタク様ぁ!」
白衣の女がレグナ達の病室に飛び込んできた。
……そこにはレグナの右足にじっと額を押し付けて (治癒震術を使っている)ナタク・エルステインと、それをサポートするために太股に両手をついているリース。
白衣の女は頬を真っ赤に染めて、
「しっ、失礼しましたぁっ!」
なんか叫んでドアを閉めた。
「待て待て待てっ! 凄まじく勘違いしてるだろあんたっ!」
ただでさえシャルツに何を言ったか、2人に無言の圧力をかけられ傷口をなぶられ続けていたレグナは半ば泣きそうな声を出した。おそるおそる、といった感じで白衣の女がもう一度扉を開く。
右足に巻かれた包帯の鈍い発光を認めて彼女はようやく治癒震術を施しているのだと気づく。
「えっあっ……ナタク様いらっしゃったんですね?!」
「……なにごと?」
「王都でクーデターが起こったんです! あちこちぐちゃぐちゃになっちゃってもう機能がほとんど麻痺してます」
「……!!」
「【裁断者】 入るぞ!」
言うが速いか開けるが速いか、スティアが病室に飛び込んできた。
「クーデターだ 王都に戻れ! 時間がない、最低あと1人は王都に戦力がいる 伏魔殿は残りで行くぞ」
「「いや どっからどー考えてもお前が王都に行くべきだろ」」
レグナとリースの声が、ハモった。
「貴様ら二度も私を置いて伏魔殿を渡るなどと、「あーはいはい」
ゴッ
「貴……様…………?!」
レグナがウルスラグナの鞘でスティアの鳩尾を突いた。
腹を抑えてその場に踞る。
「ナタク、折りを見て治してやってくれ リース、行くぞ」
「うん」
1人あわあわする白衣の女を置いてリースは立ち上がる。
「待……て」
「しつこいぞ? スティア」
「テスタメントの、話だ……! 耳を貸せ」
「……、」
レグナは屈み込んだ。
スティアが小声で何かを語る。
「………そうか」
立ち上がったレグナの表情が余りにも冷たくてリースは思わず息を飲んだ。
「行くぞ シャルツを探そう」
「必要ないよ」
シャルツの、だが明らかに普段と違う低い声が入り口から聴こえた。
「覚悟は出来たから」
懐ではなく大腿部のホルスターに2本の銃を差し戦闘衣に身を包んだ【銃の王】が曖昧に微笑んだ。
ただいま更新ペースを取り戻そうと尽力中
ある程度話は出来てるんだけどまだ思い付きをメモした感じで細部の直しに手間取っておりますm(_ _)m




