第16話:大戦
……、あいつは? ──BLADE
なっ……どうして ──第6守備隊隊長 ベル・バークラント
後戻りは出来んが ──王国最強の震術師 スティア・クロイツ・マグナビュート
それでレグナと同じ場所に立てるなら ──半熟震術師 リース
……で、これからどうするの? ──【銃の王】シャルツ・ディバイト・アークエッジ
あらあらあら お酒は止めたんじゃなかったの? ──とある酒場の店主 アグリア・オックス
──…薄く目を開くと白い天井があった。右足に痺れるような感覚がある。片足と肘を支えにして上体を起こす。
ふと視線を動かすと隣で金髪が揺れている。
「リー……「レグナっ!」
飛び付かれた。額が喉に当たって声が遮られる。
シャルツが一気に不機嫌な顔つきになり隣のベッドにいるナタクと彼女に付いていたベルが凄い勢いでこちらを振り返る。が視界を金髪とリースの手で (意図的に)覆われているのでその様子はレグナにはわからない。
(僅か一時間足らずで高等震術の1つである治癒震術を……、化け物だな……)
スティアは内心と裏腹に表情を薄い笑みに変えた。
「リース、その辺にしておけ」
ガチの目でシャルツが銃を抜きかけているのを見てスティアがたしなめる。
「はーい」
リースが引っ込んでレグナは広がった視界に視線を巡らせる。
「……、あいつは?」
シャルツに向く。
「帰った」
「そう……、なのか? なんで……」
その問いに答えられる者はスティア達の中にはいない。
「……、互いに話すことが多そうだな 済まないがベルは出てくれ」
「なっ……、どうして」
「命令だ、出ていけ」
スティアが強く言うとベルは強く唇を噛んだ。が、結局何も言わずに出ていった。
「……さて、何から話そうか」
手近な椅子を引き寄せて腰を下ろす。
「貴様らは誰の襲撃を受けた?」
「ナタクは契約者、らしい 俺は【First】と交戦した」
「契約者にファースト…… 遂に動き出したか」
「契約者が生きてるのを、知ってたのか?」
「……、お前は以前『大震は魔王を倒すために動いていない』と私に食ってかかっただろう? その答えだ、『大震』は“契約者”のほうを追っていた」
「……」
「最低限の戦力としてゼクゥとナタクをここに残して、バルナと私でな
あと一歩のところで【Second】から奇襲を受けて逃がして以来捕捉出来ずにいたが……」
「じゃあバルナの姿が見えないのは……」
「その時、死んだ」
スティアの口調はいつもと変わらない物だった。
だがそれが逆に秘められた重みを伝えてきた。スティアは自身が考えているほど冷酷な人間に徹しきれていないことに気づいていない。
静寂が場を包みかけたが、スティアがそれを破る。
「今回の契約者の名はシファ・バルバローネ どうやら『本の国』の出身の高位震術師らしい」
例の資料室が燃える以前からそこまでは掴んでいる。
「……、今回の?」
リースが首を傾げる。
「ああ」
「スティア……?!」
「黙れ この際、規律などクソ喰らえだ」
咎めるように言ったレグナに向かって吐き捨てた。
「それにこいつは戦力になる 事情を知らせたほうがいいだろう」
レグナは眉を寄せる。
元々リースを連れてきたのはそんなつもりではなかった。レグナとしては震術師として自衛が出来る程度の力をつけて欲しかっただけだった。シャルツには適当なことを言ったがそもそも時期が来れば最初の結界都市に帰すつもりだったのだ。
「国家機密だ、これを聴けば後戻りは出来んが 構わんか?」
「それでレグナと同じ場所に立てるなら」
間髪入れずにリースは答えた。
「いい覚悟だ」
スティアはレグナを見た。レグナは渋々と一度だけ頷く。
スティアが小さく息を吸い込んだ。
「契約者とは、『魔王召喚術』を使った者の呼び名だ」
前回の契約者──つまりベリアルを呼び出したのはクロム・アリスエル・フォールド
スティアの前任の『大震』の長だ。
この世界の大地に流れる力には異界からの侵略を阻む力がある。だがそれは網目が粗いのだ。
大きな魔力を持つ者を阻むことは出来るが、小さい魔力は通過してしまう傾向がある。
だからベリアルが現れる以前から力の小さい悪魔はこちら側に多数現れていた。
その網目を人間の側から強引に押し広げるのが『魔王召喚術』と呼ばれる術だ。
『かの魔法を知ることを禁ず』
『かの魔法を学ぶことを禁ず』
『かの魔法を使うことを禁ず』
そう言われる魔法をどこからか知ったクロムは『魔王召喚術』を使った。その力を使役し王を殺し、王国を乗っ取ろうとしたのだ。
だが、そうして呼び出されたベリアルの力はクロムの想像を遥かに超える物だった。
クロムはベリアルに殺された。
そしてベリアルは伏魔殿に存在した『帝国 アグリード』を滅ぼし、結界を通過出来る程度の下級悪魔を多数召喚し王国に戦争を仕掛けた。
レグナ達が『大戦』と呼ぶのはこのときのことだ。
「ベリアルがクロムを殺したのは契約者だけが呼び出された魔王を“送還”する術を持つからだ だがなぜか今回の契約者は殺されていない」
「つまりスティアは……」
「ああ、契約者を捕まえて“送還”の術を使わせるつもりだった 何体いるかもわからん今回の魔王を相手にするよりもそちらのほうが手っ取り早いからな」
「……で、これからどうするの?」
シャルツが平坦な声を出す。
「契約者を捕らえるのは不可能だ と私は思っている」
「?!」
「調査を進めた結果、魔王クラスの悪魔は7体と判明した
『魔王召喚術』は一度使えば“力”が使った者の震力による干渉を阻むようになるから、そいつは一度の術の行使で7体もの魔王を呼び出したことになる
あのクロムでさえベリアル一体だったのだ そいつは尋常ではない力量を持っている」
そしてそいつはおそらく『神術使い』だろう。
「魔王は殺す、契約者も殺す そのために」
愚直で、安易で、だけど選択肢のない答えを
王国最強の震術師は短く言い放った。
「伏魔殿を落とす」
◇
(なぜ民間人のシャルツとかいう女が同席を許可されて守備隊の私が席を外さねばならない……!)
ベル・バークラントは憤っていた。
転がっていた石ころを蹴っ飛ばすとそれがバケツに当たって中からペンキが溢れてそれを避けようと飛び退いた男が側の脚立を引っ掻けて上で作業をしていた別の男が脚立と一緒に派手に転んで足を挫いたりしていたのだが、彼女に直ぐ前で行われている『その程度の些事』を気にかけている余裕はないらしい。
「……、酒でも飲もう」
ベルは近場にあった適当な酒場に入った。既に日が傾きかけているが、本来酒場が開く時間帯にはまだ少し早い。
無視して扉を開くと掛けてあった鈴がチリンチリンとキレイな音を鳴らす。
「あらあらあら やけ酒は止めたんじゃなかったの?」
やたらと露出度の高い服を来た茶髪で濃い目の化粧の女性は咎めるような視線を柔らかに込めて微笑む。おそらく30を越えているはず彼女の笑みには不思議な魅力がある。
「別にいいだろ 飲みたくなる日もある……」
ベルは開いてすらいない店の椅子に深く腰掛けた。
いつもの、とベルが言うよりも前にアグリア・ラックスは慣れた手付きでカクテルを作り始めていた。
テストが終わり夏休みに入り小休止を終えようとしたところでゲームにハマり更新が疎かになり……
ちょっとペース落ちると思いますが許してください いや、まじすんません;;;




