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第12話:暗躍





貴様ではないのか? スティア・クロイツ・マグナビュート ──王国騎士団長 レイム・リーガル・アーカナイト


んがぁ?! 、わっ、とっ、たっ、とぅぇい?! ──王 ザックフォード・WS・エクセリオン


だいたい貴様、私が来るのを見計らって仮眠を取るとはどういう了見だ!? ──王国最強の震術師 スティア・クロイツ・マグナビュート


嫌ですよ だって恐いですもん ──近衛兵長 レイ・バークライト


『EMTHの魔術師』とはよく言ったモンだわ ──【機神】 ルシフ


ライムラントの、行商か ──第6守備隊隊長 ベル・バークライト







(テスタメントとやらに関する記述はないな…… あるいはテスタメントというのは悪魔だけの呼び方なのか?)


 いくつか仮説は浮かんだが結論は出ずにスティアは書物を閉じた。

 横目にリースを確認するといまは大人しく本を読んでいる。


(……テスタメントに関しては当事者に直接訊いたほうが早いかも知れんな)


 それが武器である以上は設計した者が、あるいは鍛えた者がいるはずだ。

 20数年前なら王宮にはまだ当時のことを関係者もいるだろう。


 隣に数冊の本を置いて、いまは分厚い図鑑を捲っているリースを放置をしてスティアは王城に向かった。





 城に飾られたごてごてとした装飾品の数々を前にスティアは呆れかえった。


(間抜けが大臣共め 民の税をくだらんことに……)


「スティア・クロイツ・マグナビュート」


 そこへ更に嫌な声が聴こえてスティアは額を押さえる。


「……レイムか」


 身の丈ほどもある大剣を背に差している目付きの鋭い男。


 レイム・リーガル・アーカナイト

 王国第一騎士団長だ。


「ヴァルクリフで何があった?」


「襲撃を受けた……、こと自体は報告がいっているはずだな?」


「ゼクゥ・フィアレスが殺されたと聴いたが」


 一瞬、ほんの僅かに口端に笑みが溢れたのが見えてスティアはレイムの死角で拳を固める。


(……そういえばゼクゥはこいつのことを散々コケにしていたな)


 僅かに息を吸い込んでスティアは心の温度を下げる。


「……事実だ 誰がやったのかも定かではない」


「貴様ではないのか? スティア・クロイツ・マグナビュート」


「……」


「ヴァルクリフの結界が破られた、という報告も怪しい物だ あれは外側から破れるような代物ではない」


「目撃証言がいくつかある 外側から飛翔体が降下してきて核を切断された」


「そのとき結界が正常に機能していたとなぜ言える?」


 懐疑主義者。


 それがレイムを表す最適な言葉だろう。

 誰も信用しないことで彼は王国騎士団長という肩書きを手に入れた。


「数値は全て正常だった」


「わかっていないな 俺は貴様を疑っているのだ、スティア」


 乱雑な口調でレイムは吐き捨てる。


 たしかにヴァルクリフの結界を切ることが出来るのは総司令であるスティアだけだ。

 そのスティアが結界の数値を語ったところで彼にとっては意味は薄いのだろう。


(こいつに『天使』の話をしたところで理解を示すとは思えんな……)


 スティアは息を吐いた。


「……私に何のメリットがある?」


「内部からの国家転覆」


 予想していた通りの答えが帰ってきてスティアは思わず噴き出しそうになった。


(たかが知れている……)


 結局、人間と悪魔が戦争を行っているなかでレイムはその程度のことに頭を悩ますような人間なのだ。


 これが騎士団長とは呆れさせてくれる……


「……王には俺から報告を入れさせて貰う」


 スティアは返す刀とばかりに挑発的に口端を吊り上げた。


「好きにするがいい あの方の目は節穴ではないからな」


 そして低く笑う。スティア自身が嫌いな類いの笑みだが、こういうカードも必要だと彼は知っていた。


「騎士団長殿は剣よりも舌を振るうほうが得意と見えるが、第3騎士団の全滅についてはなんと言い訳するつもりだ?」


「っ……」


「いい加減に気づけ いまは互いに腹を探り合っている場合ではない


貴様は第3騎士団を、私はバルナとゼクゥを失い互いに揺らぎつつある なんとかしてこの状況を打破せねばならんのだ」


「仕事が残っている、失礼する」






「まったく……道化を演じるのも楽ではない」


 呟き、スティアは謁見の間へと登った。




「王、ザックフォード・WS・エクセリオン」


 スティアは片膝をついて礼を示した。


「ぐがー」


 ……玉座にだらしなく両手と両足を広げて座る王に向かって。


「……」


 スティアは無言で玉座に近づく。心なしかいつもより足音が大きい。

 本来それを止める立場にある王の左の近衛兵は微笑を浮かべたまま突っ立っている。


 玉座の前にたったスティアは、とりあえず王の横っ面をぶん殴った。


「んがぁ?! 、わっ、とっ、たっ、とぅぇい?!」


 こめかみを殴打されたザックフォードがバランスを崩して転げ落ちる。


「ってぇな?! やりすぎだろスー坊!!」


「誰がスー坊だ、このド阿呆!」


 王国最強の震術師、スティア・クロイツ・マグナビュートを“スー坊”扱いするこの男こそが、王国の主、ザックフォードなのだが、


「だいたい貴様、私が来るのを見計らって仮眠を取るとはどういう了見だ?」


 胸ぐらを掴みあげられる王を見て、その左に控える近衛兵長 レイ・バークラントは思う。



 ……この人、威厳の欠片もねーよなぁ


「おい?! 助けろレイ、賊だぞ 賊!!」


 王の隣でレイはあっさりと言う。


「嫌ですよ だって恐いですもん」


「テメっっ、クビだクビ! いますぐ代わりのやつ連れてこいっ!!」


「構いませんが、俺の前の近衛兵はあなたのわがままに付き合い切れずに30人連続で自主退職したのをお忘れにならないように」


「ちくしょう!!!」


 ……と、4つの結界都市を統括する王国の王、ザックフォードは叫んだ。



 そんな威厳がないザックフォードが国を治めているのにはそれなりの理由がある。

 最も単純で、誰もが納得せざるを得ない理由。


 彼は優秀なのだ。


 おそらくこの国で最高の頭脳を持っているだろう。国内外の事象を全て頭に叩き込みその中から最適な解決策を叩き出す。


 ザックフォードの辞書にはミスはない。と言われてるほど彼は優秀な王だ。



「テスタメント? いや そういう呼び名は知らねーな」


 そのザックフォードが眉を寄せた。


「レガリアだとか言ってんのは聴いたことがあるが……」


 ザックフォードはボリボリと頭を掻く。


 彼はここ数十年間に行われた国内の研究とその内容のほぼ全てを熟知している。そのザックフォードが知らないというのだから、テスタメントという呼び名は人間のあいだでは使われていないのだろうとスティアは思った。


    ◇



 【第4魔王】エメトは伏魔殿という大陸にある唯一の建物を歩いていた。


(人間の築いた城だと言うが、見事な物だ これほどの物は魔界でも中々お目にかかれんだろうな)


 白を基調とした建物は彼の好みではないがそれでも素直に賞賛出来るだけの荘厳さがある。


「帝国……、ベリアルが滅した人間の国か」


 術的な防壁の施された壁に触れる。


「……脆弱だな」


 エメトはそれに拳を突き立てた。それだけで壁に人間大の穴が空く。

 帝国が滅びたのは結界の技術が浸透していなかったからだと言われている。それは概ね正解らしい、とエメトは思う。


「ちょっと、そんなに軽く壊さないでくれる? グラナに当たられるの私なのよ」


 しかめっ面をしたルシフが言う。


「済まない」


 エメトは素直に頭を下げた。


「ったく……」


 ルシフはしかめっ面のまま魔方陣を作り出し、その中に右手を突っ込む。


「左はまだ治らんのだろうか?」


「ええ、サービスしすぎたわね」


 曖昧に笑みを見せてルシフは魔方陣から何かを引きずり出す。


「グラナからの命令」


「またか」


 どうやら手紙らしい。


「便利な四次元ポケットだな」


 ルシフはそれを無視して紙を押し付けた。

 紙に目を落とす。


「この前は口伝で今度は手紙か グラナも一貫せんな」


「動ける? 城のなかほっつき歩いてたの、リハビリのためでしょ」


「少し辛いな スペアにまだ馴染んでいない」


 エメトは砕いた壁の破片を一つ握り締めた。

 ゴキゴキ、と鈍い音を立てて手のひらの中でそれが潰れる。


「……本調子なら粉々に出来るのだが」


「あれだけやられて生きてるほうが変よ 『EMTHの魔術師(真理を嘲る者)』とはよく言ったモンだわ」


「それは暗に敗北を非難しているだろうか?」


「別に、私だって敗走したわけだしあなたの相手はあのベリアルを倒した【刃の王】に【銃の王】でしょう」


「人間には違いあるまい」


 エメトは壁の破片に『操作』を発動する。


「互いに名誉挽回が必要だろうな」


 『操作』を受けて破片の石材が充分に磨かれた杖の形に固まった。


「直ぐに出よう 標的は『ベリアルホープ』か」




    ◇


(ゼクゥ様はなぜ殺された……?)


 ベル・バークラントは考える。


 震術師としてのゼクゥ・フィアレスは冷酷な面はあったが、人の恨みを買うような人間ではなかった。


 16歳という年齢で王国最強の部隊と言われる『大震』に抜擢されたことに嫉妬する声もあったが、彼の力を見た瞬間にそれらは一斉に押し黙った。


 根本的に力の格が違うのだ。


 実質的にヴァルクリフに駐屯する軍の戦力は【星の隸属者】と【限り無き炎】だけと言っても過言ではない。

 例え1〜9の守備隊総員374人が総掛かりでも彼らに敵うことはないだろう。


「外部の犯行……」


 そうとしかベルには考えられなかった。



 12話になっていまさらだがこの世界には4つの国がある。


 ベルやゼクゥの居る『王国 チェインジュリス』

 王国から南東に位置する術の研究の盛んな『本の国 ライムラント』

 遥か北に位置する極寒の地、『氷の国 アイスログ』

 そしてかつて伏魔殿に存在しベリアルに滅ぼされた『帝国 アグリード』の残骸、『旧帝国』


 この中で王国が交流があるのはライムラントだけであり、それも政治的な物ではなく行商が微かに行き来をするのみだ。


(ライムラントの、行商か……)


 ベルが外部の者として思い当たったのはそれだけだった。


 戦争、という言葉が一瞬脳裏に浮かぶ。


(なるべく慎重に動いたほうがいいかもしれない……)



 ベルは大きく息を吐いて、詰所を出た。


 なぜかこのところ悪魔の襲撃がないため少し時間が余っているのだった。







 テストが始まるまでに完結させれば…… とか考えてしまうorz




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