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第11話:悪魔を望む者


……!! ──【裁断者】 ナタク・エルステイン


このへんの魔物はこれで全部か……? ──BLADE


魔物図鑑の最新版?! はぅっ、ローアーキャットの生態……激しく知りたいっ……! ──半熟震術師 リース


ルシフ……エル? ──王国最強の震術師 スティア・クロイツ・マグナビュート


俺っちがいる内にあの人達に手は出させないサ ──【破壊者】 シーク


ラーシャルは【Third】ラーシャルなの ──【第3魔王】 ラーシャル





「……???」


 ナタク・エルステインは首を傾げた。


 彼女も軍人だ。

 ゼクゥのことは彼女なりに折り合いをつけた。


 の、だが


 彼女はスティアの使っていた軍の指揮官用のごちゃごちゃした機械がある場所に居る。それをどう弄ってみても認証コードがどうとか出るばかりで何がなんだかさっぱりわからないのだ。


 ちなみにスティアは予めコードについては教えておいたのだが、自分の記憶能力を基準に一度だけしかその内容を言わなかった。

 普通に考えて一般的な人物が膨大な数の単語だとか数字の羅列をそんな直ぐに覚えられるはずがないのだ。


「…………」


 ナタクはそのうち機械のほうを諦めた。

 無線で連絡を取りさえすればいいや、と安直に思い無線では1つにつき1部隊の隊長としかとしか会話出来ずに不便だと気付く。


「……!!」


 彼女の答えは単純かつ明快だった。

 無線を5つ持ち歩けば同時にたくさん指示を飛ばせる。5つの無線機に対して彼女の耳は2つしかないことにナタクは気付かない。


 そして彼女のしゃべり方では情報を発信する側としては非常に不適格であるということも。





 結論から言うと、その1週間のうち魔物はヴァルクリフに現れなかった。


 なぜかと言うと、




「このへんの魔物はこれで全部か? 【銃の王】」


「た、多分 そうだと、思う、よ、【刃の、王(ブレイ、ド)】」


 この2人が街に辿り着く前にほとんどの魔物を倒していたからなのだった……




    ◇


 王城を中心に円を描くように広がる街にスティアとリースは居た。


 王の権威を誇るために作られた街。


 そして(そび)え立つ王城のせいで常にどこかに影の出来る。もしスティアが王ならば最初の仕事はあの無駄な城を解体することだろう。


 スティアはこの街が嫌いだった。


「さっさと済ませるか……」





 国立図書館。スティアは、いろいろと放置して調べ物に没頭していた。

 そう、目をキラキラさせた金髪の少女が「魔物図鑑の最新版?! はぅっ、ローアーキャットの生態……激しく知りたいっ……!」だとか、


「ラフテル・パーソンの新巻?! 行商がケチって途中までしか持って来なかったやつだ 続き読みたかったのよねぇ!」だとか、


「お客様困ります 館内はお静かに、それに走らないでください! 埃が、オメェ転けて本、破きでもしたら承知しねぇぞゴォラァッッ!!!」


 などと言う声が聴こえてきても、彼は放置しておくことにした。些事にかまけて時間を浪費している暇はないのだ。





(ルシフの術の威力はなぜあれほどまでに高かった……? 何か仕掛けがあるはず……)


 スティアは10冊ぐらいの古い本にそれぞれ手のひらを翳しただけでページを捲っていく。表面から反射する光から文字を読み取っているので捲られて行くペースは圧倒的に速い。


(やつは神話と言った そしてルシフという名がヒント…… たしかに我が国では王国設立以前の歴史はハッキリとしていないし、あまり調べられてもいない


それ以前になんらかの悪魔の干渉があっ……、?!)


 スティアはページを捲る手を止めた。


「ルシフ……エル?」


 『ルシフェル』


 神と同等に等しい力を持ち神に反逆し地獄に落ちた天使の王──


(ルシフェル、偶然か? ……待てよ たしかさっきのページには)


 ガブリエル、ウリエルなど天使の名前にエルがつくのはエルという名が神に愛された証だとされるからで──


「ルシフェル……地獄に落ちた……神に愛されなかった天使……?、それでルシフ……か?」


 そうなるとアイツは元・天使、つまり堕天使ということになる。

 天使、という存在はベリアルが現れる以前からも度々この世界に出没した悪魔と違ってほとんど知られてはいない。というか一般的に存在を認められていない物だ。


 だがスティアは人間と悪魔に次ぐ第3の存在以外に灰の瞳と赤い血を持ち、更に魔力を持つルシフを説明する術を持たなかった。


(だとすれば、天使という存在は結界を受けないのか……?)


 可能性はある、とスティアは思う。


 この本によると大地は神という存在が作ったとされていて大地には『神の(マナ)』と呼ばれるエネルギーが駆け巡っているとされている。


 これは大地に存在する力の流れを変えることで異世界の悪魔を阻む『結界』の理屈とだいたい一致する。


 だが神の力と天使の力が類似した物であれば、同調こそすれ阻まれることはないのではないか?



 スティアは再びページを捲り出す。


 これでそれであいつの正体は想像がついたが、結局あの術の威力は…──


「ん……【神術】?」


 ……そこに書かれているのはあきらかに『震術』のことだった。が、その本のどこを探しても『神術』とある。

 よく見ると他の本にも神術という記述がある。


(誤植……ではないな メカニズムが解明されるまでは震術は神術と呼ばれていた、と考えるべきか)


 震力と呼ばれる力で空気を摩擦したり衝突したりさせて、炎や雷を作り出すのが震術だ。

 何も知らない者達からすればそれはたしかに“神の術”と呼べるかも知れない。


「……大それた名だな」


 スティアは溜め息を吐いた。


 ……待てよ?


「なるほど、大それた名……か」


 震術を使う上で重要なのはイメージだ。

 『雷極』などはまた異なるが、自分はこういう現象を起こしたいとイメージすることが震術では重要になる。


(人間に作り出せる力の限界を我々は勝手に決めていなかったか?)


 イメージする。


 自分の力量だけでなく神の力を借りるイメージ。


 『震術』ではなく『神術』を扱うイメージをスティアは組み立てる。



 ……試して見る価値はあるな



(さて、あとはテスタメントだったか)



    ◇



 ヴァルクリフから南東に位置する密林。



「みんな、なるべく早くここから離れるサ」


 シークはそれだけ言うと《機械仕掛けの神》を起動し、結界の外へ走る。


「俺っちがいる内にあの人達に手は出させないサ さっさと出てくるサ!」


「……気配は消したつもりだったの」


 木の影から推定身長135cmのクセにバカ長い日本刀という組み合わせの訳のわからんやつが出てきた。


 だけど、


(こいつ、めちゃくちゃ強いサ 少なくともドレイク以上は確定……!)


 シークは奥歯を噛む。

 なんでまたこんな辺境にこんなやつがいるのか。


「ラーシャルは【第3魔王】ラーシャルなの 一応確認するけどあなた、『人工半神』──通称『悪魔を望む(ベリアルホープ)』なの?」


「……っ!」


 シークは《機械仕掛けの神》を強く握り締める。


「別に構えなくともいいの グラナが言うにはラーシャル達はあなたの同胞なの


それに、あなた容姿こそ10代後半だけどほんとうはまだ7歳かそこらなの いくら魔力が強くても100年以上の年月をかけて研磨したラーシャルの技には勝てるわけないの」


「あんた……どこまで、知ってるサ……?!」


「ほぼ全て聴いてると思うの ルシフが言うにはベリアルホープっていうのは、人間が殺した悪魔の死体から精子を抜き取って人間の女を無理矢理孕ませて作り出した悪夢の個体なの

 女は拒絶反応を起こしてほとんど死んで現存するベリアルホープは4人しかいないらしいの


 本来は対悪魔用の兵器として運用されるはずだった彼らがベリアルが死んで用済みになり解放された、ってラーシャルは聴いてるの」


「……」


「その顔を見るとほぼ正解らしいの?」


「何が目的サ?」


「ラーシャル達の仲間になって欲しいの」


「なるわけないサ、俺っちは人間として生きるって決めてるサ」


「そう、だけどいまの話を聞いた後ろの人達がそれで納得するとは限らないの」


「っ!?」


 シークは驚いて振り返る。


「し…シーク……?」


「バカっ なんで来たサっ!」


 その瞬間、


「隙あり、なの」



 恐ろしく抑揚のない声が聴こえた。


「?!」


 慌てて迎撃しようとラーシャルの方を向くシークの脇を、凄まじい速度ですり抜ける。


 斬──、


 居合いによって男が腹を深々と斬られて、血に沈む。


「お前ェェッ!!!」


 シークは【半神】としての力を解放した。

 悪魔に等しい筋力を持ってラーシャルに斬りかかる。


 ガキィッ!


 と、《機械仕掛けの神》と刀が甲高い金属音を鳴らして、二人はすれ違った。


「……あなたが来ないって言うならラーシャルは先にあなたが守ろうとしてる物をぶっ壊すの」


 シークは村人を背にして立つ。


「でもグラナの言い付けがあるから今日はここでお仕舞いなの」


 不服そうにそう言ってラーシャルは、そのままシークを放って逆方向に歩いて行く。


(こいつは、野放しにするわけには行かないサ……!)


 シークは《機械仕掛けの神》を『魔力砲』に変形させる。

 かつてレグナを樹上から狙った型だ。


「イッケェっ!!!」


 シークは引き金を引いた。



 ドゴォォォンっ!!!


 爆音が静かな森に轟く。



「……1日、考える猶予をあげるようにラーシャルは言われてるの だからいまあなたを殺すとラーシャルはグラナに怒られちゃうの」


 【第3魔王】ラーシャルには、傷1つなかった。


 神速の速度で振り抜かれた居合いと、それによって裂かれた風を魔術によって統制した一閃が砲弾を打ち消したのだ。


 でも、とラーシャルは言葉を続ける。


「これ以上ラーシャルを怒らせないの どうでもよくなって全部壊したくなっちゃうの」


 再び背を向けたラーシャルを、シークは撃てなかった……


 ただ圧倒的な力の差だけが理解出来た。


(そうさっ……あんなやつに構ってる場合じゃないサ!)


 《機械仕掛けの神》を通常形に戻しシークは治癒震術の魔方陣を作り出し《機械仕掛けの神》の切っ先をラーシャルに切られた男に向けた。


「あんた、直ぐに治」


「ひぃっ?!」


 男は、怯えた。


「……」


 シークは呆然とした。


 いままでずっと守ってきたのに、

 命懸けで戦ってきたのに、


 【半神】ということが知られるだけでその信頼は容易く揺らいでしまったことに……


「……、真言者よ 主の(ことわり)を解せし者よ 主の愛を解し、主の心を解し、その理を持って神の子を癒せ」


 魔方陣が光を放ち、シークの震術で男の傷は跡形もなく消えた。


 男は一瞬なにが起こったのか理解していないような表情になり、後ずさって結界の内に逃げて行った。


「俺っち、どうしたらいいサ……」


 ラーシャルの言った『同胞』という言葉が耳に残って離れなかった……






 テスト1週間前……


 でも続き書きたいorz


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