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弱くなってニューゲーム  作者: 桜油
一章「主人公カード引いたけど、既に持ってる人が沢山いる話」
4/57

1-3「今から13年後に世界が滅ぶって言ったら」

一章三話目です。

青髪ヒロインが負けヒロインという風潮を崩したいですね。

こんな知名度が欠片もない作者に何が出来るのかって話ですけど。

真白夕映との邂逅から二週間が過ぎた。


この二週間一緒に生活するうちにだいぶ打ち解け、今ではたわいもない話や冗談の言い合いもできるようになっている。下の名前で呼び合う仲にもなった。

夕映は『同類』というだけあって、馬が合うというか、会話の調子が乗りやすい。会話のレベルが釣り合っている上、夕映は『前回』の俺を知っているのか、俺が何も言ってなくても考えていることがわかるらしい。

俺には夕映と会った記憶はないのだが、深入りできない以上聞くわけにはいかない。

そう、未だに夕映の詳しい事情を知らない。『同類』であれば異能差別を解消するにおいてそれ以上の協力者はいないのだが、まあ強制する気はない。俺のけじめの問題なので。


そんなこんなで昨日まで割と楽しく過ごせていたのだが、叔母から連絡があり、夕映の家が俺の家の隣に用意できたから顔見せと案内をするとのこと。

俺、今はそんなに叔母のこと好きじゃないっていうか、苦手なんだよなあ。大事なことは言ってるんだが、いちいち遠回しで意味深なわけで。夕映も似たようなことをするが、夕映はなぜか許せる。何か違うところあったかなあ。

いや、苦手だからって公私混同はしないけど。俺を引き取った保護者である以上、それ相応の対応はするけども。

今朝は慌ただしく客人を招く用意をしていた。お茶出しやお菓子、掃除や片付け、洗濯、身だしなみエトセトラエトセトラ。さっきから俺一人でやっているが、夕映はまだ起きていない。


というか、俺もこんなあわただしくするつもりはなかったのだが、これに関しても完全に夕映が悪かったりする。

昨晩、いつもは別々なくせにその日に限って俺の部屋で寝たいと俺の部屋に押し掛けてきたこいつは、朝には、せっかく譲ったベッドからずり落ち、床に敷いた布団で俺を抱き枕にしていた。


……がっつり関節技を決めた状態で。


痛くて配慮する余裕など全くない。無理やり抜けようとしたのだが、本当は起きてるのではと疑うレベルで力が強くてなかなか抜け出せず、異能や魔術を使用してまで抜け出すことになった。

で、朝寝ぼけていた俺も悪いのだが、異能の制御が若干ミスってたのだろう、俺の異能リビドーが発動してしまい、暫く理由もなくひたすら涙が流れる状態が続いた。感情の噴出は軽いとか言ってたがあんなの噓だろ。マジだったらほかの異能リビドーが恐ろしすぎる。

ひいひい言いながらそれでも何とか朝食や着替え、洗顔など終わらせ、家事をしているわけである。……悪いのは夕映だけじゃない可能性微レ存……?


準備が終わったところでインターホンが鳴り、人が入ってくる気配がしたので夕映を起こそうと部屋に向かえば、すでに着替え終えて俺のベッドの上でくつろいでいる様子だった。


「やっぱ起きてたんじゃないか。手伝えよ」

「ええ?私一応客じゃないの?ここ怜の家でしょ」

「そりゃそうだが」腑に落ちないなあ。


頭をかいて、「叔母さん来たぞ」と言えば、ベッドから飛び上がり、


「おお、もう来た?」


とワクワクしているので、


「そんなに叔母さん好きか」


と苦笑いを浮かべたが、夕映は構わず、


「そうだよ、なんたって『同業者』だからね。目的が違うのに利害が一致してるのもグッド」


とニコニコで階段を駆け下り、下から夕映のうれしそうな声と叔母の挨拶が聞こえた。

俺がどんなに叔母のことを苦手に思っていても、夕映が好きっていうならまあいいか。

笑みがこぼれ、俺も叔母のもとに向かうことにする。


……ん?『同業者』?

『同類』と何か違うのか?


言葉にちょっと違和感がした。

違和感は放っておかない。そう前回の件から学んでいた俺は、それを記憶の片隅において、リビングにて叔母の顔を二週間ぶりに拝んだ。

リビングでは既に叔母と夕映の話が盛り上がっている。二週間前の夕映の殺人事件(仮)についてのことで、叔母も知っていたようだ。


叔母も逆行者か何かかもしれない。やっぱり、二人しか逆行者がいないと勘違いしていた俺は人生舐めてたんだなあ……。

夕映も叔母も逆行者と仮定して、どういう目的で動いてるのかがいまいち見えていない以上、まだ体が成長していないうちに敵対されかねない行動は控えたい。一応二人とも、今のところは俺にプラスな行動をとっているが。


……やはり夕映に目的を聞くべきだろうか。夕映の発言からして、夕映と叔母は利害が一致しているのだから、夕映の目的の内容次第で叔母と夕映への立ち回りを統一できる。

情報アドバンテージは相手のほうが圧倒的に上だし、そもそも無理やり聞き出した結果が俺とも利害が一致する内容なら申し訳ない。そんなことを考える時点で甘いのかもしれないが。

いろいろ悩んだ末、夕映の叔母にあえて心底安心したような表情を見て、言及する気が失せたので後回しになった。


思考を放棄した頃合いに叔母が俺の姿を見るや否や、


「おお、元気だったかな怜少年」


と満面の笑みで俺の頭をなでる。なぜか懐かしい気持ちになったのに首をかしげ、


「子供嫌いじゃないんです?」


と言うと、


「ひどいなあ。話はちゃんと聞いてくれないかね、私はちょっとずれた子供なら大歓迎なんだ」


と反論した。記憶を探れば確かに言っていたが、あれだけなついていた夕映を放って嫉妬でもしていないのかと夕映を見たのだが、夕映はむしろ生暖かい目でこちらを見ていた。むずがゆい。


「夕映、そんな目で見るのやめろ」

「え、どんな目!?」


逆に興味ありげに問い詰めてくる。今日はおかしいな夕映。いつもおかしいけど、今朝はより一層おかしい。

しかしどんな目、か。あえて言語化するなら、そうだな。


「生き別れた家族の再会をはたから見て喜んでる感じじゃないか?」

『……』


急に黙った。二人とも。えっ怖い。


「なんか気に障ることでも」

「いや問題ない。問題ないからこれ以上言わないでくれないかな」


すんっと真顔に戻った叔母に食い気味にそういわれ、口を閉じるしかなかった。やっぱこいつやべえ。関わりたくないタイプだ。


俺が何も言う気がないのを見て、叔母は玄関に向き直り、


「さて、夕映は今から案内するからついてきてよ。怜はそこで待っててね。女の子が一人で住む家だからね、ついてきてほしくないんだ」


と言って玄関から出て行った。間違いなく夕映に殺気を向けてたが、夕映は叔母と利害が一致しているという言葉は、信用しないほうがいいかもしれない。

味方にあんな、夕映も若干顔が青くなるレベルの殺気を向けることはないはず。

はあ、敵の味方は間違いなく敵だから少しは立ち回りやすくなるかと思ったのに。

敵の敵は味方とは限らない。あれは不可抗力だから仕方ないんだけど、事態がややこしくなったなあ。


いろいろ苦々しいのを押さえて夕映に「なんかすまん」と謝ったが、


「ああ、謝んないで。怜は何も悪くないじゃん?むしろこっちこそごめんね、調子乗ってた。なんて醜態さらしてるんだろうねえ」


とくしゃくしゃな笑顔でそう言って玄関から出て行った。

その一時間後に戻ってきた時には夕映ひとりだった。叔母は仕事があって帰ったらしい。夕映は、もう別の家があるのに俺の家の夕映の部屋に駆け込み、一日部屋から出なかった。少し泣き声も聞こえた。


……うだうだ考えていたが結論は出た。

俺の目的だのやりたいことだの一切考えず、夕映と叔母が敵対していたらとりあえず夕映に味方しよう。



二週間が経過した。

相も変わらず夕映は俺のところで生活している。

一人で住むより二人で住むほうが経済的に合理的なので断る理由はないのだが、しかしそれなら、互いに中身が高校生同士なんだから、裸でうろつくのだけはやめてくれないだろうか?

前にそう苦言を呈したが、夕映曰く、


「でもただの幼児の体に羞恥も何もなくない?」


いや、恥ずかしいとかじゃなくて。

別に俺とて幼女の体に興奮など感じない。だが、中身高校生と思うと、高校生がみっともない行動をしてるようにしか思えなくなってくるからやめろと俺は言っているのだよ夕映クン。わかるかね?


「え?それ言い出したら私、いい年こいたばあばあばあさんだよ」

「じゃあ何歳なんだよ」

「13年を何回も繰り返すから、多分1300歳?」

「お前の精神は鶴だな」

「鶴は千年亀は万年っていうけど、実際はどっちも五十年も生きてないよね」

「あなたを詐欺罪と公然わいせつ罪で訴えます!理由はもちろんお分かりですね?」

「いやだましてないし外で脱いでないじゃん」

「ここは俺の家であって夕映の家じゃないからな」

「でも渡り廊下でつながってるんでしょ?じゃあ同じ建物だ」

「それもそうか、ならよし」

「わあ、あっさり。素敵だねー」


いつも夕映にからかわれる分、このように俺が仕返しをするのだが、げんなりしているのを見ると、さすがに辞めたくなる。なぜ俺が悪いかんじになるのか。解せぬ。

普段ならここで会話が終わるのだが、今回は更に夕映が口を開いた。


「でも、そうだなあ。精神年齢の話は考えないようにしない?」

「珍しいな、そんな提案」からかうネタにしてきそうなだけに。


俺の心の中で呟いたつもりだが、夕映は副音声がわかったらしく、


「失礼な。こんなかわいい私がそんなことするわけないじゃん」

と不満をあらわにしていた。


これだけなら年相応の女の子って感じで可愛い。+5点。しかし思い出せ、俺はこの目の前の青色エネミーに初っ端から殺されかけただろ。従って-1億点。


「そうだな、-9999万9995点でかわいいな」

「どんな採点基準してるの!?褒めてるのかけなしてるのかわかんないじゃん!」


夕映が困惑していて清々したので、俺は「それで、なんで?」と話を戻す。


「いや、それでもなにもまだ何も解決してな」

「なんで精神年齢気にしない方向なんだ?」

「……性格悪いよね、怜」

「ひどいな。俺はこう見えても、毎年通知表に、『自信がおありではっきりしていらして、世渡りにたけていらっしゃる。悪意はおありにならないでしょうけれど合理的なことに徹していらっしゃる。ほかの方にお聞きになったほうが宜しいでしょう』と書かれていた男だ」

「それ遠回しにけなされてるじゃん……」

「ちなみにその返事は『みんな、お困りでしたのね』だ」

「家族にも嫌われてない?それ」

「半分冗談だ」

「どこから冗談なの!?」

「いい加減にしろよ夕映。お前のせいで話が進まないだろ」

「ええ……?」

「む、ところで疲れてるみたいだな。全く、夜更かしはだめだぞ」

「君のせいだよねえ!本当性格悪い!」

「いやあそれほどでも」

「今までの流れ全否定!?てかほめてない!」


と会話がサクサク進む。昔ながらの悪友のように会話が痛快でスムーズだったので、ちょっとやりすぎたようだ。

いや、夕映いじってると、こう、反論が面白いから。夕映はサディストと思うが、俺も似てるのかもしれない。いつもはからかわれる側だが。

つくづく夕映と俺って似てるよな。うんうん。


閑話休題。

精神年齢を気にしない理由として、夕映は若干疲れた様子で、


「恋愛しても、精神年齢的に犯罪というか、R指定、CEROとかいろいろ考えちゃうじゃん?」


と話した。


「恋愛?する気あるのか」

「大ありだよ。いくら逆行したってさ、目的達成したら後は普通の人生じゃん?そりゃあ自分なりに幸せになりたいよ。そうなれるだけの暇があるし、逆行しないなら、誰と親しくなっても、努力してもそれが無駄になんてならないんだから」

「ふうん」


俺は異能差別とあいつぶん殴ることしか眼中になかったけど、そのあとも考えなきゃいけないのか。それもそうか、ゲームでも物語でもなく現実なんだから、目的達成しようと自分の物語が終わるわけではない、ずっと続いてくのだろう。

そんなことを考えて、ふと思って口に出す。


「夕映は何で繰り返したんだ?」

「あー、それねえ」


と夕映はソファにどっかり座り、髪をいじり、クッションで顔を隠していた。その間にも「あー」「んー」「なんて答えよっかなあ……」と独り言が絶えない。かなり深い話だったようだし、失言だったかもしれない。

どうすればいいかわからないが、しかし、こいつは俺の初めての親友だ。誠意ある対応はしたい。その最善策を考え、最善かどうかもわからないまま俺もソファに座り、何とはなしに口を開く。


「俺は何で逆行したのかさっぱりだ。だが、今では感謝もしている。魔術師として何となく生きていくより、逆行して初めて将来の夢ができた今のほうが、生き甲斐というか、前向きになって、頑張ろうって感じになるから」


そう話すと、夕映はクッションから顔を離し、


「そっ、か」

とはにかんだ。そして俺の太ももに頭をのせるように横になり、

「将来の夢って何」

と質問をしてきた。


「一発ぶん殴りたいやつがいる。そして、ぶん殴ったらそいつと一緒に異能差別を解消しようと思う」

と正直に答えると、


「大変そうだねえ。その時には私も暇だろうし、手伝うよ」

と笑った。


そのあと、暫く沈黙が続いた。

何秒、何分、何時間。永遠とも知れない時間の、しかし心地よい沈黙を破ったのは夕映だった。


「ねえ。今から13年後に世界が滅ぶって言ったら、どうする?」


突拍子もないことだった。俺は言葉の真意を深く考えず、自分ならどうするか、と考える。

が、あまり思考に時間を割くことはない。夕映との会話を続けるにも、将来の夢をかなえるにも、世界の滅亡なんて悲劇はいらないのだから。


「その元凶をぶっとばす。それだけだろ」

「信じて、くれるの?」


俺の返答に夕映が驚いたように声を発したが、俺の返答は変わらない。


「信じても疑っても結果は変わらないんだから、信じるほうがずっと楽だろ」

「でも逃げるとか思いつかないの?」

「いやあ、たかが世界滅亡の危機ごときで逃げるとかありえないね」

「たかがって、ごときって」

「世界滅亡の危機で将来の夢も今やるべきことも放り出して逃げたら、それこそ死んでるだろ。だから俺は生きる。で、異能者差別するやつも無駄に暗い顔して差別助長してるやつもぶっ飛ばす」


そこまで話して言葉を切ると、夕映はぽかんとしていたのがやがてくつくつと笑い出して、


「あはは、そんな解釈初めて聞く。……でも、ありがと。頑張る」

と言っていた。


「手伝うぞ?どうせ俺も、その世界滅亡の危機とやらに妨害されるとかいやだからな」

「うん、助かる。まずは私だけで頑張って、限界になったら相談するね」


そう答える夕映はうれしそうだ。


おそらく、さっきの問答こそが『なぜ逆行したか』という質問の答えなのだろう。

そして、まるで都市伝説のように話した上にすぐ協力するのを断ったということは、詳細を話す気も今からかかわらせる気もないってことだ。

でもそれなら、今から力をつけるだけだ。そして詳細を話せる時期まで待とう。関係の深い友人ができたためしなど『前回』含めてこいつだけ(『前回』は広く浅く付き合っていたから)だ。だが、友人っていうのはそういうものだと理解している。

俺は俺らしく丈凪怜を生きる。

持論、逆行しようがしまいが、それが大事なのは変わらない。


暫く夕映を膝枕していたが、話がそれすぎて何の話をしていたか忘れたことに気づいた。


ええ、なんだっけ。将来の夢の話をした記憶はあるが……ああ、夕映の将来の夢は聞いてない。


「夕映。俺が将来の夢を話したんだ、お前も教えろ」

「世界を救う英雄になりたい!でいいじゃん」

「それは目的でやるべきことだろ?」

「怜のもやるべきことでしょ」

「違うな。俺はぶん殴るほうがやるべきこと、差別解消がやりたいことだ」

「なんと。よりによってスケール大きい方がやりたいことなんだ」

「おうとも」


との応酬の末、「逆に言いづらいじゃん」と苦笑いを浮かべ、呟いた。


「好きな人と結婚したい。フツーの恋愛結婚ね」

「フツーだな」


そんな言葉が出た。


「スケール小さくてすみませんでした!はいこの話終わり、閉廷!恥ずかしいから言わせないでよ、もう」


とクッションでまた顔を隠すから、「話を最後まで聞け」とこちらも苦笑い。


「フツーだが、立派だな。恥ずかしがるものでもないだろ、哂った奴はぶん殴っていいレベル」

「……ぶん殴るの好きだね」

「じゃあマジカルキック」

「魔術不正使用で捕まるよ?」

「安心しろ、魔術付与せずに拳で蹴るんだ」

「それぶん殴ってるじゃん」

「失礼な。キックと言ってる分ちゃんと威力が違うぞ?……プラシーボ効果で」

「ダメじゃん!?」


とやり取りをし、たわいもない雑談が続くのだった。

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