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弱くなってニューゲーム  作者: 桜油
一章「主人公カード引いたけど、既に持ってる人が沢山いる話」
3/57

1-2「こんな結末は認めない」

一章二話目です。

戦闘描写クソザコナメクジですみません。

3話目と2話目を間違えかける機械弱者。

ただの少女であるはずの真白に、魔術も異能も使えないとはいえ体術の心得が多少あり、少なくとも同年代には負けないはずだった俺が、易々と生殺与奪の権を握られている。


今でこそ真白がナイフを寸止めしているが、反撃手段も回復手段も、助けを求める手段すら持ち合わせていない俺がこの状況を打開するのは不可能であり、真白の気分次第でいつでも俺の胴体と首が永遠の別れを告げるだろう。頸動脈を切られて生きていられるわけがないのだ。


……思えば、俺は最初に理解していたはずだった。

俺ともう一人は確実に逆行していること。

異能なら魔術では再現できない『逆行』『時間転移』ができることを。

……思えば、叔母は確かに俺に忠告していた。

俺が特別なのではなく、ほかにも特別がいて、俺がやっと同じ土俵に上がっただけであること。

あくまでも面白そうだから助けた、という言葉はかっこつけたとかではなく、本当に、自分以外どうでもいいからこそ、自分の利益になって面白そうという意味合いでしかないことを。

……思えば、俺は確かに違和感を抱いたはずだった。

真白という少女は、五歳児にもかかわらず、ずいぶん流ちょうに『好都合』と言っていたことに。


ヒントはたくさんあった。

ただ、俺が『俺と丈凪怜以外逆行やそれに類した行動をしていない』と勝手に判断していたから、『ほかに俺と同類がいる可能性』に結びつかなかっただけ。

まず、間違いなく、真白は『同類』だ。


……侮っていた。

侮っていた軽んじていた油断していた見くびっていた舐め腐っていた疎んじていた蔑んでいた過小評価していた!!

何が『不幸フラグを潰したようだ』だ。

ここは現実であってゲームじゃない。

俺は前回は確かに充喜暁だったかもしれないが、今は丈凪怜本人であり、丈凪怜はアバターで俺という人格が捜査しているような感覚などもってのほかだ。

経歴通りの人生をたどるなんて誰が決めた?俺か?神様とやらか?バタフライエフェクトもある、ほかの人間がAIのごとく前回と同じように動いてくれるわけがない、おこがましい考えはやめろ、『丈凪怜』。

『弱くなってニューゲーム』?ばかげている。幻想だ。生きていて、先など見えなくて、少しでも油断したら目の前の得体も知れない少女に殺されるかもしれなくて、そんな都合よく反撃手段なんか持ち合わせちゃあいなくて、完全に詰みになって、人生なんてあっけなく終わる。

結局無価値で、無意味で、無責任。

そんなこと、俺はとっくに知っていたはずだった。

いくら前回が、ほぼほぼすべてがうまくいく、致命的な取り返しのつかない失敗は一度しかないような人生イージーモードといえど、それだけはその失敗から学んでいたはずなのにそれを忘れていた結果、このざまか。


深く後悔する俺に、真白は

「期待はずれだなあ。失敗だったか」

とひどく興味が失せたように俺を鼻で笑う、嗤う、哂う、嘲笑う。

何が期待外れで何が失敗なのか、それは俺の知るところではない。彼女にとっては現状だけで結論付けられる、そんな企みでもあったのかもしれない。俺には無関係だが。

更に話は続く。

「私、失敗したならもう悠長にしていられないんだ。叔母さんは悲しむだろうけど、まあ、そういう約束だし仕方ないよね?せめて、首と胴体を分けたらどれだけ生きていられるのか、実験に付き合ってよ」

まもなく殺すという宣言を遠回しに聞きながら、しかし、俺に興味がもう失せたならなぜそんなに長々と話しているのか考える。


違和感を抱いたらすぐ考えろ、さっき思ったことだ。


真白は何と言った。無関係とか言わず考えろ。


俺があっさり真白に生殺与奪の権を握られているのが期待外れで、その状態こそ失敗した証拠。失敗したことが分かったなら悠長にしていられない、俺を殺すということは現時点でこの状態になる俺には用事がない、むしろ邪魔?なら早く殺せばいいはずだ、長々と話して情報を与えているのならつまりここからでも結果を覆せるということだ。

俺がここから真白に一矢報いることが条件か?何を?どうやって?

魔術は無理、異能の使い方などわからない、体術の心得は多少あるがそれは真白も同じだ。じゃあ異能は何だ?異能と少しの作戦で打開できるはずではないか?

走馬灯によぎるは『充喜暁』と『丈凪怜』の決死の戦い、弔い合戦。

あいつは俺の攻撃を何の予備動作もなくそらし、俺の攻撃を反射し、素早く移動し、ついには逆行して見せた。あいつに殺された魔術師の死骸はいつだって体の内側から爆発していた。

つまり、あいつの、つまりは今の俺の異能は『ベクトル』に干渉するもののはず。これを使えば確かに現状を打破できる。

しかし、使う方法。それだけがわからない。最後の一ピースが足りない。

考える時間も試す時間もない、既に俺の首にナイフの刃が入り込んでいる。


『お願い。私をいつか、助けてね』


―そして、最後の走馬灯が流れた。


「……真白」

「何?」


声を出した。声を出していない時間などたったの数分にも及ばないだろうに、声がひどく出しにくい。ああ、そうか。既に気管、声帯までナイフが到達しているからか。

でもいい、遅いなんてことない。まだ間に合う。

俺は死ぬ間際だろうと、何が起ころうとも、一度決めたことはやり通す。そのために今はみっともなく足掻く。

だからこんなところで死ねない。


「こんな結末は認めない」


瞬間、真白の目の前で爆発が発生し、真白が吹っ飛んで壁に背中から激突する。そしてナイフが俺の首から離れるように飛んでいく。

頸動脈が既に切れていたのか、首から血液が噴水のように出ていくが、そんなことはどうでもいい。気持ち次第で血液が噴き出すのなんか抑えられる……ほら、止まった。


「え、噓」


驚愕して呆然とする真白との距離を詰め、真白の腕を関節技も使用しながら捩じ上げる。


「い、痛い痛い痛い痛い!!!」


チェックメイト、といったのだが、声がかすれて、まともに聞き取れないだろう。回復できないかなと少考し、なんとなく思い付きで『回復魔術』を使用する。

効果があったようで、傷も痛みもなくなって、呼吸もしやすくなった。

なんだ。魔術、使えるじゃないか。

そして、痛覚のせいで声を聞き取る余裕のない真白のため、


「チェックメイト」


と、『伝達魔術』で脳内に伝えてやる。

やっと気づいたのか真白は、


「……は?なんで回復してるの、なんで魔術使えてるの?」


と混乱して、しかしすぐに、


「い、いや。でも問題ない。まだ詰みじゃない。負けを認めない。私だって魔術使えるからここからいくらでも打開できる」


とかみついてきたので、俺はとどめの一言を放った。


「問題。血液が逆流したら、人体はどうなるでしょう?」

「……降参」


大変よろしい。

ちなみに答えは、人体が内側から爆発する、だったりする。



腕を解放すると、真白は涙目で暫く呆然としていたが、やがてはっと我を取り戻すと、俺に詰め寄ってきた。


「怜が『循環』の異能者なのは知ってる。失敗とか期待外れとか言ったけど、異能を一回でも使えば見過ごそうって思ってた。だってその時点で成功、期待通りだよ」

「あれって『循環』っていうんだな」


それに、やっぱりあれはそういう意図があったのか、なんて納得する俺だが、真白はまくしたてるように話し続ける。


「流石にここまで来るのは骨が折れたからあまり無駄にしたくないけどさ、いざ殺しかけて失敗ってわかると、でも実は成功しててくれないかなあでもそんな待てないよってなるじゃん?」

「おう、そうだな」真白の目的と手段にもよるけど。

「結果、待って正解なんだけど、逆に追い詰められるのは想定外だったね。異能はまあわかってたけど。魔力ないはずなのに魔術平然と使ってるし。何あれ、実は魔力あったの?」

「ああ、魔力は全然ないぞ。七しかない」


ちなみに増えたとかもない。魔力操作は魔力量を増やすのにはうってつけのトレーニングであることは間違いないが、一朝一夕でどうにかなるものではないし、そも、あれは魔力量が多いほど効果が出るのであって、魔力量一桁じゃあ、人生かけても精々攻撃魔術一発使えるくらいにしか増えない。

真白もその事実はわかっていたのだろう、


「え、じゃあなんで」


と疑問符を浮かべていた。流石にこれに関してはわかると思うのだが……ああ、いや。思いついても、真白の中では『丈凪怜は魔術を嫌っている』というのが前提だから選択肢から排除するのだろうか。『この時期の丈凪怜に魔術の知識が備わっているはずがない』とも。

結局、俺も真白も似た者同士、同じ穴の貉なのかもしれない。


あれのトリックは実に簡単だ。『循環』で体内の魔力を常に循環させ、実質永久機関を作り上げていた。

もっと具体的に言えば、ATPからADPと魔力が生まれる化学変化と、それを『循環』で逆行させた、ADPと魔力からATPを作り出す化学変化を同時に体内で引き起こした。もう少し理論的に詰める必要はあるが、咄嗟にできるのはこの永久機関もどきだった。


「『循環』を使えばたわいない」


と答えると、


「ああ!なるほど。そりゃそうか、私も油断してたんだねえ。いけないいけない、私も甘かったや」


と苦笑いを浮かべていた。

そのうえで、


「うん、見事だった。魔術にその異能、そして充分な知識、想像力。鬼に金棒じゃん。戦闘意欲も、あんな脅迫できるなら十分でしょ」


と満足げに話していた。殺されかけたのにこんなに笑ってるとか、戦闘狂か何かではないのか。


というか。


「初手で俺を殺しにかかるほど戦闘意欲マシマシなお前に言われたくないな。俺は、あの時は無我夢中だっただけで、普段からあんな感じにはなってない」


むしろあの時が異常だったんだよ、とか、失血してハイになっててもあれはない、とかいろいろ反論が浮かぶくらい、俺らしくはないやり方だと思った。

あの時だけ別人というか悪魔が憑依してましたと言われたほうがまだ納得できる。

そう自分の行動を顧みれば、真白は


「まあ、だよねえ。首が半分切れてても動くとかこいつやべえって思ったもん」


とけたけた笑った。


「でもさ?いったじゃん、私は異能使った時点で殺す気はないの。ぶっちゃけ、吹っ飛ばされた時点で『あ、これ成功してるわ』って思って攻撃やめようと思ってた」

「ダウト。俺一瞬見えてたからね、受け身とりながら笑ってんの。なんならチェックメイトして降参までに時間結構あったし、戦闘続行の意思大ありだったんじゃねえの」


そう返せば彼女は舌を出して、


「ありゃ、ばれた」


あっさり認める。そして、彼女は自然にリビングに向かって、冷蔵庫をあさりながら話し続けた。


「そりゃあまあ、うん。気づいてるだろうけど、私は君の同類。異能持ってるし、多分君より修羅場はくぐってる」

「へえ」

「打開策がないわけじゃなかった。試してもよかった。けどさ、その先って殺し合いじゃん?私がしたいのは殺し合いじゃなくて実力試しなのよね。折角実力試しもいい結果になってるのに、君にちょっかいかけて引き際ミスったから殺し合い、取り返しつかないくらい溝できましたー、ってのもいやだ」

「まあ、たしかに和解できるかもしれないやつに変なプライドのせいで敵対されるのって面倒だよな」

「そうそう。必勝法もあるけどさ、それは本当に万が一の時に残しておきたいんだ。一回しか使えないし、何回も使えたとして、人に見せびらかすもんじゃない。人に手の内知られたくない。私たちの目標達成を狙ううえでのアドバンテージって、情報が一番大きいから、それをつぶすのってもったいないじゃん?」

だから、君にも異能の内容を明かせない。


そう締めくくり、真白はいつの間にか用意していたお茶漬けを食べ始めた。

「俺の手の内は知られ放題なんだけど」

「大丈夫、私は君の味方だ」

「どの口ほざくんだ、利用価値がなければ殺すつもりだったろ」

「ははは。それはそれ、これはこれ」

「さいですか」


真白はげんなりしていた俺にかまわずお茶漬けをおいしそうに食べる。俺もいい加減お腹が空いた。もうブランチになってしまうが、卵かけご飯でも用意して食べることにした。

卵を取り出し、ご飯を次いで卵をかけて混ぜて、としていると、お茶漬けを食べ終えたらしい真白が口を開いた。


「あ、そうそう。君は知らないみたいだから教えるけど、異能者には『異能リビドー』ってやつがあるんだ」


「は?」初耳だが。


「異能リビドーってなんだよ」

「デメリットというか、副作用的な奴。異能を制御できてれば毎回出るわけじゃないんだけど、やりすぎると精神的にいかれるから、異能にはあまり頼らないようにね」

「……さっきの戦闘意欲は、」

「うん、十中八九それだよ」


うげえ。異能で魔術も使えて結局強くなってるのかと思えば、そうではないらしい。毎回発動しないにしても、使いすぎないように気を付けよう。


「ほかには何があるんだ」

「私が知ってる限りだとねえ。殺人癖、自傷癖、感覚喪失、食人、パラノイア、昏迷、神経過敏かな?ああ、あと君のは初めて見たケース。感情の噴出だと予想するね」

「俺は殺人癖とは違うのか」

「うん。殺人癖なら、今頃私が破裂してるよ。異能リビドーも複数人が同じなことはなくて、別の人に心当たりあるから安心して降伏してた節もある」

「……もしかしなくても」

「うん、殺人癖が異能リビドーの人は、君は知ってるんじゃない?あと、感覚喪失、パラノイア、神経過敏も心当たりはあるはず」

「……ああ、たしかに」


考えずともわかる、推薦任務で俺が殺した連中だろう。なぜ前回の丈凪怜と俺で内容が違うのかわからないし、そもそも真白が俺の事情に詳しい理由もつかめていないが。

『同類』、『前回』を知っているにしては知りすぎていないだろうか。実は前々からこの世界がループしてて『前々回』も知ってるとか?まさかね。


「俺も使いすぎたらああなるのか」

「いやあ、そこまでおびえなくていいんじゃない」

「どっちだよ」

さっき頼るなって言ってただろ。


真白を思わずにらんだが、意に介さず、

「君が何想像してるか知らないけど、制御できてないから悲惨な結末になっただけだと思う。君はそのへん制御できてるし、問題ないんじゃないかな?現に私もそんなやばくないでしょ」

「頭いかれてるけどな」

「ひどいなあ全く」


と眉をひそめて不満げな真白は、手を差し伸べた。


「新たな嫌がらせか」

「違うよ。まあ、いろいろ衝撃的な出会いだけどさ」

「ほぼお前のせいだけどな」

「茶化さないの」

「へいへい」


としょうもない応酬の後、真白は笑った。


「これからよろしく、怜」


正直、俺にとっての真白の第一印象は「胡散臭い」である。

秘密だらけで、得体が知れなくて、そのくせ俺のことは何でも知っていて、いつ攻撃してくるかしれないし、怪しさ大爆発なこの少女。

ならば、それでも、この子と深くかかわってみたい、できれば仲良くなりたい、と思う俺は変人なのかもしれない。

でも、それでいい。どうせ俺もこいつも、逆行している時点ですでに、普通からはずれてしまっているのだ。異常は異常どうし、現実を受け入れて異常なまま、仲よくすればそれでいいのではないだろうか。

だから、


「おう。こちらこそ」


差し伸べられた手を俺が握り返すと、真白はくつくつ哂って、


「友人になったよしみで、一つだけなんでも答えてあげる」


と話す。やっぱり意地が悪い。友人になったところで全部教える気はないみたいだ。


「一つだけってのがみそなんだな」

「当然。バタフライエフェクトは常に気にする、これ逆行者の暗黙の了解ね」

「そんなの知るか。気にしてたら俺の目的果たせないだろ」

「うん、そんなルール、君がぶっ壊せばいいと思うよ」


ん?真白はバタフライエフェクトを気にするのをあまり良しとしていないのか。気が合いそうだ。

しかし何を聞こう。深く突っこんでも、逆に違う質問をしたくなるくらい意味深な回答をされそうだ。それにこんな形ではなく自力でそれを知れるくらいに関係性を深めたい。じゃないと負けた気になって癪だ。

ここはひとつ、どうでもいいことに費やすことにする。

 

「ところで真白。最初と全然キャラ違くない?」

「私の素を出せてうれしい限りだよ」

「そうか」

 

今の饒舌なのが、『真白夕映』の素、自然体らしかった。

俺の知的好奇心は、若干、満たされた。

そういや登場人物のフリガナしてないですね。

とりあえず一章に頻繁に出る名前だけ。

丈凪怜(じょうなぎれん)

主人公。魔術師が逆行憑依してる。

真白夕映(ましろゆえ)

ヒロイン。何でも知ってそう。

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