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弱くなってニューゲーム  作者: 桜油
二章「初手からやべー組織の幹部が挑んでくるハードモードな話」
12/57

2-5「あっかんべーっだっ!」

二章五話目です。

これだけはスイスイ書けました。

戦闘描写も設定に関わる話も伏線もないからでしょうか?

汐宮に何があって殺人鬼と化してしまったのかは、一応予想がつく。

 

おおよそ、俺がさっきの男と交戦している間に周りを囲んでいた『軍』の兵士と接敵し、戦闘があった結果こうなったのだろう。

四歳で天涯孤独になって今まで一人で生きてきたなら、それ相応に自衛能力はあったであろうが、今の汐宮は制御ができていない。結果、自衛手段として異能を使用したはいいものの『殺人癖』まで出てしまったのだろう。

 

……そして、さっきの兵士の発言からかんがみるに、汐宮を『覚醒』させて『軍』にスカウトするのではないか?汐宮の性格を考えれば、その流れにならのっかる可能性が高い。

 

説得しないと、汐宮は『軍』に行ってしまう。

 

「汐宮、正気に戻れ!そして俺の話を聞け!」

「あはははははっははははははははははははははっははははははははははははははははははははははっはははははははははははははははは」

 

だめだ聞いてない。恍惚とした表情で周りの軍用ヘリや戦車やら飛行兵やら全部をはさみで一薙ぎしていく。そして相手の返り血を浴びてさらに興奮し、また一薙ぎする。

軍が全滅しても、彼女は止まらない。今まで理性が若干働いて避けていた俺を見て、ニチャア、と嗤い、突進してくる。

 

「クッソ、やっぱりこうなるか!」

 

極力彼女を傷つけず、俺も傷つかず、攻撃を『循環』を駆使していなす。『身体強化』の付与も限界ぎりぎりで、筋肉が壊れるレベルまで。そうでもしないと、何の異能の効果か女子中学生とは思えない力で繰り出される攻撃を流せなかった。

 

ここまでやって、軍用体術を用いても、流すのが精いっぱい。

埒が明かない、と血が出ないように棒で殴って気絶させる方針に切り替えたが、汐宮はそんなのお構いなしに今度ははさみから光線を出す。

これは避けられない、が、かといって直撃すれば確実に死ぬ。

防壁魔術を幾重に展開し、現れた防壁が光線を受け止めきれず割れていく。その隙に相殺できるよう、最大の指向性攻撃魔術を起動する。

 

瞬間、彼女が哂った。

 

悪寒がして、本能からくる直感で魔術式をいじって魔術の威力を最低に変更、方向も俺の後ろの壁に変更し、大きく体勢を崩した。その一秒後、俺の頭の上に雷が走り、後ろの壁が開いた。そこから飛びのいて光線も回避。

 

……ここまでなったらわかる。汐宮の異能は『書換』。過程や結果に干渉して物事の本質を変更させるものだ。さっきは魔術式をやられた。略式が存在しないじゅつっ式で相殺を試みたのがよくなかったか。

そう分析していると、汐宮はいつに間にか目と鼻の先まで俺と距離を詰めていて、俺を押し倒してまたがり、はさみを思いきり振り下ろそうとする。魔術剣をとっさに作り、受け止めた。

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 

汐宮の顔にハイライトも正気の時の優しい面影も感じない。

話を聞いてくれるかなんてわからない。でも、もう、説得するしかない。

 

俺は言葉を紡ぐ。

 

「汐宮、俺は死なない」

 

伝える。

 

「お前を絶対助ける」

 

話す。

 

「俺が助ける」

 

言う。

 

「お前は違うんだ」

 

叫ぶ。

 

「お前は殺人鬼じゃない、理由なく人を殺したりなんかしない!」

 

頬に、雫が落ちた。

見れば、汐宮が、ハイライトの戻った、正気の顔で、涙を流していた。

 

「……汐宮?」

「……ありがとう、ごめんなさい」

 

彼女ははさみをしまって、すくっと立ち上がった。

俺も立ち上がると、汐宮は、なんとも不自然に笑っていた。

 

「……ずいぶん暴れちゃいました」

「ああ、だがそれは正当防衛で」

「貴方に攻撃して、殺しかけてもですか」

「……」

 

違う、とは言わなかった。それを否定したら、汐宮はそれはそれで壊れると思ったから。

汐宮は嘲笑った。

 

「あはは。世界一無害なごみにせめてなりたかったんですけど、駄目でした。こんなんじゃ、人間失格って言われても仕方ないです」

「異能者は人間だ。特別な力を使う魔術師は人間だろ、同じことじゃないか」

「貴方は優しいからそう思うでしょうけど、世間はそんな絵空事に耳なんか傾けません」

「……」

「まあ。うん。今までありがとうございました。普通の生活を少しでも夢見ることができて、幸せでした」

 

そう言って汐宮は頭を下げる。違う、これは最善策じゃない。きっと本人もわかっていってる。そうでなきゃ、汐宮の足元に雫が、涙が落ちてくるわけがない。

 

「せめて私、世界一無害でかつ傍若無人なごみになれるよう、頑張りますから。……さよなら、お疲れさまでした。私のことを大嫌いでもいいですから、どうか、忘れないで、いつかきっと、私を助けてくださいね」

 

そう言って、俺の横を通り過ぎて行った。手をとっさにつかもうとしたが、彼女はまた『異能』を使ったのか、空中へと駆け出していく。

……記憶を書き換える気かも知れない。つまりタイムリミットは今日……いや、汐宮が『軍』と合流するまでか。

 

俺は慌てて魔術や異能を駆使して追いかけるが、なかなか追いつけない。というのも、道中の『軍』の兵士が邪魔しにかかるのだ。恐らく最終段階のために動員されたんだろう。よほど重要な作戦だったのか、戦うのは幹部ばかりである。

 

いくら倒せるといっても時間はかかる。範囲技で動きを抑制はしているが、きりがない。それでも対応している時間が惜しいほど兵士が多かった。

もう追いつけないんだろうか、と半ばあきらめていた時。

 

「深夜にドンパチしてるねえ。私も混ぜてくんない?」

 

二週間ぶりの聞きなれた声が夜空に響き、軍兵が一気に地に伏せ、空中にいた軍兵も墜落した。

月の光が綺麗に映えて、その特徴的な青の髪と瞳が輝く。

 

「……夕映」

「どうも、久しぶり!」

 

と彼女は笑う。とても綺麗に哂う。

俺の隣に着地して、

 

「状況は?」

 

と悠長に聞いてくるから、

 

「汐宮に早く追いついて説得しないと記憶も書き換えられてがめおべら。軍が汐宮狙ってる。これでおけ?」

 

と端的に説明をする。無論走りながらであり、そうしている間にも汐宮の姿が近づく。どうやら廃墟ビルに入っていったようで、階段を上がるのも惜しいと飛行魔術を行使する。

 

「なるほどね。ちなみに話す内容決めてんの?」

「ノリだ」

「あはは!臨機応変ってか!」

 

と一頻り夕映が笑っていると屋上。汐宮が屋上で何かを待っている。やはり敵は多く、俺たちに対して魔術が飛び交ってくる。

夕映もへらへらしていたのを引き締め、俺に言う。

 

「……もって十分。それ以上は魔力がきついかな。その間になんとかしてね」

「わかった」

 

そして俺が屋上に着地し、周囲にいた大勢の兵が離れていくのが分かった。

汐宮は俺が来たことに驚いている。

 

さて、と。どう説得しようか。

 

俺は人の気持ちに鋭いとか察しがいいわけじゃない。臨機応変にとは思ったが、それで地雷を踏むこともあるだろう。

……ああ、いろいろ考えて飾り立てた思いなんか、二パーセントも伝わらないんだから思ったまま言おうか。

 

俺は汐宮に体を向け、しかと見た。



「なあ、汐宮」

「……来たんですね。危ないから、逃げたほうがいいですよ」

「危ないとか言ってんじゃねえよ。今更だろ」

「……」

「今から『軍』に行くつもりか?」

「……」

「俺の保護者の差し金か?」

「……」

「……少しくらい、話す時間をくれ。それで、お前は判断すればいい」

 

俺がそういうと、汐宮はやっと俺に振り返った。

 

「……はい、深月命さんの話に乗りました」

「……そうか」

 

俺のぶん殴る対象がもう一人増えた瞬間だった。

俺はそれはおくびにも出さず、続けた。

 

「普通の生活に憧れてたんじゃないのかよ」

「私は、もうたくさんなんです。疲れました。人に見てもらえない、認識されない、いないのが当たり前になって、いつかは端に座ることすらできなくなります」

「じゃあ、図書委員会はどうするんだ」

「あんなの、真白さんに無理やり押し付けられただけです」

「ああ、知ってる。そういうことだろうって薄々思ってた」

「……」

 

そんなのはわかりきっていた。全クラス、委員会決めの時間は同じだ。図書委員会に絶対にするつもりで、夕映はあんなことを言ったんだろう。

 

「活字が苦手な奴が、図書委員会なんて活字に囲まれてるような仕事に自ら行くわけないだろ」

「覚えてて、くれたんですね」

 

俺の言葉に汐宮がひどく嬉しそうにする。そんなに寂しい人生だったのだろうか。

 

「そりゃ、普通に友人だからだろ」

 

そう、言外に、普通の友人をどうするのか尋ねる。

 

「……それ、もうやめてくださいよ」

 

と汐宮はまた涙を流す。

 

「何でだ?変わらんだろ」

「変わりますよ!だって、そんなの、私の独りよがりな、自分勝手な欲望だったんですから!」

「……」

「透明人間ですよ?世迷言で盛り上がってもはたから見ればひとりごとなんです!何か頑張っても誰にもほめてもらえない、誰にも感謝されない!そのくせ裏では聞きたくもない陰口ばっかり」

「そんなことはないだろ。それに、透明人間を続けてたんだったら、そんな覚悟」

「できてるわけないじゃないですか!」

 

俺の言葉を汐宮はさえぎった。ヘリの音が近づいていた。

 

「私だって制御したかった!できてたはずだった!……でも、感覚でわかるんです。今それを解いたら、私は、殺人鬼になっちゃう。なんでかわからない、けど確実にそうなって、人に迷惑をかけてしまいます。……だから、透明人間を続ける以外にどうすればよかったの……?」

「汐宮……」

「深月さんに言われた。嘘をついてたらいつかそれが本当になるって。わかってるよそんなの。制御さぼってたら制御が本当にできなくなるって。でも、人を殺す覚悟なんてないし、透明人間を続ける覚悟だってない。結局命惜しさに暴走して君まで殺しかけたね」

 

そういうと、汐宮は俯いて、嘲笑った。

 

「そう。これがほんとの私。自分勝手、殺す覚悟も殺される覚悟も、そうならないために今を貫く覚悟すらない、ただの化け物。そのくせ承認欲求だけは強い、そんな人類の敵」

「……」

「私にはこの、死ぬほど大嫌いな力しかなかった。一流になれても超一流になんてなれない。どんなに練習したって変わらなかった。でもね?この力とうまく付き合ってさえいれば、ほかの誰にもできないことをできるから、スラムとか、ホームレスの人には必要とされた。楽しかったよ。……けど、ずっと怖かった。いつ人を殺すのか、いつまで私が私でいられるのか。こんなのばれたら、きっと軽蔑する。まるで黒い羊が無理やり白い毛をまとって白い羊に紛れ込むようなものだったから」

「……」

「恥の多い生涯だった。ああ、普通の生活をっていうのは嘘じゃないんだけど。本当はスラムにいられなくなったからなの。何もしてなくても人を殺したくて仕方なくて、普通の生活をしてみればちょっとは変わるのかなって、勝手に期待してた。……力の制御もできないような人が、普通の生活を望んじゃいけなかったんだ」

「……そんなことは」

「本当は、すごくしょうもない人なの、私。今までの物わかりのいい普通の汐宮宥は噓。……がっかりしたよね。でもそれも今日まで。明日にはきっと君も私のことを忘れてる。それでいいし、それがいい。殺人癖をこじらせた人が学校にいたら落ち着かないからね」

 

そういって乾いた笑いを浮かべる汐宮は、しかし、やはり涙を流していた。

俺は、ゆっくりと息を吸い込み、なんとなく思い浮かんだ言葉から説得を始めた。

 

「なあ、汐宮。箱の中に猫を閉じ込めたとしよう」

「……?」

「箱の中の猫が生きているか死んでいるか確かめても、元々の確率は変化しない。つまり、お前がどうしようもない人間だと言っても、それが本当かどうかは50パーセントのまま。そういう解釈はできないか?」

「……もしかして、それってシュレディンガーのネコ?そんな解釈ってありなの?」

「……俺にとっては汐宮宥がどんな人間でもいいんだ。だって俺の友人、仲間であることは変わりないし、汐宮はそういう人間にあこがれてたんだろ?そうなりたくて努力したんだろ?なら、さっきのは猫が息苦しくて、生きづらくて、少し開けてみただけだって。すぐ閉めればもう誰にも分らない」

「……本当、丈凪くんって変な人だね」

「おう」

 

しばらく沈黙が続く。俺はさらに続けた。

 

「俺には夢があるんだ。異能差別の撲滅、ついでに一般人差別もなくしたい」

「……それは、」

「どうせ悪友の頼みで世界の運命とやらを改変する手伝いも任されてる。どっちにしろ人手が足りない。猫の手でも借りたい」

「……つまり、」

「汐宮。お前の力を借りたいんだ」

 

そう言って、手を差し伸べる。

汐宮はその手を見て、手を差し出そうとしてひっこめる。

 

「……私、殺人鬼だよ?」

「俺が止めればいい。俺の目が黒いうちはお前に意味もなく人殺しなんかさせない」

「透明になるかもよ?」

「いっただろ、お前がどうなっても見つけるって。アレは本気だ」

「独り善がりな、承認欲求強めのどうしようもない人だよ?」

「そういうところも含めて汐宮だ」

 

そこまで言うと、汐宮は最後に、呟いた。

 

「……いつか、きっと、私を助けてくれるの?」

「もちろん。俺にできることならとことん力になってやる。いつでもな」

 

だから、俺は自信ありげに答えた。汐宮は、俺の言葉に、今まで見たこともないような満面の笑みで、俺の手を取った。

 

「……よろしくお願いいたします」

 

瞬間、俺の『浮遊魔術』でともに屋上を離れた。

ヘリが屋上の真上に来ていたが、汐宮がつないでいないほうの手で鋏を取り出して大きくし、投擲する。俺がそれを『循環』でヘリに刺さるよう調整する。ヘリが爆発した。中の人が無事なようにしておいたので、これで意図は伝わるだろう。

 

それを見ていたのか、近くに飛んできた夕映がゲラゲラ笑って「あっかんべーっだっ!」と叫んでいて、汐宮は「真白さん、いたの!?」と顔を赤らめ、俺がそれに「ああ、俺の悪友って夕映のことだから」と今更紹介して、ととても賑やかな空中遊泳。まだ日をまたいで間もないが、月も星もきれいだ。

 

「ねえ!」

 

夕映が俺に声をかける。

 

「どうした?」

「異能差別の撲滅だったら、秘密結社立ち上げれば?ついでに運命を変える組織ってことで」

「なんだよ、そんなガキみたいなこと言って。……でも、いいかもな」

「でしょー?」

 

とけたけた笑う夕映。夕映と一緒に見ると、やはり月がよりきれいに見える。髪が付き光に照らされてよく映えるからだろうか?

汐宮は、「月も星もきれいだから、それにちなんだ名前にしましょう」と乗り気だ。

 

「ええ……っと、じゃあホワイトムーン?月が白いし」

「やめてよそれ、まんま私の名前じゃん。ユエってどこの国の言葉か忘れたけど、月って意味なんだから」

「そうなのか」

 

だからこんなにも月が夕映に似合うのか。

 

「じゃあ……」

「どうせならやり直しみたいな意味合いも入れようよ。私らってそうじゃん」

「あー、なるほど」

「?私はともかく二人とも?」

「それは明日にでもゆっくり教えてやるよ」

「そっか……うん、そうですね、仲間ですから」

 

と汐宮が納得したところで、思いついた。

 

「『John』でどうだ。JUSTICE OF HATED NOTABLY。明白に嫌われた正義って意味だ。JUSTICE OF HATED NEVER……決して嫌われることの無い正義になれるようにって意味合いもあるけど」

ジョン。『前回』の丈凪怜のあだ名だ。夕映は知ってるはずだし、汐宮にはこれから説明するから。

「はいそれ決定ー。良かったね私たち。リーダーがまともなネーミングセンスしてて」

「そ、そうですね?」

「……うん、そういやなんで俺だけ考えて立案してたんだ」

「さあてね。ではお先に失礼!」

「あ、夕映!待てやコラ!」

「丈凪くん、いそがないでぇ!」

 

かくして俺たちはたわいもない話を挟みつつ、今日を生きていく。

それが俺達はここにいる証明になるのだから。

今週はここで終わりです。

来週には幕間②と三章をうpできるかと思います。


六章まではこのペースで問題ないんですけど、そこまでいくとそろそろ職業訓練が始まるので、ちょっとペースが落ちるかなぁと。


その時はまた詳細を活動報告で出しますね。


※秘密結社の名称を変更しました。

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