プロローグ
はじめまして、人生初投稿です。よろしくお願いします。
初めて私の作品を読んで、この後も読み続けてくださる方は活動報告(2021/4/12に挙げたもの)をご確認お願いします。
【悲報】気づいたら幼児になっていた件について。
パソコンが目の前にあれば、釣りだと数秒も要さず判断されそうなタイトルでスレ立てをやっていただろうが、残念ながらこのご家庭は五歳児(推定)にはパソコンを持たせない主義であるらしい。
電車のおもちゃやプラモデルなどがたくさんあるものの、ランドセルがないため小学校にすら通っていないと思われるこの部屋の持ち主はそれをどう思っているかはわからないが、なにはともあれ、ほかの部屋はともかくこの部屋にはパソコンがない。無論端末もない。
そも、高校生が生活する空間とも思えないほど幼稚な趣味嗜好であるし、なにより、自分の今の視界が身長170㎝相当のものではなく、五歳児の平均身長と思しき110㎝相当なのが解せない。
高校生の部屋にひらがなとかを必死に練習したようなノートがあって中身を見れば、無駄に字が大きく、そのひらがなまでも一部鏡文字になるなどということが果たして全国にどれだけあるというのか。
つまり、高校生であったはずの自分は五歳児だった。
某嵐を呼ぶ幼稚園生のごとくサザエさん時空が展開されていたことに自分がついさっきまで気づいていなかっただけかもしれない。
部屋に置かれていた時計を見れば、ご丁寧に西暦すら十三年ほど前に巻き戻っている。
……そんな現実逃避はさておいて。
自分の今置かれている状況を整理するついでに、記憶なども確認しようかと思う。
はい、まず俺のプロフィールとスペック。これは簡単だ。
充喜暁。所属は東京都立伊灯高等学校魔術科。三年生。世界ランク一位の魔術組織「軍」の推薦任務、まあ推薦入試を受けている最中。内容が内容だけに倫理観や精神的問題もあったけど、ひいひい言いながらなんとか最終段階にこぎつけ、それももうすぐ終わるところだった。家庭は円満、人間関係良好、ついでに経済的にも豊か。中肉中背、茶髪に青色の瞳。中性的な顔にいくら筋トレしてもなかなか筋肉のつかないからだ。
ハイ次、魔術や世界情勢の知識。魔術は体内に宿る魔力をエネルギー源とした、物理的法則では説明できない現象を、ある法則、すなわち魔術式で干渉し発生させる技術のこと。魔術師が全人口の八割を超え、魔術師飽和社会と呼ばれていたが、魔力が先天的に少ないために魔術を使えない「一般人や魔術師の落ちこぼれは人生の負け組とばかりに冷遇され、魔力の有無にかかわらず。魔術関係なく特別な事象を引き起こす「異能者」に至っては差別対象。見つかれば最後、魔女狩りに合うレベルで嫌悪されている。まあそれだけ危険な異能が多いってことだけども。
そういや、推薦任務の内容も、差別を苦にして魔術師を駆逐しようと考えてる奴とその仲間…もとい、部下だっけ?仲間意識がみじんもなさそうだったし。
ここまですらすらいえるなら記憶は問題なしである。
だから現状整理に移る。
趣味はサブカル方面極振りなので、最初に浮かぶとすれば異世界転生というテンプレだが、窓から外を見る限り、俺の知っている世界と大した差異はなさそうだ。テレビだけでもあればニュースで確信を得られるのだが、テレビすらない。五歳児となれば普通、魔術の教本、初級編の一冊くらいは親に買ってもらっているはずだが、それもないとなると、魔力がないかネグレクトを受けているかの二択かもしれない。もしくは経済的余裕がないと見たが、一軒家に住めているあたり、それはないのでは?と思いたいが。
視界に入る範囲で探れるのはこれくらいか。そう思いつつ部屋を出れば、自分の思っている実家と間取りは全く違う。
多少迷いつつ、二階建てだったようで階段を見つけると、一階にあるはずのテレビを見たくてたたたっと駆け下りた。
そのままの勢いで目の前にあった扉を開くと、確かにそこはリビングで、テレビもそこにあったのだが、俺の足はそこから全く踏み出せなかったのだ。
というのも、両親と思しき夫婦の写真が飾られた仏壇がそこにあり、その前で多数の大人が言い争っていた。
曰く、だれがあの落ちこぼれを拾うのか。
曰く、孤児院に預けるとかわいそう。
曰く、遺産はどうするのか。
なんともまあ、ドラマによくありそうな展開だ。
俺はドアをそっ閉じした。
そして洗面所に駆け込んだ。
……黒髪に赤の混じった黒色の瞳、五歳児らしく幼さ、あどけなさの残る顔立ち。若干あざがちらと見える肌。こんな外見だったことは一瞬もない。虐待を受けたためしもないし、髪を染めたり目にカラコンを入れるような趣味など持ち合わせていない。家族なんか死んでないはずで、このころには魔術の教本なんか読み漁っていたから本棚にないなんてありえない。まるで夏休みのない八月、クリスマスがない年末のように違和感を抱かされるこの状況に、ついに俺は結論を出すに至った。
まあ、そんなわけで、はい。
俺、元、充喜暁は別人の幼少期に逆行憑依しました。
めでたしめでたし。敬具。
―Fin
いや、終わらないんだけども。
まあ、うん。自分の部屋じゃない時点でそうじゃないかなあ、とは思ってたよ?でもさ、別人って認めた上に落ちこぼれって言われてたのを思うと、魔力ないかもって、魔術師の中でも魔術が空気より大事ってレベルで好きな俺には致命傷だったりする。
ましてや、魔術師として加入出来たら出世街道まっしぐら、将来安泰とまで言えるエリートの集団「軍」にもう少しで加入できてたのに、ぜんぶおじゃんでやり直そうにも魔術師として再起するのもきついですって、これなかなかの拷問なんですが。
「はああああああああああ……」
思わずため息が出た。
魔力なし、両親死亡、ぱっと見ろくな親戚いないって人生ハードモードすぎやしないのか。
そうげんなりしつつ、そもそも本物の俺がどうなってるとか、そもそもこいつの名前ってなんだよって鏡をにらんで、結局自分の部屋に戻る。子供がいてもお構いなく金にしか興味なさそうな大人の話は、どうせ長引くだろうから放置。
棚をあされば、あっさり通っていた保育園の名札が発掘できた。
丈凪怜。「ジョウナギレン」とフリガナされている。
……そういや、軍の推薦任務って、こいつ率いる裏の組織を壊滅させることではなかったか。
身の丈ほどある大きい鋏を振り回して魔術師を駆逐する殺人鬼、汐宮宥。
何でも破壊し尽くす、自我があるかどうかも怪しい怪物、一条有希。
すべてを見通しているかのように人を不幸に追い詰める精神クラッシャー、本郷拝祢。
そしてその三人をまとめていたのが、丈凪怜。
丈凪怜以外は処分した記憶がある。情報戦を挑まれたくないから本郷を最初に潰し、次になかったことにされないよう一条を潰した。本郷は下衆だったから、比較的、正当化できていた。一条は、怪物でしかなかったが、元の経歴を知ってしまうと同情的な部分も出てしまって、殺した後しばらく肉は食えなかった。でも任務には期限があり、諦めたら二人の命が無駄になると思うと手を止めるわけにもいかず、二度とこんな異能差別の被害者を出してたまるかと決意を新たにした矢先、汐宮は最期に俺におとなしく殺されることを願い、リーダーを裁くという約束をした。
そう、俺はそそのかした丈凪怜をしっかり裁き、軍では二度と異能差別で悲劇が起こらないよう活動する心づもりでいたのだ。
で、丈凪怜といざ戦い、やっと崖際に追い詰め―
『ああ。そうさ、わかるはずないよ。
僕が君のように、人を殺さなくても生きていける温かい環境にいたためしがない。僕はいつだって、君のような人ではなかった、英雄でもなかった、恥の多い生涯を送った人間だったから。
だから同じ言葉を返そうか。君に僕のことなどわかるものか。
思い返すほど誰かに愛されたことも、寄り添っていいほど心を許しあえたことも、分かり合えるほど言葉を話せたこともない僕のことなど、
誰もに愛され、寄り添えるほど心を許せる相手なんかいくらでもいて、分かり合えるほど言葉を重ねる機会に恵まれていた君にわかるはずがない。
それとも、君にはそれすらわかるのかな?
仮に分かったとして、……それでも、僕のことを許してくれるなよ』
と丈凪怜が俺の手をとって崖に引きずり下ろし、白く光って、……気づいたら幼児←今ここ。
うん。丈凪怜が犯人だな。
何をしたのかよくわからないが、異能差別を受けていたのならおそらくこの体も異能者なのだろう。異能差別を受け続けて魔術師絶対殺すマンだった丈凪怜の体だから。充喜暁だった頃……ええい長い、前回でいい、前回に戦っているから、内容の予想もできる。使い方がわからないが、それはおいおいどうにかなるだろう。
つまり、丈凪怜は
・魔力ほぼ皆無(推定。さっきから魔力操作を試みているが全く手ごたえがないし、親戚の役立たず発言も相まって)
・両親死亡
・ろくな親戚不在
・異能者であり、これから熱い差別を受けるの内定(前回の本人談)←NEW!!
という状態である。人生ハードモードどころじゃない、人生ルナティックモードだ。
で、丈凪怜は前回の俺に逆行憑依している可能性が高い、つまり
・魔力に満ち溢れている
・円満な家庭
・親戚も優しい、友人沢山
・異能差別は縁がない
と、なんとも人生イージーモード。魔術師が嫌いなのに魔術を使いたがるかは知らないし、人間関係は本人の匙加減にもよるのだが、匙加減関係なく冷遇ほぼ間違いなしなこちらよりははるかにましといえる。
…………………………………。
ああああああああああああああんんんんんんまあああああああああああありいいいいだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
……………………ふう。落ち着いた。
さしあたっての目標はおかげで見えてきた。
とりまあいつを一発ぶん殴る。
シンプルイズベストで大変結構である。
……あ、前回の汐宮との約束も兼ねてるから。
決して忘れていたわけではない、いいね?
目標も定まったところで、その目標の達成に必要なものをそろえる必要がある。
あいつをぶん殴るなら、戦う手段は必須だ。自営の手段も考慮して急ぐべきだろう。
異能の使い方を知らないし、仲間ができるかも怪しい。俺の立場はかなり危ういと見た。異能差別をどうにか解消しないと、あいつをぶん殴った後も苦労が絶えない。
それを考えると事情を知っている協力者が欲しいが、異能者への冷遇がひどいのに贅沢は言えない。事情を知らない協力者でもいい。幸い、三人ほどあてならあるから、その三人をどうまともにしていくかの問題だ。俺のかかわり方次第で一条、汐宮、本郷の未来も決まると思っていい。
まとまった金は欲しい。親戚の話の内容をぼんやりとしか聞けていなかったが、遺産に借金がある風ではなかった。最悪、異能を使って金儲けしてもいいが、あまり後ろめたいことはしたくないのが本音だ。
拠点はこの家でいいだろう。理解ある親戚はいなさそうなので、遺産を自力で管理し、保護者だけ名前を借りて極力不干渉でいてもらえばいいか。遺産の管理はともかく、不干渉は案外行けると思う。魔力なしの利点である、これしかないけど。
そんなわけで、俺は思考を中断し、あのバカ大人たちが結論を出す前に提案すべく、駆け足で階段を下りて行った。
交渉時間、たったの五秒。
莫大な遺産の割にはあっさりと、俺の要求が全てOKされた。
どんだけ異能者嫌いなんだよ。
遺産だけで一生生活できるぞ?俺、まだ五歳だぞ?
世間体も金もいいから兎に角異能者とかかわりたくないってか?
先が思いやられる。本当に異能者差別解消できるのかもう不安になってきた。
ちなみに、異能者の保護者(書類上のみ)という貧乏くじを引いたのは、唯一遺産だの役立たずだの言わず連中をにらみつけていた、本音はともかくまだ外面がましに見える叔母らしい。まともなほうだろうになんかすまん。差別をどうにかするからそれまで辛抱してくれ。できるかどうか怪しいけど。
しかし、たった一瞬で、魔力がない異能者(五歳児)になり、社会的にも肉体的にも弱者に成り下がり、ついでに人間関係も最悪になって、総合すると役に立つのは任務で戦った、今後出会うはずの人のなれの果てに関する知識くらいのもので、自慢だった魔術師としての経験、知識なんて微塵も使えそうにない。
これこそ本当の、弱くなってニューゲーム。
こうして、丈凪怜の、周りが敵だらけで、だまされ、うらぎられ、傷つき、敗れ、病に倒れ、非難され、誤解され、とまあ、ありとあらゆるひどい目に遭うであろう物語は、しかしこれから幕を開ける。
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まだなろうの仕様に詳しくありませんが、頑張って慣れていこうと思います。