表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/77

第32話 バレット公爵邸

「ローズの誕生日パーティー?」


 ルゼオンが差し出した封筒の中身を見てリーシェは驚いた。まさかこんな状況の中で誕生日パーティーが開かれるのも驚きだが、それに自分が呼ばれるなんてもっと驚きだ。


「ああ。俺も呼ばれた」

「え、でも、私はダメでしょ? 城から出られないし」

「許可は出ている」

「許可って……、でもローズは嫌じゃないのかしら……」


 以前ケンカをしたままそれきり会っていない。ローズは表向きは優しい態度だったが、やはり自分のことを犯人だと思っている。そんな相手が誕生日パーティーに来るなんて絶対に嫌に決まっている。


「俺の招待状に二人は冤罪であると信じていると書かれていた。リーシェの招待状にはローズからぜひ来てほしいと書かれている」

「それってバレット公爵は味方ってこと?」

「……ローズはこれから王太子妃になる娘だからな。大々的にやりたいんだろう。公爵は貴族の中でもかなり力がある存在だし、今回は相当の数が呼ばれるだろうな」

「ウィルって……、来るの?」


 ウィルとはもう二度と会いたくないと思い確かめると、ルゼオンは当たり前だろうと頷く。


「ウィルはローズの婚約者だし、バレット公爵とも懇意にしているからな、もちろん主賓として呼ばれている」

「そう……」

「とにかく準備をしてくれ」

「断っちゃダメなの?」


 できればあまり公の場には出たくない。大人数のパーティーなんてボロが出るに決まっているし、何を言われるかたまったものではない。

 リーシェの言葉にけれどルゼオンは首を振った。


「ダメだ。リーシェには絶対に出てもらう」

「絶対?」


 ルゼオンの言葉に引っ掛かったリーシェが聞き返すと、ルゼオンは真剣な目で頷く。


「もしかして……、なにかあるの?」


 リーシェの質問にルゼオンは答えなかった。ただ「警戒は怠るな」とそれだけを言い置いて部屋を後にした。



◇◇◇



 馬車に乗って一時間ほどでバレット公爵の領地に入った。王都に最も近い領地は広い農地が広がる美しい土地だった。大きな街もあり、相当の賑わいがある。

 多くの人が行き交うレンガ道を進み、丘の上に聳える城のような屋敷に着くと、リーシェは口を大きく開けてそれを見上げた。


「大きい家……。お城みたいね」

「この規模なら城と言ってもいいくらいだ。あの池も人口池だろうが、相当金が掛かっているだろうな」


 ルゼオンの視線の先には、屋敷に接地した池がある。王城でもこれほど広い池は見たことがない。この辺りに大きな川はなかったから、もし人工池だというのが本当なら、作るのに相当の労力が必要だっただろう。

 屋敷の大きさから見ても、バレット公爵がどれほど財力があるのか見て取れた。


「お待ちしておりました。ルゼオン殿下、リーシェ様」


 屋敷から出てきたフットマンが声を掛けてくる。リーシェは慌てて背筋を伸ばすと挨拶をした。


「お招きいただき、ありがとうございます」

「……どうぞ、中へ」


 フットマンは冷めた目をリーシェに向けると、屋敷の中へ促す。何か間違っていたかしらと戸惑っていると、一緒に来てくれたクロエがそっと後ろから囁いた。


「そのご挨拶は、バレット公爵にすればよいのですよ。リーシェ様」

「そ、そうなの?」


 まだまだ貴族の生活に慣れないリーシェは先行きを不安に思いながら、通された部屋に入った。

 一緒にルゼオンも入ってくれて少しホッとする。


「お時間までこちらでお過ごし下さい」

「ああ、ご苦労」


 ルゼオンが答えるとフットマンは部屋を出て行く。ただ屋敷に入っただけでどっと疲れてしまったリーシェは、大きく息を吐いてソファに座った。


「リーシェはここでゆっくりしていろ。俺はちょっと用事があるから、しばらくここを離れる」

「ええ? 私ひとり?」

「大丈夫だ。クロエもそばにいる。パーティーは俺がエスコートするから、心配しなくていい」


 リーシェの不安をよそに、ルゼオンはそれだけ言うと、さっさと部屋を出て行ってしまう。

 広い部屋に取り残されたリーシェは、不安な目をクロエに向ける。


「クロエ……」

「心配いりません。お茶でもお入れ致しましょう」

「うん……」


 リーシェは力なく頷くと、まずは落ち着かなくてはと自分に言い聞かせた。

 空が赤く染まり始めると、続々と馬車が到着し始めた。それを窓から見下ろしていたリーシェは、扉からノックの音が聞こえて振り返った。


「失礼致します。準備が整いましたので、どうぞ大広間にお越し下さいませ」

「あ、え……でも……」


 まだルゼオンが戻っていないのにと戸惑った声を出し、クロエにどうしようと視線を移すと、タイミング良くルゼオンが戻ってきた。


「間に合ったな」

「ルゼ!」

「クロエ、手袋を」

「はい」


 つかつかと部屋に入ってきたルゼオンは、クロエに手渡された手袋を嵌めながらリーシェに視線を合わせた。


「そう緊張するな」

「無理なこと言わないで」

「俺がそばにいる」


 その真っ直ぐな言葉に胸がドキッとした。頬が熱くなって強い視線から逃れるように俯く。

 突然ルゼオンを意識してしまった。


(こんな……カッコいいこと言う人だっけ……)


 すっかり王子様な格好にも慣れたつもりでいたが、今こうして目の前にいる男性は、塔で一緒に暮らしていた男性とは似ても似つかない。

 逆によくもこんな人と平気で暮らしていたものだと思う。


「リーシェ?」


名前を呼ばれ恐る恐る顔を上げると、ルゼオンは緩く笑って手を差し出してくる。


「行こう」

「うん……」


 促され、そっと手を重ねると、二人は大広間に向かって歩きだした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ