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第31話 ルゼとの会話

 まもなく明け方になろうとする時間、やっと城に戻ったリーシェはそのままベッドに飛び込むと、一瞬で眠りに落ちた。

 そうして目を開けたのは昼を少し過ぎた頃だった。起き上がってもしばらくはぼんやりとしていたが、軽く食事をしてクロエに着替えを手伝ってもらい、髪までしっかり整えるとやっと頭が働きだした。


「ルゼが今なにをしてるか知ってる?」

「殿下はお戻りになってすぐに国王陛下にご報告に向かいました。お話が長引いているようで、まだお部屋にはいらっしゃらないようです」

「そう……」


 ルゼオンはまったく休まずにいるのかと少し心配に思いながら、膝の上にいる大福の背中を撫でる。


(詳しい話を聞きたいと思ったけど、今は無理かな……)


 帰り際、馬車の中で話したことをもっと聞きたいと思った。リーシェにはまだ何がなんだか分からない。昨日の二人の遺体が一体誰なのか、ルゼオンとリーシェの敵の正体、これからどうなるのか。

 色々と聞きたいことが山のようにあって、ソファに座っていてもなんだかソワソワとして落ち着かない。


「リーシェ様、お茶でもお入れしましょうか?」

「そうね……」


 クロエの言葉に生返事をすると、同じタイミングで扉からノックの音が響いた。


「リーシェ、入っていいか」

「ルゼ!」


 ルゼオンの声にリーシェは慌てて立ち上がる。本来はクロエが扉を開けるのだろうが、リーシェはそのまま扉に走り寄ると、勢いよく扉を開けた。


「ルゼ!」

「ああ、起きていたようだな」


 ルゼオンは部屋に入りリーシェの顔を見ると微笑む。その穏やかな笑みにほっとしながら、ルゼオンの後を追うようにソファに座った。


「少しは眠れたか?」

「午前中はずっと眠っちゃったわ」

「疲れていたんだろう。すまなかったな」

「いいのよ。それより陛下とだいぶ長く話していたのね」

「まぁな。報告することがたくさんあってな」


 ルゼオンの顔はよく見るとやはり疲れが見てとれた。ルゼオンはクロエが入れてくれた紅茶にすぐに手を出すと、一口飲み込んだ。


「お腹空いてない? なにか軽く食べる?」

「いや、まだやることもあるからいい」

「あ、じゃあ、このクッキー食べる? 甘い物食べると元気になるよ」


 自分が食べようとクロエに出してもらっていたクッキーを皿ごとルゼオンの方へ押すと、ルゼオンは苦笑しながらもクッキーを一枚手に取り口に入れた。


「ああ、美味いな」


 素直に食べてくれたルゼオンにリーシェは笑い掛ける。ルゼオンはクッキーを全部食べ切ると、それまでと違い真剣な瞳をリーシェに向けた。


「父上と話をした」

「うん……」


 どんな話をしたのかを具体的に聞きたい気持ちはもちろんあったが、昨日のルゼオンが見せた悲しげな表情を思い出してしまいそれ以上言葉が出てこない。


「なんだ、それだけか?」

「だって……、詳しく聞かれたくないんじゃないの?」


 言いづらそうに聞いてみると、ルゼオンは意外そうな顔をしてそれから首を振った。


「お前も気を使うことがあるんだな」

「私だってそれくらいできるわよ」


 からかうような口調で言われ、口を尖らせるリーシェにルゼオンは笑う。


「お前は当事者だ。すべてを知る権利はある」

「……じゃあ、聞くけど……。昨日、ルゼは敵が誰か分かってるって言ったけど、それって誰なの?」

「お前はどう考えている」

「え? 私?」


 質問に質問で返されてリーシェは眉を寄せると腕を組んで考える。城に入ってから時間を持て余している時、確かに色々考えたけれど、正確な物証があるわけでもない事件の犯人など、そう簡単に分かる訳がない。

 ただ状況と感情だけで素直に考えるなら、答えは簡単だ。


「……ルゼの敵はウィル。私の敵はローズ……。そういうことでしょ?」

「そうだな。それが正しい」

「でも、ウィルもローズも怪しいところはないんでしょ? 陛下は他に犯人がいるかもって言っていたし」

「父上はそれを望んでいるな」

「兄弟で争ってほしくないから?」


 リーシェの言葉にルゼオンは深く頷くと足をゆったりと組んだ。


「父上は優しいお方だからな。だが今回の遺体の件で報告をした後は、すべて俺に任せると言ってくれた」

「あの遺体で何が分かったの?」

「まだ詳しいことは分からない。セドリックが戻れば、あるいはすべてが繋がるかもしれないが……」


 身を乗り出して話しを聞いていたリーシェは、少し迷ってから口を開いた。


「ウィルは分からないけど、ローズは敵じゃないと思う」

「なぜだ?」

「だって、そんな子じゃないし、身体の弱い子よ? 毒を飲んだら死んでしまうかもしれない。そんな一か八かの賭け、するかしら?」


 ローズが犯人だとしたら自作自演になる。自分で毒を入れて自分で飲む。そんなことをするだろうか。ローズはゲームの最初に身体がとても弱いと紹介された。子供の頃はずっと家の中にいて、大きくなっても外にあまり出られず、社交界にもまったく出ることはなかった。


「ねぇ、ローズが飲んだ毒って、解毒剤とかあるの?」

「ないな。飲んだ物を吐き出させて、後は本人の体力で生き残るか死ぬか、それだけだ」

「なら、やっぱり犯人はローズじゃないんじゃない?」


 解毒剤もないのに毒を飲むなんて健康な自分だってできそうにない。

 リーシェの主張を聞いたルゼオンは、表情を変えず顎に手を添える。


「確かに死ぬ確率はローズなら高いだろうな」

「でしょ? だから毒はまったく違う誰かが入れたんじゃない? ローズに恨みがあるとか、そういう人が」


 ルゼオンはリーシェから視線を外すと、腕を組み俯き加減で考え込んでしまう。話し掛ける空気じゃない気がしてリーシェは口を閉じると、目の前の紅茶に手を伸ばした。

 少し冷めてしまった紅茶を一口飲んで考える。


(ルゼの事件はどうなってるんだろう……。やっぱりウィルが犯人だとルゼは思ってるのかな……)


 半分だけとはいえ血が繋がっている弟に陥れられたというなら、それは悲しいことだ。事情はあまりよく分からないが、ルゼオンの時折見せる悲しい表情は、ウィルを完全に嫌っているという風には思えない。


「このまま何事もなくセドリックが戻ればいいが……」


 ルゼオンの言葉に顔を上げると、ルゼオンと目が合った。

 まっすぐに見つめられて、小さく首を傾げると、ルゼオンは微かに笑った。


「お前を見ていると和むな」

「なぁに、それ?」


 リーシェの質問にルゼオンは答えず、ただ笑う。空気が和らいだことにホッとしたリーシェは、それ以上追及することはせず、もう一度クッキーを勧めた。



 ――それから一週間後、バレット公爵邸で行われるローズの誕生日パーティーに、リーシェとルゼオンは招待されることになった。

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