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第17話 ルゼオン・ゼシア

 ルゼの横顔を見つめリーシェは驚きを隠せずにいた。


(息子!? 国王の息子!? ということはこの人、王子様なの!?)


 ゲームではゼシア王国の王子はウィル・ゼシアただ一人だったはずだ。ウィルは王太子で、その王太子妃を選ぶ、それがゲームの趣旨だった。

 ルゼが王子なのだとしたら、ゲームに絡んでこないなんて、そんなことがあるのだろうか。


「ルゼオン、随分とやつれたな。それにそのようにみすぼらしい様子で……。不憫なことだ」

「いえ、塔では不便もなく静かに暮らすことができました」

「そうか……」


 二人の会話が耳に入ってきて、頭はパニックのまま何となく国王に視線を向ける。国王は壮年の体格の良い男性だった。ルゼと同じ色の金髪に青い瞳で、穏やかな口調から優しそうな雰囲気が見て取れた。

 ルゼを見つめる眼差しは確かに父親のそれで、それでもまだリーシェは信じられずルゼと国王を見比べてしまう。


「本日帰城したのは、兼ねてよりお約束していた王笏を献上するためです」

「本当に見つけたのか」

「はい。この娘がゼシリーアの加護を受け、王笏を手にすることができました」


 国王は驚きに目を見張っている。周囲のざわめきも一層強くなり、リーシェは自身の手にある物の価値が相当な物なのだとやっと自覚し始める。


「リーシェ・エルナンドか」


 ついに自分の名前を呼ばれ、リーシェはビクリと身体を震わせた。

 国王を見上げると、困惑げな目とぶつかる。


「処刑は確かになされたと報告を受けたが……」

「リーシェはゼシリーアの加護を受けました。水に落とされて確かに沈んだはずが、神の力を以て岸まで辿り着き、命を長らえたのです」


 ルゼの言葉にリーシェはそっと下を向く。ルゼの言葉はまったく正しくない。自分はただ泳いで岸まで辿り着いただけだ。それはルゼもよく分かっているはずだ。

 それを“神の力”などという言葉で誤魔化すなんて、すぐに嘘がバレてしまう気がした。


「ゼシリーアの加護か」

「まずは、王笏をお手に取ってご見分を。リーシェ」


 ルゼに前へ出ろと促されて、リーシェは震える足で立ち上がると、よろよろと前へ出る。

 階段の前までくると、横にいた騎士のような恰好の男性が布を広げて差し出す。その上に置けということかと王笏を渡すと、男性は階段を上がり壇上の国王の前まで行き膝を折った。

 男性が捧げ持つ王笏を国王が受け取ると、シンと室内は静まり返った。


「ああ……、本物だ。確かにこれは150年前に手放した王笏に間違いない」


 国王の感慨深げな声に貴族たちから歓喜の声が上がる。リーシェは戸惑いながらルゼの顔を見た。

 リーシェは不安からルゼに声を掛けようとしたが、静かな目を向け微かに首を振るルゼにそっと口を閉じた。これ以上は何も言うなと言われた気がしたのだ。

 後はルゼに任せようと決めて唇を噛み締める。


「だがなぜその娘がゼシリーアの加護を受けるというのだ。その娘は罪人だぞ」

「罪ある者に、ゼシリーアの加護を受けることはできません」

「では?」

「この者の罪に疑いがあるということです」

「なんだと?」


 ルゼの言葉に明らかに周囲が剣呑な雰囲気になったのが分かった。ざわめきの中に、非難する声が混じるのが聞こえるが、リーシェはハラハラしながらルゼを見守ることしかできない。


「お待ち下さい!! 父上!!」


 突然、二人の会話に割って入る声が上がった。振り返ると、そこにはウィル・ゼシアが立っていた。


(ウィル!! うわっ、本物!!)


 ゲームではさんざん見てきたが、本物を見るとさすがに少しテンションが上がった。思わずミーハーな気持ちで見つめてしまう。

 ウィルはサラサラの黒髪を肩まで伸ばし、輝くような青い瞳をしている。ゲームでは主人公の相手だけあって甘めの顔に、立ち居振る舞いも優雅で、いかにも王子様という感じだった。


「まずはその王笏を調べる必要があります! 精巧に作られた偽物かもしれません!!」


 ウィルはそう言い募り前へ進み出る。周囲からは「そうだそうだ」と同意する声が上がっている。


「余が本物だと言っているのが信じられないか?」

「兄上ならばやりかねません! 恩赦を受けたくて密かに作らせていた可能性もあります!」


 ウィルの言葉に国王は顎に手を当てて考える。


「いや、これは本物だ。余には分かる。本物である以上、約束した恩赦を与えなくてはならない」

「父上! お待ちください! 王笏が本物であるとして、ですが兄上が父上を暗殺しようとしたことは事実です。王笏の存在のみでそれをなかったことになどしてはいけません!!」


 “暗殺”という言葉にリーシェは驚き息を飲んだ。ルゼは王子で、国王を暗殺しようとしたのか。それであんな古びた塔にいたのだろうか。


「私も王笏のみで許されるとは思ってはおりません。陛下、私に時間を頂けませんか?」

「時間?」


 ウィルの言葉を遮るようにルゼが口を開くと、ウィルは憎しみのこもった目をルゼに向ける。その冷えた眼差しにリーシェは少し恐怖を覚えた。


(こんな冷たい印象の人だったっけ……)


 いつも穏やかに優しく笑っているようなキャラだったはずだ。その人物がこんなにも暗い表情をするなんて思わなかった。


「王笏は本物であると確信をもって言えますが、疑われる方もいるでしょう。ぜひ鑑定をお願いします。そして、私に掛けられた国王暗殺容疑について、再捜査を行いたいのです」

「再捜査?」

「はい」

「当時の捜査に不備があるというのか!?」


 初めてウィルがルゼに向かって言い放った。ざわめく周囲の中、ルゼは静かに答える。

 

「それを含めて捜査したいと思っている」


冷静なルゼの言葉に国王は頷く。


「そしてもう一つ、私がリーシェを連れて来たのは、リーシェについても捜査し直したいからなのです」

「リーシェ・エルナンドの罪についてか」

「はい」

「ゼシリーアの加護か……」


 国王がしばらく考える間、室内はざわめきの中にあった。

 リーシェはどうなるかと固唾を飲んで見守っていると、国王は王笏を見つめ一つ深く頷いた。


「分かった。再捜査を許そう」

 そう国王が静かに言った時、人垣から叫び声が上がった。


「ローズ様! お気を確かに!!」


 リーシェが振り返ったそこには、このゲームの主人公であるローズ・バレットが床に倒れていた。

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