幼馴染の様子がおかしい
その後、恵美と一緒に下校をすることになった悠介。
恵美の家は、学校の最寄り駅から三駅ほど。対して悠介は、四駅。ただし、お互いにホームは別々なので、駅に入ってお別れすることとなってしまう。
「せっかく悠介君とお付き合いで来たのに……ここでお別れなんて、寂しいな」
と、ひとりごとを口にしたのは恵美。
そんな風に思ってもらえることに、少しだけ喜びを覚えつつ、悠介はこう提案する。
「電車は仕方ないけど……明日も、学校から駅までは一緒に帰ろう」
すると、ぱあっと笑顔を取り戻し。
「絶対、約束ですよっ!」
と、すっかり元気になっていた。流石、男子人気の高い女の子。こういう不意の笑顔に、ドキッとさせられてしまうのは、仕方のないことだ。
悠介は、鼓動が少し早まったことを感じつつ、恵美と別れた。
──あんなに可愛い女の子が、俺のことを好きなんてなぁ。
世の中、何があるか分からない。こんなことを一か月も続けたら、もしかしたら本当に、恵美のことを好きになってしまうかもな。
そんなことを思いながら、電車に揺られ、自宅へ帰ったのであった。
◇
「──遅い」
悠介が玄関を開けると、そこにいたのは母親……ではなく、幼馴染の女の子──羽瀬川唯奈であった。
ツインテールにエプロン姿。手にはお玉を持っている。
流石、学年でもトップクラスに可愛い女子と評判の女の子。そんな所帯じみた格好でも、充分魅力的に感じてしまう。
……まあ、中身を知らなければの話だけど。
心の中で、ため息をついてしまう悠介。しかし、そんなことを知る由もない唯奈は、やや機嫌の悪そうな口ぶりで。
「悠介、あんたこんな時間まで何してたの?」
と、問い詰めてくる。
悠介は、唯奈からこんな風に絡まれるのは、日常茶飯事であった。
彼女との出会いは、今から十年以上前。
家が隣同士ということもあり、昔からよく一緒に過ごしていた。
しかし、悠介と唯奈が小学校高学年になった頃から、徐々に唯奈の性格に変化が訪れ……何故か、悠介にだけ強く当たることが増えたのである。
具体的に言えば。
「まだ宿題終わらせてないの? ちゃんとしなさいよ」
「はあ? 絶対に見せてなんてあげないから」
「あんた、本当にバカね。こんな問題も分からないの?」
これは、悠介たちが中学三年生の時の出来事。
たった数時間のうちに、これほどまでに罵倒されると思っていなかった悠介にとって、この思い出は強く刻み込まれている。
それ以外にも、日常的に唯奈からは強く当たられることが多く……なぜこの幼馴染は、俺のことが嫌いだろうに、こんなにも毎日絡んでくるのかと不思議に思っている。
しかし、それを問いただせど。
「幼馴染だから、あんたの世話をみないと」
「おばさんとも約束してるし」
と答えるだけであった。
悠介の家は母子家庭で、母親も仕事から帰るのが遅い。だから唯奈が、毎日こうして晩御飯を作りに、高橋家へやってくるのだ。
話は戻る。
現在、悠介は唯奈から「こんな時間まで何をしていたのか」と問いただされている最中。
まるで、浮気を疑われる旦那の気分だ。ドラマでしか見たことがない場面だが、きっとこういう気持ちなんだろうなと、悠介は思う。
しかし、別に唯奈とは付き合っているわけではない。
故に、後ろめたいことは何一つないのだ。
「別に、ちょっとクラスメイトと話してただけだよ」
「ふうん。放課後に残ってまで一緒に話すなんて、珍しいわね」
「まあ、たまにはそういうこともあるだろ。確かに珍しいかもしれんけど」
「……ねえ、一応聞くけど」
「ん?」
「それって、男よね?」
聞かれて、一瞬ドキッとする。
正直に答えるべきか……どうするか。
ただ、先ほども思った通り、唯奈との関係性はただの幼馴染。ゆえに、ごまかす必要はないと、悠介は判断した。
「いや、女の子」
「…………は?」
そう答えた瞬間。
唯奈の顔つきが変わった。元々、若干不機嫌気味だったが、それが×5倍になった。
「二人で?」
「う、うん」
威圧気味に聞かれ、やや気圧され気味の悠介。
「……まさかあんた、彼女じゃないわよね?」
「うーん、彼女と言えば彼女……かな?」
悠介がハッキリと「彼女」だと言わなかったのは、お試し期間という期限があるからだ。
いわば、彼女(仮)のような状態。考えておきながら、なんとも失礼だなと思うが、事実なのだから仕方ない。
さて、肝心の唯奈はと言えば……。
「……そう。あんた、彼女出来たのね」
先ほどまでの怒りはどこへやら。すっかり暗い表情を見せ。
「……アタシ、帰る。ご飯作ってるから、好きにどうぞ」
と、悠介の横を通りすぎ、そのまま玄関を出て自宅へと戻っていってしまった。
手に持っていたお玉を、悠介に押し付けて。
「……な、何だったんだろう。急に態度が変わったりして」
十年以上一緒にいるからか、唯奈が色んな顔をすることを、悠介は知っている。
だが……今の表情は、生まれて初めて見るもので。
悠介には、その表情の理由が、全く分からなかった。
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