チート能力を与えられたけれど使い方が解らず放置していたら、神様が降臨なされた。
突然、「お主に力を授けよう」という声が頭に響いて一か月が経過した。
その間、力は使っていない。いや、使えていない。
だって、使い方が解らないから。
今となっては、力の存在は頭の片隅に追いやられ、放置の一途だ。
「こらーっ! 折角力を授けてやったというのに。何をしとるのじゃあっ!」
自室のベッドでゴロゴロしている僕の耳に、女の子の声が直撃する。大音量で。
「うるさっ」
「五月蠅いとはなんじゃ。五月蠅いとは。神様じゃぞっ」
声の主に目を向けると、小柄な女の子が立っている。
知り合いではない。少なくとも、人の部屋に勝手に入って来るような人に心当たりはない。
「誰ですか? 勝手に入って。失礼じゃないですか」
「失礼なのはお主じゃ。ウチが授けた力を全く使うておらぬではないか」
「力?」と言った後、思い出す。「ああ、あれか。使い方が解らないから放置してた奴か。と言うか、何で知ってるの?」
力を授かったなんて世迷言同然の話、僕は誰にも言っていない。
「先程も言うたであろう? ウチが力を授けた神様なのじゃ」
女の子はえっへんと胸を逸らす。
こじんまりとしたその身体からは威厳を感じない。
「なんじゃその目は。疑うておるのか?」
「ええ、まあ。神様って感じしないし……」
「やれやれ。これだから最近の人間は」と女の子は首を振る。「ウチから溢れ出るオーラが感じ取れぬとはのう」
「はあ」
適当な相槌を打つ。
「よかろう。良い機会じゃ。神様たるウチの力を見せてやるのじゃ」
「いえ、結構です」
袖を捲って意気込む女の子に向かって、断りを入れる。
「なんでじゃっ!?」
「何でも何も。知らない人ですし。勝手に上がり込まれた迷惑さの方が勝るかなって」
「知らない人扱いは止めるのじゃっ! まあ、人ではないのは間違っておらぬのじゃが。それでも知らぬ間柄ではなかろう? ほれっ、この声。聞き覚えあろう、な?」
女の子は「あー、あー」と何度も発声する。
そんな事せずとも、声自体には聞き覚えはあった。始めから。
僕に力を授けた者と同じ声。嫌が応にも覚えている。
頭の中に直接語りかけられたのだから。
「僕に力を授けるとか何とか言ってた声の人でしょ? それを知り合いと呼ぶのは無理がある」
「ええい、細かい奴じゃ」と女の子はぶつくさ言った後、僕に向き直る。「まあ良い。ウチが力を授けたことは認めるのじゃな?」
「一応は」
「では、ついでに神様であると認めるが良いのじゃ」
それとこれとは話が別だと思わなくもないが、切りが無いので否定はしないでおこう。ついでで良いそうだし。
女の子もとい神様は、佇まいを直し、僕に言う。
「えー、神様であるウチがお主に力を授けたのは一月前なのじゃ。なのに、どうして一度も力を使うておらぬのじゃっ! これでは、授けがいがないではないかっ!」
神様は両手を振り上げて憤慨している。
「そう言われてもねえ。使い方が解らなきゃどうしようもないよ」
「使い方が解らないぃ? さっきも言うておったなあ。その様子を見るに冗談ではなさそうじゃ」
「納得したなら、帰ってもらえないかな?」
「いやいやいや。使うてもらいたくて力を授けたのじゃ。はいそうですかと帰るわけにはいかないのじゃ」
「そういうもんなの?」
「そういうもんなのじゃ」
ここで食い下がっても押し問答が続くだけ。お互いに一息入れる。
「では、改めて。お主に力を授けた時に使い方も一緒に送り込んだ筈なのじゃ。頭の中に直接」
「それって僕の脳に影響はないのかなって思うんだけれど」
「大丈夫なのじゃ。多分」
神様は視線を横に逸らす。
あまり大丈夫ではなさそうだが、それは脇に置いておこう。
僕の記憶の限りでは、力の使い方なる情報は送られて来ていない。
「どうじゃ? 使い方思い出せたか? 力を使いたくなったであろう?」
「さっぱりだね。という訳で、帰ってくれない?」
「なんでじゃっ!? なんで直ぐ帰らせようとする!?」
「もういいかなって」
「良くないっ! 全ッ然良くないのじゃっ! ウチは人の子が力を使うところがみたいのじゃっ!」
「なんで?」
「身に余る力を得た人の子がどのような結末を迎えるのか。それを見守るのが神様としての通って奴なのじゃ」
「帰って下さい」
勝手に力を授けて来るような存在だから何かしらの思惑はあるだろうとは思っていたが、想像以上に禄でも無かった。
誇らしげに言う神様に帰宅を促すものの、
「いやじゃっ! 一度使うところを見ない限りは帰らんのじゃ」
「はあ。一度でいいの?」
「うむっ。一度でも使えば病みつきになる筈じゃからのう。何せ万能の力じゃ」
性質の悪い言い草は無視して。
「万能って、何でも出来る力ってこと?」
「ほほう」と神様は目を光らせる。「気になってきた? 気になってきた感じなのじゃ? 使いたくなたであろう?」
「別に」
神様の絡みが鬱陶しかったので否定する。
万能の力は持て余しそうに感じたから嘘ではない。
「強がるでない」
神様は僕の身体を肘でグリグリする。ウザッ。
「どんな願いでも実現可能な力。使わずにはいられないのじゃ」
「そんな凄い力なら、使い方も難しいのでは?」
僕の問いに、神様はチッチッチッと指を振る。
「パーッとやってガーッとすれば良いのじゃ」
聞き覚えのあるフレーズだった。
力を授かった時に聞こえたものと完全に一致していた。
これを力の使い方と認識するのは無理がある。
「それだけ?」
「それだけとはなんじゃ。大事な事なのじゃ。強い思いに力は答えてくれるものなのじゃ」
なるほど。
「理解したか? 理解したなら実戦あ――」
神様の姿が見えなくなった。
試しに「帰ってくれ」と念じたところ、神様は僕の部屋からいなくなった。
恐らく、神様の元居た場所へ送還されたのだろう。
やっと解放された。
と思ったのも束の間。
「こらーっ! いきなり帰らせる奴があるかーっ!」
またやって来た。
「力を使ってるところがみたいって」
「言うたけれど。言うたけれどもじゃ。もうちょっと、こう……あるじゃろ!?」
「ないんで、帰ってもらっていいですか?」
「直ぐ帰らせようと――」
力を使う。
神様は再び部屋から居なくなった。
戻ってくる前に、さらに力を使う。
僕の部屋に勝手に入れないようにした。
『こらーっ! まだウチが話している最――』
念話と思われる頭の中に声を直接送る手段も遮断する。
これで向こうからの接触は防げる筈だ。
万能の力は、自称神様にも通じるのは確認できた。後はどうするか、だが……。
放置でいいか。
使い方も解ったことだし。