1:穏やかな日々
「フィルー? どこにいるのー?」
あれから3年が経った。たまに街へ向かうので、ある程度は情勢が耳に入ってくるが未だに消えた人たちは見つかっていないらしい。
俺は叔母さんの家でずっと素振りや体力強化、そして狩りの手伝いをしている。
「ミレク叔母さん! 今戻るよー!」
家の周りは深い森に覆われており、俺1人で奥に入っていくといつも叔母さんが探しに来てくれる。
探すと行っても、ミレク叔母さんは最近足を痛めてしまっているので、森の近くで風魔法を使って声を届けてくるぐらいだが。
対して俺は魔力がないので、毎回大声で返事をするしかない。
足場の悪い道も慣れたもので、最初こそ転けそうになっていたが今ではスイスイ走ることができる。
体力も成長と共に付いていて、魔物相手も連戦続きじゃなきゃ疲れも少ないぐらいだ。
やはり筋肉は俺を裏切らない。それは何年もやって来ている剣術もそうだ。
叔父さんが使っていたという剣を借りて狩りを始めたんだが、魔法がなくてもある程度狩ることが出来た。大型の魔物とは出会ったことはないのは、この森が比較的安心だかららしい。
小型の魔物……というより、うさぎにツノが生えてたり小型の猪で足が6本あったりと前世での動物とほぼ同じような獣が多い。
だが、そいつらも魔法を使って来たりするから嫌になっちゃうよ。
たまにゴブリンと呼ばれる緑色の小鬼と遭遇することもあるが、奴らもあまり魔法を使ってこない。もっぱら棍棒を振り回してくるが、たまに動きがすばしっこい奴や他よりも力のある奴もいるので何かしらの魔法を使っているのだろう。
もしかすると、この世界では魔法が使えない魔物も存在しているのかもしれないな。
「ほらミレク叔母さん、今日はホーンラビットを3匹とミニ羽豚を2匹狩ってきたよ」
「あら! しっかり血抜きも出来ているし、本当にフィルは出来る子だねぇ」
叔母さんはいつも俺を褒めてくれる。独りになった俺を快く迎えてくれるだけでなく、こうやって暖かい家庭をも築いてくれた。
俺は習った解体をしつつ、夕飯の手伝いをしていく。今日は叔母さん特製のスープと、今狩ってきたばかりの羽豚肉だ。
理想の体になるためには野菜も肉も欠かせない。
いつも通り雑談をしていると、少し真剣な面持ちで叔母さんが口を開いた。
「ねぇフィル。あなた裏山の洞窟に入って行ったりしてるわよね?」
その瞬間俺の食事が止まってしまった。
この家の裏山には、小さな洞窟が佇んでいる。誰が入るわけでもなく、ひっそりと口を開けてそこにあるだけだ。
しかしその中に入ってみると、不思議と温度は過ごしやすく魔物も隠れていることが多いので、たまに剣の練習がてら潜ったりもしている。
元々注意喚起はされていたので、あまり奥の方に入ったことはないが叔母さんの顔を見る限り怒っていそうだ。
「いやぁ……その、さ」
叔母さんの目には敵わない。人間感謝を感じている相手には目力だけで勝てなくなる。
だが、予想とは違い叔母さんは軽くため息をついただけだった。
「まったく。あなたもシモンと同じなのね? 彼も若い時には旦那と一緒にあの洞窟で腕試しをしていたわよ」
曰く、叔母さんの旦那さんと父親は年も近いのでよくその洞窟に潜っていたそうだ。出てくる魔物も小型が多く、腕試しするには十分な場所であったと。
少しだけ広いただの洞窟だと思っていたのだが、どうやら「ダンジョン」と呼ばれている洞窟らしい。
言われてみれば、いつ行っても必ず魔物はいるし倒した後に消えてしまうことも多々あった。
死骸や腐敗臭もしないのはそのせいか。
「あとはね、その洞窟で腕試しをするならこれを持って行きなさい」
「これは……?」
叔母さんがポーチを一つ俺に差し出してきた。見る限りは何の変哲も無いただのポーチだ。
皮で出来ており、腰のベルトを通すように出来ている。
珍しそうにマジマジと見ていると、叔母さんが少し笑いながら口を開いた。
「これはね、マジックバッグと言って魔法の力で収納出来る量が非常に大きいバッグなのよ」
「えっ!? あのマジックバッグ!?」
マジックバッグの事は前にも見たことがある。両親と一緒に街に行った時に、雑貨を扱う店で仰々しく飾られていたあの鞄だ。
その時はこのポーチサイズよりも大きく、確か異常なまでに高額だった気がするが……。
「ふふっ。これはね、旦那があのダンジョンに行く時に使っていたお古なのよ」
話を聞くと、このポーチは元々あのダンジョンで見つけたそうだ。ダンジョンの一番奥にはダンジョンの主がいて、一番最初に倒したものへ宝箱の恩恵が与えられる。
叔父さんが父親と一緒にあのダンジョンを初めてクリアしたのが15歳、俺とほぼ変わらない年齢でクリアしてるとは驚いた。
やはり魔法能力が高いと戦闘能力が段違いなのだろう。
しかし綺麗なポーチだ。丁寧に磨かれており大切に扱われていたのがよくわかる。叔母さんが言うには街などで売っているマジックバッグには到底敵わない容量だが、それでも狩りをしたりして素材などを両手で抱えきれないぐらい集めても余裕で入るらしい。
どうやら今後も俺がダンジョンに潜るのはバレているらしい。だからダンジョンで狩りをするのに最適なマジックバッグを渡してくれたのだろう。
「マジックバックもね、棚の奥で眠ってるより使われた方が幸せだと思うのよ」
叔父さんが亡くなった時に、今まで使っていた武器や小物は閉まっていたらしい。家の一角におじさんの部屋があり、俺もあまり入ったことはない。
俺は感謝しながらマジックバッグを受け取って腰のベルトに通してみる。……うん、邪魔にもならないし、ちょうどいいサイズだ。
「叔母さんありがとう」
「いいのよー。これでまたいっぱい狩りして貰って、私の生活ももっと楽にしてね」
叔母さんがウィンクで返してくる。叔母さんは美人で、叔父さんが亡くなってからはずっとこの家から出ていない。村などにいれば浮いた話なども来そうなものだが、叔父さんと一緒に暮らした家を離れる気はないそうだ。
俺がここに来てからは生活が楽になったと言ってくれるのが素直に嬉しい。
これからもこの家で修行して、いつか冒険者になってこの家を中心に生活していこうと思っている。
「さ、食べ終わった食器を片付けたら体を拭いて今日はもう寝なさい。明日も狩りに行くんでしょ? 最近は山賊もいるって聞くから気を付けなさいね」
「うん、わかった」
「あと、あのダンジョンを攻略するなら何日かかかるから先に言うのよ?」
この家は山の中腹にある。村までは20分ぐらい歩けばいける距離で、周りの自然から木材を切り出したり狩りをしたりして村で物々交換や商人に売ったりなどして暮らしていた。
叔母さんは魔法で薬草の調合などもしており、足が悪くなる前は自分で村に薬を売りに行ったりしていた。魔物除けのお香は村の人達によっても重要なもので、それさえあれば魔物が嫌う匂いによって近付いて来なくなる。
最近は魔物が多く出ることなどもあり、修行も兼ねて俺が村への往復を買って出ていた。山賊は流石に見たことないが、確かに魔物は増えているかもしれない。
俺は皿を洗い終わると部屋に戻った。明日も山に入って村に持って行く用の獲物を狩るのがいいだろう。
ダンジョンで何日か過ごすなら野営の準備もしておいた方がいいはずだ。近々村に行く事があるので、その時に準備しよう。
貰ったマジックバックを眺めながら俺は眠りについた。




