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5:洗礼の儀

 俺たち家族が洗礼の間に通されると、吹き抜けの高い天井が出迎えてきた。

 部屋の床には魔法陣が書き記されており、その中心に水晶玉が置いてある。

 教会の高官なのか、少し長めの帽子を被った男ーー年齢は40代後半ぐらいか? が口を開いた。


「では、今回洗礼を行う子だけ中心に御出(おい)でなさい」


 呼ばれるがまま俺は一人で水晶玉へと向かう。

 水晶玉の目の前に立つと、右手を水晶玉へ付けるように指示された。

 中に白い炎が揺らめいており、俺の手のひらをなぞるように炎が揺れ始める。


「それでは目を瞑り、心を水晶玉へと集中させよ」


 ……魔力の扱い方だろうか。でも俺は魔法とか一切使えないぞ?

 それでも言われた通りに目を瞑り、手のひらへ意識を集中させる。

 意識を……魔法を使えるように……集中……集中……

 暫く目を瞑っていたが、特に水晶が明るくなるなどの変化は一切ない。それどころか、さっきの男が「ぬぅ……」とか「ぐぬぬ……」とか唸っている。

 どういう事だ? なんか不具合でも起きてるのか?

 もしかすると俺の力が今までにないぐらい強くてーー


「やめ。お主の適性が判別したぞ」


 急に止められた。まぁ判別したならいいか。俺は目を開けると、水晶の中の炎は先ほどと同じように揺らめいているだけだ。

 後ろを見るとマナが期待を込めた目で俺と男を見ている。

 だが目の前の男と両親は、あまり(かんば)しくない表情だ。


「えー、お主の適性は『無』だ」


 無属性……属性に分類されない魔法を使うことが出来る。さらに言えば、無属性はまだまだ未知の領域も多く、下手に属性が付いてるよりも強力になるし、センスがなければただ扱いづらいだけの魔法だ。

 いいじゃないか。属性を持ってなくても無限の可能性を秘めた無属性……最高じゃないか!

 確か書物には身体の強化に使えたり、移動なども通常より体力を使わなかったりと色々試すことが出来る。

 うんうん、俺のやってる剣術にピッタリじゃないか!


「そうですか! これでやっと俺も魔法を……」

「いや、無属性ではない。お主は……『無』、つまり適性がないのだ」

「えっ!? 適性が……ない……?」


 いやまてどういう事だ?

 えっ? 適性が……ない!? 俺は魔法が使えないのか?

 いやいやいやいや、そんなはずがないだろう? だって……マナも父親も母親も魔法を……言うなれば会う人全員魔法を使ってるんだぞ!?

 俺だけ魔法が使えないなんて……そんな……嘘だろ?


「司祭様、うちの子に適性がないと……」

「そうだ。何故かはわからぬが、この子には魔法適性がない。こんな事は私も生まれて初めてだ……」

「マナもやるー!」


 俺が(ほう)けていると、父親と母親が俺の側までやってきた。二人とも焦った顔をしている事からも、本当に俺には魔法適性がないんだろう。

 再挑戦したいとか、それでも首を重そうに横に振って否定する男。親も信じられないのか、俺のことをぎゅっと抱きしめている。

 いや、俺は日本人だったんだ。魔法と言われても、使ったこともないものを使用するなど想像できない。これが普通なのかもしれない。

 もしくは大器晩成型か? いや、司祭と呼ばれた男が親にその可能性すら否定している。

 話を聞く限り、この世界は魔力が全て。力のない俺は淘汰されやすい……いや、珍しすぎて奇異の目でも見られる可能性すらあると。

 そうか、俺はここでも鼻摘まみ者になるのか……。


「おおおおおお! 凄い! ねぇねぇおにーちゃん! マナのピカピカしてるよ!」


 そんな気を落とした俺だったが、勝手にマナが水晶玉に力を込めているのを見て、もやもやした気持ちは吹っ飛んでいった。

 水晶玉が七色に光り輝き、中の炎が今にも飛びでんほど暴れまわっている。

 これはすげーや。多分俺の才能は全部マナに受け継がれたんだろう。


「こっ、これは……!」

「マナ……なんて凄い魔力……!!」


 司祭も口をあんぐり開けてらぁ。親も親でマナの凄さを改めて感じたらしい。

 いやー、まいったまいった。これじゃぁ俺も腹括るしかないよな。

 こんな出来た親と妹に囲まれた家庭があるんだ。死んだら終わりのところをやり直しさせて貰えてるんだ。ならこの現実を受け止めるしかないな。


「……ありがとうございます。父上、母上。マナの凄さもわかった事ですし、帰りましょう」


 父親がマナを水晶から引っぺがしている。どうやら司祭は俺のことよりもマナへの関心が強くなったらしい。あと数年で洗礼の儀を受ける時に、必ず来るように言われていた。

 そして悲しそうな目で母親が見てくる。いや泣かないでくれ。俺は人生をやり直せるだけでも儲けものなんだ。

 むしろ感謝してるぐらいなんだぜ? 片親で厳しく愛情なんて全くわからなかった俺に、こんなに優しく暖かい家庭を恵んでくれたんだ。


 俺たちは教会を後にして、帰りの馬車へと乗り込んだ。

 正直、魔法が使えないとわかったのは確かに悲しい。家にある書物を読み漁って妄想していたが、それが全部出来ないのだ。悔しくないといえば嘘だ。

 だけどさ、魔法が使えないからって生きていけないわけじゃない。むしろ日本の時は魔法なんて使わなくても生きていけた。

 鍛えた肉体で、大抵のことはこなせた。むしろ病気や怪我などもせずにこれたじゃないか。

 周りで魔法が使える人間は多いかもしれないが、それはそれ、これはこれだ。


「フィル……」

「元気出してフィル。貴方と同じように、魔力が少ない人でも、立派な人生を歩んでいるわよ……」

「父上、母上。俺は大丈夫です。むしろマナの凄さにびっくりしたぐらいですよ! 今後も俺は父上の子であり母上の子でもあります。だから、なんでも手伝いがあれば言ってくださいね!」


 その言葉に母親が俺を抱きしめてきた。魔法を使うことができない……それだけでこの世界を生きていくのが本当に辛いのかもしれない。

 だが、俺はやってやる。親孝行も、そして俺自身が強くなることも諦めてはいない。

 魔法が使えなくたって、立派に生きていけることを証明してやろうじゃないか。

 馬車に揺られながら、俺は今後のプランを頭の中に計画していた。



 ◇



「司祭様、先程はどのような……」


 本日全ての洗礼の儀を終えた司祭が自分の部屋にいると、ドアをノックしながら修道女が声をかけてきた。

 司祭は慌てる様子なく脱ぎかけていた服を脱ぎ捨てると、タオルで汗を拭き始める。


「ふむ、ついに予言の子が現れた。次に合間見えるのは2年後、それまでに準備を進めておくぞ」

「おぉ……ついに我々の悲願が成就されるのですね……!」


 修道女がうっとりとした表情を浮かべる。その表情は神に仕えるような清楚な感じは一切なく、むしろうっとりとした恍惚な表情に近い。

 司祭はその表情を一瞥すると、別の羽織に手をかけた。


「ヴァニラ、お前の悪い癖が出てるぞ」

「あら? 司祭様だって、その背中の彫り物を隠そうともしてないじゃない」


 司祭の背中……右の肩甲骨辺りには一種の刺青が彫ってある。

 それはユニコーンのツノを彷彿させ、大きさは拳ほど。

 手に取った羽織を着ると、その彫り物は影も形も見えなくなった。


「司祭様? 連絡はどうしますか?」

「あぁ、交信(コンタクト)を使って支部に連絡、その後本部からの指示を仰ぐぞ」

「仰せのままに……」


 修道女が一度大きくお辞儀をすると、暗い廊下へ音もなく消えていった。司祭はその姿を今度は一瞥することもなく、本棚から分厚い一冊の本を手に取り座る。

 その本を捲ると、小さな黒い本が出てきた。誰にも見つからないように本自体に仕掛けを施している。

 司祭が黒い本を手に取りページを捲ると、ある部分で手を止め、その文章をマジマジと見つめゆっくりと息を吐いた。


「もうすぐ……もうすぐ貴女(あなた)様とお会いできるのですね……」


 そのページには挿絵があり、黒く凶暴そうな影を有した魔法使いが描かれている。

 魔法使いは胸に剣を突き立てられ、凶暴そうな影は苦しそうな表情をしながら言葉を浮かべていた。


『時を超え、時代を超え妾は必ず復活する』


『全ての魔力を(たずさ)え、今度こそこの世を浄化してやる』


『この世界を救済するのは妾しかいない』

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