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3/11

3:月日

3:月日


あれから随分と時間が経過した。

どうやら俺はこの世界に転生したのだろう。未だに信じられないが、この両親と一緒に過ごすことによって納得をせざる得ない。

父親はシモン。赤茶色い髪の毛と清潭な顔つきで、はたから見ても2枚目だ。芸能人として俳優活動をしていてもおかしくないだろう。

そして母親はティリア。金髪で可愛らしい顔つき。美男美女の両親から俺は生まれたのだ。


そして俺の名前は「五十嵐達之助」ではなく、「フィル」と名付けられた。今まで使い続けた名前が変わったのには違和感があったが、これはこれで心地いい。

容姿も随分と変わった。一面白髪だった髪の毛は、全て綺麗な金髪へと変化している。目も深い青をしており、これは母親譲りなのだろう。

父親からも母親からも、俺は愛情をたっぷり注がれながら育っている。


5年の時を経て、俺は会話もスムーズに行えるぐらいまでにはなっていた。

この頃になって気付いたことがあるのだが、どうやらこの世界には超常現象があるらしい。

曰く、魔法だ。母親が洗濯をする時や料理をする時などに、何もない場所から水や炎が出てくる。

父親は多少身体を鍛えてはいるが、もっぱら魔法の力に頼りながら雑務を行なっていた。

俺も見よう見まねで試そうとしたが、いかんせんやり方がわからない。両親に聞くと、どうやら誰にでも魔法適正があり、その目覚めは10歳までお預けなんだそうだ。

もちろんその年齢に到達する前に発現する者もいるそうだが、どうやら俺にはその機会はなかった。

少し悔しい。だが、この世界で生きて行く楽しみが増えたことに間違いはない。

日本の頃には出来なかった魔法がこの手で使えるのだ。わくわくしない方がおかしいだろう。

そして剣術と融合させ、ゆくゆくは魔法剣士……最高じゃないか。


だが身体を鍛えたいと申し出たところ、両親には苦い顔をされた。

ある程度の鍛えは必要だが、魔法さえ覚えてしまえば必要なくなるらしい。

そう言われても、約90年間剣を振り続けた俺には少し物足りないので、無理言って子供用の木刀を買ってもらった。

やはり無心で剣を振る時間は心地いい。前世では辛く苦しかった剣術も、日課として行なっていると愛着が湧くものだ。

最初こそ掌をマメだらけにしたが、母親が魔法で治癒してくれる。魔法は傷や怪我を回復してくれるものの、体力だけは回復しないらしい。しかしそれは俺の体がまだ小さく、体力をつければ今までのように振り続けられると割り切ることができた。

体を動かすトレーニングの他にも、寝る前などには意識を集中しながらイメージトレーニングをしたりなど毎日が充実している。



そして俺は新しい人生に目標を持つことにした。友達を作ること、恋人を作ること、そして俺の両親のように暖かい家庭を作ることだ。

俺が2歳の時に妹が出来、家族はさらに賑やかになった。妹はそれはそれは可愛く、両親の手伝いも俺は率先して行っている。

妹が寝たりやる事がなくなればまた剣を振るう時間だ。


もちろん勉強も忘れてはいない。家には父親の書斎があり、魔法書から世界のことなど広く知識を深めて行く事ができた。

どうやらこの身体は非常に頭がいいらしい。いつもなら勉学など数分で根をあげる俺だったが、母親の熱心な教育もあり、文字を書いたり読んだり言葉も話すようになる事ができている。


「母上、今日はこの絵本を読んで欲しいです」

「あら? またこの絵本? ほんとフィルは英雄が好きね」

「はい! 悪の魔法使いを退治するのはかっこいいですから!」


俺はこの絵本が大好きだった。

ストーリーは超王道。正義のヒーローが悪の魔法使いを倒す話だ。

悪の住処を突き止めたヒーローは、仲間と一緒に悪の魔法使いを倒す。胸に剣を突き立てられた悪の魔法使いは、最後になにかを叫びながら滅び世界は平和を迎えるのだ。

もう自分でも読むことはできるが、母親の言葉に乗せられて聞く物語はまた違った心地よさを覚える。

一人で書斎にいるときは、難しい本も読むようにしていたが、両親の前では別だ。

まだ5歳の可愛い子供でいたい。




さらに5年の月日が経った。

この世界のことは、父親の書斎で大体把握できた。

火水氷木土雷風光闇無……魔法の属性だけでもこれだけある。さらに厄介なのは、この属性は一人につき多くても4種類までしか適用されない。

それだけでなく、適性があっても魔法センスが大事になる。センスがなければ使いこなすこともできず、種類が多くても器用貧乏になってしまう。

反面1属性しか使えなくても、センスが高ければ磨き続ける事が可能だ。

魔法には初級、中級、上級とランク分けされており、さらには幻想級や聖域級なども出てきた。さすがに頭のいい俺でも頭が痛くなる。

そして魔法には詠唱が必須だ。だがこの詠唱も熟練していくと短くすることも出来るらしい。中には無詠唱で魔法を唱える人物もいたらしく、賢者とも呼ばれていたそうだ。

俺は……どうなるのだろうか。


その反面、剣士などの物理攻撃主体の書物はほとんどなかった。

確かにこれだけ魔法が栄えていれば、物理攻撃をしようにも近づく前に魔法にやられてしまうのかもしれない。

両親の苦い顔の理由がようやくわかった。

しかし、それでも俺は鍛錬を辞めないだろう。これを辞めてしまったら、俺が俺でなくなる気がするのだ。

最近は今までよりも早く走れたり、素振りをしても疲れが来なくなり始めたのだ。

継続は力なり。


知識として手に入れたのはそれだけではない。どうやらこの世界には今までと同じように動物達もいるが、それだけではないのだ。

魔物と呼ばれる魔法を使う事ができる獣。その姿は獣だけにあらず、色んな生き物を模しているらしい……。

さらには知能が高く、人間を騙すようなモノまでいるとか。

しかしその魔物ですら料理などで出てくる所を見ると、動物達とあまり変わらなさそうだ。


さらに驚くのは、この世界に亜人が存在するらしい。詳しくは書いてなかったが、人間以外にも二足歩行で言葉を喋る生物が存在すると書いてある。

今では個体数が少ないのかあまり見ることはないそうで、噂では森の奥深くに集落を作って暮らしているらしい。

うちにも猫はいたが、さすがに喋ることはなかった。是非会ってみたいものだ。




「おにーちゃん、一緒に遊ぼうよー」

「あぁごめんマナ。今行くから待っててね」

「はーい!」


いつもの様に父親の書斎で本を読んでいると、妹のマナが迎えに来た。自慢じゃないが、マナは神童と呼ばれている。

俺は未だに魔法を出す事ができないが、マナはすでに魔法を使う事ができるのだ。

兄貴として少し引け目を感じてしまったが、可愛い妹のことだ。許してやろう。


裏庭のいつもの場所でマナと合流する。

遊ぶと言っても鬼ごっこやかくれんぼではない。マナは魔法の練習、俺は剣術の練習だ。

マナは『水球(ウォーターボール)』で俺に攻撃をし、俺はそれを木刀で叩き落とす。もちろん俺からマナを攻撃することはない。あくまでも魔法で襲われた時の対処としてだ。


「いくよー!」

「どんとこーい!」

「清くなだらかな姿を表し、美しい球体となり眼前へ弾け飛べ。『水球(ウォーターボール)』」


マナの周りに3〜4個の水球が浮かび上がる。大きさは拳大ぐらいで、放たれたそれを俺が交わしながら木刀で叩いて行く。

避けた水球も俺を追尾するように動いてくるので、速さなどを考慮しながら順番に叩き落とさなければ、俺が水浸しになってしまうのだ。

最後の水球を叩き落とすと、次の魔法へと構え直す。


「おにーちゃん、めんどくさいよー」

「あぁ、今なら誰もいないし……いつものでもいいよ」

「わーい! それじゃいくよ? 『水球(ウォーターボール)』」


妹のマナが神童と呼ばれるのはこれだ。無詠唱で魔法を放つ事ができるのだ。

最初に見せられた時は両親も驚きのあまり無言になってしまい、慌てて今後は見せないようにと忠告してきたぐらいだ。

なんでも順番を踏んで行かないと、魔法の成長がとまってしまうとかなんとか……まぁあまり目立ちたがらない親のことだ。無詠唱で魔法が使えるとかなんか大騒ぎになっても嫌なんだろう。

その点俺はいっさい魔法が使えないけどな!


だんだんとマナの魔法のスピードが上がってくる。俺もエンジンがかかっていい感じに動けるようになってきた。

今日はもしかしたら記録更新も狙えるかもしれない……そう思っていると、家の玄関門あたりから大きな声が聞こえてきた。


「おーい! フィル、マナ! 一度家の中に戻りなさーい!」

「「はーい!」」


父親のシモンだ。まだ日も落ちかけているぐらいの時間に帰ってくるのは珍しい。

この時間なら森で村の住人達と狩りをしているはずだが、大量に確保出来たのだろうか。

俺たちは練習を中止すると、そのまま家へと戻った。

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