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「はぁ」
思わずため息が漏れる。私は、憂鬱な気分で学校への道を歩いている。私のため息に周りの人たちが心配そうな顔をしてちらちらこちらを見てくる。
結局、昨日のラインは既読だけ付いたまま返信は全く帰ってこなかった。個人的にはブロックされたのではないか、と思い始めている。
「なんで私のこときらいなんだろう……」
考えても思い当たる節はない。ていうか、まず、昨日まで話す機会もほとんどなかった。
「はぁ」
またため息が出る。登校の時間だけでかなり老けてしまいそうだ。
◆
沈んだ気持ちで歩いているうちに、学校に着いた。靴箱で上靴に履き替える。
「お前もどう森買えよ~」
「いや」
「えぇ~。なんでだよ~。今までの『とびだせ童貞の森』もよかったけど『あつまれ童貞の森』はたくさんの人が俺の部屋に来てくれて……」
「いや」
「ちぇ。良いのにな……ていうか、お前ゲーム自体あんまりしないよな……」
月野くんだ。水野くんと話しながら靴をはきかえ始めた。
私は、声が聞こえた時に思わず靴箱の陰に隠れてしまった。隠れずに話しかけた方が良いのでは、と思う。これでは、いつまでたっても仲良くなれない。私は少し悩んだ末に話しかけることを決めた。
私は制服にしわが寄っていないか確認して、自然を装って二人に声をかける。
「おはよう。月野くん」
「あ! おはようございます」
「……」
水野くんが敬礼をしながら挨拶をしてくる。月野くんは無反応。……っていうよりも、眠そう。目がほとんど開いてない。
「あぁ、気にしないでください。こいつ朝はテンション低いんで」
「そうなの?」
私の様子を見た水野君がフォローを入れてくれる。
少しほっとする。私の時だけじゃないということで救われた。
「はい。今日は特にひどいですけど、いつもテンション低いです。さっき寝ぼけて、俺の頭を妹と間違えて撫でてきて……」
「ふふふ」
想像して思わず笑いが漏れる。
「ちょっと、されてみたいかも……」
そう誰にも聞こえないくらいの声で呟いていると、急に月野くんが近づいてきた。
「よしよし」
「……ふぇっ⁉︎」
と思ったら、急に頭をなでてきた。
思わず変な声がでる。
「……美夜もお兄ちゃん離れしような……」
顔が赤くなるのを感じる。
月野くんのの顔を見あげるとほとんど瞼が落ちている。寝ぼけているっぽい。
それにしても、思ったより背が高いんだな……170後半はあるかな? とか思っていると、
「おい! かげ! 寝ぼけてんなよ!」
と水野くんが月野くんの手を掴んで言った。
月野くんの手が離れる。
ちょっとながら惜しいと思っている自分がいるのはなんでだろう。
でも、びっくりした。私の呟いた声が聞こえていたのかと思った。
「まったく……ひかりちゃんになんてことを……ファンクラブの幹部に見られてたらどうなることか……」
水野くんが聞き取れないくらい小さな声でぶつぶつ言っている。
「日野さん。すみません急に。わざとじゃないんで、許してやってください」
頭を下げて謝ってきた水野くんに私は「全然良いよ」と言う。そうは言ったものの、まだ頭がふわふわする。そして、ヨロヨロしながら歩く月野くんを水野くんが「ほら!」といって教室まで引っ張っていくのをぼーっと見ていた。
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