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「お前、ラッキーだよな」
「何が?」
高校に着き、上靴にはきかえようとしていた月野 影は、友人である水野 優に話しかけられて答えた。優は、相変わらず髪を逆立て、まだ5月だというのに額にうっすらと汗が浮かんでいる。
「何がって……あの光ちゃんの隣の席なんだろ?」
「そうらしいね」
僕はそれだけ言って教室の方へ歩き出す。
「……何でそんな平常運転なんだよ? 光ちゃんだぜ? この学校のアイドル。あの子から繰り出される笑顔に悩殺され、告白し玉砕した奴は数知れず。彼女のファンクラブにはこの学校の生徒、先生だけでなく、あの大物政治家までが入っている……」
優は僕を追いかけてきて、大袈裟な身ぶり手振りをつけて話してくる。
まぁ、優が言っていることはほとんどあっているのだろう。大物政治家とかいうのは嘘だろうが。
日野 光。同じ雲ヶ原高校2年生にして、学校の絶対的アイドル。昨日執り行われた席替えで僕は彼女の隣の席を割り当てられたのだ。
「そうらしいね」
だが、そんなこと大して興味はない。
「なんだよその反応……そんな子の隣の席なんだぜ? もう少し喜べよ」
「そう言われてもなぁ……誰が隣でも変わらないし……」
僕は無難に学校生活を送れればそれで満足なんだ。
「全く……この無気力男は……」
優に呆れた顔をされた。とにかく言っていることが間違っているから訂正しておく。
「無気力ではないよ。楽に過ごしたいだけ」
「へいへい、そうですか。どっちにしろ反応が薄いことにはかわりないな」
優は適当に流すと、少し嫌みっぽく言ってくる。
「朝だしこんなもんじゃない? 逆に朝からテンション高い優が異常なんだよ」
優が僕の反論を無視し、「光ちゃんの隣の席、楽しめよ」と背中をバンバン叩いてくるうちに教室に着いた。
教室に入ると、廊下側の一番後ろにある自分の席に座り一息入れる。そうして、落ち着いたところで鞄から本を取り出す。朝の読書の時間だ。最近はこの時間がないとなんだか落ち着かない。
優はもうすでに他のクラスメイトと楽しそうに話をしている。
僕は本を開きそこに目をおとす。
「おはよ」
近くで声が聞こえたが、本を読み進める。
「おはよ」
また、同じ声だ。少し目線を上げ、声がした方向を見る。声は隣の席から聞こえてきていた。
「おはよう。月野くん」
彼女は、鞄を机の横に掛けてもう一度そう言った。
「僕?」
「月野くんはこのクラスに一人だけだよ」
尋ねると、声の主、日野 光はおかしそうにクスクスと笑った。
日野さんとははじめて話したが、確かに可愛い。透き通るような大きな目、筋の通った鼻、そしてちょこんとした口。それらが小さな顔に収まり、クスクス笑うたびに肩の辺りできれいに切り揃えた髪がさらさらとゆれる。
「確かにね」
誰かが読書モードの僕に話しかけてくるなんて珍しい。まぁ、挨拶だしな、と思って僕も「おはよう」と返す。そして、すぐに本に目をおとす。本の続きが気になる。
隣から、「え、それだけ?」とか言う声が聞こえた気もしたのだが気のせいだろう。
どうもおっすです。
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