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おっぱい算

 ユラの弟のアイに勉強を教えながらだが、先程の光景が目から離れない。

 白い肌は男の物とは明らかに違ってすべすべとしていそうで、柔らかいのが見ただけで分かる。


 ぼうっとしていると、アイに手を引かれる。


「イクにい。この問題が分からないんだけど」

「えー、なになに。『鶴と亀が合わせてで14匹いました。足の数は合計で42本です。鶴と亀、それぞれの数を答えてください。』か。そんなに難しく考えなくていいんだよ」


 解き方の手順をおしえようとすると、アイは首を横に振る。


「どうしてもダメなんだ。興味が持てないよ。だって鶴と亀に興味がないもん」

「興味がないって言ってもなぁ。好きなものに言い換えるか? 何か好きなものを言ってみな」

「おっぱい」


 それはみんな好きだ。


「じゃあ、牛は乳が四つあるだろ。 それで人間は二つだ」

「でも、ユラねえにはないよ?」

「二つある奴が多いだろ?」

「うん。なるほど、興味が出てきたよ」


 解決したか。楽しそうに鶴を巨乳のお姉さんに、亀を牛に書き換え、足をおっぱいに書き換えて、取り掛かる。

 俺も宿題をしていると、アイがまたこちらを見てくる。


「どうしようイクにい。興味はめちゃくちゃあるのに解き方が分からないよ!」


 そりゃそうである。ちゃんと教えた方がいいか。


「こういうのはまず、脚の数を多い方から少ない方を引くだろ」

「おっぱいね」

「ああ、おっぱいの多い方から少ない方を引くだろ」

「でもイクにい。巨乳のお姉さんのおっぱいにユラねえのおっぱいを引いても何も変わらないと思うんだ」

「大きさじゃなくて数を引くんだよ」


 アイは「4-0=4」と書き込んだ。


「ユラの胸は一度置いとけ」

「イクにいが喜ぶかと思って」

「黙れマセガキ」


 アイは「4-2=」と書き込んでから俺を見る。


「おっぱいを引くのってもったいなくない?」

「虚構のおっぱいに執着を見せるな。さっさと引け」


 渋々おっぱいを引いたアイは首を傾げる。


「これからどうするの?」

「牛とお姉さんの合計の数字から」

「巨乳のお姉さんね」

「牛と巨乳のお姉さんの数の合計にお姉さんの足の数を掛けるだろ」

「おっぱいね」

「いいから計算しろ」


 アイは「14×2=28」と書き込む。


「それで足の合計……おっぱいの合計の数からその数字を引いて」

「うん14おっぱいだね」

「その数字に、最初のおっぱいの差を割る。それが巨乳のお姉さんの数だ」

「すごい! 7人も巨乳のお姉さんが!」

「よかったな。次の問題も同じように解け」

「えーっと、たかしくんは時速4おっぱい……?」

「おっぱいから離れろ」


 あまり自分の勉強が進まないことに顔をしかめながらアイに勉強を教えていると、いつの間にか後ろに立っていたユラが、トン、と俺とアイの前に麦茶を置いてからすぐに離れる。


「……僕、おっぱいがなくて悪かったね」


 パタン、と扉が閉められる。

 急いで追いかけようとした俺に、アイが言う。


「全く、イクにいがおっぱい弄りばっかりするからユラねえが怒っちゃったよ」

「いや、完全に弄ってたのはお前一人だけだろ」

「人聞き悪いよイクにい。姉のおっぱいなんて弄らないよ。イクにいはよく弄ってるだろうけど」

「人聞き悪いのはお前の方だ。ユラのおっぱいを弄ってるみたいな言いがかりはよせ」

「いや、弄ってるでしょ。むしろユラねえの部屋に入って、寝てるユラねえ相手に十分も何をしてたって言うんだよ! おっぱい弄ってたんでしょ!」


 反論しようとしたが「パンツをガン見していただけだ!」とは言いがたいし、起こすこともせずに何もしていなかったとも言いにくい。


「あ、あれだ。勉強を教えるところの予習をするためにだな。先に宿題を」

「僕の部屋にきたとき、随分キリがいいところで終わったんだね」

「……いや、本当に何もしてないからな?」


 パンツをガン見していただけで、指一本触れていない。

 くそ、パンツに見惚れてしまっていたばっかりに!


「ということで、僕はユラねえにそのことを告発して許してもらう!」

「待て! アイ!」


 部屋から出ていったアイを追いかけてユラの部屋に入る。

 むっつりとした表情を一瞬だけ俺に見せて、ユラは携帯ゲームに視線を戻す。


「ユラねえ! 全部、イクにいが悪いんだ! イクにいがユラねえの部屋に忍び込んで変なことをした挙句、あんな風に言って!」

「嘘をつくなアイ!」


 ユラはこちらに顔を向けて、アイに言う。


「んぅ、別に何もされてないよ。アイが変なことばかり言ってるのを否定してくれなかったから怒ってるだけで」

「なっ! じゃあ、なんで十分もの間出てこなかったんだよ!」

「僕が朝弱いから、身体起こすのをの待っててくれてただけだよ」


 ユラの言葉に、背筋から冷や汗がダラダラと流れていく。

 胸を触るなどの悪戯をしていないことが証明されて安心、という感情を遥かに超える危機感。


 身体を動かしていなかっただけで起きていた。ということになる。

 起きていたということは、俺がユラのパンツや脚の付け根を凝視していたこともすっかりバレてしまっていたことになる。


「くっ! くそっ!」


 アイは逃げるように去っていく。俺はあまりの気まずさに逃げかえろうとして、ユラに服の裾を掴まれて引き止められる。


「……いつから起きてたんだ」

「んぅ、扉を開けた辺りかなぁ。眠かったけど、起きようと頑張ってたの」


 そういえば寝返りを打っていたな。と思い出す。

 というか、始めからである。年頃の男が、自分の下着をガン見しているのに寝っぱなしということがあり得ると思っておらず、誰にも見られていないからと調子に乗ってめちゃくちゃ見てしまっていた。


「んぅ……イクセくんって、けっこうえっちだよね」


 気がついていたなら隠せよ。そりゃ男なんだから見るだろ、普通は。


「……隠せよ」

「眠たかったから。あんなにジッと見られたら恥ずかしいけど、仕方ないかなぁって」

「そもそも、なんで下を履いてなかったんだ」

「……暑いから?」

「お前の部屋の室温は年中同じだろ」


 ユラは掴んでいた俺の服を離して、薄手の寝巻きに包まれた身体を恥ずかしそうにくねりと動かす。その仕草に女性らしいしなを感じ、少しだけ見惚れてしまう。


「んぅ……き、きのう」

「昨日?」

「……でれでれ、してたから。他の女の子に」

「何がだ?」

「イクセくんが、電話してたときに……」


 ユラは恥ずかしそうに言いながら、俺から少し離れる。


「あの子スカート短かった」

「普通だろ。俺もデレデレもしてないしな」


 膝が見える程度の丈なので、むしろ少し長いぐらいだろう。もっと短いスカートの女子生徒などいくらでもいる。

 そういえば、中学の時の引きこもる前のユラはスカートも長かったし、その下にも何か履いていたな。


「……丈が短い方が、僕の方を見てくれるかなって」

「変なことばかりするなよ」

「実際に見てくれたし」


 めちゃくちゃ見たけども。

 ため息をついて、一度アイの部屋に戻って勉強道具を取ってくる。


 不安そうにしているユラの前で、机の上に本を並べる。


「別に引きこもってるからって見捨てたりはしねえよ」

「んぅ……パンツ見たいから?」

「パンツ見えなくてもだ。俺がお前のパンツを見るためだけにここに来ていると思うなよ」


 ユラは俺の隣に座り、シャーペンをカチカチと鳴らした。


「……『見るためだけ』じゃないって」

「ああ」

「『だけ』ではない……」


 完全に失言だった。これではパンツを見るためなのがメインの理由のようになってしまっている。


「い、いや、メインはお前が引きこもりじゃなくなるためだからな」

「『メインは』」


 それではサブの理由がパンツを見るためみたいである。

 横からユラにジッと見られる。整った可愛らしい顔から目を反対方向に背けて、トントンと、机の上に置いた手の人差し指で、教科書を突いた。


「……宿題やるぞ」


 ユラは俺の服の裾をちょんとつまみ、頰を緩ませるように微笑む。


「しょうがない人だなぁ」


 それはこっちのセリフだ。そう思いながら宿題に取り掛かった。

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