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 携帯端末を弄って、ユラに電話をかける。

 ホーム画面がいつのまにかユラの顔写真に変えられていたが、ホーム画面の変更方法が分からないので諦めてそのままだ。


 可愛らしいとは思うけれど、学校の友人に見られたら何と言ったらいいか。


 ため息をついていると、電話が通じる。


『んぅ、もしもし、イクセくん?』

「ああ、とりあえず始めるぞ。ビデオ通話にするから、一応そっちの様子が見えないようにはするけど、服の胸元は隠して、カメラのところに黒いテープでも貼ってろよ?」

『んぅ、分かってるよぅ。イクセくんったら独占欲強いんだから』

「……お前な」


 引きこもる前は、俺以外の男には人並み以上に羞恥心が強かったので、あまり強く注意する必要はないだろう。


 ゲームを立ち上げて眼鏡をかけ……と思ったが、よく考えたらこれではユラがゲーム画面の方を見えないのではないだろうか。

 何もないところで俺がわやくちゃ言うだけの通話になりそうだ。

 かと言って、携帯端末のカメラに眼鏡を掛けさせても焦点が上手く合わないだろうし、何より俺がプレイ出来ない。


『あれ? そういえば、実況プレイしてる人はどうやってるんだろ』

「……とりあえず、今日のところは諦めるか」

『くっ、引きこもりながらARゲームをするのはやはり無理があったのか!』

「やり方調べてから、また明日そっちに行くから」

『宿題もしなきゃだから、早めにね』

「宿題くらい一人でしろ」

『寝起きの僕が見れるチャンスだよ? 僕のことが大好きなイクセくんにはたまらないでしょ』

「だいたいいつも寝起きだろお前」


 何の希少価値もない。

 むしろ、シャキッと起きているユラを久しぶりに見てみたいぐらいだ。

 ユラは引きこもる前からダラダラとしているやつで、昔から眠たそうな顔と寝顔以外見れたことがない。……いや、泣き顔も見たことがあるか。


『……? んぅ、どうしたの?』

「いや、何でもない。知り合いが前にいたから見ていただけだ」


 少し遠くに、俺が通っていて、ユラが籍だけ置いている高校の夏服を着た少女が、パタパタと早足で寄ってきていた。

 クラスメイトで、確か名前は品井だったはずだ。


「奇遇だね神林くん。家、この近くなの?」

「ああ」


 電話から口を離して答える。

 学校で一番可愛いなどと、何人かが話していたことを思い出して、世間話をしながら彼女の顔を見る。


「どうしたの? 顔に何かついてる?」


 首を傾げた彼女は、確かに顔立ちも整っている方だし、そこそこ可愛らしいのだろうが……。ユラと話したばかりのため、特別に可愛いとは思い難く、普通にしか見えない。


「いや、そういえば品井は部活とかやってないんだな」

「うん。そうだけど、どうしたの? 遊びのお誘い?」

「少し気になっただけだ」


 ユラが学校に来られるようになったら、部活とかやりたがるかもしれない。今は俺も入っていないが、ユラが安心して過ごせそうな部活ぐらいは探していてもいいかもしれない。


「そっかー、残念」


 にこりと笑った品井と別れて電話を耳に当てると、不貞腐れたようなユラの声が聞こえる。


『……随分と楽しそうだったね』

「そうでもないだろ」

『顔がにやけてた』

「クラスメイト相手に仏頂面で話したりする方がおかしいだろ」

『……うん』


 話しながら帰宅して、明日ユラに教える予定の部分を予習しておく。

 机の上に置いてあるARゲーム用の眼鏡を見て、ため息を吐く。


「ユラが使う用にもう一個買っておくか」


 少し前にしていた短期バイトの給料が、まだ残っていたはずだ。

 今持っている眼鏡は、おじさんが適当に購入したからか俺の顔のサイズにぴったりなので、顔の小さなユラには大きすぎるだろう。


 ネットで検索すると大きさだけでなくデザイン、それに近眼や老眼用なども色々あるようだったので、ユラの顔の大きさに合った、彼女が好きそうなデザインのものを選んで購入する。


 最近、ユラに構いすぎているような気もする。自分のこともちゃんとしなければ……といっても、これといって趣味があるわけではない。

 おおよそ、ユラに構ってやるのが日課でそれ以上は勉強ぐらいしか時間を使えていない。


 頭をガリガリと掻き、ゲーム機を手に取って立ち上がる。少し、このゲームをやってみるか。


 薄暗くなってきた外に出てパスワードを口にしながら眼鏡を装着する。

 すぐにルフを呼び出し、メニューからマニュアルを読んでいく。


 多くの多人数用ゲームがそうであるように、「魔王を倒す」みたいな具体的な目標はなく、自分で何を目標にするかを決めていくようだ。


 他の人のモンスターと戦ってプレイヤーランキングを上げたり、野生のモンスターを仲間にしてモンスターを増やしたり、単純にペットのように扱ったり、考えていけばいくらでもある。


 確かに、まるで本物の動物のように動いているルフを見ていると、ペットのように扱うのも面白いかもしれない。


 俺の周りを「ぐるる」と唸りながら歩いているルフに手を伸ばし、撫でようとするが当然すり抜けて、空を切る。

 その手でそのまま髪をかきあげて、息を吐き出す。


「やるか」


 いつも見ているはずの景色にゲームの存在であるモンスターがいるという状況は、ほんの少し面白い。

 地面を蹴って俺の周りを動くルフを連れて、適当に道を歩いていく。


 マニュアルによると、街中にも野生のモンスターが出現するらしい。モンスターの種族ごとに決められた生態に沿って動くようで、夜行性と昼行性、人の多い場所に寄ってくる、少ない場所に集まる、と、細かく決まっているようだ。


 少し歩いていると、夕方だというのに不自然に蝶が飛んでいることに気がつく。

 アゲハ蝶に似ているが、少し大きく、模様も若干違う。


 まさかと思って眼鏡をずらして裸眼で見ると、そこに蝶はいない。


「これもモンスターなのか」


 戦闘になるのかと思ったが、蝶はずっとヒラヒラと飛んでいるだけで、ルフも気にした様子すらなく歩いている。


「おい、いけよ犬」

『くぅん?』


 ルフは首を傾げて俺を見る。「くぅん?」じゃねえよ。

 確か犬と同じ程度の知能しかないルフでは、この言葉の意味が分からないのだろう。


 指をさして示すが、それでも蝶に反応がいかない。

 マニュアルを読んでみると、個体によって性格があり襲われでもしない限りは襲わなかったり、小型のモンスターには反応しないなどあるらしい。


 それに、モンスターを倒せばレベルが上がるというものではなく、訓練をするなりそれっぽいことをしたらステータスが上がるようなので、訓練にもならない弱いモンスターは倒す意味もなさそうだ。


 どうしたものかと思って蝶を見ていると、一瞬、黒い影が映って蝶の姿が消える。

 バッとそちらを向けば、赤いカラスのような生物が電柱の上で蝶を咥えながらこちらを威嚇していた。


 ルフの唸り声を聞く。


 マニュアルもまだ読み込んでいないのに。俺がそう思う中、急に戦闘が始まった。

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