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機装士  作者: ナルヴィク
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 そこは本来であるらならば青々とした緑が生い茂る森であった。

 様々な昆虫や動物などが住み、生命あふれるばしょであった。

 だが――現在は一切の命の鼓動を感じられない。

 月明かりに照らされているそこは――まるで荒野の如く――あらゆるモノが枯死していた。

 枝いっぱいに葉をつけた木々は根元から枯れ朽ち、そこに住んでいたあらゆる生命が地面へと落ち、まるでミイラの様に干乾びている。地面でさえもが砂漠の様な有様へと変化していた。

 灰色の――死の世界。

 見るからに死が十万したこの空間には、生命そのものを拒絶する何かがあった。命あるものを遠ざける、意思に近い何かが。

「ひっく……ひっく……」

 ――だからこそ、その二人は異様だった。

 二人は、子供であった。

 一人は女の子だ。何かから逃げてきたのかの様に体のあちこちに泥をつけて、膝にはすり傷がある。

 その女の子の手前……そこにもう一人、男の子が倒れていた。

 こちらもあちこちに泥をつけている。

 だがそれだけではない。

 ――斜めに奔る大きな傷と大量の血の染み。

 染みは子供の胸全体にあり、この出血では生きていないだろう。

「やだ……ひっく……こんなのやだよぉ……」

 女の子は嗚咽を漏らす。

 懇願する様に。

 懺悔するように。

 女の子は――何時までも泣き続けていた。



 その日――慶介はいつも通りに自宅へと帰宅していた。

 定時では片付かないので残業をして、帰りにコンビニで缶ビールを買って帰る。

 十時には家に着き、家に帰ればラップの掛かった晩御飯が用意してある――そんな当たり前の、普段と変わらない日であった筈であった。

「――――」

 だから――目の前の光景は意味が解らなかった。

 少なくとも、朝は普段と変わらない日だった。

 だが今の家の様子はどうだ。

 慶介の前に見えるのはどれもこれもが壊れ、原型を留めていない荒らされた部屋があるばかりであった。

 壊れたテレビ。

 砕けたテーブル。

 床に散らばった料理と足跡の様な黒い汚れ。

 他にも花瓶や、飾ってあった物が床に落ち、まるで何か大きな地震にでもあったかの様な有様であった。

「な、なんだ……これ……」

 呟き、慶介の手からコンビニの袋とバックが落ちる。

 自然と体が震えながら、慶介は中に入る。

 慶介はやけに大きく響く心臓の音を聞きならが、大きなハンマーで叩いたのか、真ん中から砕け散ったテーブルや、辺りに散らばった料理を避けて進む。

「……本当、何があったんだ?」

 尋常の有様ではない。

 足跡の様なモノがあることから、何かが入ったというのは分かるが……それにしても不可解だ。それこそ強盗がたとえ入ったとしても今の部屋の様にはなりはしないだろう。

「なんだ……?」

 慶介が慎重に進むと――それはあった。

 それは見た目は枯れ木の様なモノだった。

 水分という水分を吸い取られ、カサカサになっている。触れればすぐさま壊れてしまうだろう。

 慶介はそれを訝しげに見る。

 家に今までこんなモノは無かった。

 だが――それを良く観て慶介は「ひっ――」と小さく悲鳴を上げた。

 それは……良く観ると人の形をしていた。あらゆる部分が細くなり、片腕が肩から千切れ、脚の部分も外れていたりして解らなかったのだが、紛れも無く人であった。

 一体何がこの人物の身に起こったというのか。

 人がこの様な有様になるなど、尋常ではない。

 その上――この様な有様であるにもはっきりと分かるほどに、顔は今にも悲鳴が聞こえてきそうな程に歪んでいる。

 慶介はその良く分からない人物の顔を見て恐怖のあまり脚から力が抜け、後ろに倒れこんだ。

 まさか――そんな――!

 人物――それは自分の妻である美咲の顔であった。

「――――!」

 なんだ――なんなんだよォ! あれは!

 あまりにも異様な姿の妻の姿を見て、声が出ず、内心で恐怖の声を上げながら後ろへと下がる。

 少なくとも、朝はこの様な姿ではなかった。何時も通りに元気であった。

 ならば――どうしてああなったのか。

 普通ではない。例え何かしらの病気であろうともあのような枯れ果てた姿になどにはならない。しかも顔にはまるで何か恐ろしい者にあったかのような恐怖の表情が張り付いている。

 不可解である。少なくとも慶介はあのような姿の死にざまは知らなかった。

「ひ、ひぃ――」

 呼吸がままらないまま、慶介はただただ、この場から離れようとする。

 そしてリビングから出たとき――ソレと眼があった。

「――――」

 ソレは――黒い人形の何かであった。

 全身がタールの様に黒く、時折良く分からない音と共に泡ができ、弾けて体が波打っている。顔がある部分には目も鼻も口も無く、のっぺりとしていた。

「な、なん、なん――」

 なんなんだ――そう言おうとするも口が回らず、慶介は泣きながら黒い人形を見る。

 黒い人形はそんな慶介を気にした様子も無く、慶介に近づく。

 黒い人形が一歩進める毎に泡が弾け、音が漏れる。

 慶介は近づく黒い人形から逃げようとして――

「――――!」

 断末魔の様な声と共に目の前が真っ暗になった。

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