剣の石 -2-
『俺』の村は、ある程度の歳にならないと名前がない
剣の腕を磨いて、良い名前をもらうために、剣で人を護るために、『俺』の修行がはじまる
俺は、いつも通り裏山へいく
15分くらい登ると、少し大きな建物がいくつか見える広場に出る
広い庭みたいなところでは、重い荷物を背負って、走っている従兄弟たちや、近所の元気な子供たちがいる
一番山肌沿いに建てられた、一件の建物に近づくと、木が当たる音がたくさん聞こえる
木剣の打ち合いだ
街や都の方から、剣術の先生が来ることもあるが、ほとんどは村の『老一』から『老十』が教えてくれる
10部屋ほどの広い練習場と、30ほどの小部屋がある大きい建物だ
火を炊いて、調理できる場所や、いろんな武器、武具が置いてある部屋もある(ここは鍵が付いていて、俺のような子供は入らせてもらえないが、何回かは大人について行って、入らせてもらったことがある)
今日は、いつもよりは木剣の音は少ない
東の海の方に少し離れた大きな街に、新しい丞(群の長官)になった人が、親父の古い知り合いだからとか言って、挨拶に来るからだ
子貢?とか、君貢?とかなんとかって、人だ
子供が3人居て、まだ小さいけど連れてくるとか来ないとか
ウチに一番近い、大きな街は、少し南に向かったところのボクヨウとかって言うらしいんだけど、そこではないみたい
ウチの一族は、4代くらい前のじいちゃんと、その家族や友達で、5000人くらいの軍の襲撃を、ボクヨウって街で防いだから、とかいってこの辺りの土地をもらって住んでいるらしい
街の偉い人やら、軍人にもならないか、って誘われたけど、断ったらしい
その会った事もない、じいちゃんは、軍人ではなく、武人として自分の知っている人を護りたい、とよく言っていたそうだ
それで、少し名誉を得て、有名になって、土地も貰えたから、そのじいちゃんは、一族を剣術で護るための訓練場を作って、友達や家族と修練を積み始めたんだ、って親父が言っていた
そのわりには、この、裏山の建物は、えらい気合が入っている気がするけどね
改造を続けていけば、山の要塞にもなるんじゃないかな
ちょっと離れたところに、黄色に濁って見える、大きな河もあるから、地形的には護りやすい土地だ、とか親父も言っていたし
(これは、裏山の事じゃなくて、この辺りの土地全体の事だとは思うけれども)
だから、ウチの村は、男全員、ここで訓練を受ける
剣に依って、自分の大切な人を護るため
一番上の兄ちゃんみたいに、剣から離れていく人だって、少しは居るけれど
親父は一番上の兄ちゃんのことを、『アイツみたいに、他の村や街の奴らと、対等に話せる小生意気なやつも、絶対に必要なんだ』って言ってるから、きっと良いんだと思う
都から来る、剣術の先生や元・近衛兵とかもみんな、ここの訓練が変わっているって言うんだ
古い鎧とかを着て、重い状態で、しかも木剣に石をつけて剣を朝から昼まで振り回したりするし
迷路みたいになっている部屋で、不意打ちをする練習や、不意打ちを防ぐ練習もするんだ
なんだか遊びみたいなんだけど、30歳くらいまでのおっさんたちも一緒にやるから、あんまりふざけてやれないんだよね
大人たちは、交代で仕事もしている
基本的にみんな、野菜を作っている農民だ
2日に一遍くらい、訓練してる
子供たちは、遊びながら、ほとんど毎日ここに居る
10歳を超えると、ここを造ったじいさんや、その友達、弟子たちなんかが考え出した、護るための剣の使い方なんかを、しっかり教えてくれる
でも、そんなこと、聞かなくっても毎日大人の剣の使い方を見ていれば、どの使い方が一番早いか、とか自分に合った動きとかを、なんとなく自分のモノにしていく子供も多い
最近は、親父の剣からどうやって仲間を護るか、頭の中で良く考える
とはいえ、訓練の基本は、力の増強と、それに伴う剣の振りの速さ
そして、足の速さだ
都の先生が見せてくれた打ち込みの強さや速さもかっこいいけれど、俺たちの村の修練は、打ち込みの練習というよりは、どれだけ長く休まずに剣を速く振り続けられるか、とか、兄ちゃんたちが打ち合っている中をどれだけ早く5往復できるか、といった止まらない練習が多い
洛陽とかの先生は、形や動きがきれいだけど隙が多いんじゃないか、って思うんだ
親父の知り合いの子貢さんが来る日、『俺』は、4つ年上の『小牛』という乱暴なやつとぶつかることになる