剣の石 -1-
回転を続ける、石
それは、いろいろな景色な中、自分自身の形を変えながら、進み続ける
-転石苔を生さず-
時代遅れにならず、常に進化変化を続けるという事
人は皆、成長する
それが惰性で行われるもの、意識的に行われるもの、様々だが
赤子は成長して大人になり、話せなかった言語を話すようになり、使えなかった道具を使えるようになる
時として、人は、ある分野での成長を、一つの家族、一つのグループ、一つの社会で共に努力しようとする
脈々と続く、家族、一族、社会が、腕を磨き、技術を改良し、オキテと共にそれを深化させていくのだ
時に、製造
時に、剣術
時に、掘削術
時に、魔法
時に、暗殺
時に、芸術、と
世界には、様々な『石』がある
それは、磨けば光る『石』であり、磨いて光った『意志』であり、先祖から代々受け継がれてきた『遺志』である
そして、世界は回り続ける
人は、古来より、争い続けている
争うための技術も、基本的に進化、深化し続けている
拳での殴り合いから、打撃武器へと、そして剣や槍と言った武器へと変わっていった
近代は、拳銃や狙撃銃と言った火器へも分岐、進化している
今までの人の記録の中に置いて、圧倒的な長さ、その技術の進化と深化を誇ったのは、剣術ではないだろうか
流派、用法のみならず、ツルギそのものの形も千差万別
より強く、より速く、或いは、より多くを倒す、より速く殺す、より多くを護る、より傷つけずに無力化する、などをソレゾレが、弟子や家族のいる限り、一子相伝、口伝、免許皆伝、一族のオキテなどという形で、伝え、より深化させてきた
剣という石に託した、人々の様々な意志を、その意思の変遷を感じることができる
***********************
その地方ではそのころ、よっぽどの偉い人でもない限り、子供に、将来を考えて意味のある名前をつけるような風習はなかった
きっと、後代の歴史家は、病気ではやくに子供が死ぬことが多く、名前を付けても悲しみが増すだけ、と感じたのだろう、とか理由づけをするのだろうが、当の本人たちは理由なぞ、どうでも良かった
周りがそうしているので、そうする
面倒だし、変わった家族だと思われたくないから、そうする
たいていは、雨の日に生まれたら、雨
1人目だから、一
大きな子供だから、大
あまり泣かないから、影
などという、適当な由来だ
数えの12歳を過ぎて、村の外に出るころ、本人が自分の名前を勝手に変えて名乗ったり、親が呼び方を変えたりする、そんな地方だった
なんでも、近くの町や村からは昔のえらい、兵法の本を書いた人が出たり、徳ら礼について人々に教えたりした人が出たりで、結構、志をたてて、有名になろうとする人が多かった
近所の村から、ものを売りに来る商人のオッチャンや、たまに街から家族で釣りや散策に遊びに来るお坊ちゃんたちは、なんだか勉強好きで、人とはこうあるべきだ、なんてことを話して盛り上がっていたりする
俺の親父は、老五ってみんなに呼ばれている
じいちゃんの話だと、生まれてから10歳までの名前は、ネズミだったらしいけど
親父は、13人兄弟の4番目だ
逢ったことのない、叔父や叔母が何人かいる
ウチは、4代くらい前のじいちゃんが、戦争で活躍したとかで、農民なんだけど、それなりの屋敷に住んでいるうえに、商売をしたり、近所の5つくらいの村の合同自警団のリーダーみたいな事もやっている
親父や、親せきの叔父さんたちなんかは、ときどきフラッと山賊退治に出かけたりする
なんか、頼まれてやってるらしいが、頼まれているのを見たこともないし、品の良いお客や役人が家に来ると、俺たち子どもは、裏山の大きな建物に行かされてしまうから、よくわからない
あぁ、俺の事も知っておいてもらおうか
この家の4男坊で、カラスって呼ばれてる
生まれた時に、黒かったらしい
この名前が気に入ってないわけじゃないんだけど、俺は親父以上に強くなりたいから、目指すは『老一』だな
今年、9歳になったから、そろそろどうするかを考えている
1番上の兄さんは、18歳で、将来は村の代表になりたいそうだ
どうも裏山の仲間の中では、うまくいってないというか、物売りのおっさんや役人なんかと話し込む方が好きみたいだ
2番目の兄さんは、もうすぐ15歳、親せきから『四十五』って呼ばれている
もともとは、体がでかいから『樹木』って呼ばれてたんだけど、この前おじさん達と試合して『四十五』になった
3番目の兄さんは、11歳だけど俺とあんまり背も変わらないし、あまりしゃべらない
が、足が速いし、馬に乗るのも上手だ
親せきからは、『五十下』って言われて、俺とおなじ
自分では、生まれた日のせいで付けられた『霧』が気に入っているらしいけど
最近、『五十下』って言われると、『うるさい!おれは霧だ!』ってよく言ってる
弟があと2人いるけど6人とも元気だ
さて、今日も裏山に行くかな