初めての家出旅
まだ序章です
現在時刻は13時過ぎ、家出からかれこれ10時間近くが経過して、ようやく大きな街にたどり着いた。
正直かなり飛ばしてきたつもりなんだけどなあ。
ちなみに、国境を越えてます。
「あのー、すみません。ヤララル街の方に入りたいんですけど...。」
門の前に立つ兵士のおっさんは、あくびを隠すことなく面倒くさそうに言う。
「あー、はいはい。んじゃ入街許可書見せて。」
???
「あの、えと、入街許可書、ですか?」
「そうだよ、それか入街許可証明カード、ギルド入ってるならギルド所属証明書。」
そういうの街単位で必要なの?
聞いてなかったんですけど、そんな話一言もしてなかったんですけど。
「あのごめんなさい、どれも持ってないんですけど...もしかしてそれだと入れない感じなんですかね。」
それだと困る、非常に困る。あの家を出てから10時間、流石に家出はバレてるだろうし。
このまま家に転移するとか、どんな顔で会えばいいのかわからないよ
「うーん、いや別に入れるよ。割高のお金さえ払えれば。でもなぁ、見た感じどこかの貧しい村から来たんだろ?多分払えないと思うぜ。」
うーん、あの家は多分この街なんか比べ物にならないほど大きくて豪華なんだけど、まあそもそも比べること自体が間違ってるかも。
「お金っていくらぐらいかかるんですかね、金貨10枚...とか?」
「おいおい少年、貧しい村だと金も扱わないのか。金貨10枚なんてとんでもねえ、銀貨2枚で充分だ。」
げ、金貨は持ってきたけど銀貨なんて持って来てないよ。
2千円の物に万札を出すと嫌な顔されるし、この世界なら最早却下されるかもしれない。
「あのー、大変申し訳ないんですけど...」
「あーダメダメ、値切らないし物でもだめだ。」
僕が全て言い終わらないうちに遮られてしまう。
このおっさんの中では僕がお金を持っていないことは確定なんだろう。
「いや、そうじゃなくて、金貨でもいいですかね。」
そう言って僕はおっさんに取り出した一枚の金貨を見せる。
「金貨⁉︎...はは、んなもんお前さんのみたいな若いもんが持ってるものじゃねえぞ。こんなの偽物に決まってらあ。」
おっさんは軽くあしらって、金貨と信じてもらえないが、金貨を持った瞬間に顔が硬直する。
「この一枚でこの重さ、明らかに鉄や鉛じゃねえ。いやしかしな...。」
「あの、お釣りもいらないので、通して貰えませんか。」
金貨ならあと9枚あるし、正直街に入れなければそもそもが始まらない。
「んな、馬鹿言うんじゃねえ!こちとら公務でやってるんだ、釣りなんて受け取れるか。」
あれ、意外としっかりしてらっしゃる。
公務ってことは割と優秀なおっさんって事なのでは?
そもそもこんな大きい街の門番やってるんだし、見た目と違って割と出来るのかもしれない。
「それに釣りって銀貨98枚だぞ。銀貨2枚のために98枚を無駄にするなんて、ただの大馬鹿か偽物かのどっちかだろ。」
えぇ⁉︎銀貨10枚で金貨1枚なんじゃないの?
...そりゃ大馬鹿言われますわ。
「すいません、てっきり金貨1枚は銀貨10枚だと思ってたので。」
「やっぱり金を扱わない超ど田舎からか。しかしお釣りが銀貨8枚だと思ってても、俺なら絶対受け取るがなぁ。」
まあ、僕も日本なら流石にそうだろうけどね。
「あの、そんなことはよくて、入れるのか、入れないのか、どっちですか?」
「うーん、いや何、別に銀貨2枚じゃないと絶対に通さないとかじゃねえし、金貨でも払おうとしてるんだ、通してやりてえんだけどよ。」
「釣りの銀貨が98枚もねえんだよ。」
ああ、そゆこと。
「じゃあ、さっきから言ってる通り釣りなしでいいので、入れてください。」
僕はさらっと自然におっさんの横を抜けて街に乗り込もうとするも、おっさんがそれをよしとしない。
「ああ、待て待て。...うーん、しゃあねえな着いてこい。一緒に役所に行ってやるから、釣りもらってこい。」
おお、さすが寛大なるおっさん!
いやでもさ、
「別におっさんこなくていいですよ。道教えてくれれば行けますから。ほら、門番不在はまずくないですか。」
「いや、俺だって道案内なんてしたかねえさ。だがまだ銀貨2枚を貰わずして通す事になるんだ。言っちゃ悪いが逃げられても困るからよ。」
ああ、なるほどなるほど。
「確かにそれは困るでしょうね、まあそんなことするつもり微塵もなかったですけど。」
おっさんはだろうな、と言いながらもやっぱり僕一人で行かせるつもりはないようだ。
「じゃあ申し訳ないですが案内の方お願いします。」
「まあ役所は結構近いから、さっさと行って俺は仕事に戻る、って言ってもこれも仕事の1つか。」
おっさんは門を開けて中に入るよう促す。
ちょっと色々とゴタゴタしてしまっているが、街に入れたんだしまあいいだろう。
役所は本当に近かった。
流石に門から見渡せるほどではないにせよ、せいぜい1キロもない程度の距離だろう。
外から見た感じ、割と日本の役所と変わらないけれど、全体真緑っていうのはなんだか違う気がする。
「ここが役所だ、でかいだろう?超がつくど田舎じゃあ信じられないかもしれねえが、こんな大きさの建物がこの街にはゴロゴロありやがる。」
今までいた家は庭も含めてしまえば、この役所どころかこの街なんかより大きいかったけれど、まあそんなことは口に出さない。
「へえ、あとで色々と街の方探索してみます。」
「まあその前に入街手続きだな、よっと。」
重厚な扉、とまではいかなくとも、割としっかり作られているようだ。
「悪い、門番のガラドだ。1人街に入りたいってやつがいるんだが、なんでか金貨しか持ってないらしくてなあ。ここまで連れてきたから対応してやってくれ。」
役所の扉を開けると、開口一番に大声で叫び出す。
役所の受付は3席ほどあり、どの受付のお姉さんも顔をしかめている。
あ、ちなみに僕も思わず顔の中心に皺が寄っているから、相当うるさいから。
「お、お疲れ様ですガラドさん。申し訳ないのですが、もっと声を抑えてもらっても、よろしいでしょうか。」
「ん?ああすまんすまん。いっつも注意されるけど、自分じゃ何がうるせえのかさっぱりだからよ。」
それって結構迷惑な話じゃなかろうか。
「えと、そちらの方が金貨しかないと言うことですね。お名前と年齢の方よろしいですか。」
「ええと、シュン、と言います。シュン・イケミネ。年齢は20です。」
おっさんは年齢を聞いて驚いている様子だけど、無視。
日本人なんて、みんな身長こんなもんじゃい!
まあ、170センチ届かないのは自分でも思うところはあるけど。
「あの、ガラドさん。申し訳ありませんが、もう少しこちらにお残りくださいね。」
「いや、俺早く門番戻らねえと。門番不在は不味くねえか。」
いやそれ、さっき僕おっさんに言った言葉そっくりそのままじゃん。
「たしかにその通り何ですけど、許可書無しで街の中に彼を入れてしまっているので...。許可書が出来るまで彼の保証人として残って頂かないと...。」
恐る恐るといった様子でお姉さんは答える。
「許可書申請の書類作成が完了するまで、ですので...。」
「ああもう、わかったから早く作成してくれ。」
仕事に早く戻りたいって姿勢。
おっさん、僕見直しました。
割と長くなりそうなので2つに分けます。