そのに 【承】
僕たちは大通りと並行する通りを軽快に走り抜けていった。通りは住宅地の中をまっすぐに伸びていて、所々にコンビニやクリーニング店があった。この辺りはまだ通ったこともある馴染みのある場所だったので、見慣れた場所をこんな時間に訪れるのは特別な許可をもらったような気がして、自分が特別な存在になったような愉快な気持ちになった。犬と散歩をしていたおじいさんが、県民の日の事情を知らないのか、なんでこんな時間に子どもがと訝しげな目で僕らをみるのも、なんだかおかしくてむず痒いような感じになる。
「ねえ、まだまっすぐ行くの?」
前を走っているユータが、交差点でスピードを緩めたときに大声で聞いた。辺りをキョロキョロと見まわしている。
「うん、まだまだ。しばらくこのまままっすぐ行って」
「おっけー」
いくつかの交差する大通りを越えると、僕たちは川に出た。長く緩やかなのぼり坂の先に大きな橋が見える。その橋は家族と自動車で渡ったことはあったけど、自転車で訪れたのは初めてだったので気持ちは高揚していた。
橋のたもとにたどり着くと、ひと息ついて景色を眺めた。眼下では川がゆったりと流れ、そのはるか向こうに河原と土手が見える。橋の上で弧を描く見上げるほど大きなアーチもどこか現実離れしているように感じる。
「橋を越えたらこの町ともおさらばだ」
突然ユータが芝居がかったセリフを口にしたので僕はおかしくて仕方がない。
「バイバイ、僕の町」
僕も大声で言った。そして二人して大きな声で笑った。
川風を体に受けて僕らは橋の上を走り抜けた。すぐ横を車が途切れなく猛スピードで追い越していき、その度に僕は体をこわばらせたが、すぐ前を走るユータの後ろ姿は悠然としていた。
そうして僕とユータは川を越え隣の県に足を踏み入れた。