プロローグ
そこにはいつもと変わり映えの無い天井があった。
中学1年の頃、父親がアルコール中毒で働かなくなり、母親はそんな父に嫌気が差して帰ってこない日が続いていた。
家庭環境は悪化の一途を辿り、俺は非行へと走り、喧嘩や単車、悪友達との繋がりを濃くしていった。
別にそうしていたかった訳ではなかったし、不良と呼ばれる人達が好きだった訳でもなかったと思う。
ただ、家にも学校にも自分の居場所を見つけられず、気付けば自然とそうしているのが当たり前になっていた。
それとほぼ時期を同じくして、俺は難病に罹り入院生活を余儀無くされてしまったのである。
また退屈な日常が始まる事に辟易しつつ、自らの死を間近に感じ、密かに歓喜していた。
何を言ってるのかと思われるかもしれないが、治療法も無く、死を待つだけの病に侵され、明るい未来も生きる希望も見出せない俺にとって、それは至極当然の感情であった。
発症してから5年の月日が流れ、俺こと桐堂 仁は病室のベッドで目を覚ましたのである。
「またあの夢だったなぁ…。」
曇天の様な空の中、そいつは浮かんでいた。
悪魔の様な見た目をした男が美しい銀髪を風に靡かせ囁く様に語りかけてくるのだ。
「今夜迎えにゆくぞ…そなたの運命を我に預けよ…。」
昨日は明日の夜と言っていた。
その前の夜は2日後の夜と…、そんな夢を2週間も前から欠かす事なく見ているのである。
「本当に連れ去ってくれるなら幸せだ…。」
夢を見ているだけ、現実逃避しているだけだと自らに言い聞かせてはみるものの、何故かその男の言葉を信じずにはいられなかった。
「桐堂さーん、検温の時間ですよー。」
そう言って看護師がやって来た。
俺は軽く挨拶をして、体温計を受け取り、燦々と輝く太陽を睨みつけてため息を零したのであった。
「もっと早く沈んでくれないもんかねぇ…。」
知識も経験もまるで無しな若輩ではありますが、生暖かい目で見守って頂けると幸いです…w