ジョブとスキル2
「皆様、お集まりになっておりますね。」
俺たちが入ってきた。門のような扉から、婆さんが吞気に足を踏み入れてきた。
どうやらこの婆は、この重い空気感が読めないらしい。いわゆる、あれだ、KYというやつだな。
おれが内心失礼なことを言っているとは誰も思っていないだろう。けれど、おれも思っていたかったのだ。なぜなら、おれの隣にいるアリス、リビア、そして、つい先程までアリスをいじめていた、フローラという女も、王女王子、その従者までもが、深々と頭を垂れているではないか。
状況が呑み込めず呆然と立ち尽くしているのは、おれと同様に召喚されたと思しき者たちだけだった。
「皆、よい、顔を上げてくださいまし。早速始めるといたしましょうか。」 婆さんの一声で皆が顔をあげる。
そして、アリスを除いた王子王女がソワソワしているのが、目の端に映る。
「えー、召喚された方たちは、説明を受けておられますかな?まぁ、老いぼれが説明することでもないので、詳しいことは、あなた方の主に訪ねなさい。といっても、説明を受けてない者は一人かな?アリスお嬢様。あとで説明をしてあげなさいね。」
この婆さんは何を根拠にそんなことを言うのか、確かに、アリスは説明を省いておれをここに連れてきたけど、まぁ、どうでもいいことなのだけれど。
「はい、かしこまりました。必ず、彼には説明をしておきます。」 アリスが丁寧に答える。
「ふむ、アリスお嬢様は素直ですな。ほっほっほ。」 婆さんが陽気に受け答えをする。
とりあえず、おれは何が始まるのか分からないけれども、何故か?胸が踊るように興奮していた。
「ふむ、これでよいじゃろうな。」 婆さんが一息ついた。
先ほど、婆さんが早速始めようと言ってから、部屋の中央の床に円を描いて、さらに円の中に幾何学的であり、文字のようなものを描いた。
その間、間違いなく一時間近くは待たされていたと思う。そして、その空白の一時間、誰もなにも喋らず、婆さんが床に描いている模様を見続けるという、なんとも苦痛な時間を味わっていた。
しかし、その苦痛もようやく終わったのだ!おれは、一度沈んだ興奮を呼び覚ました。
「ルキアはワクワクしてるの?」 急にアリスが話しかけてきた。
「ワクワクっていうか、なんていうか。でも、まぁ、そうだと思う。何が始まるのか分かんないけどね。アリスも説明してくれてないし。」
おれは、語尾に怒気をふくませて、アリスに言葉を返した。
「うん・・本当に、ごめんなさい。言い訳になるけど、時間がなかったから・・」
「そんな切ない表情しないで、そういうの、おれ、弱いから。」
本当にアリスの表情が切なそうで可愛かったのだ。一瞬、狼になりかけた心にムチを打った。
そして、一休憩ついていた婆さんの雰囲気が変わったので。おれは、アリスに向いていた顔が、自然と婆さんの方に向いた。
案の定、婆さんが別人のように見えたのだ。
「それでは、これより、召喚されし者たちに、ジョブを与える。そして、スキルも引き出す。」
婆さんの一言におれとアリス以外の全員が唾を飲み込むような緊張感を持ち出した。
「まず、簡単に説明するが、この世界にはジョブというものがある。それは、その道の武技を習得し、極めるのに値するものである、しかし、誰しもが与えられるわけではない。なにか大きな意志、宿命をもつものにしか与えられないということだ。けれども、召喚されし者たちは誰かの意志により、宿命をもたされたのだ。だから必ずジョブが与えられる。あー。言い忘れていたが、ジョブを与えられるといっても、神様とかではない、この世界の運命なのだ。そして、スキルだが、これはジョブを与えられることよりも珍しい、ジョブは努力が己を磨く、しかし、スキルは本人そのものの能力、天生の賜物であるのだ。これも、召喚されし者たちは、必ず、持っている。理由はわからないが、そのような者たちだからこそ、この世界に呼ばれたのかもしれない。理由は、知らない。」
婆さんは本当に別人になったように、口調も先程までののんびりした口調とは違い、メリハリのある肉声を響かせていた。
大雑把ではあるが、簡潔に理解できる説明を受けて、皆が納得したのを感じ取ると、婆さんは、口を開いた。
「では、先ず第一王女フローラ、そして、レヴィアタンよ、陣の中に入れ。」
(婆さんは、フローラから指名した。これは、おそらく第一王女から始めるだろうから。おれは、最後か・・)
レヴィアタンと呼ばれたのは、フローラが召喚したと思われる、エルフ?といえばいいのだろうか。アニメとかに出てくるエルフのような出で立ちだったので、ついそう思ったのだ。
とりあえず、イケメンすぐることが、癇に障る奴ではあった。まぁ、何もしていないのだけれど。おれがひがんでいるにすぎない。
そんなことを考えているつかの間にも、婆さんが呪文のようなものを唱え始めた。
「خاصتك الابن ومصدرا للقوة الهائلةフローラに忠義を尽くせ!」
突如、先ほど、婆さんが描いた陣の中に入ったフローラとレヴィアタンが白い光に包まれていった。
その場にいる全員が固唾を呑んで見守っていた。
時間にすれば1分ほどであったろうか、白い光は霧のように霧散し、二人の姿はそこにあった。
「レヴィアタンのジョブは白騎士である。このジョブは白魔法と剣技を合わせた武技を使いこなすことができるようになろう。第一王女の従者になるに申し分ない力だ。」
婆さんが冷静に説明をする。
そして、説明を受けて、喜びに糾弾する奴がひとりいた。フローラだ。
「ふふふ、はっははは!私は幸せよ、第一王女にふさわしいわ。私の右腕として期待しているわ。レヴィアタンが私のとろこに来てくれてよかったわ。」
フローラが歓喜に満ち満ちている。
それをみた他の王子王女も胸をワクワクさせているのがわかった。
それから、アリスとおれの番に来るまでは、おれも興奮していたのかそんなに長くは感じなかった。
とりあえず簡単に整理をすると。
第一王女フローラと、白騎士レヴィアタン
第二王子バステラと、剣士レイザーク
第三王子レイジスタと、魔法使リリア
第四王女ピステりと、黒騎士ミストラス
第五王子ドレイグルと、弓使ジーズ
第六王女ピピリカと、魔獣使サラス
まぁ、こんな感じになった。
そして、婆さんから声がかかる。
「それでは、最後にアリス。そして、ルキア、陣の中へ。」
アリスとおれは同時に歩みを進めて陣の中へと足を踏み入れた、それだけでも、何故か、今自分が立っている場所が言葉に表せられないほどに、不思議な空間のように感じた。後ろを振り向くと、リビアが心配そうにアリスを見つめている。そして、おれに頼むからな!的な睨みをきかせてきている。
婆さんが呪文を唱え始めた。
アリスの方を見ると、どこか楽しそうに微笑み返してくれた。おれは静かに目を瞑った。
「خاصتك الابن ومصدرا للقوة الهائلة己に誓え、アリスに忠誠をつくすことに」
おれは目を瞑っていたけれど、おそらく、白い光が今自分を包んでいるのだろう。寒いのだ、寒い?暗い?おれは何故か、違和感を覚え目を開いた。そこには、先ほどの皆を包んでいた白い光などではなく、真黒に忌々しい感じのする黒い光?いや、黒い霧のようなものが、おれとアリスを包んでいた。
そんな中で、アリスは先ほどと何も変わってないというように、初めて会った時からの同じ口調で喋りかけてきた。
「私の望み、それは世界を壊すこと、そして新しい世界を私が創る。だから、この世界にサヨナラを言わなくちゃいけない。ルキアが来てくれてよかったよ。私は間違ってなかったって思えるから。私の言葉の意味が今はわからないかもしれないけど。一緒に歩んで行こうね。」
そう言うと、アリスはまた、おれに微笑みかけてきた。優しく、でもその奥には哀しさがあるような笑顔だった。
そして、だんだんと黒い霧が晴れていった。
リビアが今にも駆け寄ってきそうな感じでいた。他の王子王女は信じられないものを見たという感じであった。それは婆さんも例外ではない。どこか怯えているようにも見えたが、我に返ったのか、静かに口を開いた。
「ルキア、そのたのジョブは・・・闇魔法使である。」
婆さんの口調が重々しかったし、雰囲気が完全に最初部屋に入ってきた時の雰囲気に戻っていが、、おれには関係なかった。
(闇魔法使って、なんか最強のジョブオーラがするわー、最強じゃね?いや、最強だろーーーーー!)
おれは一人、心の中で喚起していた。しかし、それも次の婆さんの一言に全てを持っていかれた。
「アリスお嬢様、残念ですが、王選は辞退したほうがよろしいかと。ルキアよ、落ち着いて聞きなさい。闇魔法使いというのはですな、人間には習得できないジョブなのじゃよ・・こればかりはどうしようもできないよのー。」
今回、初コメントとなります。
ブクマ付けてくださった方、偶然立ち読んで頂いた方本当にありがとうございます。
週二回くらいのペースで投稿出来たらなと思っています。
これからもよろしくお願いします^^