ジョブとスキル
とりあえず、なんやかんやで、アリスの従者になったのだけれど、おれにはこれからどうすればいいのかわからなかった。まあ、当然と言えば当然のことなのだけれど。とにかく、頑張ろう!今は、それしか言えなかった。
けれども、おれは知る由もなかった。これからの道のりが険しいということは、もっと簡単に英雄のような道を歩いていけると思っていたのに・・
「アリス様、そろそろ玉の間に行かなくては、またフローラ様に怒られてしまいますよ。」
ロリがアリスに話しかける。しかし、おれに対する口調とは全く違って、とても優しい言葉使いになっている。
(おれ・・嫌われてるのかな。)
そんなことを思ってしまうのだ、ただ、ひとつ言わせてもらいたい。このロリのルックスはタイプだ、性格は微妙だ、けれど、悲しいものなのだ。
ロリに言われてアリスの表情が少し険しくなったのを、おれは見ていた。何かあるのだろうか?
「そうですね、分かりました。リビア、ルキアを案内してきてくれてありがとう。私も玉の間に向かうわ。お姉様のことは、いつものことだから・・」
アリスはどこか悲しそうだった。先ほどの表情もきっと、フローラというお姉さんと何か関係があるのだろうと思う。けれど、おれには触れてはいけない話題だと思い、何も聞くことはしなかった。
あと、このロリは、リビアっていうのか。
玉の間へと歩みを勧めているアリスの隣を歩きながら、おれはここに来てから思っていた疑問を投げかけた。
「なぁ、アリス。なんでおれがこの世界に呼ばれたんだ?」
ずっと思っていた疑問だった。おれは強いわけではない。また、何かしらの才能があるとも思えない。だからずっと気になっていたのだ。
「チッ!」
後ろで舌打ちが聞こえたような気がした。
案の定振り返るとリビアが眉間にしわを寄せておれを睨んでいた。
「あんたさ。自分が選ばれたとは思うんじゃないわよ!召喚には条件がいるの。そしたら、あんたみたいなのが来ちゃって、正直、がっかりだわ。」
リビアの言葉が重いし、痛いし、チキンなハートに刺さる。
「リビアー!そういうこといわないの。ルキアは絶対強くなるから!」
「でも、アリス様、この男のどこが気に入ったのですか?私にはわかりかねます。」
「ねぇ、リビア?私が召喚で出した条件覚えてるよね?」
「はい・・・さよなら世界・・です。」
「うん、ね。ルキアなら大丈夫よ。」
「は、はい、わかりました・・」
アリスは満面の笑みだけれど、リビアはとても不安そうな顔をしている。なんか、性格も意外と対照的なのかもしれない。だからこそ、上手く成り立っているのだとおもう。この二人と出会い、まだ数時間も経過していないけれど、そんなふうに感じていた。
アリスが召喚でだした条件、さよなら世界。おれには思い当たるふしがある。けれど、もしそれでこの世界に呼ばれたとすると、おれはアリスの期待を裏切ってしまうのかもしれない。
不意におれは怖くなってきていた。誰かに期待されるということを今まで経験したことがなかったから、嬉しかったのだ。けれど、期待されたとしても、おれは何もできない。力がない、頭も良くない。才能があるわけでもない。だからって努力できるような立派な人間でもない。だから、アリスの笑顔をおれが、おれ自身で壊してしまうのが、怖くなったのだ。
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玉の間とかいう扉はとりあえずでかかった。門といっても過言ではないかもしれないと思うほどの大きさだった。
玉の間に入ると、そこには6人の王女、王子と思わしき服装の人、その傍らに寄り添うのはおそらく騎士とか、そういう類のいわゆる従者たちが付き従っている。
そして、おそらくは、おれと同様に召喚されたとおぼしき人間と、人間?ではないであろう者たちも6人いた。
人間?と思うのは、顔が狼のような出で立ちの者、おそらくコスプレではない!とまぁ、狼の顔のやつだったり、全身硬そうな鱗がついているやつと、多種多様だったからだ。
とりあえず、ここにいる者で全てなのだろう、空気感がとても重かった。
「みなさま、大変お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。」
アリスが丁寧に謝罪の言葉を述べる。しかし、それは悪いというわけではないと思うのだが。
「そうよ!どれだけ待たされたのかわかってるのかしら、本当にあんたはドラグニア家の恥さらしだわ、土下座して謝りなさいよ!」
アリスを含めた7人の王子、王女の中でも一段ときらびやかな服装を纏った、たぶん、おれより5、6歳年上の女がいきり立っていた。
「はい、フローラお姉様、申し訳ありませんでした。」
「早く、土下座しなさいよ!」
アリスがためらいもなく、膝を折り、その綺麗な額を冷たい床に擦りすけた。
おれは、この空気感に押しつぶされ、何も言えなかった。そんな自分を本当に情けないと思ったのだ。
「皆様、本当にわたくし、アリス・メイル・ドラグニアのせいでお待たせしてしまいまして、申し訳ありませんでした。」
アリスが懇願するように謝罪の言葉を述べている。後ろではリビアも膝を折り額を床につけていた。
「アリス!私はね、あんたのそういうところが大嫌いよ。ドラグニアの人間として、誇りを持ちなさいよ。ゴミが!」
フローラとかいう王女様は言いたいことだけ言って、それ以上はなにも言わなかった。
おれは情けない、けれどイラついている、フローラといやつはもちろん殴ってやりたいが、他の王子も王女もましてや、従者までもが、どいつもこいつも、今の光景を見てクスクス笑っているのが、許せないし、悔しかった。
けれど、それに対して怒りを感じているのに、何もしない自分が、何もできない自分が、情けないし。自分を殺したいくらいに悔しかった。自分自身に対して。
だけど、何故?アリスはここまでできる?
おれはいまだ、土下座をしているアリスを見た。
その時、おれはしっかりと見たのだ。額を床に擦りつけいてるアリスのその拳が、強く、強く握り締められていることに。
「ルキア!お見苦しいとこを見せてごめんなさい。私は大丈夫だから気にしないで!」
無邪気に笑顔を作ってみせるアリスの優しさと、心の強さが・・・痛かった
おれはその時、初めて自覚した。生半可な気持ちで力を貸すといってしまったことへの罪悪感もそうだけれど、アリスのために自分の命を投げ打ってでも、アリスの矛と盾になってやろうということに。