連絡待ちドラゴン解体
連絡待ちドラゴン解体
「どうしましょうかこれ」
僕がドラゴンの死体を見上げて呟く。
・
エルフ達は早朝帰った。
いつか里に訪ねて来てくれと言われて、分かりました、必ず行きます! と元気よく返事してしまった。
そもそも、この場所に来るまで2日かかっている。
さらに山の向こうだなんて、厳しい。
でも、約束してしまった。
彼らも約束通り、夜の間僕達を守ってくれたわけだし、僕も約束を守らないと。
強くならないとな。
エルフ達の里を襲ったドラゴンだったわけだし、彼女達が翼をボロボロにしてくれたおかげで勝てた。何か戦利品はいらないかと聞いたのだが、固辞された。
倒した時の姿のまま、ドラゴンは今もそこに横たわっている。
・
「どうしましょうかって言われてもな」
「ドラゴンの討伐部位ってどこですか?」
「そんなものないよ。こんなの誤魔化しようが無いだろ。おまけに全身素材。本当は100人規模のパーティで討伐するもんなんだが……」
「僕たちは4人ですよね。ひょっとして大儲けですか?」
「だな」
「あのう…… 私何もしていなかったですし。報酬は辞退したいです」
ルルが申し訳なさそうに言う。
「そんな事…… 無い…… ルルはドラゴンの魔力を感じて…… 上手く誘導してくれた…… おかげで私…… 一撃やれた」
サースラがぽつりぽつりと言う。
「気にすんなよ。儲けは山分けって決めてるだろ?」
「でも、ドラゴン1頭分ですよ? それを4人でなんて、一体どれだけの稼ぎになるか……」
「あの矢が無ければ勝てなかったんですから。2人とも十分貢献してますよ」
「ほら、ミチもそう言ってるんだし」
そういう事になった。
とはいえ、
「どうしましょう。他の冒険者に連絡取れないですか?」
「任務成功の笛は本隊しか持ってなかったしな……」
皆、ドラゴンの吐瀉物の方へ視線が動く。
あれをかき分けて…… 無理だ。
腹の中に残っているかもしれない。腹を裂いて…… 無理だな。
エルフ達にも確認したのだが、北から来た彼女達が通った場所には丸焼けの死体や体の一部が少しあっただけで、生きた人間は居なかったそうだ。
あのドラゴンはしっかり虱潰しに人間を殺してここまで来た。確かに執念深い。
「集合の笛は持ってる。逃げるときに置いてきた荷物と一緒だが」
僕たちは一旦元の場所に戻って荷物を持ってドラゴンの所に戻った。
そして、エイダが笛を吹く。
やけに甲高い笛の音が森に響いた。
しばらくして、他の笛の音が聞こえてきた。集合の笛とは違う音だった。だいぶ遠いけど、1つ、2つ、3つ……
それを受けて、エイダがもう一度笛を吹く。
「ミチ、ドラゴンの頭に乗れ」
「え? どうしてですか?」
「獲物を横取りしようっていうアホがいるかもしれないからな。見栄も大事だ。幸い、アタシ達は体がガタついている以外は装備も壊れちゃいない。カッコつけてれば手出ししてこないだろう」
エルフ達の時とはえらい違いだ。
僕はドラゴンの頭によじ登った。
フードを被って、謎の強者っぽい雰囲気を出す。ルルにちょっと笑われたけど。
しばらくすると、他の冒険者達が集まってきた。
「ドラゴン…… やったのか」
「おうよ。うちのルーキーがね」
「大きな怪我は目玉ぐらいしか見えねぇが…… 本当に死んでるのか?」
「触ってみても構わないよ」
冒険者達がペタペタとドラゴンに触っている。
ご利益ありそうだな。
というか、誰も僕に突っ込まないんだけど。
数人が森に戻り、再び笛の音が聞こえた。
日が沈む前には結構な数の冒険者達が集まってきた。
中には血だらけの者も居た。ドラゴンの追跡から逃げ切った者達だ。彼らは護衛を伴ってすぐに街へ向かった、
ドラゴンの死体だけ見て、また森に入ってモンスター狩りを続ける冒険者もいた。
既に街へは怪我人を連れながら報告に向かっている。
ギルド職員待ちだ。
この数の冒険者が集まると、夜営も安心感が強い。
たまに狩ったモンスターの数を競っていた。数の暴力って怖い。
翌朝、ドラゴンの肉を食べようという話になった。
丸一日以上経っているので心配だったが、エイダが言うにはドラゴンの肉は腐りにくいそうだ。
冒険者数人で1つの槍を横腹に突き立てた。
皮膚に刺さり、3人の冒険者がさらに押す。ズブズブとドラゴンの体内に槍が入っていき、ずるり、と抵抗なく槍が進んだ瞬間、
「うおおおっ?」
「ぶはあっ」
「うおぶっ」
槍で空いた穴から血液が吹き出してきた。
槍を押していた冒険者3人は血まみれになった。
「ありゃまずいな。ミチ、あのドラゴンの腹の横に穴を掘ってくれないか? 血を貯める場所をつくらないとそこらじゅう血まみれになっちまう」
「はい」
エイダの言葉に僕は血まみれの冒険者達のところへ向かった。
そして、ドラゴンから少し離れたところに穴を掘る。もう魔力は完全に回復していた。直径3mほど、深さ2mほどの穴を掘った。ドラゴンの巨体からすると血の量はもっとありそうだが、大きすぎる穴を掘って事故でも起きたら大変だ。足りなければその都度掘ればいい。
周りの冒険者が押し黙っていた。
皆ハトが豆鉄砲を食らった様な顔をしている。
「どうだ! これがドラゴン殺しの男さ!」
エイダの掛け声に、冒険者達がうおおおおっと湧いた。男臭が凄くて怖い。
穴が掘れますって自己紹介したら笑ったじゃないか貴方たち。
ドラゴンの体の横まで溝を堀った。上手く血が穴に流れていく。
槍を抜き、出来た傷跡の前に巨大なバトルアックスを持った冒険者が立つ。
木を切る様に何度もバトルアックスを振りかぶって、傷を広げていく。冒険者が何人も作業を交代し、横腹を切り裂いた。
凄まじい量の血が溢れている。
冒険者達は怪訝な顔をしていた。
槍や長物、その辺の木などを使ってドラゴンの横腹を広げた。
ずるり、と腸がはみ出た。凄い太い。
開いた横腹に半分頭を突っ込んでいる冒険者が、腹の内側から腹の筋肉を削りとって外にいる冒険者に渡している。
でかすぎてこういう肉の切り分け方になるのか。
聞けば、腹の肉が一番柔らかいので切りやすいとの事だ。ドラゴンは腹筋ゆるゆるなのだろうか。
数人で交代しながら作業を続け、集まった冒険者の人数分は十分であろう肉量が切り出された頃には午後になっていた。
それから、肝臓も食べてしまおうという話になった。内臓は新鮮な内がいい。
そこで問題が起こった。
ずるり、と、一抱えもある腸が腹から引き摺り出された時だ。
「なんだこりゃ……」
「途中で切れてやがる」
「ズタズタだぜ」
あ、しまった。
「待って下さい!」
僕は声を掛けた。
「中には鉄の細い槍がいっぱい入ってますから、下手に手を入れると怪我します!」
あと、腸がズタズタになっているなら内容物で汚染されてないかも気になる。
冒険者達は手を止めたが、僕が何を言っているのか分からない様だ。僕だってどうやって説明したものか。
「抜けないのか?」
とエイダに聞かれる。
「腹の方からは無理ですね。多分背中の傷口からなら」
僕はドラゴンの背中によじのぼって、傷口1つ1つに指を突っ込む。幸い全部指が届く範囲に端が残っていたので、触れて、魔力を流して鉄塊にする。
取り出すのは難しい。中で傷口より大きくなっているし。
全部作業を終えて降りたが、エイダと冒険者数名がゴニョゴニョと話し合っていた。
「終わったか。丁度いい。見せてやれよ」
と、エイダが僕にロングソードを渡した。
多分、僕がどうやってドラゴンを殺したかについての話だろう。
もう丸一日以上経ってるのに今更聞かれるとは。冒険者ってやっぱり大雑把なんだな。
エルフの時にも一度やって形だけは元に戻したがエイダのロングソードはなまくらになっている。
エイダは気にしてない様子だった。
「危ないかもしれないので下がってくださいね」
僕の声に微動だにしない。舐められてるな。
穴掘った時はあんなに驚いてたくせに。畏怖なんかもすぐに忘れてしまうんだろうか。
僕は魔力を込めて、剣を変形させる。
日が傾いて来た空に向かって鉄の根が伸びた。
ひいっ、と野太い男の声で小さい悲鳴がいくつも上がった。
その後静かになった所で、
「こいつでドラゴンのハラワタを引き裂いてやったのさ!」
というエイダの掛け声で、冒険者達が「うおおおおっ」と叫んだ。
だから男臭が凄いんだって。
・
4人で話し合って、ドラゴンの尻尾の半分ほどを冒険者達に配る事にした。
尻尾の半分程度でも鱗と肉と骨で結構な稼ぎになるらしい。
僕達の提案に、喜び勇んで尻尾を切り落とした冒険者達が早速切り分けようとしていたので、切り分けるのはギルドでやれと言った。
取り分の誤魔化しを警戒していたのか狙っていたのか空気が剣呑としていたからだ。
これで殆どの冒険者達は尻尾を担いで去っていった。
冒険者経験の長いエイダは冒険者を操る事に長けていた。ありがたい。
「あいつらも1人1人はバカじゃないんだ。でも集まるとああなっちまうのさ」
異世界においてもそうらしい。
そして、他人の獲物には興味がなく、ギルド職員や増援が来るまでモンスターを狩り続けて稼いでおこうという連中だけが僅かに残った。
翌朝、ギルド職員よりも増援の方が先に来た。




