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端っこに住むチビ魔女さん。  作者: 夜凪
隠れ里

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83/148

久しぶりの二日連続投稿。

この流れが、いつまで続くかな?(笑)

「お?嬢ちゃん、今度はお供付きか」

 まだ本調子でないはずなのに、今度こそ目を離すものかとジッと監視してくるレンの目力に負けて、ミーシャは共に連れ立って甲板へと出てきていた。

 そこには、朝、一緒に掃除をした船員が待っていた。


「カーターさん、お待たせしました。この子も一緒で大丈夫ですか?」

 バケツで海水のくみ上げをさせてもらったついでに、甲板掃除のお手伝いをしているうちに意気投合して、休憩時間に魚を釣るんだが興味あるか?と誘ってもらい、待ち合わせをしていたのだ。


 ちなみに、名前はバケツを使えるポイントに移動している際に教えてもらっていた。と、言うか、きちんと自己紹介したのだが、なぜかミーシャの事は「嬢ちゃん」呼びで安定してしまい、少し、シャイディーンの事を思い出したミーシャだった。


 カーターとは「昼食後にメインマストの下で」というざっくりとした約束だったため、その後連絡を取るすべもなく、離れようとしないレンを連れていく許可をとることもできなかった。

 ミーシャは、断られたらあきらめようと、レンを引き連れて待ち合わせ場所へと赴いたのだった。


「あ~~、はしゃいで海に落ちても拾えないぞ?」

 少し困った顔のカーターに、ミーシャとレンが「大丈夫」と同時に頷けば、そのそろった様子がおかしかったのか、カーターは半笑いで同伴の許可を出したのだった。


連れていかれたのは、船内でもミーシャが足を踏み入れたことのない下の階の方だった。

「足元暗いから、気をつけろよ」

 ミーシャ達の船室がある階よりさらに一つ下へと階段を下りると、カーターは慣れた足取りでどんどん船尾の方へと向かっていく。


 そこは、本来乗船客が足を踏み入れることができない階だったため、ミーシャはカーターの背中を追いかけながらも興味深くあたりを見渡した。

「ここって、船員さんたちの仕事場だから、入らないようにって説明受けたけど……」

 本来、乗客を通すことを考えられていないスペースのため、どことなく雑多でそこかしこに荷物らしき箱が無造作に積み上げられている。

 廊下や居室というように壁で区切られているわけでもないため、船内だが狭苦しさは感じないが、窓や明かりが少ないためか薄暗かった。


 さらに、壁際には一抱えほどもある筒状の鉄の塊が、台車らしきものに乗せられているのが見えた。細長い筒は、船の壁に開けられた四角い穴からその先端を外へと突き出している。

 さらに、ミーシャの鋭敏な嗅覚は火薬の香りをかぎ取っていた。


「あれ、大砲?」

 目を丸くするミーシャに、先を行くカーターが驚いたように足を止めた。

「よく知ってるな、嬢ちゃん。あれは、うちの艦長が最近物騒だからって装備したばっかりなんだ。おかげでただでさえ狭い船内が場所をとられて大変でよぅ」

 何の気負いもなく答えるカーターだが、ミーシャは驚きに息をのんだ。


「まだ、あまり一般的ではない武器だって、聞いたけど」

 レッドフォード王国で厄介になっている時に、ミーシャはよく似たものを見知っていた。何気なく探検していた厩の近くの倉庫に保管してあったのだ。


「定期的に手入れをしないと使えなくなるし、訓練しないとすぐに扱えるようにはならないんだが、なかなか訓練するにも場所や時間を選ぶから大変なんだよ」

 丁度手入れをしている場面に出くわして好奇心のままに声をかけたミーシャに、意外と気さくだった技術者だという男は気軽にいろいろと答えてくれた。


 さすがに実際に使っているところは見ることができなかったけれど、解体して手入れしながら、造りや原理などを詳しく説明してくれた。さすがに、専門的な話が多く半分も分からなかったが、ミーシャは物語を聞く気分で、結構楽しく話を聞くことができた。


 普段、専門的な話など興味を持たれることがない技術者の男が嬉しくなって、ついつい機密情報である火薬の配合なども話していたりしたのだが、それはミーシャのあずかり知らぬところである。

 男にしても、所詮子供の聞くことと油断して深く考えていなかったのだが、それが後に思わぬ事態を引き起こす事になるのだが、それはまた別の話だった。


「あぁ?良く知らないが、艦長の知り合いに職人がいるらしくって、特注したって自慢してたぜ?専門の砲手が乗ってるが、素人にも扱いやすい改良品だからって、俺たちも訓練させられてな?音がでっかいし火薬が臭いしで大変だった」

 その時の事を思い出したのか、嫌そうな顔をしながらカーターはミーシャの背中を押した。


「まぁ、ああして見せつける事で、この船はどえらい武器を摘んでるんだから手出しするなよ!って脅してるのさ。実際使う事なんてそうないから安心しな」

 そのまま、ずんずんと船内を進み、船尾へとたどり着いたカーターは、そこにあった小さな扉を開けた。


「さぁて、ようこそ我らの釣り場へ」

 カーターがおどけた仕草で、ミーシャを扉の外へと促す。

 突然差し込んできた明るい日差しに目がくらんでいたミーシャは、パチパチと何度か瞬きをしてから、外を覗き見た。


「わぁ!すごい!こんなところがあるなんて」

 そして、歓声をあげる。


 扉の外には海に突き出すように、人が三人も出ると一杯の小さなバルコニーがあった。

 降りた階層を考えると、おそらく船の中ほどの高さにあるバルコニーは、当然、甲板から見るよりも海が近い。

 

 装飾も何もないそっけない手すりが囲っているけれど、その隙間は大きめで、うっかりしたら滑り落ちてしまいそうだ。

 その分、遮るものが少なくてまるで海の上に浮かんでいるかのような気分が味わえそうだ。

 何か影を感じて上を見上げると、綺麗なカーブを描いた天井がある。

 ミーシャの視線を追ったカーターがにやりと笑った。


「あれは、下の方の船尾回廊だな」

「私、昨日そこにも行ったわ!あの下に、こんなバルコニーがあるなんて気づかなかった!!」

 船尾回廊は上部下部とあり、上部には小さなテーブルセットが置いてあったし、下部の方も壁際にベンチが置いてありくつろげるスペースとなっていた。

 レンが気分を悪くするまでそのベンチに座って、たっぷり海や空を堪能していたミーシャは目を丸くする。


「上の方が大きいから下を見たって海しか見えないしなぁ。このバルコニーは最初は予定になかったんだが、船の設計者が茶目っ気で急遽造ったんだよ。おかげで俺らは新鮮な魚が食べられるってわけさ」

 にやりと笑うカーターは、どこからかロープを出してきた。

「さて、外に出る前に、一応嬢ちゃんと犬っころは命綱つけとこうな」

 そして、手早くミーシャとレンの腰にロープを巻き付けて片端を扉の手すりに縛り付けた。


「よし、外に出てもいいぞ」

 カーターの声を合図に、ミーシャは恐る恐る扉から外へと出た。

 船体の陰になっているため、思っていたより風は少ない。

 しかし、波の具合によっては風に巻き上げられたしぶきが飛んでくるほど海が近く感じることができた。


 ミーシャは、手すりに手をついて少しだけ体を乗り出してみた。

「ふわあぁぁ~~」

 上から眺めている時よりも格段に近い海の様子に、ミーシャは目を奪われた。

 次々と生まれては消えていく白い波しぶきは、近づいた距離の分、まるでレース編みのような繊細な模様が見て取れた。


「いくらロープがついてるとはいえ、怖いもの知らずだなぁ、嬢ちゃん」

 少しだけのつもりが、いつの間にか身を折るようにしてがっつりと覗き込んでいたミーシャに、カーターが笑いながらその体を引き戻した。


「魚釣る前に、魚のえさになっちまいそうだぜ?」

「あ!ごめんなさい」

 その手に逆らうことなく慌てて体を起こしたミーシャは、カーターの方を振り向いて、笑顔を浮かべた。


 カーターの手には、いつの間に用意したのか、釣竿が握られていたのだ。

「ほれ、嬢ちゃんの分だ。釣りしたことはあるのかい?」

「森の中に住んでいたから、小さな湖での釣りならしたことがあるけど、海は初めてなの」

 ミーシャは、森の家で使っていた釣竿に比べると一回り以上大きい釣竿に目を丸くする。

 さらに、すでに釣り針の所に小さな魚がついているのを見て、首を傾げた。


「この魚、作り物?」

 随分と派手な色な魚だと覗き込めば、それは木と布で作られた魚だった。

 布製のひらひらとした尾びれに隠れるように、大きな釣り針が見える。


「食べ物は貴重品だから、餌に使うにはもったいない。疑似餌ってやつだが、意外とこれでも食いついてくるんだよ。暇を見て手作りしてるんだが、色や形に工夫があってな」

「すごい。カーターさん、器用ねぇ」

 胴体は木でできているが繊細な彩色がされていて、まるで本物の魚のようだった。


「ひれの部分が布で作られてるのは、水でひらひら動くようにするため?」

「おう。船が動いてるからな。こうして引っ張られたら泳いでるように見えるだろ?」

 ミーシャの質問に、カーターが自慢そうに疑似餌の魚を手にして動かして見せてきた。


「うん!見える見える!!それに、動かすと鱗の部分がキラキラして見えるのね。すごいわ」

「あぁ、良く気づいたな。それは塗料に鉱石の粉を……」

 細かい工夫にも気づいていちいち反応するミーシャに、思わず一緒に盛り上がりかけて、カーターがハッと我に返った。


「ッと、話ばっかりしてたら駄目だな。とりあえず竿を下ろそうぜ。どうせ、当たりが来るまで時間がかかるんだから、興味があるなら、後で説明してやるからよ」

「うん!」


 ミーシャは釣りを始める前から大騒ぎをしてしまった自分に少し恥ずかしくなって赤くなりながらも、ニコニコと差し出された竿を受けとった。

 ところが、釣竿はミーシャが思っていたよりも大きく重かった。一瞬よろめいて、ぐっと力を入れなおすミーシャに、カーターがからからと笑う。


「上の甲板から比べると半分ほどになったとはいえ、まだまだ水面は遠いからな。糸が長くなればかかる負荷も大きいから、折れないように釣竿も大きくなるんだ。重さにやられて落ちるなよ?」

 ニヤリと笑いながらも、カーターはざっくりと手順を伝えると、最初の一投は一緒に投げてくれた。

 綺麗な弧を描いて遠くまで飛んでいく疑似餌の魚を、ミーシャはきらきらとした目で追った。


「まあ、そうそう釣れるもんでもないから、気長にな。ここで茶でも飲みながらのんびりするのもいいもんさ」

 そう言いながら、隣でカーターも釣り糸を垂らす。


 風は順調なのか、それなりのスピードで進む船に思ったよりも釣竿が引っ張られて、ミーシャはしっかりと竿を握りなおした。

 真剣に竿先を見つめるミーシャに笑いながら、カーターは竿を次々とセットしていく。

 一本だけ出しても、そうそう釣れないため、だいたい三~四本竿をだして当たりを待つのが、カーターのいつもの釣りスタイルだったのだ。


 それを横目で見ながらミーシャは(これってどうなったら魚がかかったって事なのかしら?)と、内心首を傾げた。

 何しろ、湖での釣りに比べて波に引かれる手ごたえが大きすぎるのだ。

(気づかないうちにエサとられてそう)

 ミーシャがそう思った次の瞬間、グンッと竿がしなった。


「キャア!?」

 その強さに思わず声をあげながらも、ミーシャは竿をとられないように反射的に足を踏ん張って腕を引いた。

「なんだ?!どうした?」

 最後の竿をセットしようとしていたカーターは、振り返った先の光景に目を丸くした。


「カーターさーん‼重い~~~!!

 大きくしなる竿を握り足を踏ん張るミーシャの腰に、なぜだかレンがしがみついていたのだ。

まるでおとぎ話のようなコミカルな光景に思わず固まったカーターは、ミーシャの悲鳴に慌てて手にしていた竿を放り出し駆け寄った。


「落ち着け、大丈夫だから。魚の引きに呼吸を合わせるんだ」

 横から腕を回すようにして、共に釣竿を握る。

 ところが、格闘する事数十分ようやくちらりと見えた魚影に、カーターは天を仰いだ。


「お~い、嘘だろう?」

 手ごたえからうすうす感じていたものの、そこに見えたのはまれにみる大物だった。

 少なくとも、釣竿だけで船上まで上げようとしたら、確実に竿が折れるか糸が切れそうだった。


「おーい!誰か網もってこい!」

 船内の方に声を張り上げる。

 本当は中に自分で採りに行きたいところだが、手を離したら、ミーシャの方が魚につられてしまいそうで怖かったのだ。

 すると、体をよじって命綱からうまく逃れたレンが、船内へと駆けこんでいく。

 そして、しばらくして男を一人引き連れてきた。


「おいおい、何事だよ」

「マイク‼大物だ!網とってくれ!!」

ひょこりと顔を出したのは、ここに来る途中にすれ違った友人で、カーターは助かったと声をあげる。


「お?なんだ?飯か??」

 しなる竿の様子に、すぐに顔をひっこめたマイクと呼ばれた船員が、手に網を持って戻ってくると、横合いから海を覗き込み目を丸くした。


「オォ~~!すごいのひっかけたな!今夜はごちそうだ」

 嬉しそうに横から網を投げ入れ、上手に魚をからめとると、その後はみんなで力を合わせて引き上げる。


「すご~~い!大きい!!」

 ミーシャは、ようやくバルコニーへと引き揚げる事に成功した網の中で、ビチビチと暴れる魚の姿に歓声を上げた。

 全長が1メートル以上はありそうな丸々と太った大きな魚だったのだ。


「嘘だろ?カーターの適当な釣り方で、こんな大物が釣れるなんて」

 たまたま近くを通りがかってレンに引っ張ってこられたマイクは、息を荒げて座り込みながら、呆れたようにつぶやいた。


 休憩時間の暇つぶしにカーターを筆頭に釣りを楽しむ面々はいたものの、まさに「暇つぶし」と揶揄われるのが日常だったのだ。

 たまに運よく一匹二匹釣れる程度で、まったく釣れない日の方が多いくらいだった。お相伴にあずかることもあったし、賭けカードするよりは健全だろうと思ってはいたけれど。


「すごいぜ!嬢ちゃん!!こいつはめったに釣れない上物だ!!」

「おいしい?」

「もちろん!!コックに持っていって調理してもらおうぜ!」

 カーターも初めて見る大物に上機嫌で大笑いしている。


「こんなに大きんだもん!美味しいならみんなで食べよう!!」

 同じくニコニコとしていたミーシャが、ふと海の方を見て、真顔になった。

「……カーターさん、あれ」

 暴れる魚の頭をこん棒で叩いて〆ていたカーターとマイクは、ミーシャの震える声に顔をあげて、あんぐりと口を開けた。


 バルコニーに並べて固定していた釣竿がグッとしなっていたのだ。

 その数、三本。


「マイク‼人呼んで来い!今すぐ!!」

「分かったぁ~~!!」

 悲鳴のような大声に、マイクが走り出す。


 先ほどの事を考えると、自分は役に立たないと判断したミーシャは、せめて足元の確保をしようといまだ網に包まれたままの魚を船内に向かって引っ張り出した。

 気を利かせたレンも協力して、網の端を噛むと二人でずるずると力を合わせて、船内へと引きずり込む。


 その横を、マイクに呼び集められたらしい休憩中の船員たちが駆け抜けていった。

「馬鹿野郎!詰めかけ過ぎだ。落ちる!落ちる!!」

 男たちの背中の向こうでカーターの悲鳴が聞こえたが、ミーシャには為す術もない。

 レンと顔を見合わせた後、肩をすくめた。


「とりあえず、網はまだ使うだろうし、魚を取り出しておこう。でも、こんな大きな魚、どこで解体するのかしら?」

「ワウ?」

 二人の疑問が解消されるのは、もう少し後の事だった。


読んでくださり、ありがとうございました。


ほのぼの船上生活二日目。

魚釣りに挑戦したものの、何もしてないのに大量です。

誰かさんの思惑を感じますね。海は彼らの領域なので。


大きなカブ的なミーシャとレンが書きたくて入れただけのエピソード。

満足です。

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