表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
端っこに住むチビ魔女さん。  作者: 夜凪
2人旅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/148

19

久しぶりに情景描写頑張りました。

伝わるでしょうか?

 それは、まるで夢のような光景だった。


 うっすらとかかる朝もやの中。

 水辺に薄緑の剣状の葉がスッと伸びている。

 その葉の隙間を縫うように、親指ほどの大きさの白い蕾がスッと首をもたげていた。

 暁の空を光が、切り裂くように射し込んだその瞬間。


 蕾が、咲いた。


 ポンっと、音が聞こえそうな勢いで開いた花弁の中から、キラキラと光をはじく粒子が飛び出した。

 キンと冷えた空気の中。

 射しこむ暁の光をはじくようにしながら、その粒子は風に乗って流れていく。


 一つ目が弾けたのを合図にしたかのように、一面に頭をもたげていた蕾が、次々に弾けていく。

 開いてみれば白いと思っていた蕾は、透けそうに薄い花弁で縁に向かってほんのりと薄紅のグラデーションに染まっていた。

 繊細なガラス細工を思わせる五枚の花弁を持つ薄紅の花が揺れ、朝もやに紛れふわふわと広がる光の粒子と共に、風に乗って甘い芳香が届く。

 

 その幻想的な風景に、ミーシャは声もなく見とれた。


「花が開く勢いで花粉を飛ばし、受精するんだ。きれいだろう?」

 じっと目の前の光景に見とれるミーシャに、ラインが満足そうに笑いながらささやいた。

「冬の初めのこの時期、一晩のうちに葉を伸ばし、つぼみをつけるんだ。そして、朝日の射す瞬間に花を咲かし、二時間ほどでその花を散らしてしまう。初めてで開花を見られるのは運がいい」


「お花、そんなにあっという間に散ってしまうの?」

「恐らくだが、花粉を飛ばすのが、主な役目なんだろう。虫に運んでもらう必要がないため、香りを放つのも開花の瞬間だけだし、そもそも花蜜もない」

 説明しながら、ラインは、大きめのガラスの瓶をミーシャに渡した。


「そして、散った花弁はなぜかあっという間に融解して、消える。と、言うか地面にしみこむんだ。だから、その前に開いた花を瓶に集めてくれ」

「え?花弁が薬になるの?」

 反射で受け取ったガラス瓶に目を瞬かせながら、ミーシャは首を傾げた。


「正確には花弁も使える、だな。葉や根にも利用価値はあるが、希少なのは花弁だ。何しろ採取のチャンスは二時間しかないうえに、開花のタイミングを予測するのは大変なんだ。前回、採取できた時は一週間粘ったな」

 なんでもない事のように答えながら、ラインはいそいそと薬草の群生地の中へと入り込んでいく。

 無造作に踏み込んでいくように見えて、器用に薬草をよけているのはさすがと言えた。


「力入れるな。花弁がつぶれる。指先で軽くつつくようにしたら花弁が落ちるから」

 ミーシャに教えながら、ラインはそっと開いたばかりの花弁に触れた。

 はらり、と。

 あっけなく花弁が散った。

 

「あ、きれい」

 ひらり、ひらりと、花弁は宙を舞いながらガラス瓶の中に落ちていった。

「これを受け取るために広口の瓶だったんだ」

 ミーシャは納得するとともに、ラインを見習ってそっとその指先で小さな花に触れた。

 やはり、花弁はほんの少しも耐える事なくひらりと落ちた。


 瓶の底に落ちた花弁を、ミーシャは、興味深く観察した。

 少し細長い楕円形の形で、向こう側が透けそうに薄い。軽く瓶を振ってみると、ひらひらと舞い上がる。薄さにふさわしく、とても軽いようだとミーシャが納得した時、ふいに花びらの形が崩れた。


「え?」

 ジワリ、と水滴が滲むように、花弁の形が崩れて溶けたのだ。

 瞬きの間に、花弁が固体から液体へと姿を変えてしまった。

「おじさん!花弁が!」

「融解するって言っただろう。観察は後でしていいから、花弁を採取してくれ。こいつら、そよ風に吹かれても散るんだよ。おまけに地面に落ちた刺激でも消える。というか、落ちたものはもう拾えないからな」

「拾えないの?」

「摘まんだら、潰れて液状になる」

「それって…」


 今まで聞いた事もない不思議な生態に、ミーシャは目を瞬いた。

「レンは、こっちに来るなよ!花がもったいない」

「キューン」

 ミーシャの側に行こうとしたレンが、すかさずラインに止められて、情けない声で鳴いた。


 それでも、大人しく群生地の一番端で止まり、中に踏み込むことは諦めたようだ。

 だが、好奇心は抑えられなかったようで、鼻先で咲いた花をパクン、と咥えてしまった。

 とたん、レンが、ピョンッと飛び上がり、沢の方に駆けて行ってしまった。

 

「レン?どうしたの?」

「苦かったんだろ」

 慌てたように水を飲んでいるレンに、ミーシャは目を丸くした。

 それに、ラインが笑いながら教えてくれる。


「気になるなら、ミーシャも食べてみたらいい。セデスの比じゃないくらい苦いけどな」

 笑いながらも、手を止めることなく採取を続けるラインに、ミーシャは少し迷った後、レンの真似をして直接花をパクンと食べてみた。


「に……っが……」

 甘い芳香と可憐な姿を裏切る強烈な苦み。

 いろいろな薬草を口にしてきたミーシャだが、久しぶりに涙がでそうなほどの苦みが襲う。


「おじさん、これ、薬にしたら飲むの大変なんじゃ」

 舌先がしびれるほどの苦みに、涙目になりながらミーシャが訴える。

「阿保か。目薬に使うって言っただろう。そもそも味は関係ないんだよ」

 呆れたように言うラインに、ミーシャは唇を尖らせた。


「目の病気につかうのは聞いたけれど目薬にするなんて聞いてないもん」

「そうだったか?」

 首を傾げながらも、ラインは黙々と採取をする手を止めない。


「もう。伯父さんって、本当に……」

 少しずつ明るくなっていく空の下。

 あいも変わらず幻想的な風景の中、そんなものには見向きもせずに採取するラインに、ミーシャは小さくため息をついた。


 どれほど美しい光景を見せる花々も、ラインにとってはそれのもたらす薬効の方が大切なのだ。

 美しい光景は心を癒すが、その心を持つのは肉体であり、肉体が損なわれていたらいくら心だけが満たされようと意味がない。

 それは、いかにも現実主義なラインらしい選択だった。


 だけど、それは人を救いたいという強い思いの現れだと、ミーシャはもう知っている。

 誰が何と言おうと、ラインは、ミーシャの知る誰よりも情が熱く、人を救う事に誇りを持っている人間だった。

 ミーシャは持っていた水筒から一口水を飲んで、自分も採取を再開するべく花へと視線を落としたのだった。


 ゆっくりと朝日が昇っていく。

 暁から曙へ。

 移り行く空を楽しむ余裕もなく、手元の小さな花の花弁を採取し続けたミーシャは、つつこうとした花弁がふわりと落ちて空中ではかなく消えてしまった事で、ようやく顔をあげた。

 いつの間にか、空はすっかり明るくなっていて、そのまぶしさに目を細める。


「……花、本当になくなっちゃった」

 立ち上がり辺りを見渡すと、一面に揺れていた花は一つもなく、ただスッと長く伸びた緑の葉が揺れているだけだった。

 その葉の色も薄い黄緑色だったものが、見る見るうちにその色を変え、深い緑色に落ち着いた。


「最初から最後まで、不思議な植物だわ……」

 サワサワと風に揺れる葉は、ミーシャの膝ほどの高さがある。

「この葉も雪が積もる前には枯れてなくなる。そして次に花を咲かすのは三年後、だ。その間に、ゆっくりと球根を太らせ、根を伸ばしていく。そして、次は別の場所で花を咲かす。二~三百メートルほどの移動だが、こんな高山でそれほど動かれると見つけ出すのは至難の業だ。結果、なかなか見つけられずに幻の薬草と言われるのさ」


 いつの間にかすぐそばまで戻ってきていたラインが、ポチャンと透明な液体を瓶の中で揺らして見せる。ミーシャも、自分の手にした瓶を見てみた。中には三分の一ほど液体がたまっていた。

 二人分合わせても、ミーシャの手のひらほどの瓶一本分にもならないだろう。


「おじさん、どうして今回ここに花が咲くってわかったの?」

 聞けば聞くほど、見つけるだけでも大変そうな薬草に、ミーシャは首を傾げた。

 何しろ、昨日夕方に水を汲みにここ近辺まで来たときには、本当に何もないむき出しの岩場だったのだ。まさか、一晩でこんな草原が広がるとは、予想もできなかった。


「ん?勘」 

 そんなミーシャに、ラインはあっさりと答えた。

「なんとなく?たぶんこっちな気がするなぁ~、で意外と見つかるんだよ。ラッキーだよな」

「ラッキー……なの?」

 まさかの第六感宣言に、ミーシャは、目を瞬いた。

 てっきり、『森の民』特有の観測技術があるのかと期待していただけに拍子抜けである。


「そういえば、伯父さん、足りなくなった薬草とかもやけにタイミングよく見つけたりするけど、もしかしてそれも勘なの?」

 ふと思い出して問いただすと、瓶に蓋をして、薬草の葉の先の方だけを集めだしていたラインはあっさりと頷いた。


「なんだか、呼ばれてるような気がするんだよな。おかげで助かってるわ。それより、ミーシャ、こんな感じで葉先の部分を集めてくれ。俺は根を掘り出すから。あ、葉先を摘むのは一株から1~2個な。あんまり傷つけると、その後の成長に関わるから」

 葉先5センチほどを摘んで見せるラインは、すでにミーシャの質問には興味がない様で、採取用の籠を押し付けると、自身は小さなスコップを取り出して土を掘りかえし始めた。


 薬草や医術の事なら、多少時間をとっても丁寧に教えてくれるが、それ以外は、すぐに興味を失うラインに、ミーシャは諦めたように小さくため息をつくと、教えられたとおりに葉先の採取を始めた。

 採取が終わらないと朝食が始まらないことを思い出したせいでもある。

 成長期のミーシャにとって、朝ご飯の時間は死活問題なのである。


「あ、そういえば、この薬草、名前はなんていうの?」

 珍しい薬草があるとだけ聞いていたミーシャは、ふと思い出してラインに声をかけた。

 ラインが、見てからのお楽しみだと、薬草に関してかたくなに情報を秘匿していたため、ミーシャは目の病の特効薬になるという事以外、薬草の名前すら知らなかったのである。

そのかいもあってか、感動もひとしおではあったが、実物を堪能したことだし、そろそろ教えてくれるだろうと思ったのだが……。


「……ひかり草」

 なぜかすごく言いにくそうに、ラインがぼそりと呟いた。

「え?」

 うまく聞き取れず首を傾げたミーシャに、ラインは投げやりにわめいた。


「だから、ひかり草。ぴかぴか光って綺麗だっただろう?後、目の難病の特効薬になるから、患者に光を取り戻すって意味でも、……いいと思ったんだよ」

 最後の方はなぜだかしょんぼりと肩を落としたラインに、ミーシャは、再び首を傾げることとなる。

 なぜなら、その言い方だと……。


「え?もしかして、伯父さんが名前つけたの?」

「……新種の植物を見つけたら、見つけたやつが名づけの権利を持つんだ。もしかしたら、他の名前で呼ばれているかもしれないが、少なくとも一族の中では「ひかり草」で通ってる」

 もうこの話はおしまいっとでもいうように、ラインはミーシャの側から足早に遠ざかっていった。

 あまりの素早さに止める間もなく、ミーシャはあっけにとられて見送るしかできない。

 十分に距離を取った後、ラインは再び土を掘りかえし始めた。素材の一つである球根を採る為だろう。

「……ひかり草。……そのまま過ぎない、伯父さん」

 草原の端の方に小さく見えるラインの背中をしばらく見つめた後、ミーシャは耐えきれなくてくすくす笑い出した。




 予定の量をきっちりと採取して、昨夜のスープの残りとパンで朝食をとるころには、すでに太陽はだいぶ高い位置まで登っていた。

「おじさん、リンゴも食べていい?足りないよ!」

 早起きの上、採取のためにたっぷりと体を動かしたミーシャのお腹はペコペコで、とても残り物だけでは満足できそうになかった。


 つやつやと光る真っ赤なリンゴは綺麗で、とてもおいしそうに見えた。

「しょうがないなぁ。一つだけな」

「はーい」

 あっさりと許可が下り、ミーシャはいい子のお返事をすると、さっそくまるままリンゴにかじりつく。シャクリと音がすると共に、さわやかなリンゴの香りが辺りに広がった。


「うまそうだな。こっちの芋と半分にしようぜ」

 それを見ていたラインが、焚火の端の方の灰の中から大きな芋を掘り出して交渉を持ち掛ける。

「えぇ?いつの間に、お芋焼いてたの?」

「ん?ミーシャが朝、寝ぼけてる間に。茶を沸かすついでに灰の中に突っ込んでたんだ。アチッ!」

 半分に割った芋からはホクホクと湯気が立ち上り、とてもおいしそうだ。

 さらに、その上にラインが岩塩を削ってかけている。


「ん!」

 ミーシャは、手に持ったリンゴを眺めてしばし考えた後、腰に挿していたナイフでさくりと半分に割ってラインに差し出した。

 どこか幼いそのしぐさに少し笑って、ラインは大きな方の芋をリンゴと引き換えに手渡してやる。


「ありがと」

 ミーシャは、さっそく手に入れた芋にかじりついた。

「アッツ!」

 焼きたての芋はほんのり甘く、そこにかけられた絶妙な量の岩塩がさらにその甘みを引き立てていた。ハフハフと熱さを逃がしながら焼き芋を飲み込んで、その後はまたリンゴに戻る。

 同じ「甘い」でもリンゴと芋では種類が違うので、飽きることはない。


 幸せそうに2つを交互に堪能していたミーシャの足を、何かがツンツンとつついた。

 何事かとミーシャがそちらを見ると、レンが「これもいる?」というように、自身の朝食用に与えられていた骨付きの肉を咥えて小首をかしげていた。

 

「ミーシャががっつくから、飯が足りてないかと心配されてるじゃねぇか」

 それを見ていたラインが噴き出した。

「がっついてない!伯父さん、失礼だわ!レンも。私の分はちゃんとあるから、それはレンが食べなよ」

 ミーシャは、笑い転げているラインに文句を言ってから、レンの頭を撫でて促した。

 さすがに、レンの食事を取り上げるほど飢えてはいない。

 こんがり焼かれたあばら部分の骨付き肉は、いい香りがしておいしそうではあったけれど……。


「もう!いい加減笑うのやめてよ!それより、これからどうするの?」

 唇を尖らせるミーシャに、ようやく笑いを収めたラインが、ごそごそと手書きの地図を出すと、山の中腹より少し上の方を指でたどって見せた。


「そうだな。山頂はもう積雪してそうだが、天気もいいし、7合目くらいまでなら大丈夫だろう。

ミーシャの住んでいた森は千を少し超えたくらいの低山だったから、ここら辺に生えている植物でも見たことがないものも多いはずだ。沢沿いに少し登って、山並みにそって横移動してからジョンブリアンの方に降りるのでどうだ?途中、少し険しい場所もあるが、まあ、ミーシャなら大丈夫だろう」


 ミーシャの住んでいた森は、1000メートル前後の低山が3つほど連なっている規模で、植物はどちらかと言えば広葉樹が多く、頂上付近がかろうじて針葉樹に代わっていく様子が見られた。

 植物が標高によって変わっていく事は、本で読んで知っていたが、今回のように、その現象を目の当たりにしたのは初めてだった。


 緑豊かな森の中から、今いる場所のように、樹木はミーシャの背よりも低い茂みがちらほらしかなく、むき出しの岩場だらけの場所に唐突に切り替わる。

 辞典の中でしか知らなかった「森林限界」という現象を初体感して、昨日からワクワクが止まらないミーシャの様子を見ていたからだろう。

 ラインは、登山続行を提案した。


「見たい!高山植物!今の季節だとお花はもう咲いてないかもしれないけど、コケ類とかだったらまだ大丈夫だよね?私、国立図書館でレガ山系の植物の図鑑みて、いろいろ覚えてきたよ」

 嬉しそうに笑うミーシャに、ラインは満足そうに笑うと、食べ終えたリンゴの芯をポンっと茂みの中に放り込む。


「じゃ、さっさと片づけて出発するか」

「うん!」

 同じく、リンゴを食べ終わり、少し迷った後、ミーシャはラインに倣ってリンゴの芯を投げる。

 いつも、ラインがそうしているのを、楽しそうだと思っていたのだ。

(自然に返すだけだから、大丈夫。ちょっとお行儀悪いかもだけど)

 脳裏に浮かんだしかめっ面のレイアースに言い訳したミーシャだが、次の瞬間、目を丸くして笑い出した。

 空中高く放り投げられたリンゴの芯は、地面に落ちる前にピョンッと飛び上がったレンによって上手に受け止められたからだ。ひらりと首に巻かれたスカーフが翻る。


「やだ、レン!上手ね!」

 笑うミーシャに頓着なく、バリバリとリンゴの芯をかみ砕いて食べてしまったレンは、尻尾を振り振りラインの方へと行ってしまった。

 おそらく、他にも食べられそうなものがないかねだりに行ったのだろう。


「そうね。自然に任せるより、レンに美味しく食べてもらった方がいい、か」

 手早く、まだくすぶっている焚き木の後始末をして、石で組んだ竈を崩しながら、ミーシャはくすくすと笑うのだった。









「ミーシャ!どこだ~!!」

 自身ののばした指先も見えないほどの濃霧の中、ラインは声を張り上げる。

 しかし、返ってくる声はない。

「ッチ!山の天気は変わりやすいとはいえ、これはいくら何でも異常だろ。何が起こってるんだ?」

 いらただし気に舌打ちをするラインの手には、巻かれた紐が一つ。

 霧が出だした時に、万が一にもはぐれたり、滑落したりしないように、ミーシャと体をつないでいたはずのものだった。


 気がつけばしっかりと結んでいたはずの紐がほどけ、その先にいたはずのミーシャがいなくなっていた。

 いくら濃霧に巻かれているとはいえ、この手のトラブルに慣れているうえに勘の鋭いラインが気づかないなど、ありえない失態だ。


 先行していたレンが戻ってきて鳴いたことで、ようやく異常に気づいたのだ。

 最後にミーシャが確かに紐の先にいたのを確認したのが十分前。

 その間の、どこのタイミングでミーシャが消えたのかは不明だ。

 

 現状は、足場が人一人ようやく通れるほどの幅しかない山道で片側は切り立った斜面だ。

 滑り落ちたと考えるのが妥当だが、ひもが解けていたわけも、滑落時にミーシャが声の一つも上げなかったことも、不自然極まりない。


「精霊のいたずらか?」

 山奥深い場所では、人ならざる者がいて、ちょっかいをかけてくるのはままあることだ。

 もともと、森と共生してきた『森の民』は、そういう者たち・・・・・・・に好かれやすい。


 人と違うことわりの中に生きる者たちは、悪気なく人を危険に陥れることもあると知っていたのに、最近は縁遠かったため警戒を怠りすぎた。


「レーーン!見つかったか?」

 もう一度舌打ちをして、声を張る。

 ミーシャの不明に気付いた瞬間走り出したレンは、いまだに帰らない。


「……ウォォォ~~ン」

 ただ、ラインの声は聞こえているようで遠吠えが返ってくるのだが、これもひどいエコーがかかって聞こえるため、方向がはっきりしないのだ。


「さて、どうしたものか」

 ため息とともに、ラインはその場に腰を下ろした。

 視界不良の中、むやみに動き回ったところで二次被害を生みかねない。

 唐突に立ち込めた霧なら、それほど長くは続かないはずなので、それまでは体力温存を図ろうと思ったのだ。


 沸き立つ焦燥感をため息一つで吹き飛ばして、ラインは水筒から一口水を飲む。

(跡形もなく消えたんだから、少なくとも食料も薬草やその他の道具も一緒のはずだ。滑落したとしても、精霊のいたずらなら命までは取られていないはず)

 自分に言い聞かすように考えながら、瞳を閉じる。

 どうせ濃霧で何も見えないのだから、聴覚に意識を集中しようとしたのだ。

「大事な姪っ子だ。怪我させないでくれよ」

誰ともなくつぶやきながら、ラインは何か聞こえないかと耳を澄まして辺りを探るのだった。

読んでくださり、ありがとうございました。


ほのぼの~からの急展開(笑)

迷子のミーシャは何処に行ってしまったのでしょうか?

久しぶりのファンタジー色前面押し出し(?)でお送りします。


しかし、書籍編集で細かく書き足した癖が抜けなくて、話が亀よりも進まないですね。

もっとサクサク行きたいんですが、ねぇ。ままならないです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ