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意識が戻った父親は、未だボンヤリとして夢現つを彷徨っている様だった。

言葉を発することはできず、いくつかの質問に瞬きと握った手に力を込めることでやり取りをしただけで、再び力尽きた様に眠りについた。

だが、ミーシャは、その様子に確かな回復の兆しを見いだした。

少なくとも、自分の名前やミーシャの顔を判別することができたのだから、脳に深刻なダメージは残っていないだろうと判断したのだ。

その事を側で見守っていた執事に告げれば、ホッとした様な顔で涙ぐんでいた。


傷の様子を見て、薬と包帯を変え、ミーシャはその場を離れた。

傷薬の補充もしたかったし、何より、母親の側に少しでも長くついていたかったからだ。

廊下を足早に進むと、向かいから女性がやってくるのが見えた。


母親と同じ年くらいの上質のドレスを纏った女性。

誰に教えられずとも、ミーシャはその女性の正体に気付いた。

(この人がローズマリア様)

明るい茶色の髪は突然食ってかかってきた少年と同じ色をしていた。瞳はもう少し淡い色をしているから、少年の眼は、父親からもらった色なのだろう。

なんとなく、廊下の隅に避け、女性をやり過ごす。すれ違いざまにちらりと視線が向けられたが、声をかけられることは無かった。

ミーシャは、そのことに安堵してそっと息を吐き出した。

どんな言葉をかけられたとしても、なんと答えて良いのか思いつかなかったからだ。

彼女の娘によって母親は死に追いやられた。

故意ではなく、不幸な偶然がいくつか重なった結果かもしれないが、最後の引き金を引いたのは間違いなくあの少女であり、ミーシャは許すことなど到底出来なかった。


(少なくとも、今はまだ、無理。顔も見たく無いし、声だって聞きたく無い)

キュッと唇を噛み締め、止まっていた足を動かす。

溢れそうになる涙を飲み込むのは容易では無かったが、こんな誰の目に止まるか分からない所で泣きたくは無かった。




結局、今の状態の父親に母親の死を告げることなど出来ず、レイアースの遺体はひっそりと公爵家の墓所に納められた。

送る人の殆どいない葬儀はとても寂しいものだった。

ミーシャとしては、森に連れて帰ってあげたかったが、未だ不安定な状態の父親から長く目を離すわけにもいかず、取り敢えずはあきらめた。

葬儀の時、祖父が「申し訳なかった」とミーシャの肩を抱いて謝罪した。その時流した涙を最後に、ミーシャはもう泣く事をやめた。


幸いにもやる事は山の様に溢れていた。

朝から晩まで、怪我人の間を駆け回り、夜は気絶する様に眠りにつく。

そうしていれば、気も紛れたし、母親の死について深く考えなくても済んだ。

一種の現実逃避だと分かってはいたが、今のミーシャは他の術を知らなかった。

だから、心配そうな瞳で自分を見つめる人たちのことも気付かないふりでやり過ごす。

そうする事で、どうにか立っていることができた。

こうして、立ち直っていくんだ。

そう、ミーシャは自分に言い聞かせていた。


だが、それは治らない傷口を無理やり布で押さえつけてごまかしている行為に過ぎなかった。

たとえ、痛みを伴ったとしてもしっかりと傷を洗い塞がなければいつまでも疼き続けるものだと知っていたけれど、今のミーシャにはそれ以上、どうして良いのか本当に分からなかったのだ。




そうして、日々は流れ、父親がどうにか半身をベッドで起こす事が出来る様になった頃、遂に戦争は終わった。

ミーシャは詳しくは分からなかったが、どうも争っていた国と反対側にある大国と手を結ぶ事で後ろ盾を作り、どうにか終戦を結んだ様だ。まさに虎の威を借る狐、というやつである。

もちろん、そんな同盟が対等な関係になる訳もなく、所謂『属国』というやつだったが、敗戦して他国に飲み込まれるよりは一応の自治は認められている分マシ、という事なのだろう。


同じ頃、ようやく父親に母親の死を伝える事ができた。

姿を現さないレイアースに薄々の真実は感じ取っていたものの、娘の手による『事故死』と知った父親は、地の底まで落ち込んだ様子だった。

「私の代わりにレイアが死んだ様なものだな」

ポツリと呟いたまま黙り込んだ父親が、何を感じていたのかはミーシャには分からなかった。

けれど、母親を失って心から悲しんでくれる人が増えた事はなんとなく嬉しかった。

そっと父親に寄り添えば、弱った体でそれでも抱き寄せてくれてた。


すっかり痩せてしまった腕の中はそれでも温かく、ミーシャは久しぶりに母親を想って泣いた。

その涙は、一人きりで零したものよりなぜか温かく、心に凝った何かを少しずつ洗い流してくれる様だった。

理不尽に母親を奪われたという思いも恨みも消えそうには無かったけれど、ミーシャはようやくそれらから目を背ける事を止める勇気を持つ事ができた。

人を恨む気持ちを自分が持っているという事は、母親が死んだ事実と向き合う事と同じくらい辛いものだったけれど。


「母さんは父さんを救えて幸せだったと思うわ。だから、生きている事を悔やまないで」

意気消沈した父親は、このまま再び倒れてしまいそうで心配だった。

だから、まだ涙の残る目で父親を見つめてミーシャはしっかりと伝える。

レイアースの想いを無駄にはしてほしく無かったし、もう、家族を失うのは嫌だったから。

「………そう、だな。………そう」

涙の浮かぶ瞳をとじ、父親は自分に言い聞かす様に何度も何度も呟いていた。





明かりの落とされた部屋の中、男はジッと暗闇の中何かを見つめていた。

生死の境をさまよった体はまだ、思う様に動かす事ができず、男の苛立ちを誘う。だが、ここで無理に暴れた所で何にもならない事は分かりきっていた。

(………レイア。お前は何を思って逝ったのだ?

不甲斐ない俺を恨んだか?残していく我が子を哀れんだのか?)

思いを馳せても全てが虚しかった。


あの日。

不自由な足を庇いながらも、腹に宿った我が子を守るために、森にこもる事を選んだレイアースを思い出す。


ローズマリアとの離縁を実行しようとした自分を止めたのは、レイアースだった。

どうしようもなく人を愛す気持ちも、独り占めしたい気持ちもわかるから、と。

「元々、町の暮らしには馴染めなかったし、森に行けるのはむしろ嬉しいの。

公爵としての貴方を支える事は私には出来ないし、後から割り込む様な真似をしたのは私だもの。

この子もいるし、寂しく無いわ」

ほんのりと膨らんだ腹に手を当ててにっこりと微笑んだ笑顔を、つい昨日の事の様に思い出せる。


それからの日々も表面上は穏やかに過ぎた。

目の前からレイアースが消えた事で荒れていたローズマリアの気持ちも落ち着いた様で、公爵夫人としての社交も立派にこなしてくれた。

忙しく各地を駆け回る自分に変わり、内向きの事や子供の教育もしっかりこなしてくれている様に見えた。

レイアースへの気持ちとは違うが、同志の様な親愛の情を確かに持っていたし、伝わっていると思っていたのに。


ギリっと噛み締めた唇が破れ、血が滲んだ。

どうしても、許す事など、出来そうにもなかった。

勝手に裏切られた様な気分になっていると言われればそれまでだろうし、ローズマリアにも言い分はあるだろう。

だが、何も聞きたくはなかった。

1度は、飲み込んだ。

だが、その結果待っていたのは喪失と失望だった。

もう、同じ過ちを繰り返したくは無い。

護るべき者はまだ1人、残っている。

(今はまだ、その時では無い。)

思う様に動けない体では、指示を飛ばす事も難しい。先ずは、体を万全にするべきだ。

滲む血を舐めとり、必死に自分に言い聞かす。最愛(レイアース)と引き換えに残された命を無駄にするわけにはいかないのだ。


「あの日、国など捨てて仕舞えば良かったのに………」

ぽつりと漏れたつぶやきは虚しく闇に溶けた。






父親の傷は改善してきた。

他の怪我人達も順調に回復して、ミーシャの指示がなくとも困る事はほぼ無くなった。

なにより、戦争が終わり、戦地より医師(元助手)も帰って来た為、引き継ぎさえ終わって仕舞えば、ミーシャのする事はほぼ無くなったと言っても良い。

(どう、しようかな……)

最後の引き継ぎを終え、丁度昼になったので自室へと戻ってきたミーシャは、ぼんやりと窓辺へ座り外を眺めていた。


(森に帰っても良いんだけど……)

1人で森で暮らしていけるだけの技術は持っているし、父親にお願いすれば、定期的に物資を届けてもらう事は可能だろう。

代わりに薬を提供する様にすれば、一方的な施しでは無くなるし、気兼ねもいらない。

森での暮らしは性に合っている、と、思う。

ただ……。


(一人ぼっちで森に篭って、それでどうなるっていうの?)

今までは母親がいて、定期的に父親も会いに来てくれていたから、寂しさなど感じなかった。だけど、もう、母親は居ないし、そうすれば、父親だって今までの様に通ってくる事は無いだろう。

そもそも、父親の体は長く馬に乗る事は困難になるだろうとミーシャは予測していた。

頑張れば、日常生活に支障が無いくらいまでは回復するだろうが、今までの様に走ったり激しい運動をすれば痛みが走るはずだ。


(父さんの身体がもう少し動く様になるまではここに居ても良いかもだけれど、ずっとここにいる気にはなれないし、なぁ……)

迷いながら、空を仰ぎ見る。

大分落ち着いてきたものの、母親を奪われたという想いは消えないし、向こうも精神的に嫌だろう。

現に、相手の少女は部屋に閉じこもって出てこないらしい。


その時、不意にミーシャの脳裏に1つの面影が浮かんだ。

「………叔父さん、今、どこにいるのかしら?」

探究心のままいろいろな国を放浪している叔父は、不定期的に森へと遊びにやってきていた。

しっかりと決まっているわけでは無いが大体1年半から2年に1回の周期で顔を出していた気がする。

「前に来たのが、11歳の誕生日を少し過ぎた頃だったから、そろそろじゃないかしら?」

一族の中でも優秀でその分とびっきりの変わり者、らしいが、ミーシャの事は何かと可愛がってくれていた。

「連れて行ってくれないかしら?」

師と仰ぐ母親は居なくなったが、自分はまだ薬師としては未熟だというのは、今回の事で思い知った。

叔父の旅について回り、経験と知識を積むのは薬師として、とても魅力的だ。出来ることなら、母親の育った森にも行ってみたいし、連れて帰ってあげたい。

口に出すことは決してなかったけれど、母親が故郷の森を懐かしんでいた事をミーシャは知っていた。

「とりあえず、森の家に帰って叔父さんが来るのを待って、来たら、連れて行ってくれる様、頼み込んでみよう。で、どうしても断られたら、その時また考えよう」

心を決めてしまえば、迷いは消えた。

とりあえず、森の家に帰る算段をつけようと立ち上がったミーシャは、父親の部屋へと足を向けたのだった。






父親への面会を求めて部屋を訪ねたミーシャを待っていたのは、渋い顔をした面々だった。

まだベッド上で半身を起こすのがやっとの父親を囲む様に、父親の側近達や祖父、そして珍しいことに正妻であるローズマリアの姿もあった。

「その子を差し出せばよろしいではありませんか。側室腹とはいえ、その子とて公爵家の娘なのですから」

冷たく澄んだ声と共に尖った視線を向けられ、訳のわからないミーシャは首をかしげるしか無い。

「………こんな時だけ、公爵家の娘扱いか。都合の良いことだな」

しかし、ベッドの上から、ぼそりと父親がつぶやいた言葉はそれ以上の冷たさをはらんでいた。

その冷たさに、自分に向けられたわけでも無いミーシャの肩までピクリと跳ねる。


「どこの馬の骨とも知れない人間の血が入ったものをこの屋敷に迎え入れたく無いと、常々言っていたのはお前だろう、ローズマリア。おかげで、ミーシャは13になっているのにデビューすらさせてやれていない」

淡々と突きつけられる言葉と冷たい視線にローズマリアは動揺した様に視線を揺らした。

少なくとも結婚してから今まで、直接に夫のこんな風な視線にさらされたことがなかった。

冷たく凍える、まるで他人を見るかの様な……。


「もっとも、デビューの件については、ミーシャの母も本人も望んでいなかったから、大した問題では無いがな。まぁ、そのおかげで、此度の件は選択の余地も無い」

あっさりと視線を外して肩をすくめると、自分を囲む人々をぐるりと見渡す。

「社交界にデビューもしておらん娘をこの家の娘として嫁に出すわけにもいかんだろう。当初の予定通り、ライラに嫁いでもらおう」

「あの子はまだ14です!」

夫の言葉にかぶせる様に、ローズマリアは悲鳴の様な声で叫んだ。

「そこにいるミーシャは13だな」

「ライラは傷心で寝込んでいるのですよ?!」

「ミーシャも不幸な事故(・・)で母親を亡くしたばかりだが?」

家人の誰もが知っていながらあえて触れない事故(・・)に言及され、ローズマリアは黙り込み、扇の陰で顔を俯かせた。

「我が公爵家どころか国の代表だ。名誉なことだろう?運が良ければ大国の国母にすらなれるのだから」

皮肉げな言葉に遂には目を潤ませ無言で退出していくローズマリアを、数人の使用人が追いかけて行った。

ローズマリアの実家の息がかかった者達で、急ぎ今後の対策を練ろうというのだろう。


それらを見送ると、父親はため息と共に背後に積み上げられていたクッションへと体を預けた。

「………父さん?」

訳がわからないながらも、どうやら自分にも関係のある話題だったのだろうと当たりをつけたミーシャは、ベッドの側に近づくとそろりと父親を呼んだ。

目を閉じていた父親は、その声に疲れた様な視線を向け苦笑を浮かべた。

「そんな顔をするな。大したことでは無い。気にしなくていい」

「でも……」

ローズマリアの尋常では無い勢いに「国の代表」や「大国の国母」という言葉達に不穏な響きを感じ取り、ミーシャは眉を寄せた。


「………同盟国に側室として娘を1人嫁がせる事となった。だが、王家には適齢の娘が現在いない為、こちらに声がかかったのだ。養子に入ったとはいえ、私は現王の実の弟だからな」

納得していないミーシャの様子に父親は渋々理由(わけ)を話してくれた。

その説明にミーシャの眉間のシワは更に深くなる。

同盟とは名ばかりの実質属国となった国の娘が差し出されるのは、要するに人質のようなものだろう。しかし、王族ならともかく公爵家の娘となれば、いざという時、切り捨てられる確率は非常に高そうだ。

親ならば、そんな所に子供を差し出したいわけが無い。

だからって身代わりになる気もしないけど……。


ライラというのは、あの時レイアースに一方的に叫んでいた少女だろう。14歳にしては立派な体型だったが行動は非常に幼かった。

おそらく、母親や侍女達に蝶よ花よと育てらた口だろう。

そんな少女が他国の王家に人質同然に嫁がされる、など、幸せになれる未来なんてこれっぽっちも見えなかった。


「ミーシャは気にしなくても良い。今まで、国や公爵家の恩恵を受け、何不自由なく暮らしてきたのだ。そうである以上、これは貴族として、当然の義務なのだから」

そうまで言われば、ミーシャとしては言うべき言葉は何も無かった。


「私、そろそろ森の家に帰ろうかと思ってご相談にきたんです」

父親を訪ねてきた本来の目的を思い出し、ミーシャは、ぽつりと呟いた。

正妻側の人間には大歓迎だったはずの相談が、なんとも微妙な意味を持つものになってしまい、ミーシャは、どうにも居心地が悪いと俯いた。

「……1人で森にこもるのは寂しくは無いのか?ここに居れば良いだろう?」

「私の家はあそこですから。飛び出す様に出てきたので、どうなっているかも気になりますし」

気遣わしげな父親にミーシャは、少し迷いながらも思っていることを告げる。

「………寂しくなるかも、しれません。その時は、また、訪ねてきます」

本当は、もう少し屋敷にいて父親のリハビリを手伝うつもりだったが、どうも長居は面倒に巻き込まれるだけだと気づいてしまった。

父親も祖父も、自分を嫁がせる気は無さそうだが、ローズマリアのあの様子では、何か仕掛けて来ると考えるのが妥当だろう。


同じ懸念に父親も行き当たったのだろう。

健康な状態ならいざ知らず、今の自分はベッドから1人で降りることもままならないのだ。

じっとレイアースの面影を写し取った娘を見つめると、深々とため息をついた。

森の(みどり)を宿した瞳は揺らぎなく父親を見つめていた。

そこにはほんの少しの迷いの色も無かった。


「………騎士の誰かに送らせよう。何かあったら………いや、何もなくとも定期的に近況を手紙で教えておくれ。私も、早く体を治し、会いに行くから」

「はい、父さん。約束します」

父親の譲歩にミーシャはニコリと笑って頷いた。





「いやよ。こんな事、認められないわ」

逃げる様に自室に戻ったローズマリアは、持っていた扇子を床に向かって投げつけると、宙を睨みつけた。

大切な娘が人質として他国にやられるなど、認められるはずもなかった。

しかも、彼の国の王は華美を嫌うとして、付ける侍女も持ち物も最小限にしろとのお達しである。

この国の公爵家の娘として幸せな未来を得るはずだった娘が、そんな惨めな状況に耐えられるはずも無い。


脳裏に先程見た少女が過る。

翠の瞳が不躾なほど真っ直ぐに自分を射抜いていた。

それは、母親にあまりにもそっくりで、ローズマリアの胸を掻き乱さずにはいられなかった。

同時に、夫の冷たい瞳と言葉を思い出す。

言葉にされなくとも分かる。

「絶対に許さない」とその瞳は語っていた。


(死んでまで、なんて邪魔な女なのかしら)

ローズマリアからしてみれば、女が死んでしまったのは不幸な事故でしかなかった。

だいたい、まだ14の娘に軽く肩を押されたくらいで、あんな風にふらついて階段から落ちてしまうなど、誰が思うだろう。

それを、誰もかれもがまるで娘が故意にあの女を突き落としたかの様な目で見てくるものだから、娘はあれ以来、1歩も部屋から出て来ようとしなくなってしまった。


「ライラだって被害者じゃない。こんな事………」

だけど、あの冷たい瞳を見て仕舞えば、決定はそうそう覆らないと考えたほうが良いだろう。

「可愛い娘を死地に追いやる様な事をするなんて、信じられない。

死の淵を彷徨って、あの人は変わってしまったのだわ」

嘆きながらカウチへと体を投げ出せば、気遣わしげに侍女たちが寄り添ってくる。


「ひとつ考えがございます」

娘の今後を嘆き悲しむローズマリアの耳にひそりと言葉が流し込まれた。

それは、実家より嫁いで来た時からまるで影の様に側に付き従う護衛の声だった。


「あのご様子では、旦那様が前言を翻す事は無いでしょう。では、もっと上から働きかければ良いのです」

「………もっと上?」

首をかしげるローズマリアに護衛の男はひっそりと頷くと、膝をつき首を垂れた。

「奥様は何の心配もされなくて結構です。いつもの様に全て、私にお任せください。必ず、憂いを晴らしてご覧にいれましょう」


目の前に膝をつき、恭しく首を垂れる護衛にローズマリアは鷹揚に頷いた。

「そう……。そうね。貴方に任せておけば安心だわ。いつだって、貴方たちは私の味方ですもの、ね」

護衛の男を。そして、部屋に控える侍女達をぐるりと見渡してそう呟く。

ここにいるのは、嫁ぐ時に父親が自分につけてくれた者たちだ。

いつだって自分の最大の味方でいてくれた。


「お願い。私の娘を助けてちょうだい」

「御意に」

もう一度深々と頭を下げ、男は素早く部屋を出て行った。

読んでくださり、ありがとうございました。


前話掲載後、たくさんの感想をいただきました。ありがとうございます。

そして、感想をくださった方の想いは読んでくださった方の代表だろうと、本文の中で上手く織り込めれば良いのですが、私の文章力では限界がある為、多かった疑問を幾つかここで書かせてください。


先ず、ローズマリアさんは、レイアースの存在さえなければ、少し嫉妬深いだけの一般的な高位貴族のご令嬢タイプ。良識もあり、きちんと公爵夫人としての仕事もこなしてます。ただ、本人無意識にレイアースの存在に嫌悪感を示す為、敏感な子供たちは母親の敵と察知。更に忠実な侍女さんたちがせっせと悪評をまいて下さった感じです。


そして、娘のライラ。

こっちは本当に事故、です。

たまたま見かけて文句の一つも言ってやろうと呼び止めた場所があそこだっただけで、本当に突き落とす気は無かったのです。

今作に書きましたが、人を殺めてしまったショックで本気で引きこもってます。


お父さんがヘタレは……否定できませんねorz

だけど、彼なりに頑張ってたんです。

見聞の旅から帰ってきたら前王が病気に倒れてて、王位継承の為からり大変だったんです。

まぁ、そこら辺は余裕があれば後日談で。


以上、長々と後書きで書き散らしてすみませんでしたm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
反吐の出るクズ女 さっさと死ねばいいのに
クズ女と別れていればクズガキも生まれなかっだろうに
2度も突き落とされたのにこのままなぁなぁってのはそりゃ舐められますわ
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