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端っこに住むチビ魔女さん。  作者: 夜凪
2人旅

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9

(ふしぎだなぁ)

ミーシャに手を引かれ、森の中を散策しながら、エディオンはこっそり思った。

昼下がりの午後の森の中は、穏やかな木漏れ日が落ちて、キラキラと光り輝いて見えた。

道なんてない、深い森の中のはずなのに、ミーシャに手を引かれると、まるで家の庭でも歩いているかのようにするすると進んでいく。


(みんなで逃げてた時とは、まるで違う森みたい)

何かに追われるように必死に前へと進んでいた時には、昼でも鬱蒼として薄暗く、夜は凍えるように寒かった。

藪には何か怖いものが潜んでいるように思えたし、凸凹の木の根が張った地面は、容易くエディオンを引っ掛けて転ばせたものだ。


「これがさっき言ってた傷に効く葉っぱ。こっちはお腹がむかむかして気持ち悪い時に効く葉っぱ」

ミーシャが、一つ一つ指さす先の葉っぱをエディオンは真剣に見つめる。

採取するミーシャの横で一枚ちぎってにおいをかいだり、ちょっとだけかじってみる様子がかわいくて、ミーシャはこっそりと笑った。

ちなみに、護衛の名目で付いてきた若い騎士も、同じく真剣な顔で薬草に向き合っていた。


「この葉っぱを見つけたら、根っこを掘ったらいいわ。とても栄養があるし、すりおろしてお湯に落としたらお団子みたいになってとても美味しいの」

薬草だけでなく、ミーシャは食べられる植物も同じように指差し、教えていく。

「これは甘くておいしいのよ?食べやすいから、お姉ちゃんに持って帰ってあげたら喜ぶわ」

そう言って、ミーシャが手を伸ばし木の実を一つ採るとエディオンに手渡した。

「これ?」

エディオンは、戸惑ったように手の中の木の実を見た。

それはエディオンの片手に乗るほどの大きさでずっしりと重かった。

軽く叩いてみると、滾々ととても固そうな音がする。そして、色が真っ黒だった。

とてもじゃないが、おいしそうには見えない。というか、そもそも食べられそうにも見えなかった。


「かして」

ミーシャは軽く笑うとエディオンの手から木の実を取り上げ、腰に挿していた小型の鉈で木の実を二つに割った。

「あ!!」

そうして 再び手渡された木の実の中身を見て、エディオンは驚きの声をあげた。

中には、甘い香りを放つルビー色の綺麗な果実がぎっしりと詰まっていたのだ。

きらきらと木漏れ日に光、まるで宝石のように美しい。


香りに誘われるように、エディオンはそっと赤い果実に口をつけた。

一口かじるとシャクリとした歯ごたえと共に想像した以上の果汁があふれる。

さわやかな甘さと共に、オレンジと桃を足したような甘やかな香りが鼻に抜けた。

「おいしー!!」

目を丸くするエディオンに、ミーシャはくすくすと笑った。


「気に入ったみたいでよかったわ」

「うん!お姉ちゃんに持って帰る!!」

にこにこと満面の笑みで宣言するエディオンに、護衛騎士の青年がいそいそと木の実の採取を始める。

「その木の実、木から採ったら半日ほどで悪くなってしまうので、食べる分だけにしてくださいね」

「わかりました。日持ちしないから見たことがない果実だったのですね」

おいしそうに果実をかじっているエディオンを見ながら、騎士が納得したように頷く。


「それ以外にも、実はこの木、栽培がすごく難しいんです。家の近くにも木があって、昔、気に入った父さんが種を持って帰って増やそうとしたんだけど、全然だめで。いろいろ試しても駄目だったから、あきらめたんですよね」

当時を思い出して、くすくすと笑いながら、ミーシャは果実の汁でべとべとになったエディオンの顔を拭いてやる。


(栽培に成功したら、領の特産になるのにってがっかりする父さんに、栽培条件をどうにか見つけられないかって母さんと一緒にこっそり頑張ったけどやっぱりだめで。きっと、神様の気まぐれで育つ木なのね、って母さんと笑ってあきらめたっけ)


まだミーシャが小さな頃の懐かしい思い出。

家から少し離れた小川の辺に生えていて、実の季節になると、いつも家族みんなでお弁当を持って出かけたものだ。小川のせせらぎを眺めながら、デザート代わりに実を食べるのが楽しかった。

ある時はお弁当を食べすぎてお腹いっぱいになってしまい、べそをかくミーシャに父親が笑いながら「また来ればいいさ」と言っていた。

結局次なんて待てるわけもなく、夜に食べると少し持って帰ったけれど・・・・・。


そこにでは、みんなが笑顔で、とても幸せだった。


(ああ、そうだわ。母さんの笑顔、・・・・・思い出した)


それが呼び水になったように、たくさんの母親の笑顔が脳裏に浮かんでは消える。

声をあげて笑う顔。嬉しそうに微笑む顔。幸せそうに・・・・。愉快そうに・・・・。うっとりとしたように・・・・。


「ミーシャお姉ちゃん、どうしたの?」

心配そうな声と共にそっと袖を引かれて、ミーシャは我に返った。

見下ろすと、顔をしかめたエディオンがいた。

「?」

なんでそんな顔をしているのか不思議で首をかしげると、エディオンが背伸びをして手を伸ばし、ミーシャの頬を撫でた。

「なんで泣いてるの?」

そう言われて、ミーシャはようやく自分が泣いていることに気づいた。

どおりで、視界がぼやけているはずだ。

自分まで泣きそうになっているエディオンの小さな手を自分の頬ごと包み込むと、ミーシャは微笑んだ。


「とても大切なことを思い出したの。だから、嬉しくて涙が出たのよ。心配してくれてありがとう」

ミーシャの言葉に、少し考えた顔をした後、エディオンもにっこりとほほ笑んだ。

「そっか。悲しくないなら、いいんだ。嬉しくって涙が出ることもあるって、僕もう知ってるもん!」

姉が目を覚ました時、悲しくないのになんでか涙が出たから、エディオンは嬉しい時にも涙が出るのだと知ったのだ。あれは、なんだかとても幸せな気持ちだった。


「思い出せて、良かったね」

「ええ。とても」

しみじみと答えてから、ミーシャはたくさんの薬草や食料であふれたかごを拾うと、エディオンの手を引いて歩きだす。


「さ、デザートも手に入れたし帰りましょう。今日はお魚かな?お肉かな?」

狩りに出かけた人たちの成果を楽しみに、前に進むその足取りは軽かった。

「僕たちの木の実がきっと一番だよ!」

嬉しそうな笑顔で答えるエディオンは、今、なんだかとても幸せだな、と思った。







「てわけでディノアークに連絡を取ってくれ」

「父さんに?」

エディオンを伴っての薬草採取から戻ってきたら、大人たちで今後の身の振り方が話し合われていた。

と、いうか、既に話終わって決定していた。


一行は、このままこの場所で隠れ住みながら療養する。

そして動けるくらいに体調が整ったなら、無理のない速度でブルーハイツへと向かうのだ。

情勢が不安定な中、グリオの姉の元に身を寄せるよりも、いっそさらにその先へと進み、ミーシャの父の元へと行ってしまおうというのだ。


しかし、それはあくまで旅先で知り合ったミーシャの善意で、誰も住む人のいなくなった森の家へと招待した形で、父親もそれを手紙で知らされただけ、という形をとる。

当然、エディオンたちの正体は知らない。ただの定住地を探している旅人一行、という設定だ。


これは、万が一追手がブルーハイツまで手を伸ばした時の保険だ。

エディオンは王位継承権を放棄したとはいえ一国の王族の血縁者で、ディノアークもだいぶ順位が下がったとはいえブルーハイツ王国の継承権持ちの王弟である。

下手をしたら、王家乗っ取りの疑惑を国単位でかけられかねない以上、慎重にならざるを得ない。


とはいえ、エディオンたちが安心して過ごせる環境としてはあの家は最適だろう。

何しろ、森の奥深くに隠された小屋の存在を知る人は少ない。

元々、レイアースとミーシャの存在を隠すための場所だから、当然ではある。


しかし、実は裏道を使えば人里までそう遠く離れてはいないのだ。


現に、ミーシャは何度か母親と共にその村まで訪ねて行ったことがある。

のんびりとした田舎の農村で正体不明の親子にも人懐っこく話しかけてくれ、薬を持っていくと快く森では手に入りにくい調味料や野菜などと物々交換してくれたものである。


つまり、生活用品を手に入れることができるのだ。

さらに森の家だって、手入れをしなければあっという間に森に飲まれてしまうだろうから、「娘が帰ってきたきたときのために」とでも理由をつければ、それほど不審に思われることなく定期的に物資も運べるのではないだろうか?


「何より、あいつにはいろいろ貸しがあるからな。さらに可愛い娘からのお願いとくれば秘密裏にいろいろ融通利かせてくれるだろう」

にんまりと悪い顔で笑うラインに、ミーシャは呆れた顔を向けながらも、素直に父親へと手紙を書いた。

これまでも、何度かカインに頼んで近況などを運んでもらっていたから、突然カインが飛んで行っても不自然には思われないだろう。


(父さんのリハビリも順調みたいだし、どうかな?まあ、今までみたいに自分で行かなくてもいいだろうし。誰がお使いに使われるんだろう?)

脳裏に、父と共に森の家に訪ねてきていた人たちの顔がいくつか浮かんでは消える。

小さく首をかしげるミーシャの疑問の答えを知るのはまだ少し先の話になるのだが、それは今は置いておいて・・・・。


「どこかで馬か馬車を手に入れられたら移動も楽なんだろうけどね」

「まあ、それは別口で手紙を持たせるから、後はこいつらの運しだいだな」

隣で何か手紙を書くラインの手元を、ミーシャはぶしつけに覗き込んだ。

「俺の知り合いなんでよろしく?なに?この札?」

「あ~~?旅してたらいろいろ知り合い出来るもんなんだよ。おまえもそうだろうが」

手紙の横に置かれた小さな木の札は何かの印章が押されているものだった。


「これはこのレッドフォードを拠点にしてる商会の組札だよ。なんかあったらこれ見せたら助けてくれるはずだから。とはいっても、基本これ一枚で一回だから使いどころは考えろよ?」

そう言って、側にいたグリオに書いていた手紙でくるりとその札を巻いてぽいと投げた。

あわてて受け止めたグリオが、改めて紙を開いて札を見て目を丸くしている。


「ここ・・・・俺でも知ってる大商会じゃないですか」

「ああ、たまたま助けたのが商会長の孫娘とかでえらく感謝されてな。その札何枚か押し付けられたんだよ。まだあるから、気にせず使え」

笑うラインに声を失うグリオ。

二人の様子から、ラインがどうもなかなかに貴重な物を軽く放り投げたようだと気づいて、ミーシャは苦笑した。

物に執着することない、いかにもラインらしい行動だった。


「森のお家はミーシャおねえちゃんの家なの?」

「そうよ。バタバタ出てきたからいろいろ出しっぱなしで恥ずかしいけど、気にしないでくれると嬉しいな」

そういえば、父重症の報を受けて取るものも取りあえず飛び出してきたままなことを思い出して、ミーシャは少し顔を赤らめた。

年頃の娘としては、あまり散らかった部屋の状況を見られるのは少し気恥しい。


「ああ、適当にだが、片づけておいたぞ」

どんな状態だったっけ?と思い出していたミーシャは、突然のラインの言葉に首をかしげる。

「おじさん、森の家に行ってたの?」

「一応な。というか、カイン連れてきてるんだから気づけよ」

呆れたように言われて、そういえば、と思う。

基本、指示がなければ森の中で自由に暮らしているカインが、ラインと共に現れたのだから、気づいてしかるべきだったのだ。


「いや、でも。たまたま父さんの所に来てたのを連れてきたのかと」

「言っとくが、基本、俺はお前の父親と交流はなかったからな?仲良く話してたのなんて、村にいた時にレイアースが遭難したあいつを拾ってきた時ぐらいじゃないか?」

「そうなの?」

ラインの意外な言葉に、ミーシャは目を丸くした。

なんとなく、自分たちの所に顔を出した時にでも、ついでに父親の所に行っているんだと思っていたのだ。


「レイアースが一族を出た時にいろいろあって、表立っては没交渉にしてたんだ。……まあ、そこら辺の事情も追々、な」

クシャリとミーシャの髪を撫でると、この話はおしまい、というようにラインは顔をそらした。


「お家のある森にも、この木の実ある?」

すっかり気に入った様子で、黒い木の実をころころと手で転がしているエディオンに、ミーシャは笑顔で頷いた。

「ヒントは小川のそば、よ。探してみて」

何もない森の中。

楽しみがあるほうがいいだろうと、ミーシャはわざと場所を教えるのを止めることにした。

あの家の周辺はある程度手入れされていたし、足が悪い母親でも歩けるほどの距離にあったから、子供の足でも大丈夫だろう。

もっとも、エディオンたちが辿り着くころにはもう実が食べれる季節は終わっているだろうけど。


「ほかにも、色々食べれる野草や薬草も多いわ。覚書を作ってあげるから探してみてね。でも、慣れるまでは大人に確認してから食べるのよ?」

やわらかな髪はさらさらとしていて、初めて会った頃とは比べるべくもない。


清潔を重んじるミーシャは、食と睡眠を満たした後は、きっちりしっかりとみんなを洗い上げたのだ。

小川の側に穴を掘って水を引き入れ、熱した石を放り込んで作った簡易の風呂はなかなかの逸品だったと自負している。

初めて入る野趣あふれる風呂にエディオンも大喜びしていたし、逃亡生活が始まって初入浴に戸惑いつつもみなうれしそうだった。


「お家には小さいけどちゃんとお風呂あるから、毎日入るのよ?シャボン草はもう覚えたでしょう?」

水気の多い場所に生えている厚みのある丸い葉を持つシャボン草は、若芽を摘んで揉みこむと泡が立つのだ。

それは石鹸の代用品として平民にはなじみの深い草だったが、貴族であり、まだ従軍経験もない子供のエディオンには新鮮だったようだ。

両手で挟みこするとできる少し緑がかった泡が楽しかったようで、使うわけでもないのに次々と泡立てて「無駄にしてはいけません」とミーシャに叱られていた。


「・・・・・・ミーシャおねえちゃんは一緒に行かないの?」

一つ一つ、注意を重ねるミーシャの様子に、そのことに気づいてしまったエディオンの顔色が曇る。

否定してほしいとすがるように袖をつかむエディオンに、少し迷った後、ミーシャはコクリと頷いた。


「一緒にはいけないの。私たちも旅の途中だから」

見る見ると潤んでいくエディオンの瞳に心を痛めながら、ミーシャはそれでもその望みを叶えるわけにはいかないと首を横に振った。


「でも・・・・・でも・・・・・・」

自分がわがままを言っているのは、幼いエディオンにも分かっていた。

それでも、どうしてもつかんだ袖を離せそうになかった。

一緒にいた人たちが次々に傷つき、動けなくなっていく中、突然現れて助けてくれたミーシャ達はまるで絵本で見た神様の使いのように感じていたのだ。


温かいご飯をくれ、身を清めるすべを教えてくれた。

意識すらなく、死を待つしかないと思っていた大切な家族を救ってくれた。

そんな存在がいなくなってしまう。

そのことに恐怖を感じるのは、しょうがないことだった。

大人であるグリオ達でも、内心に感じる不安を理性で抑え込んでいる状況なのだ。


だからと言って、いつまでもミーシャ達にすがっているわけにはいかないことも、グリオ達にはよくわかっていた。

ミーシャ達は、通りすがりの旅人であり、その善意を強要するわけにはいかない。

行き先に迷っている訳ありのグリオ達に、住む場所を提供してそこに行くための手段まで都合つけようとしてくれているだけで、十分すぎる恩恵だ。


それは、心配性のナタリーですら同じ考えだったようで、縋り付くエディオンの手を優しく、だがあらがえない強さで引き離した。

「・・・・・ナタリー」

姉に対する態度を見ていたら、きっとナタリーだってミーシャ達に一緒にいてほしいはずだと思っていたエディオンは、引き離されて思わずナタリーを仰ぎ見た。


そして、静かな目でゆっくりと首を横に振られて理解する。

自分の願いは、叶わないのだと。

ミーシャ達とは、ここでお別れしなければならないのだと…・・・・・・。


「・・・・・ごめん・・・・・なさい」

肩を落としたエディオンは、小さくつぶやくとナタリーにしがみついてその胸に顔をうずめてしまった。

それは、小さな少年が我慢するための必死の行動だった。

顔を見れば、きっとまた泣いてしまう。行かないでとわがままを言ってしまう。だから・・・・・。


それでも耐え切れず、声を殺して泣いている小さく震える肩に、みんなは顔を見合わせた。

「今生の別れでもあるまいし、大げさなチビだな。おまえさんが行くのはミーシャの家だぞ?そのうち帰ってくるにきまってるだろ?」

その小さな背中をポン、と叩くと、ラインが、何でもないことのように言った。

その言葉に、エディオンが伏せていた顔をバッとあげた。

 

「また会える?!」

まだ涙の残る瞳で見つめられ、ミーシャは破願した。

「もちろん!いつとは言えないけど、また会えるわ。ちゃんと、帰るから」

頷くと、エディオンはへにょりと眉を下げて笑った。

「じゃあ、待ってる。いい子にしてるから、早く帰ってきてね」

それは、きっとエディオンが、仕事に出かける両親と何度もしてきた約束だったのだろう。

ナタリーの胸から離れて、ぎゅっと抱き着いてくるエディオンを受け止めたミーシャは、同じように力いっぱい抱きしめた。


「わかったわ。カインにお手紙も運んでもらうから、エディオンもお返事頂戴ね?」

「うん!僕上手にお手紙書けるように字の練習もちゃんとするよ!」


元気に答えるエディオンの背後で「これでエディオン様のお勉強がはかどりそうですね」とこっそりナタリーがこぶしを握り締めていたのは、大人の内緒話だ。

こうして、無茶ぶりをされたカインが、最終的には大陸横断の長距離飛行で手紙を届けるようになるのだが、それはまた別の話。





「ま、嬢ちゃ・・・・・・、フローレン様の虚弱体質が急に良くなるわけはないんだから、無理はさせないようにな。これだけ此処に足止めしてても追手が来る様子はないし、国も超えたんだからたぶん大丈夫だろう。余裕のある日程で動けよ?」


まとめた荷物を背中に背負い、ラインが最後の挨拶とばかりに話している間、ミーシャはフローレンとエディオンに向き合っていた。

意識が戻って三日目。テントから出て、背もたれにもたれるようにとはいえ、座位が取れるようになったフローレンは順調な回復ぶりといえるだろう。


「無理は禁物ですよ?我慢も駄目です。つらい時はちゃんと周りに言ってくださいね?」

そして子供たちは子供たちで、神妙なやり取りが繰り広げられているのだ。

「はい。お薬も忘れず飲みます」

「大丈夫!僕がお姉ちゃんのことちゃんと見てるから!!」

コクリと頷くフローレンの横で、胸を張って宣言するエディオンの手には、ミーシャお手製の採取かごが握られている。


そこら辺に生えている蔦植物の葉を払って編み込んだものだが、きちんと処理をしているおかげで柔らかく折りたたむこともできる逸品だ。

この数日でミーシャの弟子を自称しだしたエディオンに、時間の合間を縫ってミーシャが作ってやったのだ。せっせと教えられた薬草を採取する手つきはぎこちないながらも真剣で、見守る大人たちの癒しになっていた。


ミーシャとしてはこの拠点の間だけの間に合わせのつもりだったのだが、師匠ミーシャにもらった贈り物をエディオンが手放すはずもなく、のちに森の家で再会した時に使い込まれた籠に驚くことになる。


「じゃあ、またね!」

手を振りあっさりと別れる。

だけど、どちらも「さよなら」は言わない。

それが、みんなの気持ちを表していた。


これから、お互いが、どんな時を過ごすのかはわからない。

特に、エディオンたちは、来るかもしれない追手の影におびえながらの逃亡生活だ。

森の家にたどり着くまでは、心休まるときはないだろう。


それでも、笑って手を振ることができるのは、ミーシャとラインが、自分たちにできる精いっぱいの献身を与えてくれたと知っているから。

そして、再会という希望を残してくれたからだ。


「またね~~!!ミーシャおねえちゃん!!!元気でね~~~」

エディオンは、小さくなる背中が見えなくなるまで力いっぱい両手を振り続けた。
















読んでくださり、ありがとうございました。


とりあえずエディオン君とのお話はこれでひと段落です。

この後、人目を忍びながらミーシャの森の家までたどり着き、そこで潜伏生活を送ります。

国境越え?ラインから入り込みやすいポイントを聞いているので大丈夫。森での生活も、ミーシャがお金になりそうな薬草や山菜の位置を記した紙を持たせてるのでそれなりに大丈夫。

慣れてきたら、騎士の皆さんはそれぞれに出稼ぎに出かけて、森の家には子供たちとナタリー+1ぐらいになる予定です。

で、エディオンはミーシャの覚書をもとにまじめに勉強して、フローレンも山の健康生活で人並みには体が頑丈になってることでしょう。


な、裏設定。

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