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29.1.21追記(というかほぼ差し替え)しました。

目が覚めるとレイアースの姿はすでに部屋に無かった。

ミーシャが子供ゆえに眠りをたくさん必要としているのか、経験の差か。

(母さん、すごいなぁ)

寝起きでボンヤリとする頭を抱えながら、既に温もりも残っていないであろう空のベッドを眺めた。


ミーシャは、しばらくぼんやりとした後、ノロノロと寝室を出て隣の部屋に行ってみた。そのまま部屋を見回し、テーブルの上に白いナプキンをかけられたモノを見つける。

退けてみれば、いつも食べているサンドイッチが置いてあった。

朝食として母親が作ってくれて行ったのだろう。


「お茶いれよう」

部屋の隅にあるミニキッチンへと足を向け、火を起こしお湯を沸かす。

これまた母親が用意してくれたらしいティーポットにお湯を注ぎテーブルへと運んだ。

父親の事は気になるが、母親が側について居るだろうし、何より朝食はしっかり取らねば力が出ない。

薬師は体力勝負なのだ、とは薬草を探して山野を駆け巡っていたミーシャの持論である。


そして、サンドイッチを取ろうと手を伸ばした時、ミーシャは添えられていた手紙にようやく気付いた。


『父さんと共にたくさんの怪我人が戻ってきています。父さんは母さんが看るので、そちらをよろしく。薬師としての実地訓練として頑張りなさい』


「そっかぁ……。怪我人が父さんだけの筈、無いよね」

むしろ、前線には出ず後ろで指揮をとっていたであろう父親が怪我をするくらいなのだから、かなりの数の死傷者が出ていてもおかしく無い状況だったはずだ。

それなのに、父親の事ばかりで、そんな事はちっとも思い浮かばなかった自分の未熟さにミーシャは肩を落とした。


本当に自分には薬師としての考えも経験も足りなさすぎる。

覚えた知識を実際に活かせなければなんの意味も無いのだ。

「………がんばろ」

ポツリと呟くとミーシャは、サンドイッチにかぶりつく。

何はともあれ腹ごしらえだ。






しっかりと用意されていたものを腹に納め、薬師の道具と薬草を入れたカバンを担いだミーシャは部屋を出ると玄関の方へと向かった。

とりあえず、母親の指示に従い怪我人のところに案内してもらおうと考えたのだ。

怪我人がどこにいるかは分からないため、行き合った人物にでも聞いてみるより他に無い。

そのうち誰かに会うだろうと歩いていけば、すぐに人に行き当たった。

と、いうか、どうやら相手もミーシャに会う為に部屋へと向かっていたところだったらしい。


「あ、昨日の騎士さん」

見覚えのある顔に、ミーシャは足を止めた。

「………カイト=ダイアソンです。レイアース様に頼まれて、貴女を案内に来ました」

少ない言葉は随分とぶっきらぼうに響いたが、昨日共に過ごした時間の中で相手に悪気は無い事は気づいていたから、ミーシャは、特に気にする事もなくコクリと頷いた。

「宜しくお願いします」

内心(コレで怪我人探して彷徨わなくてすむ)と小躍りしたミーシャは、ちょこんと膝を折り挨拶してから、動こうとしない相手をじっと見つめた。


(どうしたのかしら?……実は彼も怪我人とか?)

昨日の馬を駆る様子からそれは無いだろうと思いながらも、改めて薬師としての目で相手を眺める。

(手足の動きに不自然な感じは無かったし、血の香りも今はしない。顔色も良いし……うん。大丈夫そう)

満足のいく結論にコクリと頷き、次いで首を傾げた。じゃあ、なぜ、彼は動こうとしないのだろう。


「あの〜、カイトさん?」

結局わからない事は本人に聞き取りだろうとミーシャはそろりと声をかけた。

それに、カイトはハッとした様に我に帰ると、クルリと踵を返す。

「こちらに」

端的な言葉と遠ざかる背中を、ミーシャは慌てて小走りで追いかけた。





連れてこられたのは別棟にある広い部屋だった。

余計な家具はすべて撤去されベッドだけがずらりと並んでいる。

時折聞こえる呻き声とはっきりと感じる血と膿、そして薬の香り。

「ここは、重傷者のみを集めた部屋です。薬を塗り、痛み止めを飲ませ安静を取っています。他に、できる事はありそうですか?」

「………お医者様は居ないのですか?」

「お抱えの医師は戦場へと赴き、そこで戦死しました。弟子は向こうでてんてこ舞いです。ここには、専門の知識を持つものは居ない為、連れ帰る際に指示された方法を続けている状況です」


指示をしてくれる医師は不在。

いつもなら道を示してくれる母親もここには居ない。

どうやら全ての判断を自分で見て考えて行わなければならないようだ。

その事に気づいてミーシャの体を戦慄が走り抜けた。

自分の判断が人の命を左右するかもしれない。

薬師を目指すと決めたあの日に決めた覚悟の程を問われている気がして、ミーシャはキュッと唇をかみしめた。


(薬師になるって決めた以上、こういう場はいつか来るものだわ。それが予想より早かったからって、逃げるの?!)

怖気付きそうな自分に問いかければ、答えは直ぐに戻ってきた。

すなわち『否』と。


「ここの責任者の方はいますか?」

「はい。リュシアンナと申します」

ミーシャの問いかけに1人の侍女が前に出て来ると膝をおって挨拶してくる。

お仕着せの侍女服の上に前掛けをつけた20代後半くらいに見える女性だった。

少し緊張した様子でこちらを見つめる瞳には戸惑いが多く浮かんでいた。

噂で「森の魔女」がもう1人の薬師を伴って来たと知ってはいたものの、ミーシャのあまりの幼さに本当に噂の人物なのかと懸念が頭をもたげたからだ。

噂では、「森の魔女」と共に瀕死の領主様の治療に当たり見事やり遂げたとのことだったのだが、目の前に立つ少女はどう見積もっても10代半ばでとてもそんな大それたことをしたようには見えなかった。


一方ミーシャは、リュシアンナの顔を見て眉をひそめた。

白粉おしろいでは誤魔化しきれぬクマが目の下に濃く浮き上がり、三角巾の隙間から見える髪も随分と乱れ、脂ぎって見えた。

痩せているというより、明らかにやつれて見えるその顔は、何よりも如実にリュシアンナの疲労を訴えている。


「リュシアンナさん、失礼ですが貴女何日お風呂に入っていませんか?そして、まともにベッドで寝たのはいつですか?」

てっきり患者の容態を聞かれると思って意気込んでいたリュシアンナは予想外の質問に一瞬頭が真っ白になった。

「………え……と、お風呂は3日ぐらい。ベッドでは………いつでしょう?みんなで交代で控え室のソファーで睡眠はとっていますけど」

反射的にもれたのは、あまりに素直な言葉で、その答えにミーシャの顔が険しくなる。

「まず、看護人の役を担っている方々を呼び集めてください」





そうして呼び集められたのは10代から30代の侍女たち4人だった。

皆一様に顔色が悪く、服装もくたびれた感じになっていた。

「後2人居るのですが、仮眠に入っています」

険しい表情のミーシャにリュシアンナが恐る恐る報告した。

噂の薬師本人なのかという懸念よりも、目の前の少女の醸し出す雰囲気の方が怖かった。

下手なことを言えば叱りとばされそうな空気にリュシアンナは、実家の母親を思い出したほどである。

他の侍女たちも同様のようで心持ち俯き加減で身体を縮こませていた。


「その方達はそのまま休んでいただいて大丈夫………って、もしかしてソファーで眠ってらっしゃるのですか?」

頷こうとしたミーシャはふと最初にリュシアンナが言っていた言葉を思い出し、言葉を止めた。

リュシアンナたちの視線が気まずそうに逸らされる。

ミーシャはあっけにとられた後、大きなため息を1つつくことでどうにか自分を落ち着けた。


「この場は私が預かります。あなた方は明日の朝までお休みしてください」

「え?!」

驚きに声を上げるリュシアンナたちにミーシャはゆっくりと言い聞かせた。

「貴女たちが手探り状態で必死にやってきてくださった事は分かっています。ですが、このままでは貴女たちまで倒れてしまいそうです。部屋に帰り、湯を浴びて、ベッドで休んでください」

ミーシャは心を込めてリュシアンナを見つめた。少しでも、心配している心が伝わるように。

美しく煌めく翠の目に覗き込まれ、幼子に言い聞かすような穏やかな声で伝えられる言葉は、動揺していたリュシアンナたちの心にゆっくりと染み込んでいった。


「貴女方が必死で守ってきた命は私が責任を持って預かります。こう見えて、きちんと師より一人前の許可をもらい、この場を采配するよう指示を得ています。信用してくださいませんか?」

しっかりと背筋を伸ばし胸を張る姿は自信に溢れ、ミーシャの華奢な身体を2倍にも3倍にも大きく見せていた。

戸惑いながらもミーシャの言葉に頷くリュシアンナたちに、ミーシャはふんわりと笑って見せた。

「では、今日はゆっくりと休んで、明日は元気になって戻ってきてください。待ってますから」




(よかったぁ〜。皆さん素直に帰ってくれて。ポッと出の子供の言うことをあんなに素直に聞いちゃうなんて、本当に疲労がピークだったんだろうなぁ〜)

そうして促され去っていく侍女たちの背中を見送った後、ミーシャがそっとため息をついたその視線の先に困惑した表情のカイトが立っていた。


カイトは今自分の感じている感情をどう言葉にしていいのかわからず迷っていた。

疲れてどこかピリピリとした雰囲気を醸し出していた侍女たちが、ミーシャの瞳に見つめられ声をかけられることで、まるで憑きものがおちたように肩から力が抜け、安心したような表情になっていった。

それはとても不思議な光景だった。

対峙しているのは成人も迎えていないような幼い少女なのだ。

だが、確かにそこに立つ少女には不思議な威厳のようなモノが備わって見えていた。


ふとカイトは初めて少女に会った時のことを思い出していた。


あの日。

瀕死の主人を助ける為にと尊敬する上司が馬を走らせるのについて行ったのは、半ば無理やりだった。


かねてより、主人が持ち帰る数多の薬は普通のものよりよく効くと噂になっており、カイト自身も何度がお世話になっていた。

通常の倍の速さでふさがる傷薬に、好奇心のままに出所を尋ねれば、『森の魔女』の特性であると我が事のように医師が胸を張っていた。


好奇心のままに魔女の正体を探れば、あっさりと主人が遥か北国から連れ帰った『側室』であり、『正妻』との権力争いに負けて領地の端にある森の中に追いやられたのだということが分かった。

とんでもなく粗野な田舎者だったという悪意のある噂と、反対に飾らない優しい聡明な娘だったという好意的な噂。

悪意は位の高い貴族から、好意は下働などの平民からが主で、側室の存在を嫌った正妻サイドが故意に流した噂だろうと、人の機微に疎いカイトでも簡単に想像がつくほど、非常にわかりやすい構図だった。

そして何らかの問題が起こり、相容れない二人がこれ以上争わぬように、側室は誰も知らない場所へと隠された。


それがどんな「問題」だったのか真偽のほどは分からなかった。なぜかその部分だけは当時を知るはずの誰もが、口を開こうとはしなかったのだ。

確かなことは月に数日、主人が側近と共にどこかへ消え、その都度効能の高い薬を持ち帰ることであり、どこに消えているのか詳しい場所は限られた者しか知らない、ということだった。


その噂の『森の魔女』を迎えに行くという。

ひどい傷を負い死に瀕している領主を助ける一縷の望みに皆、縋り付こうとしていた。

それが、自分たちが追い出した女性だということは棚上げにして・・・・・・。

怪我をした主人を守り戦場から撤退した小隊の中にいたカイトも、わずかな希望にしがみついた一人であった。


渋る上司に縋り付き懇願して半ば無理やりついて行った先は、山深い森の奥にある粗末な小屋で、中から現れたのは地味なローブをまとった女だった。

確かにまるで森の精霊が現れたかのような美しさではあったが、『魔女』などという禍々しさからは無縁の雰囲気だった。さらに娘というのも小さく弱々しい少女で、慣れぬ馬上に青い顔で腕の中で小さく震えている存在だった。

行きがかり上かなりの時間を馬上で密着して過ごすことになったが、色気は皆無。落ちないだろうかとがちがちの体を自分の胸元に引き寄せたが、なんの劣情も抱かなかった。こんな小さな少女が「魔女の娘」などとたいそうな肩書きを持っていることに笑ってしまいそうになったほどだ。


だが、今。

目前に立つ少女は、とても綺麗に見えた。


噂では少女は立派に母親の助手を務め、今にもあの世へと旅立とうとしていた領主の魂を見事に繫ぎ止めたそうだ。大の大人でもひるむ惨い治療にも、顔色一つ変えることなく冷静に対処していたと。

馬上の様子を思い返せばにわかには信じがたかったが、そういえば、その後の今にも倒れてしまいそうな様子から自作の薬であっという間に立ち直ってしまったのだと思い出す。

今にも死んでしまいそうにぐったりしていたのに、薬を飲んで少しの間じっとしていたと思ったら見る見るうちに顔色よくなりすたすたと歩きだした


そしてここでも、初めて来た場所にもかかわらず大人相手に堂々と諭し、従わせてしまった。

それは、まるで不思議な力のようにカイトの目には映った。






じっと自分を見つめるカイトの視線に居心地の悪さを感じ、ミーシャは、ごまかすような笑顔を浮かべると肩をすくめて見せた。

「………助手がいなくなっちゃいました」

どこかお茶目な仕草に、我に返ったカイトはため息をつくと剣とマントを外し腕まくりをした。

取り合えず、カイトは自分の戸惑いは棚上げにすることにした。目の前にはけが人がいて、ミーシャには、それに対処する力があるのは分かっているし、少なくとも敵では無い。

いい意味で実力主義の騎士団の中で鍛えられ、戦場で地獄を覗いてきたカイトはどこまでも現実主義であった。

怪しげな術を使おうと仲間が助けられるなら、それでいい。不利益になるようなことをするなら、たとえ後で咎められてもこの手で切り伏せてしまおうとカイトは物騒なことをこっそりと心に誓う。


「力仕事くらいなら請け合おう。医療知識は皆無だからそこは期待しないでくれ」

いささか物騒なことを考えていることなどおくびにも出さず申し出たカイトに、ミーシャは、笑顔で頭を下げた。


「助かります。では、一緒についてきてください」

そういうと、ミーシャは、部屋の窓を開けるように頼むと自らも動き始めた。

春というにはまだ少し肌寒い季節柄締め切られていたカーテンと窓が開けられ、柔らかな日差しと風が入り込んできた。

こもっていた空気がたちまち吹き飛ばされていく事に、けが人に付き添っていた幾組かの家族が顔をあげる。


ミーシャは、自分のほうにむけられた疲れた顔に向かいふんわりと笑って見せた。

脳裏には母親の「はったり大事」の言葉と笑顔が渦巻いていた。

「初めまして、皆様。私は、ミーシャと申します。ここには、薬師として参りました。今から、皆さんの治療に当たらせていただきます。順に回っていきますので、協力できる方は、どうぞ手伝ってください」


「・・・・・・あなたが、薬師様?」

まだ若い女性から戸惑うような声が上がる。

結い上げた髪と服装から既婚者と分かるが、おそらくまだ新婚なのだろう若さと初々しさが見えた。

側に付いているベッドには、顔半分までをぐるぐると包帯で巻かれた男が横になっていて、引きむすがれた口元だけが辛うじて覗いている。

まかれた包帯には血が滲んでいたがその色は変色しており、長い時間そのままであったことが伺えた。


そこまで見て取って、ミーシャは、ゆがみそうになる口元を辛うじてこらえた。

物資が不足しているのか適切な指示を出せる者がいなかったのか・・・・。やることは、どう見ても山積みだった。


(1人くらい現場の状況に詳しい人を残すべきだったかしら)

ふと脳裏に後悔がよぎるが、すでに遅い。

まさか、今更呼び戻すわけにもいかないだろうと頭を切り替えると、ミーシャは、自分を見つめる瞳に視線を合わせ、ゆっくりと頷いて見せた。


「そうです。包帯を変えるついでに傷の様子を見せてくださいね。綺麗な布巾と水はありますか?」

「………はい。用意します」

半信半疑ながらも、苦しむ夫の手を握るしかできなかった新妻は、差し伸べられた手に縋ることにしたらしい。

荷物の中から白い布巾を手に何処かへと走って行った。

おそらく、水を汲みに行ったのだろう。


ミーシャはそれを見送ると、そっと枕元へ近づき、患者へと囁きかけた。

「今から包帯を取ります。血液で固まっている場所があるので痛みがあるかもしれません。我慢できないようなら、おっしゃってください」

柔らかな声音は傷からの発熱で朦朧としている患者へも届いたらしい。

微かに頭が動いて了承の意を示した。


「カイトさんはお湯を沸かしてもらえますか?できるだけ大きな鍋で。あと、清潔な布と包帯が欲しいです」

サイドテーブルの上に手早く幾つかの道具を並べながら、横に立つカイトに指示を出す。

「分かった」

カイトはすぐに踵を返し近くの扉へと消えていった。

そこに水場があるのだろう。


ミーシャは戻ってきた女性から水の入った手桶と布巾を受け取ると、その中に何種類かの粉薬を投入して混ぜた。

水が薄い緑から紫へと変わっていく。

「殺菌作用があります。傷を触るのに、手が汚れていたら意味が無いので」

不安そうに傍らに立つ女性にそう言うと、ミーシャは濡らした手のまま、包帯をほどき始めた。

血液やその他でこびりついている部分を手桶の中の水で濡らしふやかしながら取り去ったあとの傷を冷静に観察する。


頭頂部から右耳の上部にかけての傷。

かなり深いものの、幸いにも骨に異常はなさそうだ。

ただ、削げたようになっている部分があるのが微妙なところだ。

「邪魔になるので髪は切りますね」


生々しい傷跡に顔色を悪くしている女性に一応声をかけ、ミーシャは傷を露出するように髪を切り落とした。

さらに消毒液でこびりついていた血液や汚れを綺麗に落とす。

薬を塗って、傷の深い部分を縫い合わせ、包帯をまけば終了だ。


迷いの無い手は止まることなく、全ての作業を終えた。

最後に戻ってきたカイトに手伝ってもらい上体を起こして、化膿止めと解熱剤、痛み止めを飲ませる。


「このまま、様子をみてください。汗をかいているのでお湯で絞った布で拭いてあげて良いですよ。こまめに水分をあげて下さいね。薬は夕餉の時間に湯に溶かして飲ませてください」

幾つかの指示を出し、次の患者へと向かうミーシャに女性は深々と頭を下げた。

自分よりも幼く小柄な少女がとても頼もしく感じた。

いつ、死神に攫われてしまうかと怯えていた夫の様子は先ほどより、明らかに良さそうだ。

与えられた薬のおかげか、苦しそうに食いしばられていた口元が緩み、安らかな寝息が漏れていた。

夫が戻ってきてから初めて女性は自分の心が安堵に緩むのを感じた。

ジッと夫の寝顔を見つめていた女性は、キュッと唇を噛み締めると、次の患者へと向かっている小さな背中を追いかけた。

薬の知識など無いけれど、何か手伝えることはあるはずだ。

この部屋には、まだ苦しんでいる人たちがたくさんいるのだから。


「あの、何かお手伝いできることはありますか?」

駆け寄ってきた女性にミーシャはにっこりと微笑んだ。

「助かります。水場の方からお湯を持ってきてもらって良いですか?」





深い切り傷には縫合を。

膿んでいる傷は、膿をかき出し、消毒して薬を塗りこむ。

固定してあった骨折部位は1度解いて状態を確認した後、固定をし直す。

解熱剤や痛み止め、軽い睡眠薬など、症状や体型に合わせて調合しては処方していく。

その動きは冷静で手早く、そして、素人目から見ても的確だった。

なぜなら、ミーシャの通った後は、患者達の苦悶の表情が明らかに和らいでいるのだ。


最初は戸惑ったように見ていただけの付き添いの家族たちは、次々に協力を申し出た。

それにミーシャは嬉しそうにお礼を言いながら、出来ることをお願いしていく。


湯を沸かす。

汚れたシーツの交換。

栄養のある食事の指示。

誰にでもできる、でも、絶対に必要な雑事。


下手に動かして傷を悪化させてしまってはと恐怖が先に立って、ただ痛みに苦しむ大切な人の手を握り励ますことしかできなかった家族達は、喜んで指示に従い動き回った。

血と膿の匂いの立ち込めた、呻き声の響く沈鬱な空間は、たちまち消毒液や薬草の匂いの漂う清潔な空間へと様変わりして行った。

心なしか、動き回る家族の表情も生き生きとして明るい。


カイトは忙しくベッドとベッドの間を渡り歩くミーシャに付き従いながらも、その変化を驚きと共に見守っていた。

重症患者ばかり集められたこの部屋には、カイトの知り合いの騎士もたくさんいた。

死を待つだけでは無いかと、こんなに苦しそうならいっそ楽にしてやったほうが良いのでは無いのかとすら思っていた仲間達が、痛みを和らげられ、ホッとしたように眠っている。

それは、感動すら覚える光景だった。


(本当に、魔法のようだ)

いつまでも血がジクジクと滲んでいた傷にミーシャが不思議な色の粉をふりかけると、血はゆっくりと固まっていく。

しばらく待って、それを拭き取れば、どす黒く変色していた肉が薄桃色へと変わっていた。

それに軟膏を塗り、ガーゼで押さえて包帯をまいていく。


「その薬も、あなたが自分で作ったのか?」

気づけば、言葉が口をついて出ていた。

包帯を巻く手を止めることなく、ミーシャは事もなげに頷く。

「これは血止めと細胞の再生を促す作用がある薬です。戦争がはじまってから、母さんの指示で色々用意してたんです。まさか、自分の手で使うことになるとは思ってなかったけど」

側にいた女性の1人に丸薬を幾つか渡し、飲ませるようにお願いしてミーシャは次のベッドへと向かう。


そこには上半身を枕に預けるようにして起こした男が座っていた。

前ボタンが全部あけられた隙間からは包帯でぐるぐる巻きにされた上半身が覗いている。

短く刈られた髪は見事な赤で瞳は赤身の強い茶色。まっすぐにこちらを見つめる視線は、楽しそうにほころんでいる。今年の頃は30を少し過ぎたくらいだろうか。

髪と同じ色の不精髭に覆われているが顔立ちは整っているように見えた。口元には火をつけていないたばこらしきものが加えられ手持無沙汰に揺れている。


「よう、お嬢ちゃん。ちっせいのに凄いんだな、あんた」

ベッドのすぐ横に立ったミーシャに男は軽い調子で声をかけてきた。

「シャイディーン隊長、あなたはまた、そんなものを吸って」

しかし、その言葉に挨拶を返そうとしたミーシャよりも先に半歩後ろにいたはずのカイトが、いつの間にか前に出て男の唇から煙草を奪っていった。


「なんだよ、カイト。相変わらずお堅いな。火はつけてなかっただろう?」

シャイディーンと呼ばれた男は、いたずらが見つかったような子供のような顔で笑うと、肩をすくめて見せた。

「そういう問題ではないでしょう。まったく」

あきれ顔で奪ったたばこを、それでも握りつぶしたりはせず、サイドテーブルに置くカイトの様子が少しリラックスして見えて、ミーシャは内心首をかしげた。

このやり取りを見る限り、親しい間柄なのだろう。


ミーシャの視線を受けて、カイトが居住まいをただした。

「この方は、シャイディーン=ルースベル。中隊の隊長職を任されている者ですが、先の戦局で負傷して療養のため戻ってきています。私の上司でもあります」

はきはきとした口調は丁寧で、カイトをいっぱしの騎士に見せていた。

基本フランクな口調で話しかけられていたため、なんだか変な感じでミーシャはかすかに眉をしかめた。なんだか、体のどこかがむずむずする。

それは、ベッドの上のシャイディーンも同じだったようで、こちらは盛大に顔をしかめていた。


「よせよ。気持ちわりぃ。そんな御大層な人間でもない。下手こいて腕を片っぽ持ってかれた死にぞこないだ」

どこか自嘲を含んだおどけた口調にカイトが唇をかんだ。

「それは!俺たち新兵をかばったからで・・・・・・・!」

「それでも、半分は死んじまったし、俺も兵士としてはもう使い物にはならんのが事実だ。・・・・・・・そんな顔すんなよ。命は残ったんだし、これからは別の何かを探すだけだ」

悔しそうなカイトに少し困ったような顔をしながら、そう宥めるシャイディーンに、ミーシャはそっと手を伸ばした。


「傷の様子を見せていただいても良いですか?」

「ああ。どうぞ?」

シャイディーンはなんの気負いもなく、その肩からシャツを滑り落とした。


右腕が肘の少し上から無くなっていた。

きつく巻かれた包帯には血液と滲出液が固まり変色している。

おどけた口調で喋っているため、ごまかされがちだが、その顔色はかなり悪く、かなりの血液を失っているのだろう。


「腕落とされた返し刀で身体も斬りつけられてな。幸い、帷子着てたから傷の方は中まではいかなかったから助かったんだ」

腕とは別に巻かれた胴体の包帯を解けば、右脇腹から左胸に向けて斜めの傷が走っていた。


ミーシャは粗めの縫い目に顔をしかめる。

先程から、どうも縫合の縫い目が荒く素人くさい。

一人一人に時間をかける余裕が無いほど忙しいのか、担当した医師の手が未熟なのか。


消毒はしっかりなされたのか、膿んでいる気配は少ない。

再度消毒をして傷の様子を確認し、薬をぬって包帯を巻きなおした。

鍛えられた身体は分厚く、抱きつくようにしてもうまく背後に手が回らない。

自分の身体の小ささに心の中で舌打ちしながらも四苦八苦していると、見かねたカイトが手伝ってくれた。


次に腕の方を見れば、切断面が焼けただれていた。

「出血がうまく止まらなくて、傷を焼いたんだ」

事もなげに告げられたあまりにも原始的な止血法に、ついにミーシャはくっきりと眉根を寄せた。

野蛮にも程がある。


幸いにも本当に切断面だけの火傷だったから諸々のリスクは低いが、無知にも程がある。

静かに怒り狂いつつも、手は止まることなく、適切な処置を施していく。


「あんた、噂の森の魔女の娘だろ?魔女の娘も小さくても魔女なんだな。随分と手際が良い」

「………本当に魔女なら不思議な力でこの腕生やしてあげられたんですけど、ね」

ただの傷薬ではなく、火傷によく効く軟膏を急きょ練りながらミーシャはあっさりと答えた。


そうして出来上がった紫色の軟膏をたっぷりと腕に塗り再びガーゼと包帯で蓋をしていく。

「残念ながらただの人なので、薬を塗るくらいしかできません」


「いや、充分だ」

シャイディーンは少しヒンヤリとした塗り薬の感覚に柔らかく目を細めた。

「おかげでここに居る奴らは明日へ命をつなぐことができた。感謝する」


「………どういたしまして」

シャイディーンの感謝の言葉にミーシャは少し驚いた顔をした後、ふんわりと微笑んだ。

こうして感謝の気持ちを向けられるだけで、遥々森の奥から出てきた甲斐があるというものだろう。


「痛み止めと熱冷まし、置いておくので、ちゃんと飲んでくださいね。タバコでごまかそうとしても、だめですよ?」

そう言ってサイドテーブルのタバコを軽く睨めば、シャイディーンは肩をすくめて見せた。

「意外と効くんだぜ?きつめに作ってあるからなあ」

「「だめです」」

シャイディーンの言葉に、ミーシャとカイトの声がハモった。

驚いて顔を見合わせる2人にシャイディーンが笑う。

「仲良しだな?息ピッタリだ」

楽しそうなシャイディーンにミーシャはため息を1つついてから、わざとしかめっ面をして見せた。


「誰だって同じ反応しますよ?とにかく、タバコとお酒は控えてくださいね。傷に触りますから」

「了解、魔女殿」

おどけた仕草で敬礼するシャイディーンの服の胸ポケットから、カイトが容赦なくタバコ入れを奪っていった。


「あっ、こらっ」

「お許しが出るまで責任もって預かっておきますので。次に行きましょう、ミーシャ様」

澄ました顔でそう言うとカイトはミーシャの背を軽く押してその場を後にした。

背後の恨めしそうな視線をマルッと無視するカイトにミーシャはクスクスと笑いを零した。


「仲良しですね?」

「・・・・・・・・あんなでも戦場では尊敬できる上官なんです」

次の患者に移る前に薬草の補充をしようと水屋に戻りながら何気なく口にすれば、たっぷりの沈黙の後答えるカイトの表情は微妙なもので、ミーシャはさらにひとしきり笑ってしまった。

そんなミーシャを黙って見つめた後、カイトは、唐突にミーシャの前に膝をついた。


「見た目だけで幼いものと侮り、無礼な態度を重ねたことをどうぞお許しください。貴女のおかげでたくさんの者が救われました」

首を垂れるカイトにミーシャは目を白黒させた。

自分より年長の男性に膝をつき謝罪をされるなどミーシャの人生初の出来事であり、どう、返していいのかもわからない。

「あ・・・・あの、顔をあげてください。カイトさんの言動を無礼だなんて感じてませんし、私が幼いのも事実ですし・・・・・あの・・・・あの・・・・・・・困ります」


しどろもどろに言葉を紡ぎ、どうにか顔をあげてもらおうとするミーシャにカイトは漸く垂れていた首をあげた。

まっすぐに自分を見つめるカイトの瞳が、髪とおそろいの黒だと思っていたのに実は深い紺色だということにミーシャはその時ふいに気づく。

光が差し込むことでいろいろな濃さの青が見えた。


(きれい)

思わず瞳を覗き込んでしまったのは、ミーシャの幼い好奇心の賜物で、覗き込まれたカイトと言えば、訳が分からないままに膝をついて見上げた姿勢のままじっとしている。

結果、無言で見つめあうこととなった二人は、コホンという誰かのわざとらしい咳で我に返った。

なぜだか水屋にいた手伝いを買って出てくれていた患者の家族たちの注目を浴びていた。さらに言えば、その視線が何か言いたそうにニヤついて見える。


「え・・・・・っと、続きの診察を、します、ね?」

なんとなく気まずくてぎこちない笑みを浮かべると、ミーシャは道具の乗ったワゴンを押してそそくさと患者たちのいる部屋へと戻っていった。








「………疲れたぁ」

ようやく自室に戻ってきたミーシャは、よろよろとソファーへと倒れこんだ。

重傷者が集められているという広い部屋いっぱいの患者の全てを診終えたのは昼をだいぶ過ぎた頃で、その間、ろくに休憩する事もできなかった。

目の前に患者がいる間は感じなかった疲労感が、部屋に戻った途端、ミーシャの小さな体にどっとのし掛かり、指一本動かすのも億劫だった。

それに、何よりも……。


「………怖かったよぅ」

ミーシャは、震える体をぎゅっと自分で抱きしめ、小さく丸まった。

知識としては、知っていた。

何度かだけど、母親と共に麓の村を回り、怪我人や病人の治療に当たった事はある。

だが、全ては母親の助手であり、たった1人で患者と相対したのなど初めてだったのだ。

まして、あんな重傷者を間近に見たのは昨日の父親以外は無かったし、人の肉体に針を刺し縫合するのも初めてだった。

小動物や猪肉では散々やったけれど、生きている肉体のまして人間相手だ。

幼いミーシャに緊張するなと言う方が無理だろう。


だが、その不安をミーシャが相手に見せるわけにはいかなかったのだ。

治療を施す者が不安を示せば、施される相手はそれ以上に不安に駆られる。

ましてやミーシャはまだ13歳の子供で、ただでさえ見た目でのハッタリが効かないどころか、マイナススタートだ。

下手をしたら、治療を拒否られる未来すらあった。いや、ミーシャ以外に医師や薬師がいれば、確実に彼女の出番は無かっただろう。

そんな自分の立ち位置が分かっていたからこそ、ミーシャは不安も迷いも見せるわけにはいかなかったのだ。


「大丈夫。ちゃんと出来た。間違いなんて一つも無かったし、対応が分からない人もいなかった。ちゃんと出来てた。大丈夫……大丈夫」

震えの止まらない体に自身の腕を巻きつけ、小さくつぶやき続ける。

何度も、なんども。


どれくらいそうしていたのか。

扉をノックされる音に、ミーシャは急いで居住まいを正した。

幸いにも、少々顔色は悪いものの、体の震えはとまっていた。


「失礼致します。お食事をお持ちいたしました」

ワゴンを押して入ってきたのは、昨日からお世話になっている年配のメイドだった。

無表情のまま、手早くテーブルの上に食事を並べていく。

「食べられないものがありましたら、おっしゃってください」

さっきまで、指一本動かすのも面倒だと思っていたはずのミーシャは、湯気を立てる料理を前に、急激に沸き起こる空腹を感じてゴクリと唾を飲み込んだ。


柔らかそうなパンに湯気の立つポタージュスープ。食べがいのありそうな大きな肉の塊は香草と共にこんがりと焼かれていた。更に果物が3種類も綺麗にカットされ盛り付けられている。

「全部、美味しそうです。いただきます」

ミーシャは、お行儀が悪いかと思いつつも、返事を待たずに料理に手を伸ばした。

飢えた体が歓喜と共に食物を受け入れる。

せめてがっつかない様にしようと心がけながらも、次々と口に運んでいく。

食事に集中していたミーシャは、的確な給仕をしつつもメイドの顔が僅かに綻んでいたことにきづかなかった。


「ごちそうさまでした」

パンのひとかけらも残さず食べ、満ち足りた思いでミーシャは食後のお茶を口にした。

ふわりとジャスミンの香りが立ち上り、思わずため息が漏れた。

(満腹……幸せ……)

リラックスした体にふわふわと眠気が襲ってくる。

疲労した神経に満腹な体。トドメにリラックス効果のあるお茶とくれば、眠気に抗うのは難しかった。

「休まれるならベッドへと移動してください」

こくりこくりとカップを手に持ったまま船を漕ぎ出したミーシャの耳に少し困ったようなメイドの声が響く。

しかし、半分以上眠りの国に旅立ってしまったミーシャにはその指示に従うのはとても無理だった。


「少し……だけ。……少しやす……だら…….他の人も……みる……から……お……こし……て」

かろうじてそれだけつぶやくと、たちまち残りの意識も手放し、ミーシャは幸せな眠りへと落ちていった。





「………お疲れ様です」

そっと奇跡的にも零されなかった紅茶のカップを取り上げ、小さな体をソファーに横たえると、メイドは上にかけるものを取るべく寝室へと向かった。

いくら小柄な少女とはいえ、年配のメイドでは抱き上げて運ぶ事は出来そうに無かったからだ。

薄手の上掛けを手に戻ってくると、ソファーの側に立つ騎士を見つけ眉をひそめる。


「カイト、女性の部屋に勝手に入り込むなんて、マナー違反よ」

「………叔母上」

ひそめた声で咎められ、カイトは振り向いた。

「ノックはしました。返事が無いので何かあったのかと不安になったもので」

言い訳めいたものを口にすれば、メイドのひそめられた眉間のシワが少し薄くなる。


「まぁ、良いでしょう。ちょうど良いからベッドまで運んでちょうだい」

おそらくため息をつくことでそれ以上の小言を飲み込んだ伯母に促され、カイトは少し迷った後、少女の体を抱き上げた。

くたりと力の抜けた体は、あまりに軽く華奢で、カイトはその小ささに不思議な気分を味わう。

胸を張り堂々とした態度で次々と怪我人の治療をしていく少女は、とても大きく強く見えたから、そのギャップに戸惑ったのだ。

こうしていると、華奢な体も相まって、とても先程まで鬼気迫る表情で怪我人たちに相対していた人物と同じ人間には見えなかった。


「あれだけの人数を治療されたのですもの。疲れたのでしょう」

少女を運ぶカイトの後に付き添いながら、カイトの伯母でもあるメイドは、ポツリとつぶやいた。

治療にあたる少女を見守っている1人でもあった伯母は、自分とは違う何かを感じ取ったのだろう。

ベッドにおろした少女の側に立つと、いつも厳しい人が、慈しみの表情でそっと乱れた髪を指で梳き、上掛けをかけている姿をカイトはぼんやりと眺めた。


「しばらくそっとしておきましょう。貴方はこちらにいらっしゃい」

立ち尽くすカイトをピシャリとした口調で促すと、伯母は踵を返した。

半ば反射的にその声に従って、カイトも寝室を後にする。

「そういえば、貴方は何をしにここに来たの?」

問われて、カイトは口ごもった。

食事が終わった頃合いだろうと、治療部屋へと誘いに来たのだ。

部屋に送り届けた時は、シャンとしていたのでまさかあんな風に眠り込んでいるなど、思いもしていなかった。


(少し考えれば分かることだ。騎士である自分と同じペースで動けるはずが無い)

素直に答えれば、配慮が足りないと伯母から叱責を受けるのは目に見えていた。

父親の姉である伯母は、結婚はしたものの早くに夫を亡くし、子供もいなかったがどこかの後妻に入る気は無いと、さっさと公爵家のメイドとして働き出した女傑であった。

厳しく礼儀を重んじる人物で、幼い頃から何かと面倒を見てもらった身としては、どうにも未だに頭が上がらない。


もっとも、口ごもった時点でバレバレだったのだろう。

「1時間ほどしてから声をかけてみます。その頃またおいでなさい」

ため息と共に、あっさりと部屋を追い出されてしまった。

無情にも閉じられた扉の前でしばらく立ち尽くした後、カイトはため息と共に踵を返した。

(まぁ、今の所、一刻を争う重傷者はいないし、な)

おそらく手ぐすね引いて待っているであろう治療部屋へと、もう少し待つように伝えようと向かったカイトは、治療部屋にいた家族達にまで「せっかちすぎる」と呆れ顔で迎えられる羽目になるのであった。



読んでくださり、ありがとうございました。


ようやく騎士さんの名前が出せました。

後は、お父さんの名前が……。

どうも、出すタイミングが無く。

というか、ここまで丁寧にこのくだり書くつもりではなかった為、名前付いてないんです。サラァ〜と流すつもりだったので。

なぜかどんどん長くなりました。本当は3話くらいでのつもりだったのですが、まだ続くのです。多分、ひと区切りまで後4話分程。

もう少し、お付き合いくださいm(_ _)m

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[気になる点] >ジオルドは忙しくベッドとベッドの間を渡り歩くミーシャに付き従いながらも、その変化を驚きと共に見守っていた。 >重症患者ばかり集められたこの部屋には、ジオルドの知り合いの騎士もたくさ…
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