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端っこに住むチビ魔女さん。  作者: 夜凪
レッドフォード王国

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21

長年の習慣のせいかいつもの時間に目を覚ましたミーシャは、ベットの上に体を起こすとぼうっと虚空を見つめていた。

いつもに比べて圧倒的に睡眠時間が足りないせいか、頭が働いていないようすだった。


(………そういえば、今日は侍女さんの数も少ないし、朝の始まりも遅くなるって言ってたっけ……)

国をあげての祭りの間は、みんな羽目を外して騒ぐのが通例のため、王城で働く人も半数ずつ交代で休むらしい。

祭りは前夜祭と後夜祭の2日に渡って行われるため、それで皆、祭りを楽しむことができるそうだ。


尤も、王城の舞踏会は初日しか行われないため、後夜祭といっても大きなイベントは存在しない。

その為、貴族は街にお忍びで出かけて楽しむか、それぞれの屋敷で集まってパーティをするそうで、ミーシャも薬草園のメンバーや医師仲間など、親しくなった人達から誘われていた。

しかし、初日の舞踏会の事で頭がいっぱいだったミーシャはその全てに断りを入れていた為、本日の予定は真っ白だった。


(………とりあえず、顔洗お)

いささか重く感じる体を動かしてノロノロと水場へ移動したミーシャは、まだ早朝の冷たい水のおかげでようやく頭をシャキッとさせると、身だしなみを整え、自分の小屋へと戻っていった。


早朝の庭は、空気がまだ少しひんやりとしていて、昨夜の喧騒が嘘のように静かだった。

行き合う侍女や下働きの人達の姿もいつもより少なくて、昨日の言葉が真実であったことを伝えていた。

朝露に濡れた花々で目を楽しませながら、ミーシャは、朝食のメニューを頭の中で組み立てる。

(卵がまだあったから、ドライトマトと炒て………、スープは野菜だけであっさりで良いかな?あ、ソーセージ、もう食べないとダメかも)

鼻歌交じりに歩けば、お腹が空腹を訴えるように小さく鳴った。


「おはよ、レン」

扉を開ければ、尻尾をパタパタと振りながらレンが嬉しそうにお座りをして出迎えてくれた。

まだ子供とはいえ狼のレンを怖がる人達もいる為、基本王城内には連れて行かないようにしていた。

ライアンは許可をくれたが、王城内を狼が闊歩している風景は、さすがに非常識だろうと世間知らずのミーシャでも分かる。


でも、手放すなど論外のミーシャは、一緒にいる為にこの小屋に移って来たのだった。

中に入れないなら、自分が出れば良いと軽く思ったのだ。

たまたま散歩の途中にこの小屋を見つけた時は、ミーシャはちょうどいいと小躍りしたものである。

まぁ、たくさんの人に囲まれての生活が少し苦痛になってきた、という、表向きの理由だってまるっきりの嘘ではなかったが。


「すぐに朝ごはんにするね。今日は特別にレンにもソーセージ分けてあげる」

まだ子供の柔らかさを残した毛を撫でてやれば、レンは気持ちよさそうに目を細めた。

スリスリと頭を擦り付けて、お気に入りの耳の後ろを掻いてもらおうとするレンに笑いながら、ミーシャはリクエスト通りの場所をしばらく撫でてやった。


「さ、いい子だから大人しくしてて。お腹減っちゃった」

昨夜は、軽食を摘まんだだけで終わりだった為、食事は毎食しっかり食べるミーシャのお腹はペコペコだった。

少しでも早く食べようとスープの具材はいつもより小さめに切り、フライパンでは卵を焼く傍らでソーセージを同時に調理する。

「いつもより、一本多く食べちゃおう」

つぶやきながらも身体は止まることを忘れたかの様にクルクルと動く。


そうして出来上がった朝食をミーシャが食べ出した時、トントンっとキッチンの窓がノックされた。

「よう。美味そうなもの食ってんな〜」

「ジオルドさん」

窓枠に体を預けて眠そうに欠伸をしているジオルドの姿にミーシャは目を丸くした。


「どうしたんですか?こんな朝早くに」

慌てて駆け寄れば、笑顔が返ってくる。

「たんに仕事帰り。昨日は夜間警備してたんだよ」

「姿が見えないと思ったら、お仕事だったんですか?」

驚いたようにミーシャの目が見開かれる。

それに、ジオルドはいささか決まり悪そうに肩を竦めた。


「そ。一応、お役目柄爵位は貰ったんだけど、どうにもお貴族様の集まりは居心地悪くてな。毎年、警備の方に回して貰ってんだ。その代わり、次の日休みになるから、結構平民や爵位の低いやつらは喜んでるんだぜ」

ミーシャが、立ち話もなんだしと部屋に招き入れれば、ジオルドは、手渡されたお茶を飲みながら、アッケラカンと話した。


「………ジオルドさんらしいですけど」

「昨夜は、大広間の隅に隠れて見てたんだぜ?ミーシャ、随分ダンスが上手くてびっくりした。ドレスも綺麗だったしな」

呆れ顔のミーシャは、ジオルドにサラリと賛辞の言葉を投げられて、なんだか恥ずかしくなって頬を赤らめた。


「あれは、相手の方達が上手にリードしてくださったんです。じゃなきゃ、初心者の私があんなに踊れません」

「まぁな。ダンスが苦手な俺じゃ、あのレベルはとても無理だな」

謙遜するミーシャに、ジオルドはケラケラと笑った。

その揶揄うような様子に、ミーシャの頬が不満そうに膨れた。一応、ダンスの練習は頑張ったのだから、謙遜したとしてもやっぱそこは認めてもらいたい。

(まぁ、付け焼き刃の自覚はあるけど………)


「そんな顔すんなって。悪かったよ。そうじゃなくて、町の祭りに行きたくないか誘いに来たんだよ、オレは」

プックリと膨れた頬を指で突いて潰しながら、ジオルドが苦笑する。途端に、ミーシャが、コテンと首を傾げた。


「……町?」

「そ。町の方では今日も一日中お祭り騒ぎだ。何時もの倍以上に屋台は出るし、町中花やランタンで飾られて賑やかで綺麗だぞ。見たくないか?」

ジオルドの言葉にミーシャの目が丸くなり、すぐに満面の笑みにとって変わられた。


「いきたい!です。お祭り、見たい!」

ハイっと手を上げて宣言するミーシャに、ジオルドは同じ様に満面の笑みに変わった。

「了解。しっかり祭りの楽しみ方を伝授してやるよ」






朝食をしっかり取って待ち合わせの門の所へと急げば、すでにジオルドが待っていた。

仕事明けだったため近衛の隊服姿だったのが、見慣れた白シャツに黒いズボン姿に変わっていた。

「すみません、お待たせしました」

汗を流してくると言っていたから、絶対自分の方が早くついているだろうと思っていたミーシャは、慌てて、ジオルドの元に駆け寄った。

小走りに駆け寄ってくるミーシャに門柱にもたれる様にして立っていたジオルドは、軽い身のこなしで体を起こした。


「アァ、大丈夫。今きたばかりだ」

ニッと笑うと、ジオルドは、のんびりと歩き出した。

ゆったりと運ばれる足は、一歩は大きいものの、ミーシャの歩く速度に完全にマッチしていた。

隣を歩きながらそんな細やかな気遣いに気づいたミーシャは、なんだか嬉しくなってニッコリと笑った。


「なんだか、こうして歩いてると旅の時みたいですね」

「だな。…………頼むから、厄介ごとを拾ってくるなよ?」

城下町に向かいながら、ふと呟いたミーシャに、ジオルドが悪戯っぽく微笑む。

ミーシャの脳裏に、旅の間にあった幾つもの出来事が過った。


「………厄介事なんて、拾ってませんよ〜。みんな素敵な出会いでした」

胸を張って言い返しながらも、決してジオルドの方を見ようとしないミーシャの横顔に、ジオルドはクックッと笑い続ける。


「まぁ、そういう事にしといてやろう」

機嫌よく笑うジオルドの横で肩を竦めながらミーシャも足を止める事なく歩く。

足元では、そんな2人を不思議そうにレンが見上げていた。


何時もは置いていかれるレンは、今日は相手がジオルドだし、遊びに行くだけだからと特別に一緒に連れて来て貰っていた。


周りへの「無害ですアピール」と迷子防止の為に首には縄が結ばれていたが、元々歩くときミーシャのそばを離れることの無いレンにとっては、さほどストレスでも無いようだった。

それよりも、ミーシャの側に居る事の方が何倍も嬉しいらしく、フサフサの尻尾が歩く度にユラユラと機嫌良く揺れている。


そうして、年齢差のある男女と獣という不思議な組み合わせの2人と1匹が町に着いたのは、丁度、朝食の時間帯が終わり、少し落ち着いた屋台街の真ん中を、綺麗に飾り付けられた何台もの山車(だし)が練り歩き出した所だった。


鮮やかな青に塗られた山車(だし)は色とりどりの花やリボンなどで飾り付けられていた。それぞれに工夫されており、行列を組んで進むそれは眺めているだけで楽しかった。


「すごい!あっちは果物で飾ってあるし、あっちには人形が乗ってます!」

側のジオルドの袖を掴みグイグイと引っ張っては興奮したように山車(だし)を指差すミーシャは、年相応に幼く見えた。


それに笑って頷きながらも、ジオルドはさりげなく周りの人の流れからミーシャを庇い、通行の邪魔にならないように誘導して行く。

そうして、沿道の見物人のスペースの一角に落ち着くといつの間にか購入していた果実水をミーシャの手に手渡した。


山車(アレ)は2日目の名物だ。毎年12の山車がこうやって日に3回決まった時間を練り歩く。間に合って良かったな」

「そうなんですね〜。それぞれに衣装が違って面白いです」

次々と目の前を通過して行く山車に見とれるミーシャを、ジオルドは満足そうに眺めていた。

好奇心旺盛で感情が素直なミーシャの反応は、見ているだけで癒しだ。


その表情を見たいが為に旅が長くなりトリスに怒られたのだが、ジオルドは、ちっとも反省していなかった。

ちなみに今回連れ出したのも無断であり、他に護衛は付いていない。

慣れた町の中で、自分1人いれば不測の事態もないだろうと、(勝手に)ジオルドが判断しての行動だった。

一応置き手紙を残してきたので、今頃報告が届いたトリスが青筋を立てて怒っている事だろう。


「夜になれば山車に括り付けられたランタンに火が灯されて綺麗なんだけど、さすがに夜間は、な」

ジオルドにポンポンと髪を撫でられ、ミーシャはそちらに顔を向けるとニッコリと笑った。

「充分、綺麗です。ありがとうございます」


それから、幾つもある屋台を渡り歩く。

いつもと違い射撃や輪投げなど遊戯を提供する店も沢山あった。

興味の惹かれるものにチャレンジして景品を貰ったり、上手くいかずにムキになって何度も挑戦するジオルドに笑ったりする。失敗して冷やかされるのも楽しいんだとミーシャは初めて知った。


又、平民出身だと言っていたジオルドは、町に知り合いも多く、沢山の声をかけられていた。

中には、出店の主人もいて、飲み物や食べ物を奢って貰ったり、乾杯を酌み交わしたりと非常に賑やかだった。

いかにも、下町の祭りといった明るい雰囲気は楽しくて、ミーシャも一緒にたくさん飲んで食べて笑って、十分にその雰囲気を楽しんだ。


一緒に連れているレンも好評で、肉の切れ端を貰ったり首に綺麗なリボンを結んで貰ったりと存分に構われていた。

ミーシャが出かけている間、1人閉じ込めているのは可哀想だと、門番や馬番のところに預けられていたレンは人馴れしており、伸ばされる手にも嫌がることなく大人しくしている。


そうして、時間を過ごしている中、ミーシャはふと目の端を見知った影が過るのを見つけた。

小さな男の子の2人組。

「ユウ!テト!」

人混みの中で見つけた小さな友人達に、ミーシャは思わず声をかけた。

人混みに揉まれることなく器用にすり抜けていた小さな影がピタリと止まる。


「お姉ちゃん!」

「お祭り、来れたんだ〜」

嬉しそうな笑顔で駆け寄ってくる2人を抱きとめて、ミーシャはにこりと笑った。

「連れてきて貰ったの。2人もお祭りに来たの?あれ?アナは?」

柔らかな金と黒の髪をかき混ぜながら、ミーシャは、小さな影がひとつたりないことに気づいて首を傾げた。

いつだって2人の後を追いかけていた幼い少女。


途端に、笑顔だったユウとテトの表情が曇る。

「アナ、ばあちゃんの風邪が移っちゃったみたいで、家で寝てるんだ」

「熱があって咳も酷いからって、おばさんに外に出してもらえなくって」

しょんぼりと肩を落とす2人にミーシャは眉を寄せた。


「お婆ちゃんの体調、良くなってなかったのね……」

「貰った薬飲んでた間は良かったんだけど、薬なくなったらすぐ元に戻って……」

「言ってくれたら、また持って行ったのに」

ミーシャの言葉に、ユウとテトは俯いてモジモジと黙り込んでしまった。

その様子に、3人の様子を観察していたジオルドはため息をついた。


ミーシャは、隣国の薬草豊かな森のなかで暮らしてきたから、この国で薬がどれほど貴重なものであるかいまいち分かっていない。


旅の途中で聞いた話の中で、母親と共に近隣の村を回っていたと言っていたが、その時も、無償で薬を配り治療していたようだ。対価として受け取っても、せいぜい野菜や肉など日用のものだったそうだ。


薬草園の仕事に関わって情報としては知っていても、そんな生活をしていたのなら、実感としては薄いのだろう。

ミーシャにとって薬とは、困っている人に与えるものだったのだ。


一方、王都(ここ)では、薬は基本外部からの輸入でまかなっている事が多く、どうしても割高だ。

子供の友人だからと、何度も無償で受け取るのは非常識だと、普通の大人なら考えるだろう。

結果、子供達にもミーシャに薬をねだらない様、きつく言い含めたのであろう事は簡単に予想がついた。


「ミーシャ、どうする?」

一瞬、迷った後、ジオルドはミーシャの頭にポン、と手を置いて尋ねた。

現状を説明するのは簡単だが、「人を救いたい」というミーシャの本能とも言える気持ちを優先してやりたいと思ったのだ。

それに、遠慮して手を伸ばせないだけで、救いの手を待っているのは大人も子供も同じだ。

ただ、しがらみとかプライドとか、大人には守りたいものが多くなりすぎて素直に縋れないだけで………。


「…………アナのお見舞い、行ってもいいかな?」

少しの逡巡の後、ミーシャは膝をついて俯くユウの顔を覗き込んだ。

「…………いいの?」

ユウの顔がぐしゃりと歪む。

祖母だけでなく小さな妹までが病にかかり、ミーシャに助けてもらいたい気持ちは、ユウとてあったのだ。

だが、薬が貴重なものだという事はまだ7つのユウだって知っていた。

それを手に入れるためにはたくさんのお金がいることも。


だから、母親に「甘えちゃダメ」と言い含められた時もしょうがないと思ったし、納得出来ずに「なんで?」を繰り返すアナをテトと2人で宥めてもいたのだ。

だけど、だけど………。


泣きそうな顔で唇を噛みしめるユウと、それを気遣う様に見つめるテト。

そんな2人をミーシャはギュッと抱きしめた。

「前も言ったでしょ?お友達が困ってるなら助けたいって。私に出来ることなら何でもしてあげたいのよ?だって3人は私の王都でできた初めてのお友達なんだから」

優しいささやき声が耳に届いた瞬間、耐えに耐えていた涙が、ついにユウの目からこぼれ落ちた。


「な……なんか、みんな変なんだ。婆ちゃんだけじゃなくて、近所でも具合の悪い人が増えてきてて………。なのに、変な顔で隠すみたいにコソコソして………。わか………分かんない、けど、なんか………なんか………怖いよぅ」


堰を切ったように泣きじゃくる様子は胸に巣くった不安を吐き出すかの様だった。

つられた様に、テトの目からもボロボロと涙が溢れる。

子供は大人たちの世界で生きている分、良く、周囲を観察しているものだ。

詳しい説明はなされなくともいつもとは違う雰囲気を敏感に感じ取り、不安だけを育ててきたのだろう。


「うん。怖かったね。頑張ったね。大丈夫。お姉ちゃんが、怖いものはやっつけてあげるから、ね」

慰めの言葉を口にしながら、ミーシャの顔が険しく歪む。

増えてくる体調不良者。

それを隠そうとする、大人達。

それの指し示す未来は………。


チラリとジオルドへと視線を流せば、同じく真剣な表情を浮かべていた。

「…………診てみないと分からないけど………」

子供達の泣き声に紛れる程小さなミーシャの呟きは、しかし不穏な響きを乗せ、ジオルドの耳に届いた。


「とりあえず、行ってみよう!」

自分を奮い立たせる様に声を張り上げ、ミーシャは立ち上がり、少年たちと手を繋いで歩き出した。








































読んでくださり、ありがとうございました。


祭りの雰囲気、大好きです。

大抵食べきれないほどの食料を買い込み、お土産になってしまいます。なんか、やたらと美味しく感じますよね?!


そんな祭りの影で、事態は進行していました。

さて。

ミーシャの本領発揮となるでしょうか?




そして、ストック切れました(泣

もう少し、逃げれるつもりだったんですけど……。

というわけで、今後は不定期更新となりますが、2〜3日に一本を目指して頑張ります!

………と、自分を追い込んでみる(¬_¬)

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