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端っこに住むチビ魔女さん。  作者: 夜凪
レッドフォード王国

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45/148

19

その人物の名が読み上げられた時、ザワリと空気が動いた。

それは、会場にいる人々の意識の端に最近留められていたものだったからだ。


白金の美しい髪は淡いピンクのリボンと共に美しく編み込まれパステルカラーの生花で品良く飾られていた。

髪に編み込まれたリボンと同色の淡いピンクのドレスは、裾の方にいくに従ってその色を濃くし、最後は濃い赤紫へと変化していく。少し高めの位置で結ばれたベルトがわりの幅広のリボンがそのウエストの細さを強調していた。

すらりと細い指先をエスコート役の手に預け、入り口で一礼していたその顔がスッとあげられた時、名前に反応して振り返り、その姿を眺めていた人々は息を飲んだ。


まるで吸い込まれてしまいそうな美しい翠。


それが少女の大きな瞳だということに気づいた時、人々は知らず詰めていた息を吐いた。

まるで精巧に作られた美しい人形のような顔の中、そのキラキラと輝く瞳が、少女が人形などではなく生きている人間なのだとしっかりと主張していた。

また、少女の白いデコルテを飾るネックレスと耳に揺れるイヤリングがまるで少女の瞳の色を写し取ったような美しいエメラルドであったため、人々は自分達がまるで翠の空間に囚われたような錯覚に陥ったのだろうと納得した。


「なんて美しいのかしら」

「そうだな。それに見事な宝飾だ。流石、王弟の血筋ということか」

「思っていたより大人だな」

「あら、コーナン様が共にいらっしゃるのね」

「王医が後ろ盾についたなら、うわさは本当なのか?」


ヒソヒソとした会話が広がる中、臆することなくまっすぐに顔を上げた少女は、エスコートされるまま王への挨拶の列へと並んだ。

するとエスコート役の青年と逆隣に立ったコーナンが、何事かを少女の耳に囁きかけた。

途端、少女の顔がふわりと綻ぶ。

整っているがために人間味の薄かった少女の雰囲気が途端に華やいだものへと変わった。

それから、少し背伸びをするようにしてコーナンに何事かを囁き返した後、エスコート役の青年にニッコリと微笑みかけた。

青年が少し困ったような顔で笑顔を返す。

それは、まるで一幅の絵のように美しい光景だった。


王への挨拶が終われば、話しかける隙もできるだろう。

人々は噂の少女の人となりを知るために虎視眈々と様子を伺うのだった。








大広間に一歩入った途端に向けられたたくさんの視線にミーシャは、一瞬怯みそうになった。

しかし、ミーシャは覚悟を決めて、下げていた視線をあげ、膝を伸ばした。

たくさんの明かりで、まるで昼間のように明るい大広間には、たくさんの着飾った人々が集っていた。

思い思いに歓談していたようだが、今は多くの視線がこちらを見つめていた。

ミーシャは、とりあえず悪意のような嫌な感じはしないことにホッとして、もう少し辺りを窺う余裕が出てくる。

入り口から向かって右手に長い列が、正面の一段高い場所にあつらえられた王座へと向かって伸びていた。

遥か向こう、小さく見えるライアンと一瞬目があった気がしたけれど、あまりに遠すぎてはっきりとは分からなかった。


ふと、カイトに預けていた手が引かれて、ミーシャは視線をわずかに横に向けた。

「進んで」

視線を前に向けたまま、囁き声が降ってくる。

それで、ここが入り口であり、後ろには入場を待つ人たちがいることに思い至り、ミーシャは慌てて足を進めた。

慣れぬヒールのミーシャを思いやってかカイトがゆっくりと足を進めてくれる。

その様子に、ここにたどり着くまでの道で何度も転びかけて支えてもらったことを思い出して、ミーシャは少し可笑しくなった。

人目のあるところでは基本澄まし顔で敬語を崩さないカイトが、その瞬間は珍しく慌てて素がでていた。

隣を歩いてた人間が、突然転んだらそれは驚くことだろう。


「なんじゃか、予想通りとはいえ注目の的じゃのう」

カイトと逆隣を歩くコーナンが楽しそうに囁いてきた。

「異国の人間が珍しいのかもしれませんね?私もカイトのこんな姿初めて見ましたし」

囁き返して、ミーシャはカイトを見上げる。

(整った顔してるとは思ってたけど、こうしてると本当に貴公子に見えるなぁ〜)


エスコート役として現れたカイトに驚いていると、父親の代理を言い渡されたことと、実は伯爵家の出身である事を教えられて、ミーシャはさらに驚いた。

公爵家で侍女をしていた叔母の伝手で、私設騎士団へと入り込んでいたそうだ。

「後継のスペアにもならない三男でしたから、自分の手で将来を探すしかなかったのですよ」

驚いているミーシャにカイトはそういうと少し苦いものを含んだ笑顔を浮かべた。

そんな表情を見てしまえばそれ以上聞くこともできなくて、ただ(だからふとした所作が綺麗だったりダンスが上手だったのな)とミーシャは心の中で納得していた。



「騎士の格好もかっこよかったけど、そうゆうのも似合うよね」

無邪気に褒められて、カイトはただ苦笑するしかなかった。だが、イヤイヤしていた服装も心からの感嘆を込めてそう言われれば、悪い気はしなかった。

「ミーシャ様も、とてもお綺麗ですよ?」

ふと伝え忘れていた言葉を思い出し囁けば、ミーシャの目が驚いたように見開かれ、頬がほんのりと赤く染まった。それから、照れたようにカイトから視線を外すと慌てて話題を変える。


「それにしても、凄い人だね。貴族ってたくさんいるんだね」

「あっちの方に仲間の数名が固まってますね。ちゃっかり料理の近くに陣取ってるあたりが流石というか……」

耳までほんのりと染めているミーシャに笑いながら、素直に話題変換に乗ったカイトは、そっと目線だけで一角を示した。

カイトにつられて視線を流せば見覚えのある顔が楽しそうに料理を手にしていた。視線に気づいたらしく、小さくてがひらりと振られる。


「おいしそう。良いなぁ。私もあそこに行きたい」

きたる夏の繁栄を祝うための祭りだけあって、料理もとても豪勢だ。

お茶を飲んだとはいえ、昼は軽食だったミーシャは空腹を覚えて、羨むような視線を向けた。


「挨拶さえすめば、どこに行くのも自由じゃ。まぁ、自国のお仲間に囲まれとるのが1番平和じゃろうしな」

ニコニコと話しながらもコーナンは、ミーシャに隠れて方々に鋭い視線を飛ばしていた。

自分の弟子たちを使おうと、なるだけ同じ時間に集うよう指示していたが、壁は厚いにこしたことはないだろう。

「国を代表して顔出ししている方々に、無礼を働くほどの馬鹿も居らんじゃろう」

ご満悦な表情のコーナンに、ミーシャとカイトは顔を見合わせた。

いったいミーシャはどんな噂をたてられ、どんな注目のされ方をしているのだろう。

(知りたいような、知りたくないような………)

ミーシャとカイトが、2人で同じことを悩んでいる間に挨拶の順番は回ってきた。







「本日はお招きいただき、ありがとうございます」

ミーシャのエスコートをしてきた貴族の男は、この辺りには珍しい濃い髪色をしていた。

優雅に定型文の挨拶をする姿はもの慣れていて、男が高度な教育を受けていたことを物語っていた。


「いや、先日は公爵よりの使い大義であった。今日は無礼講の夜。大いに飲んで騒いで、楽しんでいってくれ」

鷹揚に頷きつつ観察するライアンの視線にも動じることなく軽く膝を折る姿は堂にいっている。

必要以上におもねる事ないバランス感覚は見事だ、とライアンは素直に感心する。

隣国の公爵代理という自分の立場をよく理解しているのだろう。膝を折り過ぎれば、属国に成り下がったのだとアピールになるし、かと言って礼を失せば無礼者と叩かれる。


(まだ若いがなかなか………。部下に欲しいくらいだな)

ひっそりと心の中で賛辞しつつも、隣でやや緊張しているミーシャへと視線を移す。

今日のミーシャは髪をアップにして、ほんのりとだが化粧までしていた。

印象的な緑の瞳が際立つように目のふちにキラキラと光る粉がはたかれている様で、その効果は抜群だった。真っ直ぐに見つめる瞳に吸い込まれてしまいそうな錯覚を受ける。

更に、小さな顔の横と首元で輝くエメラルドがその効果を高めていた。アレが噂の母君の形見だろう。


(着飾るとほんとうに雰囲気が変わるな)

最初に挨拶をした時の姿を思い出す。

あの時は濃い色のドレスだったが、明るい色もよく似合っている。

ラライアが用意したのだと自慢していたが、妹の見る目は確かだ。

チラリと隣に視線をやれば、話しかけたそうにウズウズしているラライアと目があい、自慢気に笑われた。

まるでお気に入りの人形を見せびらかすかのような態度に、困った奴だと肩をすくめたくなる。


「ミーシャ嬢も、本日の装いも美しいな。後で一曲お相手頂こう」

瞳に賞賛を込めて微笑めば、ミーシャも嬉しそうに微笑んだ。

「喜んでお受けいたします」

突然のダンスの申し込みにも動じる事なく受けるのは、事前にラライアが話していたのだろう。

練習の時の様子を思い出し、ライアンは更に笑みを深めた。


「では、また後に」

まだまだ挨拶の列が続く以上、一人一人にそれほど時間をかけるわけにもいかない。別れの合図をすれば、エスコートの男がそつなく誘導していった。

横目で伺う先で、ラライアの侍女に話しかけられているから、のちの約束でも取り付けているのだろう。

意外と抜け目ない妹をチラリと伺えば、澄まし顔で微笑んでいた。


普段、公式の行事でも休みがちな妹姫の姿に、挨拶に来た貴族たちが少し驚きつつも話しかけている。

瞳と同じ色のドレスを身にまとった妹は、本当に健康そうに見えた。

実際、ここ数年で1番体調もいいらしい。

(ミーシャに感謝だな)

定型文な挨拶を適当に聞き流しつつ、ライアンは後の約束を思い出し機嫌よく笑った。







とりあえずの挨拶の波がひと段落すれば、舞踏会らしくダンスが始まる。

最初の一曲は国王のペアが中央で1組だけで踊るのが通例であった。

王妃どころか婚約者すらいないライアンは、その時々で適当な高位貴族の娘と踊っていたが、今回はラライアがいるため兄妹のペアとなった。

踊り慣れているだけあって見事に息のあったダンスを披露する2人を、ミーシャは公爵家騎士団の仲間とコーナンの部下に囲まれてのんびりと眺めていた。


知り合いに囲まれて、たまに不躾な視線は飛んでくるものの、今の所知らない人とは一言も話していない。

見事な囲い込みであった。

「ラライア様、お上手ですね」

「王族の嗜みと、体調の良い日は努力されておったからの。元々体を動かすのはお好きな様で、夢中になるあまりやり過ぎてまた寝込む、なんて本末転倒な事もあったがの」

目を細めてラライヤを眺めるコーナンの様子は正に孫を眺める好々爺そのものだった。


「だいぶ貧血の症状等は落ち着いて来たのですが、最近は季節の変わり目のせいか少し食欲が落ちて来ているので心配なのです」

フワリとドレスの裾を翻し綺麗なターンを繰り返すラライアを見ながら、ミーシャは、ふと呟いた。


「ここ最近は雨も多くて蒸し暑い。ラライア様で無くともウンザリじゃ。それでも、ミーシャちゃんのおかげか最低限の食事はとっておる様じゃしの。さほど、心配することもなかろうて」

不安気なミーシャを元気づけるようにその肩をポンポンと叩いたコーナンは、音楽が終わろうとしているのに気づき、ニンマリと笑った。


「さて、最初のダンスがこんな爺さんで申し訳ないが、一曲お願いいただけるかな?」

1番注目を浴びるであろう最初の曲を共に踊る事で、自分が後ろについているという立場を明確にしておこうという意図もあるのだろう。

気取った仕草で片手を差し出しアピールするコーナンにクスリと笑ったミーシャは、ドレスの裾をつまむと膝を折って了承の意を示してみせた。


「よろしくお願いします。足を踏んでも、大目にみてくださいね?」

そうして手を引かれるままにダンスの輪に加わる。

コーナンのリードはゆったりとして大らかで、安心感があった。

会場の雰囲気に知らず呑まれて無意識に固くなっていたミーシャも、ゆったりと踊りながら、目に入る特徴的な人の話題を面白おかしく教えてくれるコーナンに、気づけば笑顔が浮かびリラックスしていた。


「そうそう。そうやって楽しく踊っとりゃええ。リードなんぞは男に丸投げしとけば良いんじゃから」

気づけば、あっという間に一曲が終わり、元の場所へ戻っていて、なめらかな動作でカイトの手に渡されていた。

すぐに始まった次の曲に、滑らかに乗りながら、ミーシャはカイトと笑いあった。


「楽しそうだったな?」

「うん。コーナンさんが踊りながら色んな噂話教えてくれたの」

クスクス笑いながら、ミーシャはカイトの腕の中でクルリと綺麗なターンを決めた。

グラデーションの綺麗なドレスの裾が広がり、花のようだった。

森の中で走り回って鍛えていたミーシャの体は非常にしなやかで、ステップもターンもまるで宙に浮いているかのように軽やかだった。


「舞踏会ってもっと緊張するものなんだと思ってた。でも、とても楽しいわ」

練習の時には難しいと思っていたステップも今なら簡単に踏めそうだった。

ターンが気に入った様子のミーシャのためにカイトがワザと多めにクルクルと回れば、「目が回っちゃう」と言いながらも非常に楽しそうだった。


その後も、ミーシャは、花から花を飛び回る蝶のようにパートナーを変えて何曲も踊った。

踊っている間は人の視線は気にならなかったし、一人一人リードの癖があり非常に面白かった。

流石に立て続けに5曲も踊れば息も切れ、ミーシャが休憩のためにコーナンの所へと戻れば、カイトの姿がなかった。

不思議にも思い見渡せば、ホールの方で見知らぬ令嬢と踊っていた。

長身のカイトに寄り添うように踊る令嬢は、ウットリとカイトに見惚れているように見えた。


「わしの知り合いの娘での。暇そうにしとったんで誘ってもらったんじゃ」

飲み物を渡してくれながら、コーナンが教えてくれた。

どこか言い訳のような響きに気づかず、ミーシャは、飲み物を口にしながら踊るカイトを見ていた。

遠目に見ると、本当に貴公子然としている。

人目がないところでは結構乱暴だし面倒くさがりなのだが、そんな様子はカケラも見えなかった。

「でも、王子様っていうよりやっぱり騎士様な気がするのは、体のキレが良すぎるからかしら?」

ターンの際や足の踏み出し方なんかを見ながら首をかしげるミーシャに、コーナンは小さくため息をついた。


(どうにもそちらの情緒は欠けているようじゃの。まぁ、それはあちらさんも同じか)

眺める先には、ソツなくリードをするカイトの姿。

周りから若い娘たちの秋波を送られているが、一向に頓着していなかった。

その無表情からは、本当に気づいていないのか、あえて無視しているだけだったのか分かりづらかったが………。


コクコクと美味しそうにジュースを飲むミーシャの前にスッと人影が立ち、ミーシャは顔を上げた。

「一曲お願いできますか?」

目の前に差し出された指先にクスリと笑い、ミーシャはグラスを給仕に渡すとユックリと膝を折った。

「喜んで承ります。ライアン陛下」


連れ出されたダンスホールの中は気のせいではなく、先程よりも周りの空間が広かった。

やはり、皆、国王に敬意を払いなんとなくスペースを空けるのだろう。

おかげで周りを気にすることなく、のびのびと踊ることができる。

「楽しんでいるようだな?」

「はい。コーナン様が気を使って下さって」

「それは良かった。誰をつけるか、少し悩んだんだ」

相変わらず少し強引な、でも巧みなリードに、ミーシャはゆったりと身体を委ねた。

この数曲、色んな人と踊る中で、ミーシャは、下手に力むよりは体から力を抜いた方が相手のリードを読みやすいということを悟っていた。


「随分、上達したな」

ほんのかすかな動きからでも、上手に次のステップを読み取るミーシャに、ライアンは少し驚いたように目を見張った。

それから、ふといたずらを思いついたかのように、グッとミーシャの華奢な身体を抱き寄せ密着度をあげると、予定にない複雑なステップを踏み出した。

習っていたものの応用の応用、とでも言うようなソレに目を丸くしたミーシャは、直ぐに考えるのを放棄した。振り回されかけて、頭で次のステップを考えていたらとても間に合わないと悟ったからだ。

引き寄せられ密着度が増した体から筋肉の動きを読み取り、行きたい方向を探る。


突然、複雑なステップを踏み出した2人の周囲から人が徐々に居なくなり、いつの間にかホールには2人だけが残されていた。

ソレにすら気づかないように2人はダンスの世界に没頭し、踊り続ける。

息をつかせぬステップ。

激しいターン。

それなのに決して粗雑には見えないのは伸ばされた指先や足先、首や仰け反った腰の優美なラインなど、しっかりと隅々まで意識されているためだろう。

決して乱れず揃えられたステップはまるで一心同体のようだった。


周囲の人間はまるで魅入られたようにその姿を見つめるしかなかった。

永遠にも、一瞬にも感じる時が流れる。

しかし、どんなものにも終わりは訪れる。

2人のダンスにつられたように熱の入った演奏がジャン!と、最後の音を奏で、2人は終了のポーズで停止した。


奇妙に静まり返った空間に2人ぶんの荒い呼吸の音だけが響く。

その音が緩やかになった頃、ホールドを解いた2人はお互いの健闘を讃えるようにゆっくりと優雅に一礼をした。

一瞬の後、激しい拍手の音が響き渡る。


すっかり周囲のことを忘れていたミーシャは、突然の拍手にキョトンとしてあたり見渡した。

そして、広いダンスホールの中、立っているのが自分たちだけだということに気づき、更に困惑して首を傾げた。

その様子にライアンは、ミーシャの手を引いて周囲に向けてもう一度礼を取らせてから、笑いながらこっちを見ているラライアの方へとエスコートしていった。


そこには、カウチやソファーが並べられ、衝立や天井から下げられた布で一部の視線を遮ることができるようになっている。

疲れやすいラライアのために毎回設えられるスペースであり、そこに招かれるのは貴族婦女達の一種のステータスになっていた。


「楽しそうだったわね。ミーシャ、随分、上達したじゃない」

ゆったりとカウチに身体を預けたラライアの向かいのソファーへと誘導されたミーシャは、すかさず手渡されたグラスを受け取りながら肩を竦めた。


「実は、ライアン様に合わせるのに必死でよく覚えていないのです。もう一度踊れと言われても、きっと無理ですね」

少し恥ずかしそうに答える様子は、無邪気でとても可愛らしかった。


「合わせられただけでも充分よ、あんなの。お兄様ったらハシャギ過ぎだわ」

呆れたような視線を向けられ、ライアンも肩を竦めて見せてから、笑い出した。

「水を向ければ向けたぶんだけついてくるもんだから、つい楽しくなってな。悪かった」

ちっとも悪いと思っていない笑顔に、ラライアとミーシャは顔を合わせてからくすくすと笑い出した。


「もう。いいわ。お兄様はさっさと出て行って、お待ちかねの他の令嬢のお相手でもしてきて。ミーシャはしばらくここで私の話し相手をお願い」

そのまま腰を落ち着けたそうなライアンをすげなく追い払おうとするラライアに、「私も疲れているのに」「つめたい」などとぶつぶつ文句を言いながらも、ライアンは素直に出ていった。

それと入れ替わるように、侍女に連れられてカイトがやってくる。


「さぁ、ミーシャ。改めてあなたのお知り合いを紹介してちょうだい。そして、いろいろお喋りしましょう」

ニッコリと笑顔のラライアに逆らえる人間がいるはずもなく。

2人がラライアの好奇心が満足するまで解放されることは無かった。







読んでくださり、ありがとうございました。


社交ダンスは、相手の方が上手いと本当に実力以上に踊れてびっくりします。

気分は操り人形で、ある意味楽しいです。

自分の体なのに、自分の意志以外の動きをするんですよ〜!

かなりの不思議体験でした(笑



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[一言] >社交ダンスは、相手の方が上手いと本当に実力以上に踊れてびっくりします。 不思議ですけれど、本当にパートナー次第でドンクサイ私でも気持ちよく踊れてしまって驚きます。 「カイン」はこの章に…
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