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端っこに住むチビ魔女さん。  作者: 夜凪
レッドフォード王国

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31/148

お久しぶりです。

(次は何にしようかな〜)

 ミーシャは鼻歌を歌いそうな気分で自分の背丈よりも大きな本棚を見上げていた。

 カーマイン王国に来て3日。

今だに最大の目的地であった王立図書館には行けていなかったが、ミーシャは大満足の日々を送っていた。

 なぜなら、初日に教えてもらった「王城の図書室」がミーシャの予想以上の規模だったからだ。

 どうやら代々の王族が集めた書架を集めている場所だそうで、ジャンルは様々、古いものは古語で書かれたものまで混ざっていた。

 それが、天井まである本棚ギッシリに詰まっていて、その本棚も壁をぐるりと囲んだ挙句、部屋の中を等間隔に並んでいる。


 代々、本好きの王族もいる様で、他国からの寄贈書もあるそうで、まさしく玉石混合。

 ザックリとジャンルは分けられているものの、基本管理する人間が不在の為、元の場所に戻されなかった本も多数紛れていた。

 物語の本が集まった書棚に唐突に料理本を見つけた時は、ミーシャは思わず笑ってしまった。

 なぜなら、その隣に並んでいた絵本がお料理好きの女の子のお話だったからだ。

 きっと、お話の中のお料理が気になって、実際の作り方を詳しく調べたりしたのだろう。


 本棚の間をゆっくり歩きながら、ミーシャはたくさんの本の背表紙を眺めて、気になるものを探していく。

(昨日は民話集をたくさん読んだから、今日は歴史書でもいいなぁ)

 本日の予定は、何も無い。

 昨日まではキノに連れられて王城内の案内をして貰ったり、ミランダと共に庭を散策してお茶してみたりしたのだが、今日は、ミランダは用事があると出かけてしまったし、毎日キノ達を煩わせるのも悪いしという事で、朝から図書室にこもる事に決めたのだ。


 ちなみに、ジオルドは報告書の作成があるとの事でここ2日顔も見れていない。

 ライアンやトリスとは日に一度は食事やお茶を共にしているのに、ここ最近ずっと一緒にいた人と会えていない現状がミーシャはなんだか不思議な感じだった。


 何冊かの気になる本を抱えてミーシャは本棚の隙間に置いてあるソファーの1つに座り込んだ。

 図書室から本を持ち出さなくても楽しめる様にか、この部屋には幾つか椅子やソファーなどが点々と置いてあった。

 上手く本棚のデッドスペースを利用しているため、すっぽりとはまり込んでしまえば、たとえ他の人が部屋に入ってきても、本棚が視線を遮ってくれるため気にならない。

 中には厚めのラグにクッションが直に積み重なっているコーナーもあった。


 ミーシャも幾つかの場所を試した後、お気に入りの場所を見つけていた。

 2人がけのソファーで直ぐ後ろには明かり取りの半窓があるため、適度に日差しが入ってくる。

 柔らかな初夏の日差しが気持ちよくて、ミーシャ的に読書には最適の場所、だった。


 自国はともかく、この国の事は付け焼き刃的にしか知らなかったミーシャは少しは勉強してみようかと、この国の創立からの歴史を詳しく書いた本を積み上げていた。まるで辞典のように1冊1冊がかなりの厚みがある本が全10巻。

 とりあえず、最初の3冊を抱えてきたのだ。と、いうか、ミーシャの力では1度に3冊運ぶのがやっとだった。

 はたして、読み始めてみれば、国の成り立ちはまるで神話の様でなかなかに興味深い。

気がつけば、ミーシャは時間を忘れてその本に没頭していた。


「……………それ、そんなに面白い?」

 ふいに頭上から声が降ってきて、ミーシャは驚いて顔を上げた。

 いつの間に来たのか、目の前に、自分よりも小さな女の子が立っている。

 日に当たった事が無いのでは無いかというように真っ白な肌で、折れそうに細い手をしていた。

 頬も子供らしい丸みが無く、頬にも血の気がない。

 それなのに裾の長いレースとフリルがたっぷりのドレスなんて着ているものだから、布に埋もれているように見えた。


「ねぇ?耳が聞こえないの?」

 突然の見知らぬ少女の出現にポカン、と見上げるミーシャに、少女の眉間に皺が寄る。

明らかに機嫌を損ねた様子の少女に、ミーシャは、首を横に振った。

「聴こえてます。突然だったので、驚いてしまって。本は………面白いですよ?」

 パタンと閉じて表紙を見せながら答えれば、少女は眉間のシワをそのままに首を傾げた。

「あなた、変わってるのね。そもそも、この部屋に人が居るの、久々に見たわ。貴女が隣国から来たっていう子でしょう?」

「はい。そう、です………けど」

 頷きかけて、ミーシャは、ふと疑問が浮かんだ。


 王城にあるこの図書室は限りなく王族のプライベート空間に近い場所にあり、王族の許可がなければ利用できないとキノが言っていたのを思い出したのだ。

 つまり、何気無くここに立っている少女も、王族がそれに近しい人物ということではないのだろうか?


「あの、ミーシャ=リンドバーグと申します。ここにはちゃんと許可をいただいて利用させていただいてます!」

 慌てて立ち上がり名乗りを上げたミーシャを、少女はキョトンとしたような顔で見つめていた。

「知っているわ。聞いてるから。私はラライア」

 言葉少なに告げると少女は踵を返し、本棚の奥へと消えていった。


「ラライア様………って、確か王様の末の妹姫様、よね」

 唐突に現れ、そしてあっという間に去っていった少女の姿を思い出す。

 ライアンと食事を共にした時に耳にした名前だった。

 年の離れた妹がいるが生まれた時から体が弱く、殆どの時間をベッドの上で過ごしているのだ、と。

 今も風邪をこじらせひと月ほど寝込んでいるそうで、治り次第紹介するとも言われていた。


(確かに顔色があまり良くなかった。体もとても痩せていたし、あまり栄養が取れていないのかしら?)

 白すぎる肌を思い出し、ミーシャは微かに眉をしかめた。

 だが、王族に名を連ねている以上、この国の高名な医師が診ているはずだ。

ポッと出の薬師の出番など無いだろう。


 ミーシャはそう自分に言い聞かすと、再び本に視線を落とした。

 だが、その時、何かが床に落ちた様な音がして、ミーシャは反射的に立ち上がり、音のした方に足を向けた。

「ラライア様!」

 そうして、本棚の向こう側の細い通路に小さな体がグッタリと倒れているのを見つけて、急いで駆け寄る。

 うつ伏せに倒れているのを横向きにして脈を取りながら顔色を見る。

 白かった顔はさらに蒼ざめ、体が冷たくなっていた。

 脈も弱々しい。

 下瞼を押し下げて色を見ると、ミーシャはラライアの体を仰向けにして本棚から適当に引っ張り出した本を足の下に押し込み高さを作った。

 そうして、急いで廊下へと顔を出し人の姿を探す。


 と、丁度ティーセットを乗せたワゴンを押したキノが向こうからやって来るのが見えた。

「キノさん!ラライア様が倒れました。おそらく貧血症状だと思います。お部屋に運んでください」

 声をかければ、僅かに目を見張ったキノが押していたワゴンを廊下の隅に止め足早に図書室へと入ってきた。

「こっちです」

 ミーシャは先に立ってラライアのいる場所へと案内する。


「一応、頭をあまり揺らさないほうがいいと思います。あるなら担架の様なもので運んだほうがいいかと」

 横になっているラライアを確認しているキノにミーシャがそっと声をかける。

「すみませんがすぐに用意しますので、ラライア様についていていただいてもよろしいですか?」

「もちろんです」

 足の下の本をそっとクッションに差し替えながら頷くミーシャに軽く頭を下げ、キノが去っていく。

 走っているわけでも無いのに素早い動きにこんな時だというのに感心しながらも、ミーシャはラライアの体にそっとひざ掛けを広げてかけた。


 脈の確認がてら首筋に手を触れれば、やはりヒヤリとしている。

 息苦しいのか眉間にしわがよっているのを見て、ミーシャはラライアの襟元を少しくつろげた。

(平均より小さな体。低体温。脈が早く、貧血症状も強い。確認しないと分からないけど、低栄養の可能性もあるかな?)

 ラライアの体調を探るのは、もはや無意識の所業である。


 ドレスのリボンやボタンを外して緩めながらキノの到着を待っていると、侍従を2人伴い戻ってきた。

 棒に布をくくりつけただけの簡易担架にラライアの小さな体が乗せられる。

 クタリとされるがままになっているラライアの顔色は相変わらず悪い。


「………お医者様の手配はされているのですか?」

 出来ることなら付いていきたいという顔で見送るミーシャにキノは首を横にふった。

「ラライア様はお産まれになった時より体が弱く、この様に倒れられることも日常です。言い方は悪いですが、この程度でわざわざ医師が呼ばれることは無いでしょうね」

 キノの言葉にミーシャの顔色が曇る。

「人が意識を失うという事をあまりに軽んじている様に聞こえます。それが"日常"になっているという事は、ラライア様の体はそれだけ無理をされているという事なのに」

 すでに見えなくなったラライアの姿を思い出す様に廊下の先を見つめるミーシャをキノは興味深そうに横目で伺っていた。


 風変わりなミーシャの生い立ちや『森の民』という背景。自国からこの国にたどり着くまでの道中で起こした出来事の数々。すべてがキノの興味を引くには充分だった。

 だから、ライアンにミーシャの側に付くようにと命を下した時もさほど抵抗もなく従ったのだ。

 その存在が自分の仕える王(ライアン)に取って有益なのかそれとも悪害なのか、見極めたいと思ったし、何より、面白そうだったから。


 無表情の下で観察されているともしらず、ミーシャは1人唇を噛んで誰もいない廊下を睨んでいた。

 なぜ?

 頭の中はその疑問でいっぱいだった。

 どこか突き放すようなキノの言葉。

 慣れた様子で顔色1つ変えず意識の無いラライアを運ぶ侍従達の様子。

 顔色の悪い、暗い目をした少女。


 1つため息をつくと、ミーシャは図書室へと足を向けた。

 気になる事は調べよう。

 それには、とりあえず、引っ張り出してしまった本を片付けなければならない。

 人を使う事など思いもよらないミーシャは、後始末をするべく元の場所に戻っただけなのだが、人に使われる事に慣れたキノには一瞬、意味が読み取れない。


 ため息はラライアに見切りをつけたものかと疑い、粛々と本を片付けるミーシャの行動に首をかしげる。

 思わず、見守ってしまったキノは、すべてを元に戻したミーシャが、自室に帰りたい旨を伝えられ、慌てて先に立った。

 黙って後をついてくる少女の心中をどうにも読み取れなくて何だか居心地が悪い。


 そんな勝手に物事を複雑に見ようとしてしまっているキノの心中など知る由も無いミーシャは、どうやって自分の知りたい情報を集めようかと思案していた。








 噂話は女の人の方が得意だろう。

 安易にそう結論付けたミーシャは与えられた自室に帰ると、控えていたティアとイザベラをお茶の席に誘ってみた。

 何しろ、他にこの国の女性など知らなかったし、ミランダは外出したまま、まだ戻ってきていない。

 最初は辞退していたメイドの2人もミーシャがしょんぼりと「1人でお茶を飲んでも寂しい」と言えば、恐縮しながらも席についてくれた。


 そうして、さりげなく先ほど図書室でラライアに会い、倒れてしまった事を伝えれば、ティアとイザベラは顔を見合わせた。

「顔色も悪かったし心配で」

「ラライア様は昔から体が弱くいらっしゃいますから……」

 心配だと眉をひそめるミーシャに、ティアが困ったように告げた。

「季節の変わり目には必ず伏せっていらっしゃいますし、それ以外も1年の大半を何かしらの病で床についておられます」

 やはりここでも「いつもの事」と言外に告げられ、ミーシャの眉間のシワが深くなる。


「どこか悪いところがあるの?」

 さらなるミーシャの質問に2人は再び顔を見合わせ、チラリとミーシャの背後に立つキノを見た。

 キノが、無言で手のひらをふり、「言っていい」と伝えてくる。

「どこ、と明確になっているわけではございません。ただ、御生まれも十月よりも早く体も小さくございました。それゆえにかお病気にもかかりやすく、様々な病を次々と拾われて、命が永らえたのも奇跡といわれております」

 少し目を伏せて淡々と告げるイザベラにミーシャは微かに首を傾げた。


「生まれつき身体が弱くて病がち。医師に診てもらっているけれど根本的な原因は不明のまま。虚弱体質だろうって事?」

「私達はラライア様付きになった事はございませんので詳しい事は知らされておりませんが、城の者の認識は概ねそのような感じです」

 ハキハキと答えるティアの横でイザベラも頷き同意を示してくる。

 くるりと振り返り、頑なに同席を拒んだキノを見れば、わずかに頷かれた。

 紅茶のカップを手のひらで包み込むように持ったミーシャは琥珀の液体をじっと見つめる。


 先ほどの様子から、ミーシャはラライアが重度の貧血を患っているのでは無いかと考えていた。

 もしかしたら他の病も併発しているのかもしれないが、それはシッカリと診察してみなければ分からない。

 それに対するアプローチはしているのだろうか?

「1度シッカリと診てみたいなぁ………」

 何気無いつぶやきはシッカリとその場にいる人たちの耳に届いて消えた。













読んでくださり、ありがとうございました。

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