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端っこに住むチビ魔女さん。  作者: 夜凪
レッドフォード王国

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今回もミーシャが出てきません。レッドフォード王国のアレコレ、です。

 レッドフォード王国。

 カーマイン大陸の中にあって古い歴史を誇る大国の1つである。

 そこの現王であるライアン=リュ=レッドフォードは、6年前に王位につき、混乱する王国を驚くべきカリスマでもってまとめ上げた賢王として名を馳せていた。


 尤も本人としては、王族ながら側室腹の第4王子というスペアにもならない微妙な位置に産まれ、最低限の帝王学は受けたものの王位継承権も遠い気楽な身分として、自由気ままに生きてきた。

 将来は臣下に降り兄を支えるつもりで、見聞を広げるためにという名目のもと同盟国に留学するという気ままぶりだったのだ。


 それが、何を間違って王を名乗る事になったのかといえば、正にタイミングとしか言いようがない。





 ライアンの父親は新しい事を始めるには向いていないが、今あるものを護り育てることに優れた王だった。

 平和な時代にこそ()える存在。

 鮮烈なカリスマは無いが穏やかな包み込むオーラがあった。

 そんな王に惹かれ、優れた人材が集まり、穏やかな治世が続くはずだった。

 それなのに……。


 ライアンが留学して直ぐに王都で謎の病が発生したのだ。


 全身に紅い発疹が発生し、高熱、嘔吐、下痢に始まり、最後にはあらゆる場所から出血して死に至る。

 感染すれば80パーセントの人間が死に至る恐ろしい病だった。


 王は直ぐさま王都を封鎖する事を決意した。

 国にこの病を広げるわけにはいかない。

 対処方も感染源も謎の病であった為、感染を広げないためには、人を留めるしかなかったのだ。


 しかし、王都を封鎖するということはそこに住まう王族や貴族も閉じ込めるということだ。

 理屈はわかっても、自分の命がかかれば人は感情で動く。

 それを抑えるためにも、私が逃げるわけにはいかないと、王は側近と共に王都に留まった。多くの反対もまだ病の気配のなかった息子達を避難させることでねじ伏せた。

 そうして、自らの意志で残った王妃や側妃と共に病に苦しむ民を慰め寄り添った。


 その王の姿に王都に住む貴族や民は覚悟を決めたのだろう。

 無理に逃げ出すものはなく、王都より避難しようとするものも、決められた通りに中立地帯で数日を過ごし、発症しないもののみが粛々と避難をしていった。


 そうして。

 特効薬が見つからないまま、寒い季節に移行すると病は去っていった。

 賢く優しい王とたくさんの民の命と共に。




 その段階で王都に留まった王族の半数が命を落とした。

 国中が悲しみにくれる中、生き残った皇太子が王位を継ぎ、暗く寂しい冬を耐えた。


 そのまま穏やかな春を迎える事が出来ると思っていた時、地方都市より暴動が起きた。

 王都より遠い町ほど正確な情報は届かない。

 野心を抱いた誰かの情報操作により、先王は多くの民を道連れにした愚王とされ、愚かな王族を許すなと扇動されたのだ。


 病の対処によりその数を減らしていた国軍を第2王子が率い、対処に出たその隙に、警備が薄くなった王都に隣国より兵が攻め込んできた。

 全ては、関係のきな臭くなってきていた隣国の企みだったのだ。


 王都が襲われたとの報を受けてライアンは直ぐに留学先の同盟国の兵を借り受け自国へと戻った。

 しかし、その時には既に遅く、王都は壊滅的な打撃を受け、即位したばかりの王はその命を散らしていた。

 王城に逃げ込んでいた女子供を逃がすための盾の1つになっての最期であった。


 首の無い兄の体を抱きしめ、ライアンは吼えた。

 コレが人のする事か!

 欲のためならば全てを踏みにじっても赦されると言うのか!


 ライアンは同盟国の支援を受けながら自国の残軍を率い、戦場を駆け抜けた。

 穏やかな父や兄と違い戦の才があったライアンは、あらゆる戦略をたて、敵国を追い詰めていった。


 何よりも、民の為に立ち続けていた今までの王の姿が、国民の心を1つにしたのも大きかった。

 動けるものは老いも若きも率先して武器を手に持ち集ってきたのだ。

 烏合の衆でも数は力だ。

 何よりも、一人一人の覚悟が違った。




 そうして、気づけば、勝利を手に凱旋しており、王の地位に就いていた。

 父も兄弟も亡くし、生き残った側近達に膝をつかれ王座についたライアンの心中は察して余りある。


 しかし、生き残ってその座に座ってしまった以上、ライアンは国を護る義務がある。

 胸に渦巻く感情を飲み込んで、ライアンはずっしりと重く感じる王冠を戴き、顔を上げた。


 始まりの病の発生から2年が過ぎ、ライアン、19の年だった。


 そこからも、幾多の苦難が襲ってきたが、父王時代からの重鎮の手をかり、若い世代の側近と共に成長しながら、新しい時代を切り開いてきたのだ。


 若き王と侮る相手には笑みを浮かべて手痛いしっぺ返しを。擦寄る相手には笑顔で油断させて裏を探る。

「性格悪くなるよなぁ……」とぼやくライアンに「賢王と呼ばれるものほど強かなものです」と当時の老宰相は笑顔で答えた。


「父は優しい人だった」というライアンに当時側近の座にあったもの達は何も言わず、笑顔でお互いの顔を見合わせる。その姿に、遠い目をしたライアンを慰めたのは、次代の側近達だけだった。



 それからさらに4年の歳月が過ぎ、「これ以上は老害になりますゆえ」と父王時代の側近達は若者達に全てを託し第一線を退いていった。

 尤も、四苦八苦する若者達をにやにや笑いながら眺め、本当に困っている時には手を差し伸べるという「鍛える」為の退陣ではあったのだが。




 王国は、ゆっくりと元の穏やかな日々を取り戻していった。

 ただ、先代と違うのは国軍の充実を図った点だろう。

「力は手放せない」

 それが乱世を超えたライアン達世代の判断だった。


 だが、それを内外へ振りかざすのではなく、護るための力としたのが、軍事国家になりえなかった点だろう。


 たくさんの命を取りこぼした後悔から、ライアン達が何よりも欲していたのは『護る力』だったのだ。



 そういう流れがあったから、レッドフォード王国が医療の発展に力を注いだのも当然の流れであった。


 余裕が出てきた昨今では、医師や薬師を育てる機関を作るための下地を作り出している所でもあり、『森の民』の情報に飛びついたのも、それゆえであったのだ。








「で、あいつはいつ戻ってくるんですか」

 実用性を追求したある意味殺風景な執務室に憮然とした声が響く。

 入ってきて開口一番の部下の言葉に、ライアンは少々あっけにとられた視線を向けた。


 確かに堅苦しいことは嫌いだし、他に人目のないある意味でプライベートな空間だ。

 これくらいで部下を責める気は毛頭ないが、常日頃であれば、そんな主人の態度を苦々しい表情で咎める人物が、前置きもなくこんな言動をとるのは珍しい。

 何しろ入室の許可をする声と同時に扉が開いたのだ。


 驚きのままマジマジと見つめれば、多少自分の行動に考えるところがあったらしい宰相のトリスはコホンと咳を一つしてごまかした。

「港からの早馬が来た様でしたので。ジオルドからの知らせではなかったのですか?」

 いつものヒヤリとした表情と声音に、ライアンは、ようやく我に返った。


「あぁ。ドラから船に乗る予定だそうだが、ちょうど龍神の祭りがあるからとそれを見て帰るそうだ。ただ、同行者が増えたので、その受け入れ準備を追加で頼むとの事だ」

「は?祭りの見学………は、ともかく。同行者ですか?」

 首を傾げながらも、差し出された紙を受け取ったトリスは、読み進めるうちにその表情を険しくしていった。


「もう1人『森の民』ですか。しかも、今度は本物………。とんでもないものを釣り上げてくれましたね」

 溢れそうになるため息を飲み込んで、トリスは目を閉じた。

 かの一族は血の繋がりを何よりも尊ぶと聞いている。

 母親を亡くした少女の保護に乗り出すのは、確かにおかしなことではない。

 父親の元にいるのならばともかく、他国の人間と旅をしているなら尚のことだ。


「怖い『保護者』が出てきたみたいだな。下手を打てば国が潰れるかな?」

 クスリと面白そうに笑ったライアンにトリスは険しい視線を向けた。

「笑い事ではありません。冗談ではなく子持ちの獅子の穴に手を突っ込んだ様なものですよ」

 トリスの脳裏に、悲惨な末路をたどった人物や国の話が浮かんでは消えていく。

 今後の対策を考えているであろうトリスの姿に、ライアンは呆れた視線を向けた。


「失礼な。子をさらおうとした訳でもなく、むしろ状況的には『保護』だ。悪さを企んだ訳でもなし、誰彼構わず嚙みつくほど愚かな獅子でもないだろう?

 それよりも、妙齢の女性らしいぞ?かの一族は美形が多いと聞くし楽しみだな」

 あまりにも気楽なライアンの態度に、トリスは無意識に入っていた肩の力を抜いた。

 確かに、その通りなのだが、ミーシャに対して多少の興味と下心のあった身としては素直に頷き難い。


「ジオルドの報告では旅に出るまでミーシャの周りに『森の民』の影は無かったと言っていたから、偶々見かけた一族の誰かが姿を現したんだろう?ラッキーじゃないか。これでうまくいけば、繋がりが持てる」

 執務室に頬杖をつきニコニコと邪気のない笑顔を見せるライアンの瞳が一瞬キラリと光る。


 できる様ならしっかりと取り込め。


 言葉にされない主人の声をしっかりと読み取ったトリスは、ハッと気を引き締めた。

 豪快で適当そうに見える仮面の裏で、ライアンはきちんと2手3手先の事を考えている。

 そうでなければ、まだ20半ばを過ぎたばかりの身でこの大国の手綱をうまく操ることなど出来はしない。


「御意」

 軽く膝を折ると、トリスは自ら客人を迎える準備の采配を振るうべく執務室を後にした。







「……なんだったかな?こんな手段の釣りがあった様な…………。あ、友釣りだ、友釣り」

 生真面目な背中を見送った後、ポンと手を叩いたライアンの言葉は幸か不幸か誰にも聞かれることは無かった。



読んでくださり、ありがとうございました。


次回はようやく主人公が出てきます。

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[気になる点] 「殴られた頭を抑えながらも言い返すライアンに、老人は再び杖を振り上げかけて」の文章ですが、殴られたのはライアンではなくラインではないですか?
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