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〜ふぉっくす;03〜

貴方を怖がらせたくない。だけれども、さようなら、と言うのはとても苦しくて―――。



 ―――夢に見た。


 貴方の隣に立っている私を。

 貴方の笑っている顔を。


 その貴方が今此処に、目の前にいる。


 それが嬉しくて。

 それが幸せで。

 そして―――怖くて。


 二つの意味で涙に霞みそうになる視界を必死に、ちかるは保っていた――――。




       ◇




 圭は自分の耳を疑った。

 ちかるの口にした言葉があまりにも突拍子なかったから。それは思考停止に追いやられるには十分なものだった。

 ちかるの言葉が頭に染み渡り始めたと同時に圭に訪れたのは、果てしもない驚愕だった。


「なっ‥‥‥」


 圭はなにかを言うように口を動かすが、全くに言葉になっていない。本当に心の底から驚いた時は声が出ないものということを、圭はこの時初めて知った。


「‥‥あの‥‥圭、様‥‥」


 ちかるの呼びかける声は非常に小さく、目も少しばかり潤んでいる。


「覚えて‥‥いらっしゃいません、か‥‥?」


 最後の方は掠れてしまい、風の音に紛れてしまうほどだった。

 圭は驚愕から立ち直れていない頭で必死に言葉を纏め、それを口にした。


「ちょ、ちょっと待って!狐、って‥‥‥君どこをどう見たって‥‥人間だろ!?」


 その疑問も当然。

 その姿は人間以外のものでは有り得ない。漫画や小説でよくあるような変化をミスったような痕跡すら見当たらない。

 頭の中はこんがらがっていたが、さらに拍車をかけるような事態が圭の目の前、ちょうどちかるの頭の上で起こった。


 ―――ぴょこん。


 そんな擬音が当て嵌まりそうな感じで、頭の上に二つの物体が現れたのだ。

 現れたソレは金色の毛をしており、ひくひくと可愛いらしく動いている一対の―――狐耳だった。

 おまけに何やら聞こえる衣擦れのような音に足元に視線を落とせば、スカートの下からは金色のふさふさとした尻尾が不安そうに揺れていた。


「これでも“人間”と‥‥言えますか?」

「っあ‥‥ぁあ‥‥‥」


 圭は腰を抜かしたのか、床に座り込み、驚愕とも恐怖とも畏怖とも取れる表情でちかるを見上げていた。

 その表情にちかるは眉尻を下げ、俯き、小さな鳴咽を漏らした。

 くるりと圭に背中を向けて、屋上の扉の方に向いた。そのまま静かに歩き始める。


「あ‥‥ま、待って!」


 歩みを止め、ちかるは振り向いた。その表情は笑っていた。頬に幾筋もの雫を流しながら。


「怖いですよね。私みたいな化け物は。無理しないで下さい。怖くて‥‥当たり前、ですから。私のこと‥‥忘れてください。二度と圭様の前に、現れません」


 そう呟くちかるは本当に淋しそうで。


「あの時、助けて貰った恩を返したくて‥‥ありがとう、ござい、ました‥‥。‥‥もう一度、圭様に逢えて‥‥良かったです」


 その言葉を聞いた瞬間、圭の頭の中で何かが弾け飛んだ。


「待てって‥‥言ってるだろ!!ちかるっっ!」

「っ!‥‥でも、私は‥‥‥」

「聞け!」


 立ち上がった圭は深呼吸をして、真っ直ぐちかるの目を見た。


「はっきり言って、そんなことがあったのか‥‥覚えていない」


 ちかるは狐耳をしょげさせ、しっぽも力無く垂れ下がった。だが、次の言葉にちかるは自らの耳を疑った。


「でも‥‥君をはじめに見たときに、懐かしいって感じた。何処かであったことがあるような気持ちがしたんだ。だけど、覚えていない俺が恩を返して貰うわけにいかない。だから‥‥思い出すよ。思い出して、その時に君からの恩返しをうける。それまで‥‥此処に、いてほしい」

「‥‥圭様っ」

「うん。‥‥教室、戻ろっか」

「はいっ!」

「でもその前に‥‥耳と尻尾、隠さないと、ね?」

「あ!はい。‥‥ん、しょ‥‥はい。これで大丈夫です」


 涙の跡の残る顔を上げたちかるの顔は、眩しいくらいの笑顔で。




 二人の物語が、




「圭様、これからよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。ちかる」




 今、動き出した―――。










ふぉっくす☆はーと、完結ぅ〜‥‥‥ってなわけはありませんよ?まだ続きます。これから始まるのは、何の変哲もない学校生活です。だけど、もともと狐のちかるにはちょっと大変な生活かも知れませんね?次回は、あの二人も登場していただく予定です。【追記】大学の用事や行事がこれから多くなりますので、更新が遅くなるかも知れないですが、最後まで書くつもりですので、気長にお付き合い頂けると、私は幸せですm(__)m

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