始まり4
「これが使い魔なの?初めて見たぁ。」
可愛いと言われてもシルフィアは不満げだ。
タシームが少女の周りを誇らしそうに、ゆっくり歩いている。
ジンは、ゴミの中から尻尾で器用に何か拾うと
「これは、お嬢様の物であろう?」
手じゃなくて尻尾渡ししている。
そこには無残に曲がった杖があった。
「ちょっと見せて。」
中が金属で、周りを木材で覆ってある。
ずいぶん、荒っぽい作りの杖だ。
「わたし、魔力の制御が上手くできなくて、しかも合うのが木じゃなくて。」
「それだけ出力が高いと金属は熱を持つ、だから木材で覆うのか。」
「スペアも含めて5本も持ってきたのに、全部壊れちゃった。」
「5本の杖を壊すだけ、発動してきたのか!?」
コイみたいにフガフガしてる。
「ま、ひとまず仕事させてもらうからね。
まず、正規のゲートで来てないだろう?西か東か、どっち?」
「えっと、シマシマのシャツ着たオジさんだった。」
「西か、いくら払った?」
「んっと、いくら持ってるか聞かれて700万シルトって答えたら、日本円に350万円に両替してくれました。」
西のゲートのシャウマンの奴、ぼったくりだ。
仕事が増える。
「日本円とシルトは、ほぼ同じ貨幣価値にされてるよ。
若いのに、大金を持っていたんだな。」
「遺産だったから。」
二重に凹んでる。
「不躾で悪かった。うーん、いつから来てる?」
「あー、3年前の・・・」
「季節でいいよ、おそらく非正規でも登録くらいしてあるから。」
「来た時、サクラが一杯咲いてた。」
「それなら3月か4月、ミカエラ・ボッシュかな?」
「ハイ・・・」
「え?タメ・・・同い年か。」
「あははは・・・」
その時、ポケットのスマホが鳴った。
「はい、ギンゴです。」
『ギンゴ君、篠崎だけど、今から来れるかな?』
篠崎本部長補佐だった。
事件が起きたらしい。
『住所言うけど、いいかな?』
メモを取ろうとしたら、ミカエラがソウッと歩きだした。
ジンに後を付けるように頼む、まだ居所を確認していない。
「無垢な童女の後をつけるとはストーカーのようで好かん。」
クネクネしてるのを急かすと、渋々追跡し始めた。
メモを書き終えると、ミカエラもジンの姿も消えていた。
暗いビルの間の空が、白みかけている。
夏の夜は短くて、どうも寝るタイミングを逃してしまう。