アケボノプリフェイス
とうとう戦いの日が来た。そう、校外学習だ。俺はこの校外学習……とは名ばかりの遠足で確かめねばならないことがある。それは俺の能力の真偽だ。俺はひょんなことから、というかなんの前触れもなくいきなりある「能力」を得た、かもしれない。その能力の効果は割と地味なわけだが、俺自身に対する認識をはずす、といったものだ。そもそも能力があるって確定したわけではないんですけどね! だから確かめに行くわけだ。正直、校外学習なんぞは、けっこう真面目に休もうとしていたわけだが、この能力の真偽を確かめるためにはもってこいのイベントだと踏み、現在重い腰をあげて集合場所に向かっているわけだ。
でもやっぱいきたくねぇ……。
さて、確か集合場所は戸独駅南口バスロータリーか。てかなにその駅。こどくえき? しかも独って字を使ってるあたりが何か悪意を感じるわ。でもこの駅とは友達になれそう。
うちから最寄りの駅へ自転車を漕いで、駅の駐輪場に自転車を置き、とりあえず電車の時刻を確認し、時計をみやる。
「……ちょっと余裕あるな」
あまり早く着くのはよくない。あまり早く着きすぎると、友達いねぇくせにスゲェ張り切ってるなこいつ……キモ。なんて状態になりかねないからな。
あ、でも待てよ? もし仮に俺の能力があるとすれば、俺は俺と認識されなくなるわけで、すなわち、早く着いたところで俺の名前に傷はつかない。少々リスクはあるものの、能力を実験するのには丁度良さそうだ。
電車にゆられて二十分ほど、戸独駅に到着した。
しかし電車の中は散々だった。時間が時間なので、通勤や通学する人間どもがひと駅つくたびにドッと車内になだれ込んでくる。あっという間に人間がひしめく魔の空間と化したわけだ。しかもなんだよ戸独駅。こどくとかいう名前のくせに四つの鉄道線が一挙に集まってる駅じゃねぇか。おかげで周りには人、人、人。吐きそうだ。なに、えせぼっちだったの、新手の詐欺? お前とは友達にはなれないな、リア充駅め!
だがリア充とだけあってちゃんといろいろ配慮はされていて、案内を辿っていったら滞りなく集合場所のバスロータリーにたどり着く事ができた。うん、なんか腹立つ。
バスロータリーを見回してみると、まだ早いせいもあってか同じ高校らしき人間や、先生方はチラホラいても、まだクラスの奴らはきていないようだ。しばらく素の状態で立ってみようと立っていたら、徐々にクラスの奴らがチラホラと見えてきた。初っ端から現れたのは、学級序列第一位であろうグループだ。
あまり上位だとまず俺の存在に気付かないんじゃね?
皮肉なことに心配は無用であった。こちらに気づくやいなや、ニヤケ面でヒソヒソと仲間内でこちらを見ながら話しだした。そこまで分かりやすくやられると流石に腹立つね~、マジカル脳内芦木君の姿も見えるよ! 胸糞悪いな!
いや、でもここはチャンスだ。今あからさまに俺の存在を認識しているが、例の能力を使えばさてどうなるか。
俺を消せ、能力発動!
心の中で俺は念じる。
あえて口には出さない。無言で発動する。そっちのほうがクールだろ?
さて、能力は発動した、と思う。持ってきた手鏡を覗いて見るも何も変化は無い。まったく、外見になんの変化もみられないと発動できてるのかわからないな。某目隠ししてる団みたく能力発動時に目が赤くなってくれればわかりやすいんだが。まぁそれは仕方ないとしよう。今はあいつらの反応を拝まないといけない。と思ったが。
……あれ? おかしいな。ヘラヘラして笑ってるぞ? どういうことだ? 待ってやっぱり能力ないのか? ここまできてそれはないぞ、え、マジで? 諦めないよ俺は。たぶんあれだ、俺がいろいろ考えてるうちに話が別の話題にそれたんだきっと。ほら、俺は取るに足らない人間だからなたぶん。
「……おっと」
気づいたらぞくぞくとクラスの連中が集まってきていた。
とりあえず一時撤退。作戦Bに移ろう。ちなみにさっきのはAだ
さぁ、続いては作戦Bだ。今回、うちのクラスの校外学習は山の中でバーベキューするだけというどこに学習要素があるんだよと思わずツッコミたくなる内容である。流石に四十人一緒に一つのバーベキューセットを囲むのは厳しいものがあるので、いくつかの班にわかれてバーベキューをする。さて、ここで作戦内容だ。流石にこの俺でも班員には覚えてもらえている、はずだ。まったく、班を作る際くじ引きでよかったよ。俺みたいなぼっちは必ず余り物となり、人数が欠けている班に強制的に入ることになるわけで、俺を引き入れる側の班はあまり良い顔をしない。ましてや……おっと話がそれたな。そこで皆がバーベキューをしている時に能力発動。もし知らない人がいつの間にかいたら普通なら少し騒ぎになるだろう。
バスに揺られて一時間。青少年キャンプ村というところについた。あ、もちろん座席は独りだよん。 ま、まぁ? そっちのほうが気楽でいいし? 話題が見つからなくなった時の沈黙といったら気まずいことこの上ない。本を読もうにも場がしらけるしな。結論、ぼっち最高。
このキャンプ村とやらはそれなりにいいといころであった。何より景色が美しい。草木のざわめき、葉の間から溢れる木漏れ日。少し上に目を向け、木の枝をみると、小鳥が美しく歌っている。鳥っていいよな、一人でいたって誰からもさげすまれる事はないんだし。
「お前も独りかー……独りっていいよな」
歌う鳥に問うてみたら、パサパサと羽ばたいた。その鳥が飛んでいった方向に目をやると、その鳥が一羽増えていた。
「リア充だったのかお前。とっとと俺の前から消え去れ」
ばーか!! と叫ぼうと思ったが、生憎前方にはクラスの連中がいる。今でもぶつぶつ言ってるせいかヒソヒソと俺の方を見て話してるやつがいるし、叫んだらどうなるのか想像に難くない。
その後、先生が点呼をとり、バーベキューができる場所へと移動し、班に分かれてバーベキューが始まった。
肉の焼ける音が耳に心地が良い。焼けるにつれ、香ばしい匂いが鼻の穴を突き抜ける。やべぇはやく食いてぇ。しかし、俺にはやることがある。さて、そろそろ能力発動だ。
「肉焼けたぞ~」
うちの班リーダーが告げる。く、もう焼けたのか…!
「お、きたきた☆」
「やったぁ~にくぅ~☆」
「いえぇい☆」
うちの班員が口々に言う。女は思わず語尾に☆マークがつくようなハイテンションだ。なんかイライラするねぇ。ちなみにうちの班構成はリーダーと俺の男二名と、女三名だ。リーダーには貧乏くじをひかせたちゃったな。
なお、女三人の名前は忘れたので、さっき声を発した順に髪型からショート、ポニテ、ツインテとしておこう。リーダーはリーダーでいいや。
「喜びすぎな、太るぞ?」
「最近の女の子は太りません!」
「そうだよぉ?」
「へいへい、ほれ、いれてやるよ。太れ太れ~」
おどけつつ彼女らに肉をの皿へと乗っけるリーダー。
しかしなんだこいつら……イライラするわぁ……。リア充は即刻爆発すべきだ! しかしなんだ、俺に気付く気配すらないんだけど。ちょっとアピールするか。明るく、なるべく明るく…。
「お、に、肉焼けた~?」
思わず声が上ずった。僕はもう完全にコミュ障なんだろうなぁ、もう人間国宝に認定してもいいよ。あ、でも班員は怪訝な顔してるぞ? そしてコソコソ何か話しだした。
残念ながらこの距離なら僕の盗聴スキルにかかれば全部丸聞こえさ!
「え? あれ誰? 安国寺くん?」
ツインテが、静かに言う。いいぞ。いいぞ。
「なんか違うよね?」
ショートが同調する。
「だよねだよね、もしかして不審者?」
おお、これは能力の信憑性が高まってきたぞ。そこにリーダーが、女子たちの会話に加わる。
「どうしたよ」
「あのさ、あれ誰? 安国寺君じゃなくない?」
「ん?」
と、リーダーが俺の方を見る。すると、笑みを浮かべ軽く言う。
「気のせいだって~、安国寺君ってこんなもんだったって。 ほら、あいつ気味悪いしさ。元々あんなだろー」
あ? リーダーやんのかてめぇ。すげぇ失礼だな。
「そっかー、あいつあれだもんね」
おい、ショート、あれってなんだよあれって。
「私もそう思う!」
ポニテ、何を同調している。僕のハートが壊れそうだよ!
「うーん、そっかぁ、そうだよね」
ツインテ! ちょっとうかなさそうだな。もっとこう否定的になれよ! くそ、なんかもうどうでもいいわ! 能力とかなんだよ! もう発動やめだ! どうせ能力なんかないんだ!
俺は心の中で能力の発動をやめる。
「あ、やっぱり安国寺君だ」
「だろ?」
「だね~」
「ほらね」
「ごめんね、変なこと言って、じゃあ食べよ!」
ツインテが申し訳なさそうに手を合わせた後、明るく空気を変えようとする。おろ? この反応は?
「ほら、安国寺君も食え食え~」
先ほどの話などなかったかのようにリーダーが俺に肉を差し出す。
お前の言ったことは一生忘れねぇからな……。そんで、ツインテもショートもポニテも大嫌いだ!俺にはもうロングしかいない!
でもまぁ、とりあえず、能力を切った(つもりになってるだけかもしれないが)あとに、あの反応ということはもう能力があるってことはほぼ確定しただろう。まだ完全な確定でもないが、これ以上また確かめようとすると本気で立ち直れなくなるかもしれないからこれくらいにしておこう。
しかし今回の校外学習(笑)は散々だったね。こんな疲れたのはじめてだ、おもにメンタル的に。
思慮に耽っていると、リーダーがしびれを切らしたか、もう一言、言葉を放つ。
「あれ、いらない?」
……ちくしょう、とりあえず肉は受け取っといてやるよ。