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大道探偵事務所

作者: 飛鳥弥生

 大道探偵ことサー・ダイドー少尉と、ゲーマー・鳩羽美咲が繰り広げる、壮大なバカ話。

 真実は……いつも一つ! くらい、あると思う!


 想像上のCVキャスティングはありますが、書くとあれこれ面倒らしいので割愛しておきます。

『大道探偵事務所』Dydo detective office


 ――飛鳥弥生 著(by Yayoi-Asuka)


※この物語はフィクションです(This story is fiction)


『目次』


・大道探偵事務所

・大道探偵事務所 弐

・大道探偵事務所 参

・大道探偵事務所 四

・新説・大道探偵事務所 1

・新説・大道探偵事務所 2

・続・大道探偵事務所 1

・続・大道探偵事務所 2


『大道探偵事務所』Dydo detective office


 近年、国内各地で警察・自衛隊力では太刀打ちできない不可解な怪事件が頻発し、社会を混乱させていた。

 新興宗教による思想犯罪。続発する陰惨な猟奇殺人。政府組織へのサイバーテロ。闇取引される粗悪なドラッグ。蔓延するコンピューターウィルスとインフルエンザウィルス。自殺を推奨・幇助するアングラサイトやカルト本。悪質なマルチまがい商法。変造硬貨による自販機荒らし。資源ゴミの未分別。絶えない煙草のポイ捨て。笑えない最近のコント。

 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉!


 正午前、鳩羽美咲{はとばみさき}は手土産を持って、駅前商店街にある雑居ビル二階のドアの前に立ち、そこにかかる看板を見て溜息を一つ、がっくりとうなだれた。たれてくる青みががかった前髪が顔面を覆い、すらりとした体が少し縮む。

 その看板は一メートルほどの縦長の木板で、「大道探偵事務所」とやたらに達筆な書体で刻まれてあった。

「いや、だからここは道場かっつーの……おーい、サー。美咲ちゃんが来てやったぞー」

 ゴンゴンと安作りで埃っぽいアルミドアを拳でノックするが返事はない。返事はないが中に人気{ひとけ}はあった。そして、時折、意味不明な奇声も聞こえた。

「おーい、いるんだろー? 土産あるぞー?」

 奇声が止み、しかしまた始まった。「ほあぁぁぁぁ……」と聞こえ、そこで鳩羽美咲の表情ががらりと変わった。端整な顔立ちは一編、般若となった。

 手荷物とボア付きコートを床に置き、アルミドアの二歩手前に立ち、ふっ、と息を吐いてから、右足を軸に回し蹴りを放った。スリムなジーンズとその先にあるピンヒールが、盛大な音を立てて安作りのアルミドアを突き刺し、屋内に吹き飛んだ。

 手荷物とコートを手にした美咲は、アルミドアの枠をくぐり、ずかずかと屋内、事務所へと進み、

「このあたしをシカトするなんて、いい度胸じゃねーか! サー!」

 事務所の中央に向けて怒鳴った。

 三つの安物ソファーと、仕切り、ローボードと簡単な事務机が一つ置かれた十二畳ほどの事務所。

 そのソファの一つに座る「サー」と呼ばれた、逆三角形で無意味に筋肉の付いたスーツ姿の男は、美咲の鬼の形相を見て、ふん、と吐き捨てた。

「我輩の職場にして聖地たる誇り高き事務所に無断で入り、しかも扉を一つオシャカにするとは、ナイアガラでの古式泳法ほどにいい度胸だな」

 対して美咲は、手近にあった雑誌「ネイチャー」を手に取り、「ふおぉぉぉ」とお得意の呼吸法を始めたサーに素早く近付き、太眉毛の顔面に向けてフルスイング、バン! とこれまた盛大な音が埃っぽい事務所に響いた。

「ふん! そんな打撃で我輩を倒そうなどとは百年早いわ! 修行して出直して来い! ……む? 見ろ、鳩羽。これは我輩の奥歯だ。虫歯はないが、何やら視界がブレておるぞ? ほほう、これは風邪か? なあ、鳩羽よ?」

「どこに向けてんのよ、あたしはこっち! 倒そうなんて思ってなかったケド、しっかり効いてるじゃん。頭、ぐらぐらじゃねーかよ!」


 この、鳩羽美咲という可憐な暴君によって脳震盪{のうしんとう}になりかけの男こそ、あの(どの?)ダイドー少尉である!

 仲間内では敬称を付けて「サー・ダイドー」と呼ばれているが、旧知の仲の鳩羽美咲は「ダイドー」の部分を省略して、サーと呼んでいる。要するにバカにしているのだ。

 サー・ダイドーことダイドー少尉。本名は大道{おおみち}でダイドーはニックネームである。「大道探偵事務所」所長という肩書きだが、事務所のウェブサイトに書かれてある彼の「探偵としての」能力は……よく解からない。


 ウェブサイトを参照すると……、


・空対空ミサイル・サイドワインダーを、野原から素手のオーバースローで地対空発射できる。

・水深四百メートルで領海侵犯した原子力潜水艦のバラストタンクのハッチを素手でこじ開け撃退したことがある。

・アメリカ海軍の合同演習の際、護衛艦のそばに救難用ゴムボートで立ち、二十ミリ機関砲CIWSの速射を二分間、素手で弾き返し、軍需産業にテコ入れをした。

・FBIのサイキック捜査の陣頭指揮を取り、プレ・コグニション(予知)能力を使って連続猟奇殺人犯を捕らえた。

・国連軍介入の紛争地帯でサイコメトリー(残留思念の読み取り)により民族紛争の根幹を付き止め、十五年に渡った紛争を終結に導いた。

・ミャンマーの山奥にレアメタル鉱脈を発見し、採掘権を手に入れようと全財産プラス借金で念願が叶うも、採掘資金がなく休暇のたびにピッケル持参で鉱脈を訪れては振るっている。

・チベット寺院での拳法修行で半生を過ごし、中国大陸の奥地で遂に悟りを開き、奥義を習得し、それを生かすべく探偵となった。


 ……このウェブサイトの片隅には、

「一部、過剰な表現がございます」「あくまで個人の感想です」「イメージ画像です」「実在する人物、団体とは関係ありません」

 と、しつこく書かれてある。ウェブサイト作成を依頼したデザイン事務所からの「当然の配慮」である。


「おっと、これ、差し入れの手土産だ」

 鳩羽美咲が小ぶりな紙袋から蒸篭{せいろ}を持ち出した。

「熱々の小籠包{しょうろんぽう}! 商店街に新しく中華店ができてたっしょ? 美味いって評判聞いたからねん」

「ほほぅ、貴様にしては気が聞くな、鳩羽よ。小籠包とはすなわち熱との戦い。しかし! 我輩に小籠包など効かぬわ!」

 言うとダイドー少尉は、レンゲに乗った小籠包をパクリと口に入れた。

 次の瞬間、天井に向けてそれを吹き出しソファから転げ落ち、床をどたばたとたたき、ローボードに後頭部をぶつけ、しばらくしてソファに戻り、一言。

「図ったな! 鳩羽ぁ!」

「テメ……実は僕、バカなんですって正直に告白しろ。そしたら新人リアクション芸人として大目にみてやるよ!」

「ほぁちゃちゃちゃちゃぁぁー!」


 近年、国内各地で警察・自衛隊力では太刀打ちできない不可解な怪事件が頻発し、社会を混乱させていた。

 新興宗教による思想犯罪。続発する陰惨な猟奇殺人。政府組織へのサイバーテロ。闇取引される粗悪なドラッグ。蔓延するコンピューターウィルスとインフルエンザウィルス。自殺を推奨・幇助するアングラサイトやカルト本。悪質なマルチまがい商法。変造硬貨による自販機荒らし。資源ゴミの未分別。絶えない煙草のポイ捨て。笑えない最近のコント。

 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉!

 とりあえずがんばれ、ダイドー少尉!(涙)



 ――おわり



『大道探偵事務所 弐』


 近年、国内各地で警察・自衛隊力では太刀打ちできない不可解な怪事件が頻発し、社会を混乱させていた。

 新興宗教による思想犯罪。続発する陰惨な猟奇殺人。闇取引される粗悪なドラッグ――(以下略)。

 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉! 「大道探偵事務所」の所長にして、正義の砦である!


 駅前商店街にある雑居ビルの二階に、その事務所はあった。

「小籠包{しょうろんぽう}、恐るべし!」

「イヤ、それはもういいから……」

 ダイドー少尉は、既知の友人、鳩羽美咲{はとばみさき}の向かいに座り、氷の入ったカクテルグラスで舌を懸命に冷やしていた。

「あのサー、ここ、探偵事務所? 始めてからどんくらいだっけ?」

 安物のソファに背中を預け、美咲は尋ねた。ダイドー少尉は、ふむ、と首をかしげた。

「二十八週と少しであるな」

「週でいうな! 解かりづらいよ! なんでアメリカン囚人感覚なんだよ! えーと、七ヶ月か。ホントに依頼とかあんの? マンガじゃあるまいし。実は浮気調査とペットの行方不明とかってパターンなんだろ?」

 美咲の見下し口調に、ダイドー少尉は、はん! と返した。

「甘いぞ! だから貴様は鳩羽美咲のままなのだ! 我が事務所のウェブサイトを見ておらぬのか?」

「あー? あの嘘八百の実績並べてる、詐欺まがいの奴? 見たよ。「九〇式戦車砲弾であれば弾き返すことが出来ます」とか「カイザーナックルで各国の悪霊を退散します」とか全部、シロートには意味不明だし、それってそもそも探偵のスキルか?」

 ダイドー少尉は、ちちち、と指を口の前で振り、ふぅ、と溜息をこぼした。

「嘘から出たまこと。当たるも八卦、当たらぬも八卦。虎穴にて蓼{たで}喰う虫も好き好き。犬も歩けば猫も歩くと言うであろう? スパイス程度の誇張で信頼を得るための、まあジョークのようなものである」

 ははは、とダイドー少尉は笑い、カクテルグラスの水をぐいと飲み干した。聞いていた美咲は思った。もしも「バカにつける薬」を発明したら、ノーベル賞が取れるだろう。そのためのモルモットは現在、目の前にいる、と。

「テメーがバカなのはいいとして、カイザーナックル? それ見せてみろよ、ほらほら、出せるモンなら――」

「何と! 鳩羽! 貴様は今、憑かれているのか!」

「たぶん字が違うと思うケド、疲れてるよー。んで? カイザーナックルって?」

 するとダイドー少尉はスーツの上着を慌てて脱ぎ、右腕のシャツをめくりあげ、拳の表を美咲に向けた。ごつごつとしているが、ただのげんこつだったので、美咲は首をひねった。

 ダイドー少尉はマジックを左手に持ち、なにやらブツブツと始めた。

「in nomine pater et filius et spiritus sanctus...in nomine pater et filius et spiritus sanctus...」

「はい?」

 英語ではないしフランス語でもない。ドイツ語でもなく、それ以外の言語は美咲にはわからないので、チンプンカンプンであった。

「ちぃっ! しまった! 我輩としたことがうかつな! 鳩羽めに憑くならば悪霊はラテン語ではなく日本語か! 改めて! ……父と子と聖霊の御名において……父と子と聖霊の御名において……」

 繰り返しつつダイドー少尉は、マジックで右手のげんこつにバツ印をキューと描いた。どうやら十字架のつもりらしい。

 その直後! ダイドー少尉は重くひねりの入った渾身の右ストレートを鳩羽美咲に向けて放った!

 いきなり向けられた拳に美咲は驚き、しかし素早く丸めた雑誌「ナショナルジオグラフィー」で重い右ストレートをパン! と弾き、ついでに顔面にも一撃いれた。

「テメ! 衝動的に殺す気か!! 勝負するなら表に出やがれコンチクショー!」

 美咲の絶叫に、鼻血を流しているダイドー少尉は、にっこりと微笑んだ。

「我輩の拳にカウンターを当てるとは、さすがは鳩羽美咲! あなどりがたし! ともあれ、聖なる拳・カイザーナックルにより貴様の悪霊は木っ端微塵になって消え去った、もう安心するがよい。さて、知った仲とはいえ料金はきっちりと頂くぞ? 三千万だ。スイス銀行の我輩の秘密口座に二時間以内に振り込んでおけ。口座番号は我が事務所のウェブサイトのトップページに掲載してある」

 美咲は少しだけ悩んだ……どこをツっこめばこのバカは沈黙するのか、と。

「いきなり人を殴ろうとして、三千万て、いつからブラックジャックですかアンタ?」

「む? ちと高いか?」

「ランボルギーニ・ガヤルドを新車で買える金額が安いと思うかフツー? 金銭感覚がマヒしてる環境系IT投資家か、テメーは?」

 ソファに座ったままジーンズの先のピンヒールを上げ、手前のウッドテーブルにかかと落とし! ゴン! と事務所全体が震えた。

「金にあれこれと下世話で哀れな鳩羽美咲よ……まあ良い。只今冬の割引セール中ということで五〇〇ペソにまけておいてやるわ」

「何でペソでスイス銀行なんだよ! 換算したらベラボウに安いじゃねーかこのド阿呆がぁ!」

 立ち上がった美咲は、丸めたナショナルジオグラフィーでダイドー少尉の顔面を再びフルスイングした。

「甘いぞ鳩羽ぁ! 同じ手を二度喰らう我輩! ……である……ごふっ!」

「あ、スマン。クリーンヒットさせちゃった。ほら、ハンケチ。鼻血を拭いて……て、失神してるしー!」


 近年、国内各地で警察・自衛隊力では太刀打ちできない不可解な怪事件が頻発し、社会を混乱させていた。

 新興宗教による思想犯罪。続発する陰惨な猟奇殺人。闇取引される粗悪なドラッグ――(以下略)。

 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉! 「大道探偵事務所」の所長にして、正義の砦である……との、もっぱらの噂である!



 ――おわり



『大道探偵事務所 参』


 近年、国内各地は、横行して止まない詐欺、衝動的な傷害事件の多発などの蔓延により、確実に崩壊に向かっていた。

 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉! 一介の探偵にして、弱者の救世主である!


 駅前商店街の雑居ビル二階にある「大道探偵事務所」室内は、主であるダイドー少尉と、旧友の鳩羽美咲{はとばみさき}の二人きりだった。依頼者もなければ、それを告げるチャイムや電話のコール音もなく、外と同じく寒々しい。

「はっ! ここは! ……むぅ、我が事務所であるな。らしくもなく、いつのまにやら眠っていたか。日々の激務がたたったかのう?」

 室内を見渡すと、ソファでふんぞりかえって雑誌を読んでいる鳩羽美咲と目が合った。

「やっとお目覚めかよ。あ、いちおう謝っとく、スマン。でさ――」

 何に対して謝っているのかを説明することなく、美咲は続ける。

「――探偵とかいっても実際はヒマなんだろ? だからちょいと狩りに付き合え」

 黄色いポーチからモバイルゲーム機を持ち出して、返事も聞かずに電源を入れる。

「ふおっ! 鳩羽美咲! ゲームは依存性の高い薬のようなものであり毒であり、娯楽と称した企業からの洗脳である! そんなものに時間を割くくらいならば、禅寺で瞑想にふけって迷走する人生を問い直すがよい!」

「ゲーマーでゲーム系ライターのあたしがゲームやんのは、半分は仕事ですよーだ! 毒でも洗脳でも脳内ハッピーなら大いに結構じゃん。つまんねー日常からヴァーチャルに逃避して人生を浪費すんのが市民の義務なんだよ。ほら、さっさと準備しろ。それともアレか? 自分がヘタで狩りの足手まといになって醜態さらすのが怖いか? ケケケ!」

「ほぁっ! 刹那的達観から一転して挑発とは! 貴様は我輩がPC世界に精通した電子戦術士官さながらの猛者{もさ}であることを失念しておるな! たかがゲーム! 我輩の奥義にかかれば狩りなど朝飯前の昼食後であるからして、華麗なる立ち居振る舞いに驚愕するがいい!」

 長科白を締めくくり、ダイドー少尉は鳩羽美咲と共にモンスターの狩場である草原に出た。

「あたしさ、片手剣から双剣に転向したのよ。新しい武器も作ったし、ちょいと飛竜でも試し切りに……って、テメーはなんでまだ裸なんだよ! 防具はどうした防具は! インナーだけでゴツいランスって、どんなだよ?」

「はーっははは! だから貴様は鳩羽美咲で甘いのだ! 攻撃こそ最大の防御であり、防具とは慢心を生む根源である! 敵の攻撃はかわす! もしくは盾で跳ね返す! 我輩に防具など不要でありランスは漢{おとこ}のロマンである! さあ行くぞ! 我輩の背を見て真の闘いを知るが良い!」

 インナーに重量級ランスを背負った「Dydo」が、討伐ギルド正装+双剣の「Misaki」の先を走り、森の茂みに潜む飛竜へと近付くと、咆哮が響いた。

「おっと、これは大物! こっちは足元狙ってダウンさせるから、好きなようにザクザクやっておくれぃ」

「はぁぁぁーっ! 内臓をえぐる必殺の一撃ぃ! む? 心臓を狙ったのにまだ動くか! ちぃっ! ガーガーとやかましい! ふおっ! 身動きがとれぬぞ! どうした我輩! 爬虫類めが! 体当たりなど盾で、ぬおっ! まだ身動きがとれぬ! 立てよ我輩! 今こそ真の能力を発揮する瞬間であり、ぐはっ! 先々代の顔が脳裏をよぎる。これが走馬灯か!」

「いやいやいや! 即死してんじゃねーよ! っつーか、うるせー!」

 美咲はモバイルゲーム機を片手に「Misaki」を器用に動き回らせつつ、もう一方で雑誌「クラシックバイカーズ」でダイドー少尉の頭をバン! と叩いた。その拍子に「Dydo」がまた倒れた。

「おのれ鳩羽美咲! 貴様が邪魔をするから我輩の分身が火だるまではないか!」

「だから即死すんな! っつーか、せめて一太刀くらい入れろ! 狩りに来て狩られてどうすんだ、この阿呆が!」

 華麗に双剣を振り回す「Misaki」の横、かなり離れた位置で「Dydo」が槍を空に向かって突き上げていた。

「見よ! この鋭利にして輝かしきランスを! これぞ武器! ウェポン・オブ・ウェポンである! そしてこの盾! 重厚にして鉄壁! 攻防を兼ね備えたこの装備こそ無敵の証! さあ爬虫類! かかってこい! む? どこに消えた? 恐れをなして逃げたか?」

「テメーの真後ろだよ! 何、見失ってんだ? って、そこで死ぬかぁー!!」

 美咲の絶叫で狩りの時間は終わった。大きな溜息は双剣使い「Misaki」と鳩羽美咲のものである。

「短いひとときであったな」

「こっちの科白だよ! 狩りとかの以前に根本的に間違ってるよテメーは。ゲームとして成立してなくて涙出てくるぞ? 防具より先に取説{とりせつ}読め。一緒にやってて悲しくなる」

 何の収穫もないデータをセーブしている美咲に、ダイドー少尉が一言。

「だから言ったであろう? ゲームは毒であり洗脳であるとな」

「毒られてなくて洗脳されてない奴が吐く科白じゃねーよ! 小学生でもやれるゲームを、どうやったらああも綺麗サッパリ終わらせられるのか、逆に問いたいぞ? PC世界に精通した電子戦術士官さながらの猛者さまよぅ?」

「それは永遠の謎であり哲学者の領域であって、探偵である我輩の出る幕ではない。一つだけいうならば、ランスは漢{おとこ}のロマン!」

「使いこなせないんなら、爪楊枝でも持っとけ。でもってエンドレスで狩られ続けてろ。ヴァーチャル生き地獄で脳細胞を腐らせて廃人にレッツ・ゴーだ。うん、そうしろ」


 近年、国内各地は、横行して止まない詐欺、衝動的な傷害事件の多発などの蔓延により、確実に崩壊に向かっていた。

 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉! 一介の探偵にして、弱者の救世主であるがゲームは下手くそである!



 ――おわり



『大道探偵事務所 四』


 近年日本、法治国家は大小の犯罪の横行により確実に崩壊に向かっていた。

 それら犯罪は一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉! スーパー探偵にして、封印されし中国拳法の伝承者! デルタフォース出身の彼は、我々の最後の希望である!


 大道探偵事務所、そう刻まれた縦長の板切れが、駅前商店街雑居ビルの二階にかかっている。

 所長であるダイドー少尉は、友人の鳩羽美咲{はとばみさき}と談笑していた。

「そういやサー、ここに来るときに、コッテコテのVIPカーとすれ違ったよ。そもそもが何が楽しいのか、ライターでライダーな私にゃサッパリな世界なんだケド、現物をみてもやっぱサッパリなオカルトの世界だよ」

「VIPカー?」

 ダイドー少尉が首をひねるのを見て、美咲やニヤリとした。

「スーパー探偵のサーはVIPカーも知らねーのか! からから!」

「からからと笑うな! 博識こそ探偵の基本! VIPカー? おおう! 周知の熟知である! V.I.P.警護のための特殊装甲車両である! 防弾グレードを最大にして車重量は10トン以上! 走る棺桶! これぞVIPカー!」

「甘い!」と美咲は言って一枚の用紙を黄色いポーチから差し出した。

「友達の友達からの情報なんだケド……」

 ダイドー少尉はその用紙を受け取り、目を通した。


********************

 車業界に二十年、数々の馬鹿な輩を見てきた私が「VIPの条件」を教えてあげよう!

・その一、4ドアセダン

・そのニ、色は黒が主流

・その三、型落ち(先代モデル)が多い。じゃないと手が出ない。14マジェスタ、20セルシオなどは典型的なパターン

・その四、昔の高級車を選ぶから車的に整備不良が多い、そしてその修理代に泣く

・その五、年に一回の自動車税、二年に一回の車検時の重量税に顔色が変わる

・その六、とにかく維持費に金がかかるので(ロータリーよりも)オーディオに凝る人は少数

・その七、見た目だけが「車高が低くなるように安物のダウンサスを導入するか純正スプリングをカット、またはエアサスコントローラーの中古品を手に入れるも、なぜか作動不良の為泣く泣く車高長キットを導入、さらに大径ホイール導入」でまずは一安心。その後は「いかにボディを綺麗に保つかを重要視」、当然ながら大径ホイールに合わせた大径タイヤを「国産品で買う予算は無い」ので流行の「輸入タイヤ」で済ます

・その八、エンジンなどの運動性能にこだわるような余裕が無いビッパーな人は、いかにオイル交換が安くなるお店を探し当てるかに必死になる(高級VIPカーは使用オイル量も多い)

・その九、ネオン管などの装飾系に力を入れるのは二十代前半までの若者で、ある程度年数が経つと「見た目を渋く……」などと言い出し、装飾品(光り物)には手を出さず、「車高の低さ」だけに徹底的に拘り出す

・その十、オーディオに凝りだすとお金がかかるのを知っているので、案外オーディオはノーマルな人が多い

・その十一、最近の新車に装着されている「ドアミラーに付いたウインカー」の社外品のキットが大ヒット! 他には「ウインカーポジションキット装着」は当たり前(ウインカーが車幅灯として光るように細工出来るキット)、それも酷いやつになるとテールにも装着(これは道交法違反です)。めちゃくちゃうっとうしいっす

・その十二、ちょっと前は「全身フルスモーク装着」が当たり前で、今は白バイに捕まりやすいから(笑)カーテンを装着!


 見た目だけにしかこだわりの無い人間ってのはいつでも笑いの種だ。

********************


「ふ、深い! グレートバリアリーフよりも深い! しかぁし! VIPとは全く無縁ではないか! これは難解なパズルで探偵たる我輩への挑戦状と見た! 密室殺人に残された時刻表へのダイイングメッセージ!」

「いやいや、バカはバカ同士で集まるってことだろ? 単純にさ? 友達の友達もそう言ってたし。あと、いちおー。グレートバリアリーフってそんなに深くないからねー」

 ダイドー少尉は美咲からの「挑戦状」を繰り返し読み、あーでもない、こーでもないと右往左往し、残された美咲はポーチからモバイルゲーム機を持ち出して、どうでもいい時間を潰すソフトを選んで「こんなのやりたくもねーんだケドなー」とこぼしつつ、スタートボタンを押した。

「エアフォースワンは大統領が乗るまでは単なるハイテクボーイングであって、大統領が乗った瞬間からコールサインがエアフォースワンへとなる! VIPカーはVIPが乗ることでそう呼称される、という常識を覆すこのレポートは……ちぃっ! 糖分が足りぬ! 頭の回転が鈍い! この程度の事件で立ち往生するような我輩かと思ってかぁー!」

 落ちゲーで時間を潰す美咲を大ジャンプで飛び越え、飾り棚にあったジャック・ダニエルスをらっぱ飲みし、ダイドー少尉はああでもない、こうでもない、とぶつぶつ……。

「深読みしすぎてハマる典型だなこりゃ。そんなで探偵が務まる……おっと、四連鎖ー! ひゃっほう!」

「つまり! 防弾性能は無視して一般に高級車と呼ばれる車両をチョイスし、己でそれを運転するのがVIPカー! いや待て! VIPは自ら運転などせぬ……おぇぇぇー!」

「うおっ!! 推理しながら吐くな! っつーかアルコールに弱いにも程があるぞ?」

「う、ウィスキーはハードボイルド探偵に欠かせぬベリー・インポータント・アイテムであって……おぇぇぇ!」

「VIPカー連中と同じで、見た目から入るタイプかよ……。糖分補給ならせめてワインにしろ……おっと、五連鎖成功! いやっほう!」

「ぬおっ! 吐き気から一転、頭痛が! 何やら足元がふらふらする! 三半規管をやられたか! おのれこれしきで倒れるかぁっ! 難解な挑戦状はパズルであって探偵たる我輩が……おぇーーー!」


 近年日本、法治国家は大小の犯罪の横行により確実に崩壊に向かっていた。

 それら犯罪は一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉! スーパー探偵にして、封印されし中国拳法の伝承者! デルタフォース出身の彼は、我々の最後の希望である! しかし! 時差ボケがたたったのか、日本国内の車事情と酒には非常に疎い!



 ――おわり



『新説・大道探偵事務所 1』


 近年、国内各地で警察・自衛隊力では太刀打ちできない不可解な怪事件が頻発し、社会を混乱させていた。

 新興宗教による思想犯罪。続発する陰惨な猟奇殺人。政府組織へのサイバーテロ。闇取引される粗悪なドラッグ。蔓延するコンピューターウィルスとインフルエンザウィルス。自殺を推奨・幇助するアングラサイトやカルト本。悪質なマルチまがい商法。変造硬貨による自販機荒らし。資源ゴミの未分別。絶えない煙草のポイ捨て。笑えない最近のコント。

 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉!


 季節は夏休み。猛暑で商店街に陽炎が出来て、行き交う人々の額には滝のような汗である。

 商店街の一角の階段を上った先にある十二畳ほどの小さなオフィススペース、「大道探偵事務所」もまた、ハワイだかグアムだかのようであった。

「ふざけてろ! エアコンない事務所とか現代社会に存在してんじゃねーぞ! 殺すぞコラ!」

 汗でべとべとになった前髪を掻き揚げながら、鳩羽美咲{はとば・みさき}は猛然と抗議するが、言われたサー・ダイドー少尉は、平然とした顔で応える。

「故人曰く、新党結成すれば日もまた昇る、とな。鳩羽よ、貴様は修行が足らぬと何度も言わせるな。貴様はハングアップしたノートパソコンか?」

 真っ黒なスーツ、大柄で逆三角形の体躯には、明らかにあるだけ無駄という量の筋肉が盛り上がっており、手にしたワイングラスを左右にふらふらさせつつ、大道探偵事務所の主、「サー・ダイドー少尉」と近しい人から呼ばれるその探偵男は、葉巻の煙を吹き出しつつ、太い眉毛で不機嫌そうな顔を作った。

「故人が新党結成して日が昇って、だから何だっつーんだ? 誰がハングしたノートだ、こら。ケンカ売ってんだったらバーゲン特価で買い取って、先物取引で三百倍にして返してやっぞ?」

 美咲は言いつつ、事務所にあるソファにだらりと崩れて、真っ赤なTシャツの胸元をぐいぐいひっぱり、そこに手であおいだ風を送るが、事務所が亜熱帯のごとくなので、殆ど意味はない。細身のジーンズの太股辺りもうっすらと湿っていて、黒いピンヒールは飛ばして木製テーブルの足元に転がったままになっている。

「ほぅ。たかが雑文書き風情が大口を叩きおってからに。我輩{わがはい}にかかれば雇われの物書きなぞ、指一本の八秒で重症にしてやるが、鳩羽風情に売るようなものなど、この神聖なる事務所には一つたりともないわ!」

「……ちょい待て。今、テメー、たかが雇われの物書きとか、スピア・オブ・ディスティニー五万本くらいの暴言、吐かなかった? しかも、あたしの前にいるクソ野郎ってたしか、探偵とかナメたことプリントした名刺をポケットティッシュ感覚でばら撒いてる、国宝級のアホじゃなかったけ?」

 美咲はソファに座りなおし、真っ赤なTシャツの腹をばたばたさせつつ、シルバーフレームのメガネを上下させた。

「まてぇい! 鳩羽ぁ! 貴様、今、我輩を侮辱する発言をその銃創のように全く役に立たぬ口から吐いたか?」

「待てはこっちの科白だぞ? 役に立たない口とか、テメ、追加コンボかけやがったか? コラ。とりあえず上着脱げ。でもって右ほほこっちに向けて歯ぁ食いしばれ」

 ふん! とはき捨てたダイドー少尉は、ワイングラスをテーブルに置き、葉巻は灰皿に、右ほほを鳩羽美咲に向けた。

「平手でも拳でも、全力で受けてやるから、好きにせよ。だが、鳩羽。こういう場合は三倍返しというのが礼儀であるからして――」

 ゴッ! と鈍い音は、鳩羽美咲のひざが、ダイドー少尉のほほを打つ音。蒸し風呂状態の事務所の空気が、ダイドー少尉の右ほほを中心に、弾けた。

「ぷおっ! 頭蓋骨が振動するが如き打撃! しかぁし! 鍛えぬいた我輩にそのような中途半端な打撃なぞ無意味!」

「って、どっち見てんだ? あたしはこっちだよ。瞳孔開きっぱなしで、よくもまあそんだけ喋れるな? んで、腰から砕けて、しっかり利いてるじゃねーかよ。何が中途半端だ? ああ? 女だから弱いとかナメた統計学みてーなこと考えてたら、三途の川でバタフライさせっぞ?」

 足元をふらふらさせ、首があらぬ方向に向いたダイドー少尉は、ワイングラスを取ろうと手を伸ばすが、手はグラスの横をすり抜けて空を掴むばかりだった。

「どうした我輩? ふむ、これが俗に言う脳震とうというあれだな。だがしかぁし! ダメージは微々たるもろれあらりありがれああしりありがし」

「いやいや、もう言葉になってねーし。ま、んなことはどうでもいいんだよ。このあたしが、わざわざこんなサハラみてーなとこに来たのは、テメーに用事があったからで、サー、テメー、確か探偵やるって、そう言ってたよな? 実際のところ、テメーには探偵スキルとかあんのか? あるんなら仕事頼みたいんだケド、猫探しだの浮気調査だの、中途半端なんじゃねーケド、大丈夫なんだろか?」

 ダイドー少尉、美咲は「サー」と吐き捨てるように呼ぶが、大道探偵事務所所長の、本名を大道という主は、名刺や事務所看板に「探偵」という文字を刻んでいる。つまり、能力はともかく、本人は探偵のつもりだと、そういう意味だ。

 鳩羽美咲のひざの一撃で床に腰から落ちた大柄の筋肉マン、ダイドー少尉は、目をぱちくりさせつつ、短く刈った頭をばりばりとかきつつ、無意味に鋭い視線を美咲に返した。

「我輩はそこらの探偵とは別格! つまり! 超探偵! どうした、鳩羽よ? この我輩に貴様が仕事を依頼とは、驚天動地だが、まあ知らぬ仲でもない。話くらいは聞いてやろう。前金は、そうさな、2000だ」

「……は? いや待て。話聴くだけで金取るとかって、テメーは弁護士か? しかも2000円? ボッタクリとかそういうレベルじゃねーぞ?」

「ははは! 円? 我輩は国際探偵! 通貨は円ではなくドルだ。2000ドルをまずは我輩のスイス銀行の口座に振り込め。口座番号は――」

 ゴン! と二度目の音は、美咲の踵落としがダイドー少尉の脳天を直撃した音だった。

「ドルでもペソでもルピーでもゼニーでも、話だけで出せるか、アホ。とりあえず聴け。えっとだな……って、おい! こら! 人の話を聴くときはきちんと目を見てろ! 床に崩れてんじゃねーよ、このアホ探偵。踵落としくらい気合でガードしろよ。で、本題なんだケド……」

「ぐぅ」

「あ、意識はかろうじてあるみたいだな。えっとだな、依頼ってのはいわゆる素行調査って感じだな。先週にさ、新しい仕事が一件入って、幾らか記事を納品したんだケド、その相手がさ、ちょっと怪しいんだよ。いや、ギャラはきちんと入金されてっからビジネストラブルとかじゃあないんだケド、依頼された記事ってのが、ちょっと胡散臭い系だったんだよ。クライアントの依頼通りにきっちりと記事は書き上げたし納品したしギャラも入ってんだケド、その文面がさ、ドラマとかで出てくる犯行予告とか、そういう系だったのよ。つまり、もしかしたらあたしってば、犯罪の片棒担いでるカモって、そういうこと。オーケー?」

「目の前がちかちかするが、これはつまり、我輩は少なからずダメージを受けていると、そういう意味か?」

 焦点の合わない視線を天井に向けたまま、ダイドー少尉は鳩羽に返す。

「テメーの体調とかどうでもいいんだよ。話、聴いてた?」

「我輩の耳は三キロ先の蝶の羽音すら聞き分けるが故、鳩羽ごときの科白を聞き漏らすことなぞない! 結論から言えば、貴様はいますぐ最寄の交番に自首して、法の裁きを受けて冷たい飯を食らえと、そういうことだ。これにて一件落着! 報酬は2万! 米ドルを今から三十分以内に我輩の口座に振り込め。一分遅れるごとに金額は20%ずつ上昇するが故、注意せよ」

 ははは! と鳩羽美咲の左二メートル辺りに向けたダイドー少尉は、ようやくダメージが回復したようで、すっくと立ち上がって丸太のような腕を組み、ついでに、からからと笑った。

「いや、だから、まずその報酬システムをきっちりと説明しろよ。んで、何が解決だコラ。喋って三秒で人を犯罪者呼ばわりって、それ、探偵じゃなくて検察とかそっち系なんじゃねーか? しかも法的根拠が微塵もないって、実はお蔵入りしたジョークとか、そういうのだったら、次は顎を拳で粉砕すっぞ? 昨日と同じ顔してたかったら、とりあえず話をまともに聴いて、あたしが納得する程度の返事しろよ。んで、そんなふざけた回答で利益出そうとか、現代社会をナメたようなことをもう一回言ったら、テメー、首から上がなくなって鏡とかいらない生活送ることになるケド、どうする?」

 青眼に構えた鳩羽美咲は、拳をぐっと握り、腰を落とす。

「だから貴様は鳩羽美咲なのだと何度も言わせるな、この未熟者が。我輩に格闘で挑む相手なぞ、この商店街では貴様くらいなものだが、貴様如きの拳なぞ、鼻息で跳ね返してやるわ!」

 ズン! 三度目の打撃音は、ダイドー少尉のみぞおちに美咲の右拳が入った音だった。全体重の乗ったその拳のインパクトはダイドー少尉の鍛え上げられた腹筋を二センチほどへこませて、背中まで抜けた。

「ぐほっ! ……おぇーーーーーーーー!」

「だから、あたしをナメんじゃねーって、何度も言わせんな。テメーごときに全力とか出すか、このアホが。あたしは合気道黒帯だぞ? ただの打撃とか思ってたら、百回くらい天国観光させっぞ?」

 うつむき、次いで天井を仰いだダイドー少尉は、受身も取れずに床に後頭部をぶつけて倒れた。

「ちいっ! 鳩羽! 貴様、確か空手で黒帯ではなかったか? 我輩は中国拳法の極意をこの身に宿した無敵の探偵であって、しかし、合気の打撃となればさすがの我輩とて、若干のダメージをうぇぇぇーーーーー! は、吐き気がぁ! 全身を貫くこの痛みは?」

「覚えとけ。それがあたしの1%の力だよ。んで? 素行調査はやってくれるんだろうな? 資料はここに、って、話聴けよコラ! 意識失ってんじゃねーよ! っつーか、暑いんだよここは! 体感で五十度オーバーじゃねーか! 探偵とか名乗る暇あったら、さっさと家電屋行って、エアコン用意しやがれ! 脱水で殺す気か? 麦茶の一杯くらい出せよ!」

「ごはっ! む、麦茶ならばそこの冷蔵、っこにはがっ! おえぇぇぇー!」

 床でじたばたしつつ、ダイドー少尉はぷるぷると震える指で小さな冷蔵庫を指差そうとして、そのまま床に突っ伏した。背中が痙攣して、釣りたてのブラックバスの如くである。


 近年、国内各地で警察・自衛隊力では太刀打ちできない不可解な怪事件が頻発し、社会を混乱させていた。

 新興宗教による思想犯罪。続発する陰惨な猟奇殺人。政府組織へのサイバーテロ。闇取引される粗悪なドラッグ。蔓延するコンピューターウィルスとインフルエンザウィルス。自殺を推奨・幇助するアングラサイトやカルト本。悪質なマルチまがい商法。変造硬貨による自販機荒らし。資源ゴミの未分別。絶えない煙草のポイ捨て。笑えない最近のコント。

 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉!

 鍛え上げられた身体をぴくぴくと震わせて床で意識朦朧となっているこの男こそ、正義の砦である!

 とりあえずダイドー少尉、鳩羽美咲を敵に回すのはやめよう!

 がんばれ! ダイドー少尉!



 ――おわり



『新説・大道探偵事務所 2』


 近年、国内各地で警察・自衛隊力では太刀打ちできない不可解な怪事件が頻発し、社会を混乱させていた。

 新興宗教による思想犯罪。続発する陰惨な猟奇殺人。政府組織へのサイバーテロ。闇取引される粗悪なドラッグ。蔓延するコンピューターウィルスとインフルエンザウィルス。自殺を推奨・幇助するアングラサイトやカルト本。悪質なマルチまがい商法。変造硬貨による自販機荒らし。資源ゴミの未分別。絶えない煙草のポイ捨て。笑えない最近のコント。

 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉!


 商店街は二つの商店街が十字に交差していて、あれこれと店があるが、郊外型のショップモールなどの出現で経済的には随分と苦しい。しかし、朝一番から人は多く、賑わっているように見える。

 商店街の一角、喫茶店と書店に挟まれた小さな階段を上ると、幾つかのオフィススペースがあり、安っぽいアルミドアの横に「大道探偵事務所」と書かれた看板が張り付いている。

 十畳かそこらの狭い事務所には、そこの主である探偵・大道{おおみち}と、彼の悪友、鳩羽美咲{はとば・みさき}がいた。

「――でさ、あたしはその依頼を受けたんだケド、きっちり記事を書き上げて納品もしたし、チェックもOKだったケド、やっぱし内容が胡散臭いって、そう思ったのよ……って、聴いてるか?」

 ソファで雑誌を読みつつ、鳩羽美咲が尋ねた。

「秋うらら、猛暑はいずこ、我輩も」

「いや、詠んでるんじゃねーよ。しかも意味不明だし。っつーか、テメ、話聴いてねーだろ?」

 三十代後半くらいに見える大道。探偵を名乗る彼だが、プロレスラーとでも名乗ったほうが解りやすいかもしれない。黒いスーツの下はビルドアップしすぎた筋肉で、腕の足も丸太の如く。細い目付きはやたらと鋭く、太い眉毛も同じく。四角いアゴが突き出ていて短く揃えた髪はオールバック。口には葉巻で右手にはワイングラスで、スーツの胸元にはサングラスが刺さっている。

「だからサー、テメーはまず、人の話を聴けよ。探偵とかそういう以前の問題だっつーの」

「だから貴様はアホだというのだ、鳩羽よ。真理に到達した者は森羅万象を心の目で捉える。アホの塊の貴様ごときの言葉も、我輩は全て把握しておるから無駄口を叩くな」

 アホの塊、鳩羽美咲。彼女はいわゆるフリーライターで、サー、こと大道探偵との付き合いも長い。

 セミロングの髪を後ろで束ねて、Tシャツにジーンズで、足元はピンヒールと軽装だが、シンプルなネックレスやシルバーのリングなど、女性らしさも僅かにある。三十路前だが見た目にはもっと若く見える。性格は……。

「誰がアホの塊だ、コラ。インテリで博識のあたしから見れば、テメーなんぞサル以下だ。ホモサピエンスだって認めて欲しけりゃ、もっとマシなこと言えよ」

 性格には少し難があるが、まあ悪い人間ではない、と自称している。

「つまりだ、アホの鳩羽。貴様は仕事で胡散臭い文章を作成して、それに対して報酬まで貰ったと、そういう話であろう? ならば貴様は犯罪者が故、とっとと最寄の交番に自首して法の裁きを受けろと、何度も言わせるな……ほあっ!」

 空いた左手をビシッと突き出し、大道こと、サー・ダイドー少尉は返した。

 この、探偵を名乗る男。名前は大道だが、仲間内ではダイドー少尉として通っている。鳩羽美咲と同じくライターをやっていて、その頃のペンネームがダイドー少尉だった。そこに敬称としてサーを付けて、サー・ダイドー少尉となり、略してサーと呼ばれている。ライターから一転して探偵を始めたのは、もう一年前だが、ライター家業も続けているので鳩羽美咲との接点も残ったままである。

「どういう理屈であたしが逮捕されてんだよ、アホサー。テメーが探偵とかやるって言い出して、だからあたしが依頼でもしてやろうって話を持ってきてやったんだから、あたしは依頼主で、もっと丁重に扱えよ。コーヒー一杯くらい出せよ」

「貴様に飲ませるコーヒーなどない!」

「どこの芸人だ、ヲイ。っつーか、アホの塊をまず撤回しろ。それから依頼通りに相手を調査とかして、報告書出せよ。やり取りは全部メールで送ってるケド、きちんとチェックしてんだろうな?」

 と、ダイドー少尉が、ははは! と大声で笑った。

「我輩は電子戦術記事担当であり、パソコンやネットには精通し、今やこのようなモバイル端末を使っておる! 見よ! 最新端末を己でカスタマイズしたオリジナルOSを搭載した、世界に一つの超性能モバイルだ!」

「……OSをカスタムって、そりゃ、テメー、チートだろ? 違法改造じゃねーか! まずテメーが出頭しろよ! なんだコレ? 原型が殆どなくなってて、オリジナルどころか完全に別OSになってるじゃねーかよ!」

「モバイル端末のOSごとき、我輩の技術で独自開発である!」

「だから! それを違法だって呼ぶんだよ! バカだろ、テメー。モバイルのOSを自分で組んで乗せてる奴なんて、初めて見たぞ?」

「はーっはっはっは! 我輩の領域に至れば、既存のOSなぞ無意味! 各種通信に対応し! 脅威のレスポンスを誇り! 指一本で操作は自在! 更に! レーザー投影キーボードとホログラフモニター機能を搭載! データ容量はデスクトップパソコンと同じでこのサイズ! 脅威のモバイル、ダイドースペシャルである! 貴様からのメールはここからチェックして……む?」

 演説しつつモバイルを振り回していたダイドー少尉の手が、ぴたりと止まる。

「何だか知らんケド、とっととメールチェックしろよ。いちおー報酬も用意してるからさ。1ガンプラでいいだろ? テメーにはこれでも高いくらいだケドな」

「待てぃ! 鳩羽よ! 見よ! 我がモバイルを! モニターが真っ黒ではないかぁ!」

「……えーと、つまり、バッテリー切れって、そういうオチか? レーザー投影キーボードなんて付けてたら、そりゃバッテリーなんてあっという間だろ。それくらい気付けよ、アホが。とっとと充電しろ」

「しかぁし! こういった事態に備えて予備バッテリーを用意しておるのが我輩であり、これを装着すると、ははは! 見よ! 復活である! さて、貴様からのメールを……む! 鳩羽よ、見よ!」

 ずい、とモバイルを向けたダイドー少尉に対して、美咲はあくびを一つ、モニターを眺めるが、真っ黒だった。

「いや、予備バッテリー? それ、一瞬で消費してるし。いいから電源確保して、さっさとメールチェックしろってば。1ガンプラの仕事だってば」

「しかぁし! このような事態さえ想定しているのが我輩であり、予備の予備バッテリーはここにある! 装着! OS起動! メールを……ふおっ! 電源が落ちたぁぁー! しかし! 予備の予備の予備バッテリー登場! 装着! そして、ぬおっ! 電源がぁ! しかぁし! 予備の予備の予備の予備バッテリーによって復活! メールを……ほあっ! 画面がブラックアウト! しかぁし――」

「……おい。そのギャグはどこでオチるんだ? 予備の予備の予備の予備て、なんだそりゃ? 電源が2秒しか持たないモバイルなんぞ、世界にそれだけだよ。そういうシュールなジョークはどうでもいいから、とっととメールチェックしろよ」

「だがしかぁし! 予備の予備の予備の予備の予備の予備の――」


 近年、国内各地で警察・自衛隊力では太刀打ちできない不可解な怪事件が頻発し、社会を混乱させていた。

 新興宗教による思想犯罪。続発する陰惨な猟奇殺人。政府組織へのサイバーテロ。闇取引される粗悪なドラッグ。蔓延するコンピューターウィルスとインフルエンザウィルス。自殺を推奨・幇助するアングラサイトやカルト本。悪質なマルチまがい商法。変造硬貨による自販機荒らし。資源ゴミの未分別。絶えない煙草のポイ捨て。笑えない最近のコント。

 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉!

 スペシャルカスタマイズのモバイル端末を所有し、最先端サイバー技術によって調査などをやるらしいが、まずは普通に使える装備を用意しよう!

 出直しだ、ダイドー少尉!


※1ガンプラ=300円



 ――おわり



『続・大道探偵事務所 1』

Zoku Dydo detective office 1


 ――飛鳥弥生 著(by Yayoi-Asuka)


※この物語はフィクションです(This story is fiction)


 近年、国内各地で警察、自衛隊力では太刀打ちできない不可解な怪事件が頻発し、社会を混乱させていた。

 新興宗教による思想犯罪。続発する陰惨な猟奇殺人。政府組織へのサイバーテロ。闇取引される粗悪な薬物。蔓延するコンピューターウィルスとノロウィルス。自殺を推奨・幇助するアングラサイトやカルト本。悪質なマルチまがい商法と未だ続くオレオレ詐欺。変造硬貨による自販機荒らし。資源ゴミの未分別。絶えない煙草のポイ捨て。笑えない最近のコント。

 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉!


「でさ、もうすぐホワイトデーじゃん? 贈り物は三倍返しってのが通説だから、来週辺りのあたしってばゴージャスなブランドアクセとかに塗れて、ちょっとしたバブルなブルジョワジーかもなー」

 そう云って鳩羽美咲{はとば・みさき}は狭いオフィスにある応接ソファで笑った。手にしたコーヒーカップも揺れる。

「愚かなる鳩羽よ。三十円のチョコをその名の通り鳩の餌のごとく編集部にバラ巻いておいて、三倍であっても九十円を数人からでブルジョワジーとは、まっこと安上がりな人生よのう」

 返すオフィスの主、大道探偵ことサー・ダイドー少尉は、カプチーノをバニラスティックでくるりと回してから、ずず、とすすった。屈強なプロレスラーを連想させる体躯が黒いスリーピーススーツに収まる、カプチーノに続いてキューバ葉巻をくゆらせるこの男こそ、大道探偵事務所の所長、ダイドー少尉こと大道探偵である。

「三十円じゃねーよ、二十円だ。編集部とか取り引き先とかにいちいちチョコなんぞやってたら破産しちまうよ。んで、安上がりな人生で悪かったな。そこにノミネートさえされてないテメーの人生こそ、よっぽど安っぽいけどなー」

「鳩羽めからのチョコなぞ、薬殺か賄賂か、気色悪いわ」

 ふん、と鼻を鳴らして、ダイドー少尉は葉巻をぷかり、カプチーノをすする。

「バレンタインチョコで薬殺とか、毒のほうが高くつくし、んなメンドーな真似しねーっす」

 そこでダイドー少尉は、おや? と首をかしげた。普段に比べて鳩羽美咲からの返しが弱い、と。それが今時期は忙しいライターという仕事だからなのか、極寒でも暖房器具のないマイナス気温のオフィスだからなのか、鳩羽美咲が勝手にキッチンから拝借したコーヒーが量販店の安物で、ダイドー少尉が飲む高級銘柄は金庫の中だからなのかはともはく、口が達者で毎回言い負かされているダイドー少尉はニヤリと口元を上げた。

「ハレの行事でケの塊のような鳩羽めよ。惚れた腫れたに縁のない貴様は既に人生曲がり角でお肌の曲がり角だとそういうこと――」

 ゴリッ、という異音は、まるで頭の内側からのようにダイドー少尉には聞こえた。鳩羽美咲の音速の膝がこめかみを捉えたその音は、ダイドー少尉の三半規管を揺らし、頭と意識も揺らした。

「誰が人生曲がり角だコラ。女性に対して肌がどうことか発言したら、ジーザス・クライストとの接見が可能だってことをそのスポンジみたいな脳みそに刻んどけ、この薄らトンカチが」

「くあっ! 頭蓋がズレたようなこの感覚はぁ! 競泳有段者である我輩をトンカチ呼ばわりはまあ良しとするが、よくよく見れば延々と我輩ブレンドの豆を無許可で挽く鳩羽よ、貴様には遠慮という単語が備わっておらぬようだな?」

「遠慮なんて品のいい単語、知らねーよ」

 吐き捨て、鳩羽美咲はソファに戻ってコーヒーを、実はダイドー少尉の取っておきの銘柄であるそれを飲んだ。オフィスの隅にある未だ鏡餅の乗った小ぶりの金庫には、ダイドー少尉本人が忘れないようにと、暗証番号がメモしてあるのだ。

「んで、話を戻すとさ、バレンタインのお返しがホワイトデーっしょ? 確かビスケットだかを返すんだよな? そもそもがバレンタインっていう行事の意味を知らないんだけど、何となくノリで世間に合わせてチョコを配ったのよ。でもさ、そういうノリとかじゃなくて割りと本気な人とかいるっぽくって、以前はそういうのはどおかねー、って思ってたんだけど、ま、当人ハッピーならそれもアリか、とかさ。何かさー、あたしってば悟ってきてるっぽくね?」

「惚れた腫れたに縁のない鳩羽美咲よ、貴様――」

 パン、オフィスの空気を震わすビンタに、ダイドー少尉の魂も震えた。

「その前置きヤメレ。幸薄いとか異性への魅力に欠けるとか誤解されそうじゃん」

「ぷおっ! 神々の宴が聞こえる! それはつまり悟りではなく、妥協だ。貴様の安上がりな曲がり角の人生において、世間様は騒ぐイベントは縁遠いと気付き、しかしそれより先への努力をせぬ者の妥協だ」

「じゃあさ、テメーは? チョコなんて欠片も貰ってないんだろ? ビスケット返す相手いないんだろ? モテない男ってのは惨めだーね?」

「我輩こう見えても様々な作品に準主役で抜擢されるほどのマニアックな人気を誇る! アホの塊の鳩羽ごとき、比べるまでもないわ!」

「アホの塊は撤回しろ。っつーか、こないだからソレを連呼してるテメーの生き様を前世を含めて撤回しろ。マニアックな人気て、メジャーウケしないって意味だろうが、威張るなよ」

 その後二人は、メジャーでウケる方法、マニアックから脱する方法を数時間に渡って議論したが、お互いにマニアックであるが故、大した結論は出なかった。

「ほぁっ! つまり! 我輩はゴーストライトのライターとして愉快な記事を提供しておった折にはほどほどに人気であったが、こうして活動の場を変えてもうすぐ三年、どうにも存在感が薄いようである! これはGW編集部の画策か!」

「あたしさー、ゲーム系記事書いてたときのほうがウケは良かったような気がすんのよ。でもさ、やっぱゲームやんない読者様ってのを想定して、そっちのほうが多そうだからゲーム比率を低くしたんだけど、他のライターさんと差別化できてないっぽいなー。ってこれ、GW編集部の画策か!」

 紆余曲折を経て同じ意見に到達した二人は、同じ銘柄を同じ境遇同士、顔を合わせてすすった。寒い冬が終わりに近付く、ある日の出来事であった。


 近年、国内各地で警察、自衛隊力では太刀打ちできない不可解な怪事件が頻発し、社会を混乱させていた。

 新興宗教による思想犯罪。続発する陰惨な猟奇殺人。政府組織へのサイバーテロ。闇取引される粗悪な薬物。蔓延するコンピューターウィルスとノロウィルス。自殺を推奨・幇助するアングラサイトやカルト本。悪質なマルチまがい商法と未だ続くオレオレ詐欺。変造硬貨による自販機荒らし。資源ゴミの未分別。絶えない煙草のポイ捨て。笑えない最近のコント。

 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉!

 ライター仲間である鳩羽美咲と共に雇用主を疑う、派手な行事とは無縁な質素な探偵はしかし、その活躍もまた質素で地味なため、相変わらずこんな、ていたらくである。

 二人とも、覇気がないぞ!



 ――おわり



【寄稿】掌編『続・大道探偵事務所 2』

Zoku Dydo detective office 2


 ――飛鳥弥生 著(by Yayoi-Asuka)


※この物語はフィクションです(This story is fiction)


 近年、国内各地で警察、自衛隊力では太刀打ちできない不可解な怪事件が頻発し、社会を混乱させていた。

 新興宗教による思想犯罪。続発する陰惨な猟奇殺人。政府組織へのサイバーテロ。闇取引される粗悪な薬物。蔓延するコンピューターウィルスとノロウィルス。自殺を推奨・幇助するアングラサイトやカルト本。悪質なマルチまがい商法と未だ続くオレオレ詐欺。変造硬貨による自販機荒らし。資源ゴミの未分別。絶えない煙草のポイ捨て。笑えない最近のコント。

 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉!


「つまり! 犯人はこの中にいる!」

 ダイドー少尉、大道探偵を名乗る彼が告げると、眼前のソファでミルクティーを飲んでいた鳩羽美咲が呆けた。

「なにが、つまり、だ。遂に壊れたかテメー」

 大道探偵事務所の看板を掲げたオフィス空間、十二畳ほどのそこには応接セットと主である大道探偵の机、小さな金庫とこちらは大きな本棚。衝立の向こうには冷蔵庫と簡単なキッチンスペースがある。いや、それだけしかない。応接ソファにはライター仲間で旧知の鳩羽美咲がコートも脱がずに紅茶を堪能していて、その彼女を太い指で指す大柄の黒スーツ、ダイドー少尉だけ。

「つまりアレか? テメーが実は犯人でしたって話か? フーダニットはそれでいいとして、ハウダニットもまあいいよ。問題は、フーダウインだろ」

 もう一口、ミルクティーをすすった鳩羽は、書きかけの記事を赤ペンチェックしつつ云う。

「ダーウィン?」

「誰が進化論だ、このボンクラ。冗談でも探偵事務所って看板掲げてるんなら知っとけ。フーダウイン、誰がやられたのか、ミステリの基本だ」

「誰かやられたのか!」

「テメーがやられてんのかコラ!」

 バン! 鳩羽はプリントアウトした原稿の束でダイドー少尉の頬を叩いた。ダイドー少尉の頬に赤いバツ印がつく。

「ハウダニットは、どうやってやったのか、フーダニットは誰がやったのか。中学生英語だぞ?」

「誰がどうやったのかはともかく、誰がやられたと?」

 バン! 左に続いて右頬にもバツ印がつく。

「知るか!」

「しかぁし! 状況からして犯人はこの中だ!」

「んでこの状況からして犯人はテメーだろ。何やったのかは知らんし興味もない」

 両頬に赤いバツ印のダイドー少尉は、うーむ、と腕を組む。


 近年、国内各地で警察、自衛隊力では太刀打ちできない不可解な怪事件が頻発し、社会を混乱させていた。

 新興宗教による思想犯罪。続発する陰惨な猟奇殺人。政府組織へのサイバーテロ。闇取引される粗悪な薬物。蔓延するコンピューターウィルスとノロウィルス。自殺を推奨・幇助するアングラサイトやカルト本。悪質なマルチまがい商法と未だ続くオレオレ詐欺。変造硬貨による自販機荒らし。資源ゴミの未分別。絶えない煙草のポイ捨て。笑えない最近のコント。

 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。

 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。

 その名は……ダイドー少尉! 

 誰が犯人なのか? どのように犯罪を成し遂げたのか、そして……なぜ犯行に至ったのか! その結末はしかし、語られることはない、であろう、と思いたい。


 ――おわり


- CAST -

 Misaki Hatova(age:30) freelance writer & Misaki representative office belligerent Ride Honda XL50S


and


 Oomichi(age:45) self-styled private detective Martial Arts (?) guru IWI Desert Eagle 50AE Stainless Ride Pontiac Catalina1975

 ひたすらに脱力系の二人の会話は、自分が面白くて吹きだして笑えるものを、当時の自分が今の自分のために書いた結果です。

 もし私と同じように笑ってくれたら、きっと「笑いのツボ」が同じなのだと思います。

 ディケイド風ひかり家直伝・笑いのツボ! を押す、そんな仕上がりになっていれば大成功です。

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[良い点] 大道さんのタフなところ [気になる点] 大道さんの実家は何屋さんなんだろうか。。。 [一言] スピンオフ作品待ってます。笑笑
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